「週刊タカーシ(仮題)」第十四回 <空からこぼれたSTORY>
■投稿日時:2002年7月16日
■書き手:タカハシ(名前をクリックするとプロフィールの欄に飛びます)

気が付くと10回目を越えていたこの連載も、今のところは毎週火曜朝のアップに何とか間に合わせてきた。内容のアップダウンも含めてハリー・レイスばりのタイトロープ防衛を続けてきているとも言えるのだが、今週と多分、来週も諸事情によりボツになったものの再録でお茶を濁させていただきたい。
試合で言うと唐突にレフェリーに暴行しての反則負け防衛、というところですな。タイガーマスクがドリー・ファンクに最初の挑戦で食らった手だ(マンガだけど)。


田中さんの例のカミング・アウト話(WWFが公式にプロレスの仕組みを公開した事が発展のきっかけとなった、というヤツ)をフミ・サイトーは「プロレスがわからない人の考える事」と斬って捨てていたが、多分この話はデイヴ・メルツァーなりに説明して「Oh!Tadashi,you great!」くらいの反応を得ているものと思う。
「田中さんが言っているから・・・」ではなく「多分賛同している現地のライターたちがいるのだろうから・・・」という事で信じるのは、田中さんのいたくプライドを傷つけてしまうかも知れないが、要は「風が吹けば桶屋が儲かる」といきなり言われても「何のこっちゃ?」となるだけだ、という事を言いたいだけなんですよ。アポロ・スター攻略の際、「タイガー!『風が吹けば桶屋が儲かる』だ!」とのG・馬場からのアドヴァイスで全てを察したタイガーマスクのような人ばかりではないと言うか・・・。

さてその田中さんの「オレストーリー」(と敢えて言っておくが)で自分が一番好きな話は猪木対アリにまつわる話だ。
曰く・・・「当時全世界から注目されていたこの試合は当然試合前の打ち合わせなどできるはずもなく、『引き分けにする』という口約束だけで試合開始を迎えた。お互いに疑心暗鬼になったであろう状況の中で、それでも超一流のプロらしく、約束を破る事なく仕事を完遂し予定通り引き分けとなった。だからこそ猪木とアリの間に真の友情が芽生え、引退試合でのセレモニーの参加や北朝鮮ツアーにもアリは同行してくれた」。

・・・数あるこの試合の周辺のストーリーの幾つかを鑑みて、自分が最も整合性があると感じているのがこの話だ。そして何よりも「美しい話」ではないか!「事実」はこの話とは遠く離れたものかも知れない。ただ自分に取ってはこれこそが「真実」であると疑っていない。

さて、プロレスのような真実がドアの向こう側にあるようなものでは、数センチ開いた現在の状況では何をやっているのかまでは漠然と判っても、部屋の隅での出来事まではサスガに見えてこない。その中で手に入る情報だけで、その見えないはずの「部屋の隅の出来事」を推察する楽しみ方というのもあるはずだ。
プロレスとは全く関係ないジャンルでその「楽しみ方」が世界規模で行われているモノを自分はひとつ知っている。
皆さんは「シャーロキアン」という言葉をご存知か。世界で一番有名な探偵、ベーカー街のシャーロック・ホームズの冒険の数々を研究する人たちの総称だ。
ホームズという名の世界的有名人はボクサーのラリー・ホームズ、ポルノ男優のジョン・ホームズ(映画「ブギー・ナイト」の主人公ダーク・ディグラーのモデル)といるが、サスガに観戦記ネット読者でもこの中ではシャーロック・ホームズが一番知名度があるだろう。
勿論シャーロック・ホームズはコナン・ドイルの創作した小説上のキャラクターであり、実在の人物では有り得ない。だが下手をすると聖書の次くらいに売れているとも言われている世界的ベストセラーなだけに、何十年も前の作品に対し未だ熱狂的なファンが根強くいても不思議はない。
ところでこのコラムを読んでいる人で実際にホームズモノを何作も読んでいる人は決して多くはないと思う。しかし誰もがホームズの名前は知っているだろうし、先ほど書いた「世界で一番有名な探偵・・・」とのフレーズにも苦笑混じりながら納得してもらえるのではないだろうか。
ところがマニアから言わせると推理小説として読んだ場合、数あるホームズモノはキャラクターの魅力に支えられているだけで、トリックの妙味や推理の醍醐味を楽しむような作品でもないらしい。実際にストーリーの矛盾は(研究者も多いだけに)多数指摘されており、作品自体の魅力はともかく完成度の低さは隠し様のないものなのだそうだ(エラソーに言っていますが自分はアニメの「名探偵ホームズ」の宮崎駿作品――全く原作と関係無いエピソード――しか見てません)。

