キャッチャー・イン・ザ・ガールファイト
■団体:スマックガール
■日時:2004年8月5日
■会場:後楽園ホール
■書き手:フリジッドスター

僕と女子総合格闘技との出会いは、決して古いものではない。

雑誌媒体等によってジャンルとしての動向や、選手そのものの活躍はチェックしてはいたものの、
記憶が正しければ、僕が初めて女子総合の会場に足を運んだのは、スマックガールのヴェルファーレ
興行であったと思う。

以来僕にとって女子総合とはスマックそのものであり、またスマックこそが僕と女子総合の唯一の
接点であり続け、とりわけ大森興行以降はかなり力を入れて観戦するようになったことは確かではあるが、
残念ながら後楽園ホールと云う「聖地」に「凱旋」したと云うことに対して、何らかの感傷を
共有することは不可能であった。

しかしながら、「聖地凱旋」と銘打たれた今回の興行に対する主催者の、ジャンルを
切り拓いてきた者の大いなる自負と、わずかばかりの気負いは僕でも充分感じられるものであり、
過去の歴史に敬意は払いつつも、スマックの、あるいは女子総合の現在進行形と未来への可能性を
確認することを期待しつつ、この興行の観戦に臨むことなった。

例によって、書くべきことを書き、書くべきでないことは書かないつもりだ。
それが僕のスタンスである。しかし、もしかしたら僕は、書くべきことを書かず、
また書くべきでないことを書いてしまうのかもしれない。それが僕の能力の限界である。いずれにせよ、
僕が書いたこと/書かなかったことによって、読む者に何かを伝えることが出来れば幸いである。
それが僕のやりたいことなのであるから。


今回はメモ8さんの特別のご好意によりプレスパスで入ったのだが(にも関わらず
観戦記執筆が非常識なまでに遅れたことをこの場を借りてお詫びしたい)、会場到着は16:45ごろ。
さすがにこの規模の会場だと大森とは勝手が違うのか、スタッフの
動きもいつもよりも一際慌しいものであった。

ルールミーティングの様子を遠めに眺めつつ時間を過ごすことにした。和田レフェリーによる
グラウンドにおける顔面打撃禁止に関する説明が印象的であったので、それをここに記述しておく。
和田レフェリーによると、タックルの入り際などにおける、ファーストコンタクトの瞬間の顔面打撃
(恐らくは、藤田 vs. ミルコにおけるあのヒザのような類であろうか?)に関しては、レフェリーは
それを流すそうだ。「それを禁止したら、試合が潰れてしまう」と。単に試合を裁くことだけが
レフェリーの仕事ではない。選手の安全を守りつつ、試合をコンテンツとして成立させること。
彼らの仕事の難しさを改めて実感した。

予定では開場は18:00ジャストだったはずであるが、後に諸方面から指摘されている通り、
かなり遅れての開場となったことは事実である。記録していないので断言はできないが、恐らく
15分〜20分程度は遅れていたのではないだろうか。その要因について僕は精確な事情を知る者ではないし、
伝聞や憶測で何かを断ずる行為は回避したいのであるが、ややぼかした記述が許されるのであれば、
主に主催者サイドにおけるある種の混乱が一因ではあったようだ。とまれ、その後の進行に
関して一抹の不安を抱かせるスタートとなったことは確かであった。

【フレッシュファイト第1試合 SGS公式ルール −56kg契約 5min×2R】
○まりぃ015 vs. 長島佳代子× (2R5:00 判定3-0)

1R。打ち合いを制したまりぃがテイクダウン。横四方から押さえ込みにかかるが、
30秒ルールによってスタンド再開。スタンド打撃とテイクダウンの攻防で優位に立ったまりぃが、
ラウンド終盤にはマウントまで奪うが、極めにはいたらず。グラウンドにおける顔面打撃が禁止
されているこのルールでは、パスして優位なポジションを奪っても、
そう簡単には一本を取ることは出来ない。

2R。パンチと首相撲からのヒザ蹴りげ攻勢に出たまりぃが、テイクダウンして上を制す展開が続く。
バックマウントからチョークを狙うシーンもあったが、優位に試合を運ぶも一本を奪うことは出来ず。

妥当な判定で、まりぃが勝利。


【フレッシュファイト第2試合 SGS公式ルール −46.5kg契約 5min×2R】
○金子和美 vs. 山田純琴× (2R1:23 腕十字)

