ピクミンの『も〜、こわい』 第2章:『狂った牛の復讐としてのセーム・シュルト』之巻
■投稿日時:2001年10月18日
■書き手:ピクミン (ex:ピクミンドットネット

さて、狂牛病(ウシ海綿状脳症:BSE)はプリオンで起きる感染症だ。これは知ってるね。
プリオンはタンパク質で出来ている。これも知っているね。
よし分かった。
じゃあ分からないのはなにか?
  ほとんど全てだ。

去年無くなった敢えて名を秘す日本のウィルス学の大家はこう言った。
『人間は森に復讐されている』
エボラ熱やHIVは本来人がふれない森の奧の奥にあった。人に関係ない感染症だった。それが近年問題を起こしだしたのは、ずけずけと地球上のどこへでも踏み込んで森を乱す人間への森の復讐なのだという。
狂牛病も明らかに復讐だ。

異論がいろいろあってまだ決着は完全にはついていないが、狂牛病の起源羊のスクレーピー(Scrapie)が牛に移されたという説が有力だ。それとは別に、30年ほど前にある1頭の牛に生じた突然変異が原因となって狂牛病の病原体プリオンが新成したという説もある。いずれにしても草食動物である牛が本来食べない羊や牛の肉(中枢神経)を餌に交えたことによって広がった病気であることは間違いない。普通に飼っていたらけして広がらない病気なのだ。

一つ面白いのは羊のスクレーピーは牛にはうつるが、人にはうつらない。これが狂牛病スクレーピー起源説に対する反論の1番手なのだ。
一般にプリオンによって起こる病気は種から別の種へうつることが出来るのだが、その範囲(宿主域)は通常限られている。しかし、新しい種にうつるたびに新たな別の種への感染性を獲得することがある。例えば人のクロイツフェルトヤコブ病はヤギには直接はうつらないが、一度サルや猫に感染させた後の異常プリオンはヤギにも感染する。狂牛病のプリオンは直接はハムスターにかからないが、ネズミに感染させた後の狂牛病プリオンはハムスターに感染を起こせる。
これはセレクションと、ここでは詳しくは書かないプリオンの性質のせいと思われる。『本来の種とは別の種の体内で感染症を発症するときに、より強い感染性を持つ病原体が選ばれて増える』または『新しい宿主に形成された異常プリオンが、たまたま別の宿主に感染性高い形を取っている(この二つの違いは第2章でかく)。』の二つが原因である可能性がある。その結果新しい宿主域を得るのだろう。

クールー(Kuru)病・・・これは有名な食人で感染するプリオン病だが、最初は一人に発生したクロイツフェルトヤコブ病(CJD)だったと言われている。それが、最初の患者が死ぬ→脳を食べる→感染する→死ぬ→脳を食べる→感染する→死ぬ・・・のサイクルを繰り返すうち、より強い感染力を持つプリオン株の方が、感染者が屍体となって食べられる頻度が高いためにどんどん有力になっていったものと思われる。Kuru病患者体内での感染プリオンの産生は普通のクロイツフェルトヤコブに較べて遙かに多い

これから、考えられることはなんだろう?
人類はとっても運がいいと言うことだ。
BSEやスクレーピーはネズミにうつる。BSEが餌で直接ブタにうつらないからと言って、将来までブタにうつらないという理由はない。これまでのように肉骨粉を続けていけば、種間・同種間の感染を繰り返していくうちに、遂に豚に感染する株が生じる可能性は極めて高い。、今の政府のように『豚に肉骨粉をやるのは大丈夫』とか言っていれば、そのうち大変なことになる。
羊→牛→牛を繰り返すうちに人に感染するプリオン病ができあがった。人に感染した狂牛病は扁桃にプリオンを産生するが、唾液への分泌はない。さらに感染を繰り返してさらに強力になったプリオンならば、感染した人の扁桃でさらに多量に産生され、唾液に分泌されるようになるかも知れない・・・とすれば、Kissでうつる。例えばEpstein-Barr Virusというウィルスはキスで感染するが、そのお気軽な感染方法と強力な発癌性で、人類の何分の一かを滅ぼしてしまった(昔の話だから怖がらなくていいよ。死ぬべき人は百万年前に殆ど死んでしまった)。
羊→牛→牛→ブタとうつったプリオンがさらにどんな強力なものかは予想がつかないのだ・・・そしておそらく、このままの政策なら数年後には狂ブタ病が日本で発生しただろう。
しかし、狂牛病が問題になったタイミングがよかった。いくら脳天気にブタに狂牛病のおそれがある肉骨粉をやり続けてきた日本でも、もう流石にのほほんとは対応しないだろう。狂牛病がコントロールできる範囲でコントロールできる地域にコントロール可能な感染性のうちに見つかったことは人類にとって運がいい。・・・これを書いた時点ではブタに肉骨粉をやらない事になるはずだった。ところがなんと!農水省はなんとブタに肉骨粉を許可してしまった。!これについては詳しくは第六回で。
・・・でも、潜伏期は長い。先のことは不透明だ。

狂牛病の根底にあるのは、急激な食料の産業化の危険性だ。狂牛病自身が片づいても、その危険性は少しも失われてはいない。
ほんの100年前までは家族として飼われ、神への捧げ物として葬られて食べられていた牛や山羊・羊は、今では産業の対象であり、その死を代償として受け取っていた神聖なる地位を失った。西洋ではかってイサクが占めていた地位だ。そして変わりに得た物は産業としてふさわしい物となるための新しい餌・肉骨粉ホルモン剤だ。
それに対する狂える牛の復讐が、狂牛病とセームシュルトだ。
オランダでは、牛肉を沢山とるために牛に成長ホルモンが与えられた。肉を軟らかくするために女性ホルモンを与えた例もある。そのホルモンによって生まれたのがセームシュルトだ。彼らオランダの長身世代の平均寿命や疾病可能性がどうなるかはまだ分からないが、とりあえず、牛へのホルモン投与は禁止された。牛に与えた餌が原因になって狂牛病が千葉に発生するのと、セームシュルトがPride16に登場するのは、全く同じ事なのだ。片方はひたすらおぞましく、片方は強いが、同じ事の表現形の違いに過ぎない。

なんにしても、プリオンが唾液に出てくるようになったら、風俗はあきらめてくれ。

では、ピクミンは夜は月に帰る。何故私がピクミンと名乗っているかはそのうち明らかになるであろう。が、ならないかも知れない。

注1:狂牛病はBovine Spongiform Encephalopathy(ウシ海綿状脳症)、略してBSEと言うこともある。人に感染して発症すると、new variant Creutzfeld-Jacob Disease (nvCJDまたはvCJD)になる。これは話の都合上絶対覚えておいてね。いちいち説明するのは面倒だし、『クロイツフェルトヤコブ』とか『変異型クロイツフェルトヤコブ病』とか『牛海綿状脳症』とか、長すぎて書きにくい。

注2:プリオン病とは、異常プリオンの沈着(本来ない場所に物質が多量に蓄積する病態)によって起こる神経細胞への障害を基本とする病気のこと。スクレーピー、BSE, vCJD, Kuru, CJD, Gerstmann-Strauss Syndrome, fatal familial insommniaなどなどがある。症状、病態に共通性が高い。

注3:鶏には狂牛病はないだろう。疾患が広がるには感染して、種に適応したプリオンがリサイクルされて同族の餌になると言う、共食いが絶対的に必要だが。鶏は寿命が短いので、発症するまでに喰われてしまう。







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