岡田タイガース、セリーグを制す ・如何にして岡田監督は野球業界のケイフェイを破りタイガースを優勝に導いたか
■投稿日時:2005年10月21日
■書き手:新橋http://yamanotesengroup.blog.ocn.ne.jp/shinbashi/


如何にして岡田監督は野球業界のケイフェイを破りタイガースを優勝に導いたか

『一軍の監督と2軍の監督だったけど、彼とは話したことがないからどんな野球をやるか知らない』by野村克也元阪神タイガース監督

2003年暮れ、勝ち逃げ・星野仙一の後を受けて岡田・阪神タイガースがスタートした。岡田は就任時『ノーアウト2塁で流し打ちをしてラン ナーを進めるバッティングより、ヒットを打って返すことを目指す』という従来の野球観を覆す理論を披露したが、準備不足は否めなかった。星野 から中途半端に受け継いだスタッフ・優勝チームというチーム構成の縛りなどのために、デビルレイズ・ヤンキース・読売Gに5連勝でスタートし たにもかかわらず、チームは早々に空中分解した。

送りバントはごくまれにしかしない、ヒットエンドラン・スクイズは皆無、赤星以外には盗塁させない、などなど異様に動きがない攻撃がまず批判 の対象となった。動かない岡田は、試合中寝てるか低能のどちらかだと思われたようだ。今年の事ではあるが、自主的に送りバントをしようとした クリンナップの選手を叱りとばした。このことも批判の的になった。

脈絡が判らない継投も批判された。さらに批判は藤山寛美ばりの顔や乏しい表情、省略が多くプレゼン向きでないしゃべり方までおよんだ。 記事になりやすい星野復活を願うマスコミや信者達にとって、岡田は単なるダメ監督の底を突き抜け、排除すべき存在となった。2005年の続投 は決まったが監督人気は最低だった。


シーズン前、阪神公式HPの掲示板では『オープン戦でキャッチャーを控えに変えたために1勝を逃したのは岡田のせいだ、責任を取れ』『オープン 戦で送りバントをしなかったために1点取れなかったのは岡田のせいだ、責任を取れ』『オープン戦で代打の人選を岡田は間違った、責任を取れ』 などなど、気の狂ったようなスレッドが乱立していた。(Pオタ・格オタのための注:オープン戦というのは大相撲の地方巡業と出稽古を会わせた ような練習試合、プロ野球では場所前にやる。重要な収入源でもある)シーズン直前には、岡田が辞任してくれるようにタイガースの負けを祈る人 が出てきたり、岡田抹殺指令がささやかれたり、暗殺部隊の存在がささやかれたりした。実際これに近いことを時々関西マスコミはやる。


その昔、儂と同じかそれ以上の年頃のおっさんにとって、男同士で酒を飲んでわめく話題の筆頭はプロ野球だった。特に監督の采配は常に批判のタ ネ、一番盛り上がる話題だった・・・今となっては信じられないかも知れないが・・・ しかし、今でもプロ野球の優勝監督は理想の上司No.1に選ばれるし、プレジデント系の雑誌ではいつも監督論はマネージメント論の中心になる。


ここは野球のHPではないので、日米の野球に関して俗説を信じている人が多いだろう。『大リーグではデータを重視しない。細かい作戦は採らずに だらだらと打つだけ。作戦論の研究などはなく力の勝負を重んじている。選手の体力やドーピング技術はともかく、日本に比べて細かい野球や理論 はかなり遅れている』・・・・日本のプロレスが一番進んでいると説いていたプロレスマスコミ並の分厚いファンタジーが日本のプロ野球を支配し ている。

確かに日本ではバッティングやピッチングの技術論は進んでいるらしい。コーチングも細かい。それらは格闘技においては如何に相手を殴るかと か、如何に首を絞めるかにあたる技術だ。


しかし、格闘技ファンにとって極めて意外かも知れないが、日本の野球においては『如何にして打つか』・『投げるか』・『守るか』の技術は研究 されていても、『如何にして勝つか』の研究はまったく研究されてこなかった。格闘技は1対1で、1つの1つの局面で使われる技術がほぼ勝敗を 支配する。『わざやシチュエーションの研究』≒『如何にして勝つか』だろう。しかし、両軍で50人程度のひとが参加し、互いに27のアウトを 駆使して相手より1点でも多くの点を取る事を目指す、格闘技よりはるかに偶然の支配の大きい野球というスポーツにおいては、『個々の技術論の 集合』≠『如何にして勝つか』だ。