実際のところ原作者のドイルは子供が色鉛筆で書いた切り抜きの妖精と戯れる写真を見せられて「これこそ妖精が実在する決定的証拠だ!」と主張したり、棺桶が石室の中で開ける度に位置が大きく変わる現象について「同時に埋葬された黒人の体臭に科学反応を起こして石室内で爆発したから」と差別主義観丸出しの推理を発表したりするずいぶんとトンチキな人でもあるらしい。ちなみにこれはどこからか入り込んだ水がたまって棺桶が動いたんだろう、というロマンもヘッタクレもない推察が支配的であるようだ。
面白いことにそれを受け入れられないからか、シャーロキアンの中には人に答える時は物語上の設定に従い、「ホームズ物語を書いたのはワトスン博士であり、ドイル氏は医業の傍らに数々のSF作品を書いた心霊学者」と主張してみせる人もいるらしい。

そんなシャーロキアンたちは作品の研究として小説上のシーンのモデルとなった場所の特定や、その数多い矛盾点に整合性を与えるための「オレストーリー」を日夜考えているらしい。
これは今自分が適当に考えたものだが「Aという作品で○×は結婚していたはずなのに、その作品より時系的に後のはずのBでは『結婚した事がない』と発言している」という事があれば「それは最初の結婚の失敗を忘れたいが故の言葉なので、矛盾ではない」とか後付けするものだ(多分ホンモノのシャーロキアンの人が読んだら大憤慨するだろう。その時はスイマセン)。

そろそろ本題に入ろう。
シャーロック・ホームズの物語で一番のナゾとされるのがホームズの宿敵ジェームス・モリアーティ教授についてと、そのモリアーティ教授と滝壷に落ちて死んだはずのホームズが生還した後についてだ。
前項は3年前の「恐怖の谷事件」ではモリアーティ教授について知っていたワトスン博士が「最後の事件」の時には最大の宿敵のはずなのに名前すら覚えていなかった事で、後項は生還前と後では推理法からキャラクターまで変わってしまっている事。要は先ほどの言葉を引っ張り出せば「ドイルがトンチキな人だから」で済むのだが、シャーロキアンと呼ばれる人がそれで済ませる事を許せるはずもない。第一彼らにとってはドイル氏はホームズ物語には無関係な人なのだから。

さて、そこで出てきたのが「コカイン中毒から人格分裂を引き起こし、正義のために戦いつつも悪の組織を率いるモリアーティ教授となってしまった」とする「ホームズ=モリアーティ説」(そしてそれを恥じて自殺したのをワトスンが友情から事実を隠蔽し、滝壷に2人して落ちた事にして報告書(ホームズ物語)としてまとめた。これはモリアーティ教授の姿を見ているのは作品中ホームズだけという事も補強要素となる。そしてその後現れたホームズの親戚?の活躍を同一人物の物語としてまとめる事で事実の隠蔽に勤めた・・・などなど。

・・・笑ってはいけない。これは「ホロコーストはなかった!」などという、オチはアレでも歴史的事実への検証ではなく、トンチキな作家の書いた小説を愛するが故の研究の成果なのだ。
最後に異常な愛情の成せるワザとも言える「研究の成果」をひとつ書き上げてみよう。

”生還以前の作品群である「グロリア・スコット号」から「最後の事件」までに使用されているタイトルの大文字はTheやAdventureのT,Aを除くと副題も入れて76文字。それらを拾い出す事により「JAMES MORIARTY」と「HOLMES」の名前を見出す事ができる。しかし後半の「空家事件」から「最後のあいさつ」までの71文字から拾えるのはせいぜい「WHO IS S.H」くらいなもの”。ちょっと怖くなってくるね。

<先週見た興行>
先週は14日の闘龍門有明大会。いやー、リング上で展開される事がメチャクチャ高度なんだろうと認識はできるんだけど、自分自身の感覚が完全にマヒしていてそれ以上の感想が思い浮かばない。メインで組まれた神戸の再戦である3WAY9人タッグも、昨年の試合を基準としてしまっているからか普通だなー、と思ってしまう。
残念であり後悔する事になりそうだが、3ヶ月ほど闘龍門の観戦をお休みする事にして対処策としようと思う。是非この言葉を撤回してしまうようなスゴいカードを、9月の有明コロシアムに用意してもらいたいものだが・・・。





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