1R。殴られながらも、腕を取って投げて上から攻める金子。打撃戦で打ち勝ち気味なのは
山田だったが、金子は鋭いタックルでテイクダウンし、果敢に足関を狙う。密着してヒザを打つ
山田に対し、金子も投げで対抗。スタンドでのヒザ蹴りで攻勢に出た山田、ラスト一分でついに
上を制することに成功。ボディパンチの連打。スタンドでのラッシュが効いて、
金子のタックルは切れ味が鈍る。山田はタックルをがぶるも、立たせる。

2R。山田はイノキ-アリからの踏みつけで攻撃。グラウンドでの顔面打撃が禁止された
このルールにおいて、いかにして有効な攻撃をするかを考慮した、クレバーな戦法と云えよう。
さらにスタンドでのヒザ連打で追い詰める山田だったが、金子は強引に払い投げて上に。
ここから一気に十字を極め切って、見事な逆転一本勝ち。

山田の打撃が相当効いていたことは、金子の表情から容易に見て取れたが、
最後まで集中を切らすことはなかったのが素晴らしい。白熱した好勝負であったが、
とりわけ上になってから一本を奪う強い意志を見せた金子を賞賛したい。
30秒ルールは確かにグラップラーにとっては制約となるものであるが、
30秒と云う限られた時間の中でポイント稼ぎで満足することなく、常に極めに
固執する姿勢を貫徹しての勝利は、30秒ルールと云う制約が逆に選手の極めの
技術を向上させる可能性を示唆していたと思う。


客席は北側を演出用モニターで潰していたものの、全体的に良く入っていて個人的には驚いた。
正直かなり悲惨な入りも想定してだけに、これは嬉しい誤算。凱旋を待ち望んでいた古くからの
ファンが多かったのか、今のスマックに期待する新しいファンが多かったのか、それとも端的に
選手売りが伸びた結果なのか、いずれにせよ女子格闘技の現在は決してマスへの大きな訴求力は
孕んでいないものの、さりとて僕らが思っているほど狭く小さいセカイでもないのかもしれない。


【第1試合 Back Drop杯 ロイヤルスマック2004】
おっさん、KAZUKI、HARI、村野麻子、浜島佳代子、稲葉陽子、吉田正子、15、井上明子、
三谷弘子、ナナチャンチン、○藪下めぐみ、近藤有希 (17:35)

さてこの試合に関しては、試合内容を詳細に記述することは困難な作業なので、
感想を持って報告に代えさせて頂く。

試合形式としては一分ごとに新しい選手が入場してくると云う、プロレスのバトルロイヤル方式と
同様の構図であったが(念の為に記述しておくと、試合内容までプロレスであったと云う訳ではない)
各選手ごとにいちいちテーマ付きで入場してくるが故に、見る側の注意力もリング上と入場との
双方に散逸してしまい、加えて選手個々人がこのルールに戸惑い気味であったがため、
真剣勝負固有の緊張感も希薄に感じられ、
自分としては素直に楽しめる内容ではなかった。

バトルロイヤルと云っても実際に試合に参加しているのは数名で、それも局地的にシングルマッチが
行なわれているかの如き様相を呈しており、やる側も見る側もこのルールをいかにして咀嚼するか手探りの
状態で、いかに祝祭的興行における祝祭的試合であったとは云え、やはりこのルールの
試合をコンテンツとして提供する意義はあったのかと云う問いに対しては、
俄かには肯んじ得ないと云うのが正直な所感であった。

その中において、こういったルールにおいて観客を楽しませる術を心得ているプロレスラー勢の
動きが光っていたことは特筆に価するが、とりわけ藪下はKAZUKIとの共闘やヨメジーニョへのジャイアント
スイングで客席を沸かせ、最終的に自らが勝利を獲得すると云う、まさに八面六臂の
大活躍であった。ただし、その藪下が試合中に足を故障しドクターチェックを受けて
いたことは、大いに不安を抱かせる要素であった。
そして、その不安は不幸にも的中してしまうのであった…。


【第2試合 SGSタッグマッチルール 10min】
○大室奈緒子&内藤晶子 vs. 羽柴まゆみ&川江礼子× (4:39 腕十字 <内藤→川江>)

羽柴と内藤の対決でスタートも、羽柴はすぐに川江とタッチ。川江の打撃フォームは空手色が強く、
個人的にはLYOTOのそれを彷彿させるものがあり、この選手を知らなかった自分も応援する意欲が沸いて
きた。やはりまだ総合への適応は不完全らしく、内藤のタックルを切れずに川江は下に。30秒で
凌ぐと両陣営ともタッチし、大室と羽柴に。羽柴の打撃技術向上は一目瞭然で鋭い打撃を
放っていた。パンチを綺麗に打てるようになったのは成長の証である。