野球で勝つための作戦に関する技術論がUSAに存在することは日本ではあまり知られていない。殆ど報道されないからだ。活字やインターネットレ ベルでは語られても、テレビやラジオの野球中継やニュースで語られることはない。あたかも、プロレスの報道における日米格差ごとく、一般人の 目からは粗雑に隠されている。
日本には、野村ID野球とか、広岡・森管理野球などの優れた野球論があると思っている人がいるだろう。しかし、野村のツーランスクイズを信じる 人や、広岡のササミを信じる人は、ジャイアント馬場の16文キックを笑う資格を持たない。彼らの野球戦術は長年の言い伝えや思いこみや経験を まとめたおじいちゃんの知恵袋に過ぎない。その古い野球理論は統計の裏付けがない、検証されたことがないのだ。占いの批判として、『検証され たことがない』ということがよく言われるが、あれと一緒である。


去年、ある意味、監督の作戦に関してぼやいたことのある全ての中年の野球少年にとって衝撃的な本の訳が出た。そのインパクトはプロレス界では タナカ☆タダシの初期の本に匹敵する。

マイケルルイスのマネーボールだ。勿論タナカ☆タ ダシの本よりははるかに売れたが、シュート活字がプロレス界に与えた衝撃に比べ、日本の野球界に与えた衝撃は皆無に等しい。野球界の秩序はプ ロレス界よりはるかに堅いからだ。プロレスにおいて、無能なファンタジー活字の影で日米逆転現象の把握が遅れたのよりもはるかにひどく、旧態 なファンタジー理論を報じる野球報道の影で日米野球理論の逆転は一般には殆ど把握されていない。


『マネーボール』は新しい野球理論を利用して少ない予算で効率的に強豪チームを作ったMLBアスレチックスのGMビリー・ビーンの一代記だ。細腕 繁盛記としても読める(実際にはビリーの腕はかなり太いが)。読売Gのファンは如何に自軍の補強が無駄かを検討する材料として読めばいい。阪 神タイガースは日本プロ野球でもっとも豊富な資金を持つ球団なので、この本で語られる戦略の細腕繁盛記的な部分は阪神ファンには関係ない。し かし、儂ら一般の日本野球ファンに取って重要なのは、そこに書かれる野球理論のうちの幾つかが・・・と言うか、殆ど全てが・・・日本の野球解 説者たちによって我々がこれまで信じ込まされてきた『野球理論』とは大きく異なるということだ。


野球人の常識・思いこみによって勝利に結びつくとされてきた作戦の有効性は、実データに基づき検証されて、完膚無きまで破壊されている。 この話に重要な部分だけ抜き出すと、曰わく、*送りバントはかえって勝率を下げる、*ヒットエンドランは自殺行為、*盗塁は8割以上の成功率 がないと損(阪神では赤星のみ8割以上の成功が望める)、*一番力のあるリリーフ投手を6〜8回に使い、クローザーは重視しないでいい、*打 率より出塁率・長打率重視(注:この理論で行くと今年のイチローなどは無価値な2流選手だ)、*ピッチャーの評価は三振重視。 (一般書においては専門的な知識がかみ砕かれすぎて本質を失う事がある。野球論の専門家から見たら、あの本の中味も問題があるかも知れない・ ・・が、ま、それはおいておこう)


つまり、データに基づいて語れば、『確実に送って1点を取りに行くのがセオリー』『盗塁やエンドランを駆使して相手の隙をつく野球をしないと 勝てない』『足にスランプはない。盗塁の多いチームが安定して強い』などなど、いつもプロ野球の解説で聞かされるセリフは全て妄言と言うこと になる。野球解説者の作戦論はスマックダウンのPPVでメーンの前にタズがやる勝負ポイント解説より役に立たない。(勿論当たり前だが)


