OH砲vs武藤&川田
■団体:ZERO-ONE
■日時:2003年7月6日
■会場:両国国技館
■書き手:夏 (ex:「It's Just Another ORDINARY DAY」

ゼロワンのライブは初観戦。それに両国国技館も、それこそ高田vsバービック戦(91年)以来かもし
れないくらいに久しぶりだ。
お目当てはもちろん川田利明と小川直也の初遭遇。川田利明というプロレスラーは高山戦、オブライ
ト戦、健介戦とこの手の初遭遇ものにめっぽう強い印象がある。小川と対戦する全日本系プロレスラ
ーとしては三沢光晴に先を越されてしまったけれども(あ、その前に天龍がいたか)、川田ならまた
違った刺激を見せてくれるだろうという期待はほぼ確信に近い。三沢が柔和に見えて実はかなり我が
強く自身の良さを殺す展開には殆ど持っていかないのに対して、わがままで人付き合いの苦手そうな
川田のほうがいざ試合となるとお互いの持ち味を活かした攻防をつくることが多いのは、なんだかプ
ロレスの不思議な部分の一つにも思えてくる。口下手なのかアピール不足なのかなかなかクローズアッ
プされない川田のプロレス観を誰か一度じっくり聞いてみて欲しいな。まあ、そのためには名を残し
てこそ、だけれども。
と、この日のメイン、OH砲vs武藤&川田をとても楽しみにしていたところに、橋本真也の右ひざ負傷
のニュースが飛び込んできた。あまりといえばあまりなタイミングなだけに、一瞬その真偽を疑って
しまったが、車イスにのる橋本の記事を見るかぎりどうやらホントらしいと感じる。正直、久々の大
物日本人初対決に水を差された気がしてガッカリ。だが、ふと思いなおした。これはかつて怪我や病
気、その他もろもろのバッド・コンディションでもタイトルマッチやビッグマッチに出場し続けたア
ントニオ猪木の姿へのオマージュが見れるかもしれない、と。対戦相手の武藤もその両ひざがボロボ
ロなことは既に個性にすらなっているし、川田もひざの故障による長期欠場から復帰したばかりだ。
なるほど今回の試合のテーマは怪我なのか。どうしても真っ向勝負が当たり前といった風潮が強い日
本のマット界だが、実はプロレスは怪我や故障をポイントにした勝負のほうが多いのかもしれない。
プロレスと格闘技とを隔てる見方の一つに怪我や故障という部分への解釈もあるのではないだろうか。

メインに至る8試合にも様々な趣向がこらしてあって(PPVがあるという事情もあるし)、興味深い見
所もあるにはあったが、やはりいざメインとなると会場の空気が一変する。
川田、武藤、小川の順に入場。それぞれに爆発的な歓声があがる。しかし橋本のテーマ曲がかかると
更にその歓声の調子が跳ね上がる。そういえばここは橋本のホームリングだ。ここ数年でも様々な分
裂、移籍が繰り返され、更には対抗戦も日常化し過ぎているので、ホームリングという感覚を忘れて
いたが、このゼロワンは紛れも無く破壊王のホームリングだった。否応なく、今、自分が単なるイベ
ント参加なんかじゃなくてプロレス観戦をしていることに気づき、ゾクッと興奮する。あえて言葉で
説明することを試みると、興奮と緊張に殺気と華やかさが重なり、過去の歴史を踏まえた必然と個人
の思い入れが錯綜、そしてなによりこれから繰り広げられるであろう激闘への期待感が満ちる興奮。
これがK-1やPRIDEでも似た感じはするがそこにあるのは何よりも勝負なので、緊張感こそプロレスに
勝るがどこか覚めた興奮になってしまう。逆に日本でのエンターティメント系プロレスでもその後の
攻防が約束されている安堵感が先にたつためか期待感が膨れ上がるというところに至らない場合が多
い。この辺りの感覚、プレイヤーや関係者からでない観客席からの日本のプロレスの解明はできない
ものなのだろうか。

橋本は右足を引きずりながらの入場。コーナーに立ったままとか、途中で退場とか、様々なパターン
の試合展開がアタマをよぎる。当然ここは小川が橋本をいたわるなんらかのアクションをおこし会場
の期待を一身に背負うというムードをつくるかと思われたが、暴走王に月並みなヒーロー像は似合わ
ないという判断なのか単に小川にそういう能力が無いだけなのか実に淡々とした佇まいのままゴング
を待っている。対戦相手の武藤と川田も特に橋本の足に対するアクションは起こさない。誰の目にも
明らかなほどに橋本の右足は壊れているのに誰もそこに注目しない、ということは、このまま普通の
試合らしくはじまってバチバチと普通に攻防をするのだろうか。なるほどその場合観客はただ一人万
全でない橋本の一挙手一投足へ集中することを余儀なくされるだろう。やはり主役は橋本だ。

