近藤有己、虹のように!
■団体:PANCRASE
■日時:2003年8月30日
■会場:両国国技館
■書き手:フリジッドスター (ex:フリジッドスター報告

PANCRASEは、この度旗揚げ10周年を迎えるという。

10年前、長閑で緩慢な日々を過ごしていたガキであった自分が、総合格闘技の
激変期を10年間サバイブしてきたPANCRASEの歴史をリアルタイムで逐一体験
してきたはずはなく、従って、10年間という「歴史の重み」のようなものは
残念ながら自分には「解釈」は出来ても、「実感」することは出来ない。

PANCRASEが10年間の歳月を経て到達した「現在地」を目撃することこそが
今回の観戦の最大の目的であった。

ロビーから会場に入る中途、田村潔司から送られた花を発見する。
上山や長南といったU-FILEの選手達がPANCRASEに出場していることを鑑みると
別に何ら不自然なことでもないのかもしれないが、そこに過剰な意味付けをしてしまう
自分がいることに気付く。今後、PANCRASEの歴史と田村の歴史が交錯する瞬間は
訪れるのであろうか?

両国国技館は、八割程度の客入りだろうか。
定時の四時となり、選手入場。代表として、近藤が挨拶の任を務める。

そして、選手によるTシャツプレゼント。
四方にシャツを投げて回る選手達の中で、一際目立っていたのが
その強肩ぶりで二階席にまでシャツを投げ入れる、郷野であった。
野球少年だった郷野が格闘技を始めたのも10年以上前のことだったはず。
ここにもまた、一つの歴史。


第1試合 無差別級5分3ラウンド
渋谷修身(パンクラスism、86.2kg)
vs.
矢野通(新日本プロレス、114kg)

○渋谷(2R2分25秒、腕ひしぎ逆十字固め)矢野●

ブレンド路線に歩を進める新日から送られてきた”刺客”は
アマレスエリートの矢野。第二の中邑誕生なるか。

1R。矢野、距離を詰め、差して渋谷をコーナーに押し込む。体格差は一目瞭然。
しばらく立ちレスの攻防が続くが矢野がテイクダウンに成功。上からパンチを
落としていく。渋谷も下から足を使って仕掛けを図るが返せず、そのまま1R終了。
このままだと渋谷敗戦かという不安がよぎる。が、しかし。

2R開始。1R同様、距離を詰めて押し込む矢野だが、今度は渋谷が体を入れ替え
テイクダウンに成功。パウンドから腕関節を狙いに行く。これは極まらなかったものの
あっさりマウントを奪うと腕十字でフィニッシュ。

矢野は体格差を存分に活かした戦い方を試みてきたが、終わってみれば
キャリアが違いすぎるといった内容だったと思う。観客席の熱も高まり
オープニングアクトしてはイイ感じ。


第2試合 ミドル級5分3ラウンド
三崎和雄(パンクラスGRABAKA、81.9kg)
vs.
ヒカルド・アルメイダ(ヘンゾ・グレイシー柔術アカデミー、81.4kg)

○アルメイダ(3R判定2-0)三崎●

参戦以来ランカー相手に三連勝し、ライトヘビー級タイトル挑戦に王手のはずの
アルメイダ。しかし、何の因果か今回組まれたのはミドル級戦。
何にせよ、負けられない一戦であることには変わりないだろう。

1R。お互い牽制の打撃を放っていく。アルメイダのローも三崎のジャブも鋭い。
テイクダウンを奪った三崎がイノキ−アリからローを当てていき、さらに飛び込んでの
パンチも放っていくが、アルメイダも下から足で応戦。立ち上がったアルメイダが今度は
テイクダウンし、バックまで奪う。

2R。三崎、バスターでアルメイダをマットに叩き付けると、インサイドに入らず
イノキ−アリからローキックを当てていく。三崎、冷静で動きも良い。スタンドでの
打撃戦は五分かやや三崎優勢も、アルメイダ、タックルで上を取ると重いパウンドを
落としていき、顔面踏み付けらしき動きも見せていく。

