最終回 私的プロレス観戦記〜2001年夏の風景 Part2
■投稿日時:2001年8月31日
■書き手:田中正志

G-1クライマックス

 BOSTONの秀作♪Walk Onからトム・シュルツのギターが唸りを上げ感情を揺さぶれば、今年もG-1の夏がやってきた!

 シリーズ全体の評判は良いようだ。毎日自分の読みが当たったかハズれたかを確認するだけで、それで十分に楽しませてくれたのだから感謝しなければならない。プロレスの星取り表でワクワクさせてくれるなんてステキである。少なくとも、ヤオガチ判定をシュート活字だと思い込んでるガチバカさんたちには、手品やイリュージョンの種を瞬時に見破る基礎能力をつけてもらう方が先決かもしれない。例年になく大人のファンたちが面白がった展開だったことは事実だろう。

 特に長州や、その子分の健介が新日崩壊の元凶として嫌われている海外の日本マニアにとっては、あの最悪の昨年のG-1に比べれば、その二人が居ないだけでも大違いなのである。決勝のハゲ頭先生対永田裕志戦は期待通りの名勝負だったし、22分間客席は沸いていた。G-1の開催趣旨の原点に戻って、新しいスターを誕生させた点でも蝶野ブッカーは無事に任務を遂行した。しかし、あくまで問題はこれからなのである!

 「紙のプロレス」に予想記事を書かせていただいた関係で、多くの方から電話をいただいた。インターネットはまだまだプロレスファンに普及してないようだ。ネット界で猛威を揮うシュート活字といっても、やはり月間専門誌の方が読まれている。長らく音信のなかった昔の友人から連絡を貰うなど、個人的な思い入れができてしまった。

 蝶野新現場監督の本格的なデビュー作でもあり、仲間に大阪府立体育館の初日から張り込ませてマメに電話報告をしてもらい、真面目に追いかけてみることにした。一つには、武藤優勝の予想がハズれて、だからこそもう一本「総括」用の原稿依頼が来ることを期待したからである。当たり前である。ズバリ当ててしまえば、次の記事に回しようがない。だから昨年の年間最高試合賞は「田村xヘンゾ・グレイシー」と書くのだし、本当は闘龍門のメインイベントの方が面白くても、今年は「天龍x武藤三冠戦」を押して政治的配慮をした方が、次の原稿に繋げられるのだ。だから「ズバリ、武藤優勝」と書いて、「だけどこれでいいのか? 新日」と、ちゃんと問題提起もしておいたのである。

 「ブッカー頭で楽しむ観戦法」を勘違いして欲しくはない。蝶野本人だって、最初にカードを組んだ時点では、A案(武藤)とB案(永田)があるだけで、どっちに転んでも良いように組んだハズなのだ。だから「私は永田を当てた!」とか、「貴方の予想はハズれましたね?」とかおっしゃる方がいるのだが、どうもシュート活字を誤解しているようだ。もし、安田忠夫の開幕三連勝とか細かい部分を当てたのなら、それは大いに自慢しても良いだろう。決勝カードの予想より、はるかに凄いことだからである。

 あるいは小島聡の役割を吟味して、「優勝はありえないが、蝶野(初日)と武藤(三日目)の両方から金星を上げる」と見抜ければ、ブッカー業をやれる素質は十分ということになる。実際テレビ朝日のG-1中継は、決勝の生中継を含む二度の特番を組んだ後に、三度目でやっと土曜深夜(関東地区)の通常の時間帯に戻ったが、この回の前半は「小島の世代闘争!」のテーマで、ボス二人を倒す"世代超え"カードを放送していた。もちろん小島は、二日目に西村修に足元をすくわれているわけだが、現在毎週深夜放送に熱中している組は、大半が「いっちゃうゾー!」の小島ファンなのであった。

 ただし、タッグ・パートナーである天山戦(五日目)はメインの重責を背負ったのに、客入りは悪いし中身も「前にやったのと同じ」だと不評だったことを補足しておく必要がある。逆に"テロリスト"村上一成は、立派に「新顔」の役目を果たしていた。

 なぜ、これからの戦術が問題なのか?
 新日の問題点は絶対的なスターを作らずに、公平に星を分けようとするシステムそのものにある。もちろん、複数スター制には意味もあるし長所もある。超カリスマであった猪木時代が終焉して、"三銃士"という売り出し方をしたのは仕方のない選択であった。しかし、時代は再び一人の主役を求めているのではなかろうか? 

