箱舟は、ひとつの果てへとたどり着き
■団体:NOAH
■日時:2003年3月1日
■会場:日本武道館
■書き手:テック

三沢光晴vs小橋建太 このカードが武道館のチケットを発売数日で完売させ、追加席をさらに売り切れにさせた。実際、会場内にはふだん設置されない場所にまで席が用意されていた。「三沢・蝶野vs小橋・田上」というカードをもその通過点とし、ついにこの日は来た。

第1試合 20分1本勝負
ラッシャー木村 百田光雄 vs 永源遙 川畑輝鎮

正直、俺もこの辺は食傷気味。わざと試合開始から十数分遅れていくことも多くなったしなぁ。

○百田(8分47秒 逆さ押さえ込み)川畑●


第2試合 30分1本勝負
ドノバン・モーガン マイケル・モデスト 田上明 vs 鈴木鼓太郎 菊地毅 佐野巧真

鼓太郎は良い。相手の背後から馬とびで越えてのフェイスクラッシャーとか、きりもみ式のプランチャ(トルジーニョ)とか、持ち技が豊富で、キチンとこなす。いざとなったらケビンマスクにだってなれるし、未来ある若者です。

○モデスト(15分46秒 リアイリティチェック→片エビ固め)鼓太郎●


第3試合 30分1本勝負
金丸義信 橋 誠 vs 丸藤正道 KENTA

KENTAはゼロワンでブーイングにまみれ、ディファカップで団体を背負う役回りをまかされたことによってずいぶん成長したと思う。どこか吹っ切れた。ふてぶてしさに磨きがかかり、蹴りも遠慮なくガシガシいって、見栄えがいい。選手が成長する姿を観るのは非常に気持ちがいいです。もともとマスクがいいから女性ファンが多いし。丸藤が大安定で、金丸が悪役が上手くて、鼓太郎もスクスク伸びてきて、そのうちNOAHがジュニア団体になっちゃう日がくるんじゃないかと思っている人は少なくない。

●橋(16分35秒 変形回転エビ固め)丸藤○


第4試合 20分1本勝負
森嶋 猛 力皇 猛 池田大輔 vs バイソン・スミス スーパースター・スティーブ IZU

大きい選手がどっかんどっかんやってて、まぁ、それなりに迫力がある試合ではあるが、それ以上のものでもなし。力皇は次のシリーズあたりを高山とのNWFの抗争でまかされるんだと思うんだが、大丈夫なんだろか。その気合の片鱗さえ見えなかった。

○池田(12分39秒 ショートレンジ大ちゃんボンバー→体固め)スティーブ●


第5試合 30分1本勝負
小川良成 vs スコーピオ

いや、本気でスコーピオにこの先、それなりの大役を任せるつもりなんだろうか。序盤小川が攻めまくって、パンチをガシガシ当ててたらマサ斉藤ばりにそれをパワーに変えて立ち上がり、アクロバティックなとび技3連発で速攻フィニッシュ。試合はスッキリ終わったが、その後、勝利を称える振りをした小川がスコーピオに殴りかかり、なだれ込むモーガン、モデストもKOし、バイソンのクローを金的攻撃で逃れ、花道で尻をペロンと出して逃げる。それをムキーって顔で追うモーガン、普通に追うモデスト、バイソンはちんぽ押さえながらの三段オチ。ここまでで終わってよかったのになんか戻ってきて、スコーピオを中心に新軍団決起のポーズ。まぁ、上の方で使ってあげるかは分からんが、はじめっからこんな路線なんだな。ここのところ良く思うが、NOAHはゼロワンみたいなことをしたい模様。

○スコーピオ(6分20秒 450スプラッシュ→エビ固め)小川●


第6試合 30分1本勝負
高山善廣 vs 井上雅央

なんの為に組んだんだかわからんが、高山に盛り上げてもらおうってんならもうちょっと相手を考えてあげてもいいだろうに。雅央はインサイドワークに長けてはいるが、いざ、大きな相手に「攻めていいよ」ってされると、ほとんど技が出なくなってしまうくらいに見せ手が少ない。こういう人も必要だが、やはりここで使われる意味は分からない。ラリアット三連発で倒れてあげる高山の、なんとも優しいことか。