組み付いてテイクダウンした大室に対し、羽柴は川江と交代。大室と交代した内藤は、
川江をテイクダウンすると、今度は30秒以内にキッチリと十字を極める。

慧舟會コンビが技術的に圧倒した内容であったが、短い時間ながらも羽柴が成長の刻印を
しっかりと提示していたことが印象的であった。残念ながら僕はアイドルとしての羽柴には
殆ど関心がないのだが、ファイターとしての羽柴には心から応援の声を送りたくなる。
アイドルと云う己の所与の立ち位置・キャラクターに安寧することなく、
常にファイターとして上を目指す真摯な姿勢は絶賛されて然るべきである。

だからこそ、次はシングルマッチでリスクのある選手を相手に、結果を残す試合を行なって
欲しいと願っている。


この時点で、早くも時計は20:00に。残り試合数を考慮すると、どうしても終了時刻が
気になり出してしまう。さらに悪いことに、藪下が治療中と云うことで、ここで休憩タイムに。
リング上で篠氏が挨拶をし、試合順変更の説明を行なう。結局藪下の治療が終わったと云うことで、
試合順に変更はなく予定どおりに。この”休憩時間”がおよそ二十分。
やはりドタバタした印象を感じることは否めない。


【第3試合 SGS6人タッグマッチルール 15min 三本先取】
○虎島尚子&真武和恵&端貴代 vs. 藪下めぐみ&せり&忍田なほみ× (15:00 判定3-0)

二番手の真武 vs. せりで、真武がせりに十字を極めてゴングが鳴るが、寸前で藪下への
タッチが成立していたと云うことで試合は続行。虎島が忍田にチョークを極めるも、30秒ルールに
救われる。今度は真武がせりに十字を極めるが、これも30秒ルールに救われる。さすがに藪下の強さは
誰もが知っており、”ガチンコ集団”慧舟會勢といえどなかなか真っ向から勝負には行けない。
背を向けて逃走する虎島にドロップキックを敢行し、闘争本能を露にする藪下であった。

他二名が技術的に落ちるがゆえに、孤軍奮闘を強いられる藪下であったが、そんな藪下に一歩も
ひけを取らずに健闘する真武の技術は、随所に光るものを見せており、この両者の攻防は見所充分で
あった。パワーで凌駕する藪下が足を払ってテイクダウンし、ケサで締め上げる。しかし真武は
巧みに体を入れ替えると、バックマウントを奪う。藪下の気迫に後押しされてか、
技術的に劣るせりと忍田も気持ちで負けなくなり激しく打ち合う。

試合自体は慧舟會トリオの判定勝利で特に問題はなかったが、藪下の強さ・プロ意識も
素晴らしかった。であるからこそ、藪下強行出場に関しては苦言を呈しておきたい。大前提として、
リアルファイトにおいて一日二試合と云うマッチメイク自体に、問題の根源が内在していた
はずである。トーナメントならともかく、この興行において藪下が二試合をこなす必然性は
存在したのであろうか。マッチメイクする側の苦しい事情は理解できる。
しかし、仮に藪下の故障が出場不可能な域に達していたのであったら、どうなっていたのだろうか
(漏れ聞く範囲内では、今回の故障は相当際どいものであったようだが)。安全性と云う
競技的観点からも、興行的観点からも、今後のマッチメイクには一考を要して頂きたい。


【第4試合 The Next Cinderella Tournament決勝戦 SGS公式ルール 5min×2R】
○舞 vs. 川畑千秋× (2R5:00 判定3-0)

1R。イノキ-アリから蹴っていく舞。スタンド打撃でも打ち勝った舞だが、
川畑はテイクダウンに成功すると、上四方から十字を狙う。川畑のバックブローの打ち際に組み付いた
舞は、テイクダウンするとサイドポジションからヒザを打ち込んでいく。打撃の精度では舞が上で、
打ち勝ってテイクダウンを奪っていく。川畑も大振りのフックで反撃し、舞も一歩も引かず激しい
打撃戦に。打ち負け気味の川畑がタックルでグラウンドに持ち込むが、舞はガードからの十字狙いで
応戦。ここでタイムストップが入り、耳から出血した舞に対しドクターチェックが為される。
包帯で止血した舞がパンチで攻勢に出るも、川畑はタックル。舞は近藤有己ばりの「尻で立つ」を
実践するも、川畑も懸命に押さえ込みにかかる。

