一人の、あまり有名ではない、でもちょっと特別な格闘家の話。(後編)
■投稿日時:2002年12月12日
■書き手:ひねリン(名前をクリックするとプロフィールの欄に飛びます)

さて、そんなジョーが、今回のKOTCにひさびさ参戦することになりました。ジョーはグラジ&KOTCでは3連敗中ですが、試合が派手で面白いからかカードは組まれます。しかし最近の体調はイマイチ。ていうかある意味最悪でした。前から悪かったヒザ(両方)がさらに悪化してきていて、近頃は練習するたびにそれがズレては(痛みで)絶叫してました。ほんと、笑うくらい簡単にズレてました。それで得意の三角締めが使えないせいもあってか、彼は今年前半はすごく調子よかったのに、後半に入って各種大会で負けが込んでいて、今回も相手が誰であれ、正直勝算はあまり高くないように思えました(って本人には言わないけど)。ついでに、ちょっと前には、以下のような笑い話(?)もありました。

ある日、サブファクサイトの掲示板で、ジョーが仲間に熱心に柔術のNHBでの重要性を長々と書いたところ、どっかの名無しが出てきて「じゃあ、なんでお前はケージで負け続けているんだい?」とカキコんで来たんです(けっこうナイスなツッコミとも言えるんですが・笑)。で、さらにコイツは「ってことはお前の柔術が白帯並ってことだな」と追い討ち。当然、すぐにいろんな仲間達がジョーをかばい(さすがに俺も加わりました)、その名無しはとっとと消えていきましたが、ジョーはそれがよっぽどクヤしかったらしく、しばらくの間は、技を教えてくれる時にも「俺のホワイトベルト並の知識によるとだな・・・」とかこだわってました(笑)。

とにかくそんな状況で、ここでも負けたらちょっと悲惨なので、ハタからは「KOTC欠場すりゃいいのに」とすら思えたけど、本人にはその気は毛頭ないようでした。でも同時にモチベーションが高いわけでもないようで

「勝つか負けるかより、ヒザをやっちまうことのほうが心配だ。だから寝技はなるたけ避けて、スタンドの打撃で闘う。でもたぶんヒザがズレてレフェリーストップで負けるんじゃねえかな。とにかくこの試合が終わったら、医者に膝を診てもらって、しばらく治療する」

とか言ってました。柔術家としての自負が強いジョーは、ふだんはNHBでも寝技勝負するんですが、以前にムエタイの経験もあるんですよ。彼と軽い打撃のスパーもやったことあるんですが(俺も空手の指導員だったので)、やっぱり組み技の時と同じく天性の思い切りの良さがあるというか、パンチを当てに踏み込んでくる度胸とタイミングとか、よける勘とかは相当のもんだと感じました。それでもやっぱり、薄いグローブで打撃で闘うのは危険が大きいので、見る方としては心臓に悪くてやだねー、と思ってました(やっぱ言わないけど)。

んなこと言っても、結局ダチが試合をするなら見届けないわけにはいくめえ、ってことで、やっぱりジョーの日曜柔術会の練習仲間にして、チーム・グラエロのメンバーでもあり、さらに元アマシューターで、かつてハビエル・バスケスと30分フルタイムの死闘をしたこともあり、現在は柔術家のKさん(長い形容詞だな)とド田舎のソボバ・カジノまで運転して観にいきました。試合前のジョーによーとあいさつだけしましたが、いつものように全然リラックスしてるみたいでした。彼が過度に緊張したり、ナーバスになってるところは見たことがありません。そのうちイベントがはじまりましたが、基本的に俺もKさんもジョーの試合以外にはあまり興味がないので、屋外の寒さに耐えつつ、延々と続く前座試合を眺めながらだべってました。

そしてとうとう第8試合、ジョーの登場です。相手はマット・スタンセル選手といって、ネットで調べた限り、今回がNHB初戦ですが、高名な柔術家ロイ・ハリスの紫帯であり、ムエタイの経験もあるようです。先に出て来た姿を見るとジョーよりひとまわり背が高く、体重も上のようでした。ジョーもいつものように、自分のアイデンティティの柔術ギを身に付けて入場。さあゴング。

ジョーは予告通りというか、いきなりものすごい勢いでパンチを振り回しながら突進していきました。こういう時の勝負度胸はほんとすごいもんがあります。で、相手もそれを組み止め、首相撲をやったり差し合いをやったり。それを見てて、相手の立ちレスの力はそれほどでもなさそうで、グラウンドに持ってかれる危険は少なそうなのでちょっと安心しました。やがてジョーが突き放して再び打撃の攻防に。ここでまたも突進したジョーの右フックやアッパーがハードヒット! その後ジョーは相手を投げ倒し、一気にヒールホールドの体勢に。極まりそうだったんですが、ヒザの悪いジョーが足関節の攻防をやるのは見てて恐すぎ。つーか寝技避けるんじゃなかったんかよ? 相手が逃げてジョーのガードに入って、ジョーが下からがっちり抱えたのでほっと一息でした。