先発は小川と川田。初遭遇の組み合わせに場内のボルテージが上がる。ゴング。初接触にこそ多少の
時間をかけるが2人の攻防は実にスムーズ。川田がアマレス風の動きでバックをとれば小川はマウン
トの体勢へと持ち込む。マウントを切り返す川田。川田の初遭遇ものへの強さとはこの辺りに見られ
る相手の流儀への抵抗感の少なさかもしれない。日頃からパンチ、キック主体のファイトスタイルで
、曰く「プロレスは技じゃない」そうなので、未知のスタイルへ順応させることが容易であるととも
に、何をやってもさまにならない己を逆に活かした「なんでもやってみよう」的な動きを恥ずかしげ
もなくやってしまう強さなのか。これは師、天龍にも通じるところだな。

そして橋本と武藤。武藤の狙いは橋本の右ひざ一筋。2階席からはどこまでハイっているか確認でき
ないが、それでも充分に説得力のある攻撃方法を武藤が選ぶため場内からは悲鳴があがる。もうここ
からは破壊王タイム、橋本の「俺だけ見てりゃいいんだ」的展開。キチンと立てない橋本は川田との
張り手合戦などもロープを掴んだまま行う。どうなんだろう。ここら辺はテレビ等で見れば単に滑稽
な感じに見えるのかもしれない。ごく正常に考えれば満足に立てない者が闘いをできるはずは無いの
だから。しかしこれはプロレス。武藤、川田の緩急つけたひざ攻めといちいち起こる客席の悲鳴と怒
号の渦の中に入ればアタマは正常な判断力を拒否しリング上を凝視してしまう。プロレスはこの熱狂
をつくるためにあるのかな、なんて考える。熱狂のもとはなんだっていいのかもしれない。ただし、
それは熱狂するに足りうる何か、デブがリングの上で壊れたひざを痛めつけられて悶絶している光景
を熱狂に転換する何か、でなくてはならない。なんだか、答えは見えているのにそこに辿りつけない
もどかしさがプロレスにはあるような。

この日の破壊王プロレスはかなり惜しいところまで行けたと思う。いくつかの詰めの甘さが無ければ
完璧だった。まずラストシーンのカタチ。橋本のひざ固めでフィニッシュはいいとしても、あのカタ
チはやはりいただけなかった。川田のハイキックを手刀でたたき落とした際に肩を脱臼したことが影
響しているのだとは思うが、だったらもう少しカタチを変えて橋本の体重を川田に乗せるような足首
固めだとか左手一本でひざを持ち上げてウリャーとか、ま、無理は承知ですが、もう一つリアリティ
が欲しかったかな、と。そしてタオル投入の渕もいかにも唐突に表れた感じで場内の注目を充分に集
めたとはいい難かった。試合途中にもう少し複線をひいておくか、さもなきゃ小芝居せずにエプロン
下からサクっとタオル投入(投げたのはどっちのセコンドか?的な要素が生まれるかもしれないし)
したほうが良かった。そして破壊王の奇跡の逆転勝利を際立たせるためにはもう少し小川が攻め込ま
れる展開でも良かったかなと思う。

もちろん綻びがあったってそれを上回るパワーがあれば成功は成功なので、これらはあくまでも個人
的な不満というだけです。あれで満足したお客さんもいるだろうし、三沢vs小橋には無かったプロレ
ス要素がたっぷりで今年のプロレスの中でも上かなり位にランクされる充実した一戦だったと思います。

【おまけ】
良かったプロレスラー
■石狩太一 無闇にスポットをあてたりせずにじっくりネチネチと日陰で育てたい素材。
■トム・ハワード ポスト・ヴォルク・ハンとしてもう一発なにか欲しいところ。
■CW・アンダーソン コリノよりいいかも。大成しない感じが実にいい。
■小島聡 カード的にはカシンの脇でちょっと損な役回り。でも決めのラリアットで存在感示すあた
りはホント成長著しいとは思う。あとは、、、いつ「いっちゃうぞ」をやめるかですねえ。
■小笠原和彦(を応援していた子供たち) 「先生がんばれーっ」が最高でした。また聞きたい。

良くなかったプロレスラー
■大谷晋二郎 この日は思いやりプロレスでした。悪いけどこういう役をやる大谷はもう飽きたなあ。
■第1試合〜第3試合に出てた人たち(荒川、ハワード除く) ぼくが古いタイプのプロレスファンな
ことは自覚しているけど第1試合から同じ技が立て続けに出るプロレスはやっぱ嫌です。それで盛り
上がるんならともかく、ただ時間を埋めるために技を出すのはホント萎える。前座が見せるは個性と
根性だけで充分。そしてキチンとプロレスの型をやって場内をあたためて欲しい。




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