2R。川畑は徹底してテイクダウン狙いも、舞はタックルを切って上に。
ギロチンを狙う舞に対して、川畑は下から十字を仕掛ける。打撃で打ち勝つのは舞で、テイクダウン。
オープンガードの川畑に対して、果敢に足関を狙っていく。川畑のタックルを切る舞だが、
川畑も執念で上を制す。ここで川畑も打撃で勝負に出る。大振りのフックで前進するが、
舞の手打ちだが鋭いパンチ(総合では、こういうコンパクトな打撃が活きる)が光る。
またもテイクダウンした川畑だが、舞は逆にバックマウントからチョーク狙い。
川畑はスタンドで引き気味に。終盤には上四方から攻めた川畑だが、試合を覆すには至らず。
BR> 終始試合を支配した舞の強さが素晴らしかったが、一方で川畑の動きがいささか精彩を欠く
内容であったことが残念であった。舞のシャープな打撃に対し、フック一辺倒では対抗できない。
ただ二人とも、スマックで育ち、今後のスマック、あるいは女子格闘技全体を牽引する可能性に
満ちた選手であることに変わりはない。次代のシンデレラを決めるこのトーナメントの決勝に、
後楽園と云う大舞台を用意してあげられたことは、大いに意義のあることだったと思う。
次の「聖地」では、この二人の更に成長した姿を見ることを期待したい。

【第5試合 SGS公式ルール 無差別級 5min×2R】
○AKINO vs. たま☆ちゃん× (2R5:00 判定2-1)

1R。鋭い打撃で攻めるたま☆ちゃんだが、AKINOは押し込んでテイクダウン。
しかし、たま☆ちゃんも見事にリバーサル。AKINOは強引な投げからフロントチョークを狙うも、
抜けてたま☆ちゃんが上に。たま☆ちゃんがパンチでラッシュをかけるが、AKINOはタックルから
マウント奪取。たま☆ちゃんはまたもリバーサル。スタンド打撃は、パンチのコンビネーションと
ヒザを有効に使うたま☆ちゃんが優勢。

2R。AKINOの大振りのパンチを避けて、たま☆ちゃんがテイクダウン。パスして十字を極めるも、
30秒の時間制限に阻まれる。激しい打ち合いも、たま☆ちゃんは笑みを浮かべて余裕しゃくしゃく。
有効打が何発か入ってAKINOはフラフラになるが、それでも前進を止めない。この根性は凄い。
たま☆ちゃんは払い腰で投げるも、勢い余って下になってしまう。

有効打で優り、なおかつ十字もとりかけたたま☆ちゃんの判定勝ちだと思ったのだが、
なぜかスプリットでAKINOの勝利に。個人的には納得のいかない判定であった。AKINOは現状では
打たれ強さと根性以上の何かを見せることは出来なかったと思う。一方のたま☆ちゃんだが、
敗れたとはいえ評価を落とす試合でもなかっただろう。この選手が本当に豊かな表情を
見せると云うことは、いくら強調してもし過ぎることはないだろう。たま☆ちゃんの表情に、
女子格闘技の大きな魅力(の一つ)が内在していると言っても過言ではないと思う。


【第6試合 SGS公式ルール 無差別級 5min×2R】
○高橋洋子 vs. 唯我× (1R4:33 レフェリーストップ)

打撃技術の差は歴然としており、高橋が終始圧倒する展開に。
高橋は唯我のタックルも尽く切り、アグレッシブに攻撃していく。唯我も強引な投げから
フロントチョークを狙う見せ場を作ったものの、残念ながらこれは足のフックも為されておらず
極まる気配はなかった。高橋が打ち勝ち、ついに唯我はスタンディングダウン。高橋のミドルが走り、
唯我の動きが更に鈍る。唯我は懸命に押し込むも、高橋は突き放してヒザ蹴り。
さらにパンチで追撃したところでレフェリーが試合を止めた。

最近は選手としてはやや表舞台から遠ざかっていた感もあった高橋だが、
この試合を見る限りやはり女子の重量級ではトップクラスの実力者であると思う。動きを止めない
獰猛な攻撃は、シュートボクセ勢のそれを彷彿とさせるものがあった。