3R早々、アルメイダのグローブを直すタイムストップ。再開後は、2R終盤と似たような
展開。アルメイダ、上を取ると、仁王立ちのポーズからモンゴリアンチョップを繰り出す。
会場、大いに沸く。アルメイダが目尻をカットしドクターチェックが入るも、ポージングと
咆哮で戦意をアピール。またも会場が沸く。その後も、終始アルメイダが上からパウンドを
落とし続け、三崎も下から三角狙うが入らず、試合終了。

両者ともに気迫充分で、かつ積極的に動いていたので、面白い試合だった。アルメイダは
技術もプロ意識も申し分なく、「外国人エース」に相応しい存在であると僕は思う。
次はミドル・ライトヘビーのどちらの試合になるかは分からないが、いずれにせよ
早期にタイトル挑戦の機会を与えてあげて欲しい。


第3試合 無差別級5分3ラウンド
佐々木有生(パンクラスGRABAKA、86.7kg)
vs.
ヒース・シムズ(チーム・クエスト、76.3kg)

○佐々木(3R判定3-0)シムズ●

「ブラジルではサッカーと言えばロナウド、VTと言えばイズマイウ」と自ら豪語し
ブスタマンテに笑いモノにされたりと、相変わらず微弱な電波を発し続けるイズマイウ。
百歩、いや一万歩譲って自己申告が真実であるほどイズマイウが大物であったとしても
仕事はキチンとして貰わないと困る。イズの不手際で当初予定のサイボーグは出場中止。
代役として、来日したのがヒース・シムズである。

1R。視覚的にはっきり認識可能な程、体格差が大きい両者。ローで牽制する佐々木に対し
パンチで応戦するシムズ。両者ともにテイクダウンを狙うムーブは全くなく、スタンド
での打撃戦に終始する。佐々木、この階級のこのレベルの選手相手なら、もっと
積極的に前へ出なきゃ。

2R以降は、かなり一方的に佐々木のペースとなる。佐々木のフックがヒットし
足がグラつくシムズ。下から佐々木の足にしがみ付くことで必死に凌ぐ。
佐々木、ヒザなどで攻め、シムズは防戦一方。さらに、カメになったシムズにパンチを
連打していく。シムズの動きが完全に止まり、いつレフェリーが止めるかと思って
見ていたが結局そのままゴングで2R終了。止めても良かったと思うのだが。

3R。あとは佐々木が止めを刺すだけなのだが、逆にシムズにテイクダウンを奪われてしまう。
インサイドで膠着し、イノキ−アリからもシムズが仕掛けない為、佐々木のダメージは
全くないのだが、どうにも佐々木に対する印象は良くない。結局、決めてに欠け判定へ。

試合後のインタビューを読む限り、佐々木のコンディションはかなり悪かったようだが
10kg差を考えると一本かKOで決着を付けて欲しかったというのが正直な心象。怪我を完全に
治し、次の試合こそは本当のポテンシャルを発揮してくれることに期待したい。


第4試合 ライトヘビー級5分3ラウンド
郷野聡寛(パンクラスGRABAKA、89.4kg)
vs.
ニルソン・デ・カストロ(シュートボクセ・アカデミー、87.3kg)

○郷野(1R0分29秒、ローブローによる反則)カストロ●

個人的な裏メインと云うか、一番期待していたのが、実はこのカードだったりする。
カストロの打撃が「剛」だとすれば、郷野の打撃は「柔」のイメージがすると云うか
要はカストロの前に出る圧力をどう郷野がいなしていくかに注目していた。注目していた。
していたのだ。していたのだが……。

