ドッグレッグにプロレスの原点をみた!気がする
■団体:ドッグレッグス
■日時:2002年9月20日
■会場:北沢タウンホール
■書き手:師匠
さてこのドッグレッグスという団体(以下DL)、既に固定ファンも付き下手なインディ団体よりはよっぽど観客動員力もあるらしいのですが、既にプロ格マニアにはかなりな知名度がある割には、案外実際に観たことのある人は少ないのではないのでしょうか。(実際、私も今回が初観戦である)という訳で、色々な意味で怖いもの観たさもあり、取り敢えず行って来ました。

ところでこのDLですが、その旗揚げは、1991年4月17日。なんと、新日本・全日本に次いで3番目に古いプロレス団体なんですね。興行ペースとして、都内で年4回、地方で年2回程の巡業を行っているそうです。今大会が行われたのは、この団体の都内での常設会場である北沢タウンホール。一般には「ミニシアター界の後楽園ホール」と呼ばれていますが、これが流石に演劇専用ホールだけあって、場内は綺麗だし、音響・照明とも抜群に設備が整っていて、しかも非常に観やすい。ディファなんかまるで比較になりません。

試合開始は17時となっていましたが、第0試合として、この団体の黎明期を支えたらしいサンボ慎太郎選手の試合が、6時50分より「第0試合」としてランナップされていました。でもサンボ選手って確か既に引退しているという話なのですが。


第0試合 サンボ慎太郎 VS 三村広人
定刻通りに1R開始。この辺は流石に老舗団体だけに運営もスムーズです。両者の障害は、共に脳性麻痺でしょうか。覚束ない足取りで近寄りあうと、おもむろにラリアット合戦。互いにひるむことなく、またもラリアットの相打ち。乱れ打ち。追いかけてはラリアット、逃げながらもラリアット。鬼ごっこでもしている様です。鬱陶しい鬼ごっこ。ところで、この団体はMCが場内にも実況されます。丁度学生プロレスの様で、試合中のレスラーの裏話や性癖等を面白可笑しく暴露して場内を暖めてくれます。それによると、三村選手は最近出会い系サイトに凝っているそうです。但し釣書が問題で、「ミムミムの性欲は凄いよ。受け止められるかな?!」等と大胆不敵な事を決めてくれます。2Rは一転、グラウンドの展開。サンボ選手、名前の由来もその天性のグラウンドテクニックから来るそうですが、最近ではより磨きを掛ける為、吉田道場や田道場へも出稽古を重ねているそう。結局、グラウンドでは圧倒的に優位なサンボが、最後はチョークスリーパーで勝利。

この頃からほぼ客席は満席状態。ちなみに場内はリングを挟み、ひな壇を正面に反対側が選手入場花道と壁一杯の超大型スクリーン。両サイドはリングサイドの椅子席が2列程といったとこ。200数十席程度でしょうか。このスクリーンがなかなかいい感じで、全ての席から非常に見やすく、リングの後方にある配置からも、視線をずらさずに実際の試合と映像を同時に観られました。このスクリーンでは、煽り映像の他に団体が誇る健常者レスラー、マチズモ神山が経営する日焼けサロンや無認可保育園の宣伝がひっきりなしに流れていました。

第1試合 アームボム藤原 VS 槍田覚
ところが藤原選手の対戦相手として実際に現われたのは、槍田ではなく「ナイスガイ」選手。なんでも槍田選手、ここへ来る途中、駅のエスカレーターから車椅子ごと転落し、そのまま病院直行となり、急遽ピンチヒッターとして抜擢されたそう。さすがDLのレスラー、会場に来るのも命がけであります。それにしてもナイスガイ選手、館長イシイならぬ北島代表が困ってるならと、二つ返事で土壇場での出場を引き受ける所など、まさに名前通りの好青年。試合の方ですが、藤原選手も脚の障害が重く、ナイスガイ選手に至っては車椅子から降りての戦いとなる為に、必然的にグラウンドの展開となりましたが、
コンディション不足が祟ってか、1Rで藤原が腕ひしぎ逆十字でナイスガイを退けました。

第2試合 ゴッドファーザー VS あらいぐまラジカル
50歳対46歳の壮年対決となるこの一戦。ただでさえ障害を抱えて、こんな事やってていいのでしょうか。脳性麻痺同士らしいのですが、恐らく症状は比較的軽く、試合が始まると、今までとは打って変わって目まぐるしい回転体。両者の技術の高さに場内から驚きの声が上がります。既にお分かりと思いますが、DLは「障害者プロレス」と銘打ってはおりますが、試合自体はMMA、いわゆる「ガチンコ」。つまり、DLは恐らく日本で唯一の「ガチンコ」プロレス団体という訳です。試合の方は、ポジショニングで終始優位に立ったゴッドファーザーが、1R40秒の秒殺で、ローリング袈裟固めで勝利。スタミナの面でも長引くと不利になるので、少しの隙も逃さず一気に攻め立てた感じでした。