いよいよ興行もセミ・メインを残すのみとなる。何と言っても今回の興行の最大の見所として、
セミ・メインにおける特別ルール、すなわちグラウンドでの時間制限の撤廃、ならびに顔面打撃
(パウンド)の解禁と云うルールが採用された点を提示することが可能だろうが、
主催者側もこのパウンドと云う総合固有の技術を観客に伝えようと、労力を使った様子が伺えた。
具体的にはGCMの映像提供によって岡見 vs. 窪田のフィニッシュシーンを流し、
観客に視覚的に理解可能な形で持って、パウンドの説明を行なう意図だったようだが、
手違いからか映像が途中で巻き戻ってしまう。こんなところにも、
進行の間の悪さが出てしまった。


【セミファイナル SGS特別ルール −52kg契約 5min×2R】
○藤井恵 vs. 松本裕美× (1R0:40 レフェリーストップ)

試合としては、高速タックルから素早くバックマウントを奪い、チャンスを逃さず
極めきったフジメグの完勝と云える内容であった。しかしフジメグの強さは尋常ではなかった。
松本も決して弱い選手ではなく、むしろアマ修の実績が示すとおりなかなかの強豪であると思うのだが、
現状の女子格闘技はまだ、競技のバックボーンを持つ選手が「総合の技術」で戦う選手を
凌駕してしまう段階にあると云うことなのであろうか。どこか、あの吉田 vs. 田村を
見終えた後のような、何ともいえない感傷的な気分になってしまった。


【メインイベント SGS特別ルール −53.5kg契約 5min×3R】
○辻結花 vs. エリカ・モントーヤ× (3R4:05 腕十字)

個人的に今年上半期の女子総合において最も印象に残った光景は、羽柴戦直前の辻の
練習風景であったりする。大森で立ち見していた僕らの真後ろで鬼気迫る打撃の練習をしていた
辻の姿には、戦慄を覚えたのであった。辻がパウンド有りのVTルールを強く望んでいると云う
話は僕の耳にも届いていたが、やはり最近のこの選手の”打撃”への固執は
相当なものがあったはずである。

そんな辻にとって念願とも言えるルールが、このスマックの聖地興行のメインと云う
大舞台において用意されたわけだが、対戦相手にもエリカ・モントーヤと云う実力・知名度ともに
申し分のない選手が用意されて、まさに選手・主催者・ファンの欲望が一致する非常に
素晴らしい試合が提供される時が訪れた。

1R。エリカのタックルを何とか切った辻であるが、エリカも粘り強く
テイクダウンを奪いバックに付く。辻もアーム狙いで応戦するが、ドントムーブ後
エリカはバックから十字狙い。執拗に十字を狙い続けてキャッチ入るも、辻は懸命に抜いて
インサイドに。ここからパウンドを打つのだが、いかんせん単発で、エリカは下から辻の腕を
ホールドし防御する。イノキ-アリから蹴る辻だが、エリカはスタンドに戻す。

2R。辻がスタンドで圧力をかけ、エリカは後退。辻がテイクダウンに
成功しハーフマウントを奪うも、エリカは即座にフルガードに戻し、下から巧みに
足を利かせていく。このあたりのエリカの下からの防御と攻撃は実にテクニカルで、僕などは
この時点で辻の敗北を覚悟したりもした。だが、この時間帯から徐々に辻が光る動きを
見せるようになる。インサイドから立ち上がった辻は、イノキ-アリから果敢に踏み付けを狙い、
更には足を振ってサイドを奪取する。だがエリカも、辻のパウンドを防ぎつつ、ハーフガード、
フルガードに戻していく。辻はまたもイノキ-アリからパスし、ハーフからパウンドを放っていく。

3R。ヘンダーソンばりのパンチ+タックルでテイクダウンに成功した辻、
ハーフからの鉄槌連打で攻勢。しかしやはりエリカも下が抜群に強く、スイープして上から
一気に腕十字を極めにかかる。上四方から十字を狙い、そのままもぐってキャッチ入るが、
辻は何とか抜いてインサイドからパウンドを落とす。上四方から鉄槌を連打し、
エリカのお株を奪う十字狙い。エリカも十字を狙い関節の取り合いとなるが、
極めたのは…辻であった。

非常に高度な技術戦が展開された、まさに現在の女子総合の最高峰と呼ぶに
相応しい熱戦であった。前半はエリカが下から試合を支配し、辻にとっては
苦しい時間が続いたが、劣勢を覆しての逆転勝利は素晴らしいものであり、どこか緩慢な
印象が否めなかった興行において、メインで観客に緊張感溢れる試合を提示して締めくくったと云う
点からも、競技論・興行論双方の見地から賞賛に値する見事な内容だったと思う。