イイ感じの雰囲気があるカストロ。一方の郷野も気合充分。これは期待出来そうだ。
そう思い、期待しながら試合開始直後の攻防を見ていたら…いきなりカストロのインローが
郷野の金的を直撃! もんどり打って倒れる郷野。カストロにはレッドカードが出される。
兎に角、苦しがり方が尋常ではない郷野。観客席からは「カストロ、謝れー」という野次が
跳ぶ。いや、謝って済む問題でもないとは思うのだが(笑)。場内に「これは無理だろーな」
という空気が漂い出した頃、「過換気症候群云々」というドクターの説明が入り試合終了。
「カストロ、悪くないぞー」という野次が跳ぶ。いや、確かに故意ではないし、悪くはないと
思うのだけれども…うーん、残念としか言いようがないな。

自分が知る限り、PANCRASE史上最大最悪最激最重の金的が発生したこの試合。両国という
大舞台で、強豪相手に勝利し地上波放送をGETし、「郷野聡寛ここにあり」を満天下に示す
好機だったはずなのだが、幸運の女神の前髪を掴み損ねたどころか逆に嫌われて、ヒジテツ
喰らってしまったと云う感じであろうか。いや、この場合はヒジテツではなく金的か……。
失礼、不謹慎な文章はこのくらいにして、今は郷野の回復と再起を祈りたい。


第5試合 キャッチレスリング5分2ラウンド
鈴木みのる(パンクラスMISSION、96.8kg)
vs.
飯塚高史(新日本プロレス、92.7kg)

○鈴木(3R判定3-0)飯塚●

かつて長州力はこんなような事を言っっていた。「ヒクソンなんて飯塚で充分」と。
(格通のツアーで?)サンボ留学を経験したり、(どさくさに紛れて?)村上を病院送り
にしたりと、一部でシュート幻想の残滓を残している感があるような、ないような飯塚。
その飯塚がPANCRASEのリングに登場し、鈴木みのるとのキャッチレスリングに挑む!
と、個人的に強引に観戦のモティベーションを高めようとしてみたものの
やはり無理であった(笑)。

1R。手の取り合いからスタート。組み手争いに終始する。

2R。みのる、足関狙いや、腹固め、チョークと一本を取りにいくが極まらず。会場の空気も
散漫になっていく。まあ、試合を支配していたのはみのるだし、判定勝ちは当然だが、それは
どうでもイイと言えばどうでもイイと言うか……。

しかし、これだけでは終わらない。ここからが、みのる劇場の真骨頂。マイクを手に取ると、
「全世界の格闘家、プロレスラー、これがパンクラスだ!」と絶叫。さらにリングサイドに
座るライガーに対して、「お前なんかいつだってブっ殺してやる!」と痛烈な挑発。
ウーン、激情に溢れた劇場というか、個人的には面白いのだが、試合内容を鑑みると
もう少し謙虚かつ殊勝になっても良いのではないかとも思ったりして。この先、新日が
どのようなブックをみのるの為に用意するのかは分からないが、「U.W.F vs. 柔道」の
第二弾ということで、「人気俳優、坂口憲二の父」との死合なんて見たいんだが、しかし
それは現新日主演男優・高山の役になるようで…ウーンウーン。


休憩後、まずは佐藤ヒカルによるサミーの新パチスロ台の紹介。この喋りの巧さなら
引退後も職に困ることはないだろう(笑)。パチスロには全く興味ない僕ではあるが
兎に角「有り得ない」パチスロであることを強調していたことは覚えている。まあ
「ハイブリッド・スロット」ということでいいのではないだろうか(適当)。

次に、船木による挨拶。「完全実力主義でやってきた」「毎回ふたを開けてみないと
どんな大会になるか分からない」「菊田、国奥、近藤の3選手には世界に出てもらいたい」
「シビアに見て悪い所は悪いと言って欲しい」などなど、多分こんなようなことを
言っていたものと記憶している。インターミッションも終わり、客席に緊張感が戻ってくる。


