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第五回 私的プロレス観戦記〜2001年夏の風景 Part1
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■投稿日時:2001年8月24日 ■書き手:田中正志 |
今、マット界で何が面白いのか?▼闘龍門 若いお母さんが連れてきた二人の娘に語りかける。 「どう?」 「凄い、凄い、大興奮!」 たまたま自分のスグ後ろに座っていた三名は、夢のような三時間弱の興行中に、歓声と悲鳴と奇声を上げ続けていた。ああ、なんと素晴らしい光景だろう。名物のオカマちゃんたちを含めると、なんと65%が女性客という後楽園ホールの新鮮な客層の匂いに、昭和のプロレス者はむせかえることになる。 今、世界で一番面白いプロレス団体は闘龍門を置いて他にはない。光速スピードを売りにする若さ溢れる華麗なるジャパニーズ・ルチャと、会場に笑い声を巻き起こすアメプロ風のアングル展開が合体した時、毎月一度の東京での定期戦はチケットの入手が困難な、世界で最もホットなプロモーションとなった。 経済からプロレスまで国境のない時代である。全盛期のWCWで活躍したウルティモ・ドラゴン校長率いる闘龍門は、プロレス初心者の女性客と大人のファンの常連客から絶大に支持されていて、アメプロ・ブームの原型を作った理想の客層コンビネーションを実現してしまった。 ここでモッチー(望月成晃)は、「今日は誰が勝つのか教えてやろう!」と試合前にマイクしてみたり、「両リン推進委員会」を名乗るなど、危ないケーフェィ・ギャグで年配のマニアをも喜ばせてきた。あるいは突出した"直球式天然キャラ"の斎藤了は、昨年からの「藤井さん、僕の自転車を返して下さい!」で、今年のMVP候補だろう。もちろん、エースのCIMAはもうカリスマになっている。すべての選手のキャラがはっきりしていて、しかもハンサムな若手ばかりなんだから人気が出ない方がおかしい。"サーファー"堀口元気の成長を確かめるのは喜びだし、やられ役の仕事師SAITOのマエストロぶりにはしびれてしまう。いつも第一試合から、一瞬たりとも目が離せないのだ。 8月14日の"Verano Peligroso II"大会では、休憩前の第三試合に秘密兵器を用意。そこで校長が「バーリー・トゥードのチャンピオン」と紹介したホルヘ・リベラは、日本でお馴染みのアパッチェ選手を相手に関節技を次々に極めてみせるエキジビションを披露した。これが、秋に上陸が予定されている現在メキシコで修行中の練習生たちがカラーとしている、「ルチャ・クラシカ」の予告編にもなっていた。もちろん、あえてリベラを"VT王者"と紹介したことには、同じ週に予定されている格闘技の大会DEEPで、52歳のカト・クン・リー選手を出場させる暴挙などへの、強烈なメッセージが込められていたのだ。 セミでは若いモチスス(望月享)が、ハンサムな新人リッキー・マルビンをリードしてあげて、きっちりとした3カウントでNWA世界ウェルター級選手権を防衛。そのシングル戦が、9名が入り乱れる興奮のメインに繋がる。小さな闘龍門というプロモーションに、クレイジー・マックス(CIMA&SUWA&フジ)、正規軍(マグナム&キッド&斉藤了)、M2K(モッチー&神田&クネス)という三つの軍団が抗争していて、それがベルトを賭けて激突したわけだ。 ECWで有名になった"3 way dance"という試合形式は、常識で考えれば最初から勝敗のロジックが破綻している。インディー団体ならやれても、新日やノアではやれない様式なのだ。しかし、一見さんのお客様にも種がわかるような手品をやれば笑われるが、プロの想像力をも超えるUWA世界トリオ選手権試合をやれば、賞賛の言葉以外に何も出てこない。それだけのことだったのだ! 凝縮19分の説明は不要だろう。正規軍が勝ってベルトが移動。マグナムTOKYOの二度目のダンスが会場をフィナーレへと導いた。すべてのお客さんの満足そうな笑顔が、人気沸騰振りを象徴していた。今、最もプロレスの面白さを幅広い客層にわかりやすく伝えられる闘龍門。次の大会が待ちきれなくなったら、貴方もドラゴンの魔法の虜になったのだ。95点 ▼ノア一周年記念興行 三沢x秋山 武道館は満員だった。全日が分裂する前から、もともと熱心な信者系のファンに支えられてきた団体である。TV中継では秋山の勝利を「ついにノアのマットが秋山色に染まった!」と絶叫していたが、もとから三沢カラーの緑のマットを眺めながら、一体何が変わったのだか私にはさっぱりわからなかった。 試合時間は24分余。もう、ネットの速報で時間を聞いただけで、いつもの「2.9プロレス」が展開されたことがわかって興味が失せたことも事実だ。というより、前哨戦のタッグ戦で三沢が秋山をフォールした時点で、この古典型団体のやることは大人のファンにはすべてフィニッシュが先に読まれてしまっている。試合前に出た英文のシュート活字情報誌には結果を明記したので覚えておられる方も多いだろう。観戦記ネットの煽りでも、愚傾さんが「歴史が変わる瞬間を見に行こう!」と書いていた。だから誰も予定調和の"お約束"を悪く言った覚えはない。あくまで問題なのは、クロウト筋の想像力を上回る感動を提示できたかどうかなのだ。 ベルトが若い世代に移動するのは嬉しいものの、そもそも「ギブアップなし、3カウント決着のみ」が発表された時点で、"三沢の世界"だけが強調されてしまった格好になる。社長さんがお仕事役(job)であることは確定したものの、わざわざ武道館に見届けにいく理由がなくなってしまったからだ。そもそもノアがスタートした時、それまでの青パンツから白に変わった秋山は、フロント・チョークをフィニッシュにして新しさを出そうとしていた。それなのに、わずか一年後の大舞台では「完全決着ルール」という真剣勝負幻想の基礎編に回帰。まして三沢社長が試合後の インタビューで、「悔しさ半分、嬉しさ半分!」とバカ正直にしゃべってしまい、まったく何を咆えたのか印象に残らない秋山のコメントを消してしまっていた。 もちろんこの選手権試合は秋山の完敗である。24分の3分の1である8分間で、三沢を半殺しにしてベルトを巻かねばならなかったのだ。20分を超える「2.9プロレス」は、秋山自身より下の世代の丸藤などとやるべきであって、社長のペースの試合をやっても、専門家は時代が変わったとは思わなかったのである。 ノアに未来はあるのだろうか? ジュニア級のトーナメントでは、その丸藤をチャンピオンにせずに、年功序列で金丸を初代王者に選んでいた。私にはさっぱりわけがわからない。世間大衆と交わることなく、プロレスをファンタジーとして楽しみたい信者のみを相手にする戦略で、果たして21世紀の大航海を乗り切れるのだろうか? 60点 |
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