 ジャンボ鶴田が光ったのは、ジャイアント馬場の後継者であることを最初からはっきりさせたからである。永田といえば"平成の鶴田"と呼ばれてきたし、実際あらゆる項目で、そのジャンボに劣っているとも思えない。要はこれからの快進撃なのだ。G-1ワールドのガイジン王者も倒し、もちろん藤田のIWGPベルトも腰に巻いて、しばらくは一切お仕事(job)をさせないことの方が、G-1のブック反省会より遥かに重要なのである。シュート活字は近未来を予想することに真の意義があるからだ。
 しかし、新日の体質がどこまで変わっているかは未知数だ。例えば今年の年頭では中西をプッシュする案が確かに存在したようだった。私個人の中西に対する評価はこの際どうでもよい。方向性が間違っていたかもしれないが、一端決めたら中西をずっと勝たせるべきだったのだ。でも、いつも中途半端に頓挫してしまう。

 変テコな平等精神の弊害は、G-1の星取り表にも出ていた。連日興行の性格と、次の日のスポーツ紙に日替わりヒーローの話題を提供することにこだわり過ぎて、余りにも安易に最終的にプッシュする選手が"負け役"をし過ぎているのである。永田と武藤の星勘定を見ていただきたい。当初、A案(武藤)を考えるマニアが多かったのは、彼が現役の三冠王者だからである。
全日本プロレス伝統のブックを思い出して欲しい。三冠王者が負ける時なんて、タッグの前哨戦であっても大騒ぎ。普段は一切取りこぼしをさせないで、世界王者の威厳を保ってきた。もちろん、ベルトは新日に流出しているのだから、方針が変わったのは当然だろう。それにしても武藤はチャンピオンになって以来、余りにも多くの黒星係をやらされすぎている。

 10月8日の新日:東京ドーム大会で、永田&秋山組対武藤&馳組が発表された。これは絶対に秋山が武藤をフォールする以外に、やってはならないカードである。もし、永田が馳をピンしようものなら暴動を起こさねば成らない。もっとも、蝶野はいざ責任問題に発展した時のセーフネットとして、全日制覇への構想をマスコミに発表。「オレが全日本のリングに上がる理由はオレ自身の移籍が一つ」などと、予防線を張る始末。鉛筆委員会はあくまで複数の合議制で、まだまだ蝶野に最終的な権限がないどころか、早くも短命政権を予感させてしまっている。新日の政治力学がいかに複雑怪奇なのか、大人のファンは同情するしかないだろう。もっとも、自分の試合さえさせてもらえれば、喜んで黒星を引き受ける武藤にも問題があることは指摘する必要がある。

 G-1に話を戻そう。スポーツ紙のための勝ち負けを書き過ぎて、ライブに集まって下さった有料入場者さんを満足させてない不平も多く耳にしている。実際キャパの小さい大阪府立体育館は売り切ったものの、名古屋大会や肝心の両国国技館では、満員マークはついたが満席ではなった。オマケに中身で勝負のG-1という看板の割に、途中の各大会は「しまりのない興行だった」との感想がアチコチのネットの書き込みで散見された点も深刻である。

 最終日もメイン以外は"顔見世"をやっただけ。当日客を満足させないで、スポーツ紙を読む大衆だけを喜ばせても駄目なのだ。しっぺ返しを食らうからである。新人監督の蝶野にしてみれば、もともと星を潰しあうG-1なんだし、"気配り外交"全開なのは同情の余地もある。しかし、秋口からは選手仲間から本物のヒールにならないと新日の未来は辛い。「蝶野プレゼンツ」は、PRIDEやK-1との興行日程も含めて、いきなり正念場を迎えることになる。