しばらくしてレフェリーがブレイク。よく見ると相手が大量の鼻血を出しています(ついでに目も切れてたらしい)。客席の我々は、ここで試合が止まればジョーの勝ちなので「試合止めろー!」と正当な根拠も無く叫ぶ。実際に相当ひどい流血で、長々とドクターがチェックしてたので、本当に終わると思いました。鼻折れてそう。でも相手の闘志は全く折れてないようで、試合再開。またジョーがパンチで前進。相手もそれに応戦して、力んでパンチをぶん回す。恐え。組み合ってまたストップ。2度目のドクターチェック。相手はほお骨も腫れ上がっており、今度こそ試合が止まると思いきや、また再開するよう。もーいいじゃんかよ勝ちで。ジョーはこのたび重なる中断に集中力を削がれることもなく、気合いを入れ直しています。

再開。ジョーはまたまた突進し、前蹴りを入れたりして相手をコーナーに追い詰めると、もうそりゃ凄さまじいアッパーの連打を相手の顔面に雨あられ。うおーアイツこんなことできんのかあ。凄え凄え凄え凄え凄え! 完全に興奮した我々はいつの間にか立ち上がって「KNOCK HIM THE FXXK OUUUUUT!!!」とか絶叫。まじで一方的に殴ってるのでついに試合が止まるかと思いきや、まだ相手は倒れずに向かって来るので、ジョーは大腰みたいなのでド派手に投げる(今まで、彼がこんな投げ使ったの見たこともないんですが)。でも、それがアダになってグラウンドでバックを取られそうになって、それは逃げてサイドポジションの下になったところで1ラウンド終了。ふーアブねえ。相変わらず本能のままリスキーなことを・・・。

このラウンドインターバルで3度目のドクターチェックが入り、もう客席から見ても、相手の顔面が血まみれ完全破壊されているのは明らか。さすがにここで試合はストップ。おお圧倒的に勝っちゃったよアイツ。なんだか知らんがものすごく強かったぞ。ていうか、なんてヒドいことを。こんな奴と俺は練習してんのか・・・。なんかジョーは金網のてっぺんに座って、静かに片手を上げていました。ヒザが悪いおかげで打撃で攻めたのが、結果的には大正解だったということになりますかね。

で、我々は力が一気に抜けて(ついでに俺は声も枯れて)、もう他の試合はどうでも良かったんですが、まあ金がもったいないので寒さに耐えつつ全試合観て、控え室に行ってみたけどジョーが見付からないんで、飯食ってカジノで遊んで帰りました(こっちは今日は損得ゼロ)。帰りの車でKさんが「やっぱ負けが込んでても戦い続けることが大事やね。今日はそれをジョーに教えてもらったよ。」みたいなことを言いました。同感。格闘技に限らず、人生のいろんな局面で、ね。


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さて、翌日の日曜の朝。まさか今日は練習会はやらないだろうと思っていたのに、いきなりいつものようにジョーからの電話で起こされました。
「Hey. What's up? これから練習するか?」

で、半ば呆れながらもサブファクに行ったら、全然ふだんと変わらない、というかいつもよりさらに low-key なジョーがいました。あんだけ殴っといて、拳を傷めてすらいないよう。そのうちいつもの仲間がぞろぞろ集まってきて、なぜかもう持っている前夜の試合のVを、道場に備え付けのテレビデオでみんなで改めて観賞(それで俺も、上のような細かい試合描写が書けたわけです)。試合終了後の破壊された相手の顔は、ほとんどホラー映画でした。ジョーが後にドクターに聞いたところでは、相手はほおと鼻とアゴが折れていて、さらに下唇がひどく裂けて、整形してから縫う必要があるとのこと。なんとなく、大勝利の翌日なのに彼が静かなのが納得できました。


おわり。



後記:その後、ネットの某柔術掲示板をチェックしたら、友人の多いジョーの勝利を祝福するスレがさっそくできていて、多くの格闘家/柔術家が彼の勝利を祝福していました。ジョーはそれらにお礼のレスを残すと共に、相手の回復を祈ってもいました。また、あんなになるまで止めなかったドクターやセコンドへの疑念を書き込む者も数人。さらに相手のマット・スタンセルも登場し、それによると、確かに頬は腫れて、鼻は傷付き、唇はひどく裂けたけど、骨はどこも折れていなく、飯もちゃんと食えるとのことでした。で、両者はお互いの健闘を称え合ってました。







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