だが一方では、これからの辻はマッチメイクが難しくなったのではないかとも思う。
これだけの強さ・人気を誇る辻に対して、もはやファンは中途半端な対戦相手では満足しないだろう。
今後ファンのニーズを充足させる試合を提供するためには、さらなる強豪を
連れてくるより他ないだろうが、その過程で辻が勝ち続けると云う保証はどこにもない。
例えばホイス戦後の桜庭。例えばトリッグ戦後のマッハ。スター選手が短期間の間に凋落してしまう
リアルファイトの世界の厳しさを、我々ファンは幾度と無く目撃している。だがそれでも、
僕は辻が更なる強豪と戦い勝利し、更なる感動を与えてくれることを期待してやまない。

もうこのフレーズは使い古した感もあるし、こう云うことを書くのは
スマックに対して失礼なのかもしれないが、それでも敢えて書いておく。辻がファンに
感動を与え続けるのならば、もうその”場”がどこであろうと関係ないと思う。第二・第三の辻を、
「ネクスト・シンデレラ」を育てるシステムの確立が、スマックの究極の目的であるのならば。

既にUGでは、ジェニファー・ハウと云う選手が「フックンシュートで辻と戦う!」と公言している。
辻の新たなる戦いは、そして女子総合の未来は早くも始まっているのである。


終了は22:00過ぎと云うロングラン興行となった(「なってしまった」と言うべきか)。
1414人と云う客数は愛嬌としても、やはり客入りは上々で興行としては充分に成功の範疇に
収まるものであったと思う。だが興行の内容的な面に目を向けると、まだまだ残された課題が多く
存在していることは否めないだろう。バトルロイヤルやタッグマッチと云ったコンテンツに
対する感想は、見る者によって様々であろうし、またその多様性を許容したいが故にひとまず
措いておくとして、多くの観客が共有していたであろう認識として、
やはり進行の遅さ、稚拙さを指摘しておく必要があるだろう。

もっとも自分なぞは、進行の悪さは感じつつも、あまり苦には感じなかったりもしたのである。
それはおそらく、僕が(悪い意味で)ガチバカに近づきつつあるからであろう。個々の試合に見所が
内在していれば、興行全体の内容・成否はあまり気にしない。それが僕の言う悪い意味での
ガチバカである。そして、スマックがそういった狭いクラスタを対象とした活動を展開していくので
あれば、進行の悪さと云う課題は、そもそも課題として文節化される必要すらないのかもしれない。

だが、スマックが対象とすべきセカイは、そのような狭い閉じた層に
留まるものではないであろう。より広いセカイを相手に、広い意味におけるエンターテイメントを
提示していくことがスマックの目的であるのならば、進行の問題は絶対に解決される
必要があるだろう。

いずれにせよ、女子総合と云う競技は(あるいは男女問わず、総合と云う競技総体は)、
まだまだ競技としても市場としても未成熟なものである。だがその厳しい現実認識は、決して
未来に対するペシミズムを意味するものではない。成熟の後に訪れるものが退廃であることが歴史の
必然であるならば、そして格闘技と云うセカイにおいてもその歴史の反復は同じであるのならば
(K-1を見よ)、女子総合にはまだそのような歴史の反復を回避した地平に成立する、明るい未来が
訪れる可能性が残されているのだから。

最後に。自分は何か政治的なことに触れたいわけではないと云うことを断りつつ、
一つだけ書いておく。篠氏にしてもメモ氏にしても、女子総合と云う分野を何もない状態から
開拓していこうとしている姿勢には、素直に敬意を表するものである。例えば大森におけるアマ育成
興行にしても、底辺を拡大し、選手に場を提供とする確固たる意思が感じられるし、繰り返すが
その大森興行で行われたトーナメントの決勝に、後楽園ホールと云う舞台を用意したことは、
本当に意義深いことであると僕は思うのである。

それは決して、マスへの訴求力を即時的に伴う類の活動ではないであろう。
しかし、そのような小さな努力をコツコツと繰り返すことしか、健全な競技としての総合の
興行としての確立と云う大きな目的を達成する方法は、もう他にないのであろう。そしてそれは、
女子総合と云う「普通の女の子が輝ける場」を必要としている人間が存在する限り、
誰かがやらねばならないことなのである。だからそれは、あるいは「文化的雪かき」の一種なのかも
しれない。そしてそのような雪かきを誠実に繰り返す主催者の、その真摯な努力に、
再度敬意を表する作業をもって、この観戦記の終焉とさせて頂きたい。
BR> みなさん、ごめんなさい、そして、ありがとう。




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