 スポーツ紙と言えば、永田優勝を事実上リークしていたことも気になった。前日の報道で、永田が緊張の余りゲロをはいてることと、武藤が「自分が記者に囲まれて、優勝会見している姿が見える」の発言を載せていたからだ。もちろん、一般の読者はわからないだろうが、年季の入ったマニアだとピンと来たハズ。しかも当日の生中継にて、木村健吾解説員が永田を押し、山ちゃんが「半々だ!」と言った時点で、それでも永田優勝がわからなかったら、そりゃ「ブッカー頭の観戦法」なんて夢のまた夢だろう。

 自分が週刊ファイトに出入りしていた20年以上前の頃、「大会前にフィニッシュをイメージせよ! それで見えなくても、試合が始まって5分たって、それでもどっちが勝つかわからんようだと、才能がないから記者を辞めろ!」と、何度もデスクから脅かされたのを思い出した。そして試合は、やっぱり寝る側の武藤の台本で始まっていた。この決勝戦は当日券が残っていることもわかっていたので、最初はライブに行く予定だった。しかし、そのスポーツ紙によって結果がわかってしまい、替わりに夜の後楽園ホールへ、アルシオン大会を見に行くことにした実話がある。 70点



アルシオン

 8月12日のアルシオンは昼夜の連続興行だったが、ちょうど終わったG-1決勝戦からハシゴした客層も加えて、夜の部は満員だった。4年に一度の「トーナメントMAX」だから、選手たちの気合も入っていた。昼夜で16名のトーナメントは、新"エクゼクティブ"に就任したベテランのライオネス飛鳥が、今回の目玉であるNoki-Aこと秋野美佳(メキシコ修行を経てマスク・ウーマンに)を下して貫禄の優勝。エース浜田文子が秋野に負けて二試合の出番で消えるなど、実は定番の星取り展開は普段マメにこの団体を追ってない一見さんにもわかりやすく、予定調和でバンザイなのである。ビジュアル系のセクシー・ファイターを揃えていて、男性客の比率が高いことでも特色のあるアルシオンだが、試合時間も緩急のメリハリが利いていて、全般のお客さんの満足度も高かった。

 「レッド・ツェペリンとはジョン・ボーナムのことであった」という言い回しがロック音楽界にあるが、私に言わせれば「アルシオンとはレフェリー村山大値」のことである。昔から全女を追いかけてきた年配のマニアにとっては、選手の動きを見るよりも、村山さんに感情移入してその芸術をたんのうする方が遥かに楽しめるからだ。この日も、吉田万里子の調子がイマイチで、バンプを取り損ねて一瞬失神した場面があったが、マリちゃんの目を見て回復するまでの間の取り方は絶妙だった。選手が次のスポットを一端レフェリーに伝達して、それを相手にパスする古典芸は完璧だし、サムライのTV中継ではカメラの角度でわからなかったが、文子がケブラーダする時にはロープを押さえてジャンプをアシストする。デコボコのあるアルシオンのリングを踵で蹴って直すし、試合進行におけるリングの指揮者ぶりは本当の主役以外の何物でもない。ラ・カチョーラス・オリエンタレス他、フリー選手を多く使う団体というのは、その星取り勘定など気配りが大変なのだけど、村山さんがいるから安心して参戦できる「やる側の理屈」を指摘しないと、アルシオンが3年半以上も生き延びてる理由は説明できないだろう。

 無理して欠点を上げるなら、no sellをやるパターンが目につくこと。"超人"がキャラのハルク・ホーガンじゃあるまいし、技を食らえば痛がって欲しいのである。例えば、コーナー・ポストからのミサイル・キックなどというのは、前座ではそもそも使わせてもらえないウルトラCだった時期も長かったのに、受けた選手がそのまま一回転してスクっと起き上がり、何事もなかったかのようにラリアットをぶち込んでいた。まぁ、「もともと華麗なるルチャ様式の女子プロなんだから」とか、「元凶は新日の"ラリアット・プロレス"にある」と反論されたお終い。だけど、オジサン世代には勝った負けたの競技ロジックが破綻している展開というのは、トーナメントでやって欲しくないのだ。
 休憩時間の売店は盛況。チャパリータASARIとのポラロイドの撮影や、藤田愛ちゃんのサイン入りポスター千円には行列が出来ていた。その順番の中にデカい太った黒人がいたので顔を見ると、これがアメリカ時代の友人。このオッサンも、いつまでたっても「単なるファン」のまま。しょっちゅう日本に観に来ている。