第6試合 ミドル級5分3ラウンド
國奥麒樹真(パンクラスism、81.3kg)
vs.
クラウスレイ・グレイシー(ハウフ・グレイシー柔術アカデミー、81.3kg)

○クラウスレイ(3R判定3-0)國奥●

クラウスレイは、ホドリゴの従兄弟らしい。まあ初VTではあるし、國奥が不覚を取る
ことはないだろうと思っていた。しかし、クラウスレイのポテンシャルは想像以上だった。

1R開始。スタンド打撃はほぼ互角。クラウスレイの打撃は悪くない。むしろ、良いと
すら思える。先にテイクダウンを奪ったのはクラウスレイ。イノキ−アリからボディを
踏みつけていくなど獰猛な一面も見せてイイ感じ。さらに、ハーフから一気にサイドまで。

2Rも打撃戦からスタート。打撃では國奥に一日の長があるはずなのだが、クラウスレイの
当て勘が思っていた以上に良く、國奥はイニシアチブを握れない。クラウスレイのパンチが
的確にヒットし國奥、グラ付く。クラウスレイ、即座に押し倒すと一挙にマウントまで。
以後は、一方的な展開。クラウスレイ、かなり長い時間マウントをキープし
パンチを落とし続ける。

3Rも、打撃戦から。クラウスレイのフックで、國奥カット。ドクターチェックが入る。
かなり流血は激しいように見えたが、試合再開。以後も打撃戦。ポイントでは劣勢の國奥、
果敢に打ち合いを挑んでいくが、クラウスレイも引かず。

クラウスレイのポテンシャルの高さも見れたし、國奥も最後まで喰らい付いていったため
個人的には面白い試合になったと思う。今回は、勝ったクラウスレイを称賛すべき試合だろう。
初VTとは思えない程、全局面で完成度の高さを見せていた。”グレイシー”なる言葉に
単なる記号以上の内在的価値が残存しているとするならば、彼とホドリゴが今後のグレイシーを
牽引していくだろう。是非またPANCRASEに出場し、ネイトらと共にミドル級タイトルの価値を
高めていって欲しい逸材だが、仮に彼がPRIDE武士道などに新たな闘いの場を求めたとしても
僕は応援していこうと思う。


セミファイナル ライトヘビー級5分3ラウンド
菊田早苗(パンクラスGRABAKA、89.6kg)
vs.
エルヴィス・シノシック(マチャドブラジリアン柔術、89.4kg)

○菊田(3R判定3-0)シノシック●

どうやらUFC出場に照準を定めた様子の菊田。シノシックはUFCでは良い結果を残すことは
出来なかったが、それでも常連選手であったという事実は厳然と存在しており、UFC進出の
前哨戦として、菊田にとっては結果のみならず内容も問われる試合であったと思う。菊田も
それを自覚した上での、”一本勝ち宣言”であったのだろう。

1R開始早々、ミドルキックを放っていくシノシック。が、菊田はこれを見逃さず、蹴り足を
キャッチしテイクダウン。菊田、ハーフ→サイド→マウントと、素早くパスしていく。パス
する度に、会場大盛り上がり。さらに、マウントからパンチを落とす度に、会場から大歓声。
うーん、やっぱり人気あるなあ。マウントから執拗に肩固めを狙っていく菊田。正直、
シノシックは凌ぐのが精一杯といった様子。うーん、やっぱり菊田、巧い。

2R。打撃で活路を見出したいシノシックは、パンチで攻め立てるも、テイクダウンを
奪うのはやっぱり菊田。グラウンドでシノシックをコントロールし、仕掛けを潰していく。
菊田、ハーフからストレートアームバー狙い。やはり戦前の公言通り、一本を狙う意思が
強い。このラウンドも、菊田が圧倒。うーん、やっぱり菊田、強い。