2005年、岡田阪神はシーズン前のマスコミの評価に反して、快進撃を始める。大規模な星野流の補強は行っていない。金本をのぞいて優勝した 2003年より野手の成績は総じて悪い(はるかに悪い者もいる)。 岡田監督によって、2003年の首位打者と盗塁王の1番今岡・2番赤星は引き離されて、1番赤星、5番今岡になった。2番赤星と3番金本の最 高に機能した2003年の2・3番は引き離されて、金本は4番になった。3番には逆に偶然に頼る外人を入れた。肩が弱く送球が安定しない 2003年3割を打ったショートをセカンドにまわし、セカンドの首位打者をサードにまわし、ダイヤモンドグラブ級のショートと評価される新外 人をファーストにまわし、監督の頭の中でだけに合格印が押してある去年2割5分の鳥谷(しかし去年の四死球率が約1割)をショートに入れた。 内野と打線にコペルニクス的転回を施した。赤星が走りやすいように1・2番を構成し、3番にシーツを挟む事によって、金本・今岡が赤星の盗塁 援護をせずに自由に打てるようにした。
ピッチャーは2003年のストッパー安藤・ウィリアムスを先発と中継ぎに分離、藤川をセットアッパー、最速の久保田をストッパーにした。


シーズンが始まるとやはり岡田監督はてこでも動かない。 赤星は成功率8割を超えるから何時でも盗塁していい。でも他のランナーにはほとんどさせない。ちなみに10盗塁以上で、セリーグで成功率8割 を越えるのは赤星だけ。赤星の盗塁は阪神の盗塁総数の約8割を占める。いろんな選手に走らせてその成功率が6〜7割のチーム(タイガース以外 のチーム)の盗塁は自殺行為。

送りバントはピッチャーと特定の選手以外は滅多にしない。
ヒットエンドラン・スクイズはアホの子のすることだからしない。
最強のリリーフピッチャー藤川と左のウィリアムスはクローザーの前に使う。
三振を重視したピッチングスタッフ。阪神は今年、奪三振数の日本記録を作った(135試合目で) 9月24日現在、打率3位、HR5位にもかかわらず、リーグ最高の出塁率でリーグ最高の得点をたたき出している。


首位を走っても、動かない岡田、JFK(Jeff・Fujikawa・Kubota)の中で一番頼りない久保田をクローザーに使う岡田に関して、常に批判がファン や解説者から吹き出しつづけた。しかし、岡田は動かなかった。動かないからアホだと思われた。『送りバントで一点』『盗塁やエンドランで頭脳 的な得点』『勝負所ではスクイズ』『最強ストッパーで逃げ切る』日本の野球ファンなら小学生でも知ってる鉄則を守らない岡田はアホと見なされ たのだ。


しかし、アホの寛美似の岡田は、勿論アホではない。迷信や言い伝えによらない、確率に基づいた真っ当な作戦を単にとっただけだったのだ。彼を 知る関係者は岡田監督の記憶力と野球知識に驚くという。今年になって初めて自在に組み込めたチームが出した結果がそれを証明している。
意外なことにこれらの野球理論の研究は、Major Leagueの関係者ではなく、単なる1素人ビル・ジェームズによって始められ、ミニコミ誌を通じて 広まっていったそうだ。USAの野球通には知られていたが、野球関係者は無視していた。実際に使い始めたのは最近のことだそうだ。まるで WrestlingObserverのDave Meltzerようだ。日本のプロ野球監督の中に実際にこれを参考にしている人がいるという話はまだ聞かない。


岡田は日本の野球にまとわりついていたファンタジー野球理論。犠牲バントへの信仰、エンドランへの憧憬、動いて行う野球が緻密な野球で、緻密 な野球が高度な野球であるという誤解、監督中心で語られることが多い日本球界であるからこそ根強い監督主導の戦術への過度な期待。日本の野球 というものを覆っていたファンタジーの霧が、もっとも間抜けな顔を持ち、その霧によって無能と見なされた監督によって今年払われようとしてい る。


ま、その野球が面白いかどうかはわからんし、その本質が従来の活字メディアで語られることもないだろう。しかし、何かがひっくり返る、その構 図はすごく面白い。シュート活字を通過した野球ファンはこれからの野球界を注視しよう



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