 決勝戦はちゃんと自然発生的に「ノキア・コール」が起こって、飛鳥の仕事師ぶりに感心した。もっともプロレス上の勝ち負けではなく、専門誌記者がシュートで選ぶ「ベストマッチ賞」なども用意されていて、美味しいところは全部GAMIこと二上美紀子が、いつもの"大阪人キャラ"で持っていってしまった。まぁ予想された通りではある。85点



GAEA

 同じ女子プロレス界でも、女性客中心でポリシーにも際立った違いを見せているのがGAEAだ。この数年間、実券の売上と利益率ではダントツの首位を独走してきたのも、プロレス業界人をあえて排除してビジネスをスタートさせたこの団体になる。昨年のクラッシュ再結成をブームの頂点とするなら、周期サイクルとしては下り坂なのは仕方がないだろう。もっとも8月19日の「GAORA杯トーナメント」は、夜の部だけ比較すれば上記アルシオンの8名と同じ形式になり、後楽園ホールの盛り上がりを採点すれば、完全に負けてしまったことも報告しておく必要があるだろう。

 もっとも4年に一度のトーナメントとして総力を結集したアルシオンに対して、こちらは観客動員に大きな影響のある大将の長与千種が欠場している。それにおばさんたち、デビル雅美と北斗晶も長期療養中だし、若手の竹内彩夏は退団したばかり。ましてオジサンの好きな加藤園子もシュガー佐藤もケガのまま。それでも格好をつけられる底力の蓄積こそ、GAEAの実力の証明なのかもしれない。実際この大会前に見たGAORAでの定期番組では、KAORUと飛鳥が凄まじいメインイベントをやっていた。レベルの高さは女子プロ界の先導者となっている。

 この日は「プラム麻里子追悼セレモニー」から。悲劇を忘れないことは重要なことだ。ビデオ・プロジェクターを使っての映像紹介や、黙祷の時間など、WOWOWでJWPを結成以来欠かさず追ってきた私にとっては、在りし日のプラムの笑顔はとても辛い。

 第一試合に出てきたのは尾崎魔弓と若手エースの里村明衣子。この時点で、入り口で配っていたカード表を眺めた自分は、簡単にブック進行が読めてしまった。

 一回戦の4試合は発表こそ「無制限1本勝負」だが、10分強という時間とケツだけが与えられていたようで、対戦する二人の技量が試されていた。この一回戦だけ、厳しい目でリングを凝視していた杉山代表が印象的だった。ベストマッチはKAORU対アジャ・コング。やはりGAEAの象徴はKAORUなのだ。よくまぁ危険なムーブを毎回披露して、ケガしないものだと感心するばかりである。チビさんの多いGAEAにあって、あるいは大将の長与がデブなことを思えば、スラりとした長身のKAORUの美貌がどれだけ目立つことか。ワークレイトが世界最高水準だと、クロウト筋が絶賛する永島千佳世をオーバーさせた準決勝も手抜きはなかった。反対に山田敏代の省エネ・ファイトはいただけない。この晩だけでなく、GAORAの中継でも気迫が感じられない。仕事をこなしてるだけだと、一般ファンにも気づかれているのが心配である。

 準決勝は、よって5〜6分の持ち時間割り。試合ごとにメリハリを利かせたアルシオンの方法論とは、際立ったトーナメント構成でカラーを出したのが面白かった。決勝戦は尾崎対永島の"OZアカデミー師弟対決"。「女子プロレスとは尾崎である」とは、堺屋太一先生以下多くの支持者が認めるところ。子分のポリスもタイミングに敏感で、見事に"プラム追悼"を優勝で飾っていた。75点





本稿の著作権はすべてKANSENKI.NET及び「書き手」に帰属します。

戻る
TOPへ