3R開始。シノシック、不用意にキックを放つも、蹴り足に合わせたタックルで菊田にテイク
ダウンされてしまう。パウンドを落とすと、ストレートアームバーからアームロック、さらに
またストレートアームバーと、シノシックの腕関節に狙いを絞って攻撃していく。結局、
極めることは出来なかったものの、菊田の完封勝利。うーん、やっぱり菊田、巧いし強い。

一本は取れなかったので公約達成とまではいけなかった菊田ではあるが、卓越したコントロール
能力に加え、最後まで積極的に一本を狙う姿勢も見せ、トータルでその存在感を充分にアピール
した試合内容であったと言えるだろう。今後彼がどのような道程を歩んでいくかは分からないが
まずは、アルメイダの挑戦を受けて欲しい。


メインイベント 無差別級KING OF PANCRASEタイトルマッチ5分3ラウンド
〜第10代 無差別級王者 決定戦〜
近藤有己(パンクラスism、86.9kg)
vs.
ジョシュ・バーネット(新日本プロレス、113.8kg)

○ジョシュ(3R3分26秒、チョークスリーパー)近藤●

前回シュルトと渋谷の間で無差別級タイトルマッチが行われて以降、約3年の月日が経過した。
その間、PANCRASEには大きな変化が発生したと思う。その変化は、決して長閑で緩慢な時間の
流れとやらに比したものではなく、急激なものであったと思う。細分化された階級制が導入され
外部のセミプロ選手を起用する機会も増えた。端的に言えば、PANCRASEは「真剣勝負のプロレス
団体」から、「競技としての総合格闘技の場」へと移行していったし、今もなおその移行の途上
にあるものだと思う。そうした情況において、ある意味時代に逆行しているとすら言える無差別
級回帰路線に関しては、俄かに肯んじ得ない点が多々あることは、確かである。しかし、現実に
PANCRASEは無差別級路線に回帰したし、この路線をこれからも進めていくのだろう。であれば
近藤が為すべきことは、26kgの体重差を克服して無差別級で闘うことの意義を我々に提示して
みせること。そして…そして、勝つこと。

1R。近藤は、機先を制すローキックを放つ。だがジョシュは素早く組み付くと、差し合いから
コーナーへと押しこんでいく。ヒザを打ち込んでいくジョシュに対し、近藤も至近距離からの
打撃で迎撃する。しかし、微動だにせずに打ち返してくるジョシュ。笑みすら浮かべている。
やはり、26kg差は絶対的に大きい、無謀な挑戦だったのだ。そんな思いが脳裏をよぎる。しかし
やはり近藤は近藤であった。ジュシュの巨体を突き放すと、真っ向からの打撃勝負! 的確な
パンチをヒットさせていく近藤に対し、ジョシュ、さほど効いてる訳でもないのであろうが
打ち合いを避け距離を詰めコーナーに押し込んでいく。26kg重い相手、しかも単なる木偶の坊
ではなくヘビー級で五本の指に入る評価を受けているジョシュ・バーネット相手に、何ら小細工
を弄する訳でもなく、真っ向から打ち合いに行くのである。この男に、恐怖や絶望という概念は
ないのか? もしかして、これが”不動心”ってヤツ?…なんてね。

2R。ジョシュはテイクダウン狙いに戦略を切り替えてくる。近藤、タックルは切るものの、
差されてサバ折り気味にテイクダウンされてしまう。ジョシュ、いとも簡単にマウントを
奪うと、そこから重いパンチを連打していく。この体重差の相手にこの戦法を取られると、
ちょっとどうしようもない。一度は何とか立ち上がりマウントから脱出するものの
再度テイクダウンされ、再びマウントパンチの雨を浴びる近藤。
絶望感が、国技館の空気を支配する。