○高山(7分02秒 高角度原爆固め)雅央●


セミファイナル 45分1本勝負
斎藤彰俊 秋山 準 vs 杉浦 貴 本田多聞

ハロウィン興行でデビューした、秋山版ムタ、と言えば分かりやすいキャラの「SHURA」が入場するが、これは偽者で、秋山本人は背後から現れて相手を騙し討つ。この日、秋山がアックスボンバーを見せたというのに当の大森は、裏のWJでなにもしなかったらしい。炎武連夢を呼んだりと積極的に外を意識し、大森の件も必要以上にコメントを入れてプロレス界をなんとか熱くしようとしている秋山と、最高最後のチャンスを無にした大森。箱舟から泥舟を選んだのも、なるべくしてなった結果なんだな。

○秋山(7分31秒 逆片エビ固め→レフェリーストップ )多聞●


メインイベント GHCヘビー級選手権試合 無制限1本
王者 三沢光晴 vs 挑戦者 小橋 建太

三沢光晴と小橋建太。このふたりの行なうシングルマッチは、常軌を逸したプロレスだ。この日も徹底的にお互いを攻めまくった。リングと同じ高さの花道から場外へ両者がなだれ込む三沢のタイガースープレックスや、ラリアット→垂直落下ブレーンバスター→バーニングハンマーの、有無を言わさぬフィニッシュなど、観ながら苦しささえ覚えた。これだけのことをやっているんだから、それを褒め称え、涙し、心奪われるファンがいて当然だし、そのファンと選手との関係に疑問を持ち、あれはやり過ぎではないか、と苦言を呈する人の気持ちも分かる。どちらにせよ、それだけ振り切った闘いであることに間違いはない。この試合と並ぶ凄みを持ったなにかは、そうそう見つからない。

彼らは時代と闘ったプロレスラーだ。全日大量離脱から超世代軍として決起し、K-1、PRIDEなど、ガチンコ・シュートの名の下に、より一層バイオレンスなものが求められるという大きな波が襲いかかって来た時も、高橋本などに揺らがされたプロレス界混迷の今も、三沢や小橋はそれらを凌駕すべく、1試合1試合をこれでもかと闘い抜いて来た。新日が総合選手を取り込みに走ったりエンタメ路線に切り替えたりし、猪木祭やW−1という迷いの象徴ともいえるイベントが行われる横で、愚直すぎるほど愚直に、自分たちの理想とする闘いを追い続けてきた。結果、全日、NOAHと移り行く中で、彼らは生き残った。ノアオタと呼ばれる熱狂的なファンを生み、武道館やホールやディファを満員にする団体であり続けるという結果で。しかも、ただ古いファンが残っているわけではなく、確実に若い層も開拓され、会場に足を運んでいる。この日も隣の女の子が連れに説明されながら観戦していて、最後は叫びながら応援するまでになっていた。

俺は彼らの試合を観ていると、純粋に応援する以外にやれることがなくなる。途中、必要以上にその身を傷つける姿に悲しみも覚える。しかしどちらにも勝者として勝ち名乗りを受けて欲しい願望が、さらに立ち上がることを欲求してしまう。そんなファンひとりひとりの持つ、熱狂、悲壮、懇願、歓喜、様々な気持ちがどろっと交わり、会場を狂乱の渦へと導く。そしてこの日、三沢vs小橋は、またひとつ、頂点を見せた。

ありがとう。もうそれしか言えない。

○小橋(33分28秒 バーニングハンマー → 体固め)三沢●

全日から流れたNOAHという団体は、これで一段落したと思う。これ以上四天王のブランドにおぶさっていては未来は見えない。三沢と小橋に残された時間は、この先それほどないはずだから。三沢vs小橋は彼らにしかできないし、彼ら以外が挑むべきものでもないから。これからは次代を担うレスラーが、この試合を越える何かを、自分たちのスタイルで追い求めなくてはならない。さぁ、新たな海を目指せ。




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