3R。近藤、やはり打撃は当てていけるのだが、当然決定的な一撃など放てるはずもなく
またもあっさりと倒されてしまう。何とか立ち上がった近藤だが、ジョシュ、バックに
回ると、ジャーマンスープレックス一閃! しかも、起き上がりざまにもう一発ジャーマン
ときたもんだから、驚愕である。特に二発目は、自分が見ていた位置からはかなり危険な
角度で落とされたように見受けられ、さすがにこれは効いたかと思ったのだが、何事も
なかったように起き上がってパンチを放っていく近藤に、場内唖然騒然。ジャーマンよりも
近藤の不死身っぷりの方が驚愕である。しかし、ジョシュは再度テイクダウンを奪うと
またしてもパンチの雨。近藤が後ろを向いた隙を逃さず、チョークスリーパー。がっちり
入って、試合終了。ジョシュの存在が、近藤の存在を凌駕した瞬間だった。

見事戴冠を果したジョシュ、感極まって涙を流す。その涙の理由は、師匠マット・ヒューム
のルーツであるPANCRASEのリングでベルトを獲得した喜びであるかもしれないし、UFCを追われ
長いサスペンド期間と新日でのプロレスラーデビューを経て、ついにリアルファイトの表舞台に
返ってきた喜びであるかもしれないし、いずれにせよここまで感動されてしまうと、こっちも
感動するより他仕方ないというか、近藤が負けてベルト外部流出という事態であるにも関わらず
場内は不思議と大団円ムードになっていたように思える。願わくば、この第10代無差別級KOPが
今後タイトルの価値をさらに高めるべく精力的に試合をしていくことを願いたい。その舞台が
PANCRASEであっても、新日アルティメットクラッシュであっても、少なくとも自分にとっては
場は何処であろうとも関係ない。


判定決着が多かったものの、全体的にはまずまず良い試合もあり(郷野のアクシデントは残念
だったが)、セミの菊田の技術、そして何よりメインの素晴らしい試合も見れて、満足出来る
興行であった。特にメインは、過去の菊田×美濃輪、菊田×近藤を超える試合で自分が見た中では
PANCRASE史上のベストバウトであった。良くも悪くも、PANCRASEの「現在地」を目撃することが
出来た。ここで、この観戦記にひとまずは終了を与えても良いのだが、しかし…。


さて、近藤である。この日のMVPを一人提示せよと問われれば、文句なしに近藤と答えるであろう
自分がいる。しかし、ではこの敗北に価値はあるのか、ベルト流出の責は存在しないのかと
問われれば、俄かには肯んじ得ない自分もいる。近藤は負けた。それはもう、端的な現実だ。
そんな端的な現実を無視して近藤を賞賛することに関して、幾許かの弁解が許されるとする
ならば、試合前の評価と試合内容との間の差異、この差異こそが近藤に対する称賛を
生産しているのであろう。

僕は、矛盾しているかもしれない。いや、矛盾しているのだ。しかし、自分が近藤有己という
人間の試合に、近藤有己という存在の強度に、感動を、あるいはもっとクサい言葉を用いれば
「明日また生きる」勇気を与えられたことは、大袈裟ではあるかもしれないがもう否定しよう
がない事実なのだ。それは例えば、R.E.M.のマイケル・スタイプが「僕は怖くない」と
唄うのを聴いた時に感じる感情にも似ていて…何か、巧く言葉では表現仕切れないや。
僕は、「自分にエナメルを塗ろうとしない」近藤が好きだ。
素のまままで、強烈に闘う近藤が好きだ。
もう、それだけ。


日本橋ヨヲコの漫画『G戦場ヘヴンズドア』第二巻の帯文に
土田世紀がこんな言葉を捧げている。

「昨日、海辺で小便をしてる時、水平線に大きな虹を見つけ、ワシは思わず泣きました。
じつにデカイものとはちっぽけなものの悲しみを吸い取ってしまう作用があるんじゃ
なぁだらーか。ヨヲコちゃん、虹のように!」

今、僕は、声を大にしてこう言いたい気分だ。

「近藤有己、虹のように!」




本稿の著作権はすべてKANSENKI.NET及び「書き手」に帰属します。

戻る
TOPへ