第3試合 ドッグレッグス認定世界障害者プロレスミラクルヘビー級選手権試合 第6代障害王・愛人(ラ・マン) VS 挑戦者・E.T.
DLでは、勿論障害者でありながら健常者もびっくりの極めて高度な試合もありますが、当然、障害の度合いによっては試合の様相が大きく変わってきます。そんな重度な障害者の階級を、「ミラクルヘビー級」(試合が出来る事が既に奇跡という事でしょうか)とし、観客の性根を試すかの様な挑戦を付き付けてきます。王者の愛人選手は、重度脳性麻痺であり且つ(マジで)重度女装嗜好という、これまたこちらの許容量に敢然と挑戦してくるキャラ。セーラー服で入場する時から既に苦み走った親父顔がとろける様に嬉しそうです。しかも、リング上にてセーラー服を介助者に脱がして貰うと、その下には鮮やかなビキニ!対するE.T.選手、NASAからやって来たという触れ込みだけあって、確かに人類離れした風貌です。「おうち帰る…」と言い出さないかと心配しましたが、そのまま試合開始。異星格闘技戦の様相も呈した試合ですが、両コーナーに別れ(て置かれた)二人、じっくりと時間を掛けながら中央へと歩み…いや、這い寄ります。展開としては、E.T.が捕まえようとすると、愛人が多彩な蹴りを繰り出し、間合いの中に入らせないという形が試合終了まで延々と。ある意味これは見事なまでの「膠着」なのですが、両選手とも、身体能力の範囲内で出来る限りを尽くしているのが誰の目にも明らかなので、野次を飛ばす人は全くいませんでした。試合は、足数に勝った愛人が判定3−0でタイトルを防衛。

第4試合 膝立ちマッチ ウルフファング VS 虫けらゴロー
DLでは、下肢障害者と下肢健常者の間でも試合を行える為の手段として、「膝立ちマッチ」という試合方法が考案されています。これは、下肢健常者側が両脚を所謂「体育座り」状態にした上で、DL認定の拘束具で縛り付けて行うというもので、しかも、下肢健常者が下肢障害者より10キロ以上重い時は、下肢健常者はお尻と両足の裏をマットに付いた状態でしか打撃を行ってはならないというルールになっております。ウルフは下肢障害者ながらグラウンドからの鋭い蹴りが特長で、しかも、鍛え抜かれた上半身からの打撃の鋭さ及びその攻撃的な戦い方はまさにリングネームそのまま。対するゴローは、完全な健常者であるものの、元重度の引き篭もりで、精神面での大きなハンデを背負っている為、その上唯一優位な足まで封じられて絶対的に不利な状況。ちなみに両者は共に「みなしご学園」を作るのが夢で養護施設ボランティアの世界に入ったマチズモ神山選手が始めた人生落伍者受入所「マチズモ学園」の入所者で、「マチズモ同門対決」という因縁も興味の一つ。試合はひたすらOFGを付けたウルフのパンチとゴローの掌底のバチバチ。最初は気丈に打ち合っていたゴローだが、余りのウルフのパンチのラッシュに完全に戦意喪失。無常にもレフェリーストップが告げられました。

第5試合 ドッグレッグス認定世界障害者プロレスヘビー級選手権試合 第17代障害王・菓子パンマン VS 挑戦者・永野V明
王者菓子パンマンは、施設出身のみなしごキャラ。しかも知恵遅れの為に就職もままならないのだが、不幸にも障害者手帳を貰えるにはほんの僅かにIQが足りず…というか足りてしまい、特別保護も受けられなかったという哀れさ。彼もマチズモ学園出身。ちなみに試合前、彼にこの度障害者手帳は交付されることとなり、晴れて障害者となる事が出来ました。という報告がなされ、場内御祝いの拍手。ってこれ目出度い事なのだろうか。試合コスチュームとしては、繋がり眉毛をマジックでしっかりと補強し、裸に白いブリーフ1枚、唐草模様の風呂敷マントという微妙な出で立ち。対する永野は所謂U系のコスに身を包み、結構立居振舞といい、成りきっている様だ。選手コール時、菓子パンマンは前に突き出した両腕を組み、ぐるぐると回し出し、明らかにV.シウバを意識した動き。試合開始、菓子パンマン永野に近づくなり、掌底の連打連打。思わず四つん這いになった所を、その首を押さえつけて下からのキック!まさに桜庭戦のシウバを見てる様。たまらず亀になると、横四方からの膝!膝!文字通り秒殺での失神KOで菓子パンマン勝利。そのままマイクを持つと、ゴッドファーザ選手へ対戦要求。次期挑戦者はゴッドファーザに決まりか。

第6試合 ドッグレッグス認定初代膝立ち王座決定戦 鶴園誠 VS マチズモ神山
鶴園選手は、先天性下肢障害者。左脚は殆ど無く、右脚も細く力が入らない風。しかし、その上半身は見事な筋肉美。試合前にはその逞しい両腕のみでコーナーに上り、そのまま逆立ちまで披露する程の怪力。しかも、茶髪のイケメンで、クールなナルタイプ。常にポーズをとっているのが何とも。対する健常者レスラーの神山、趣味のボディビルで見事にパンプアップされた体に、自ら経営する日焼けサロンで丹念に焼き上げたボディ。男好きを公言する彼も、ある意味境界線上と言えなくもない。自ら主宰するマチズモ学園の面々による「マチズモトレイン」で入場。試合であるが、共にヘビー級の猛者である二人は、両者OFGを付け、高度な試合展開を予想させる。鶴園も上半身だけなら見事なヘビー級なのだが、下半身の体積がかなり少ない為に、全身筋肉美の神山との間に体重差が発生、体育座りのみ打撃OKルールで開始。試合は文字通り次々とポジションが入れ替わる見事な「回転体」。途中、腕力に勝る鶴園が神山をフロントチョークに捉えるが、神山もボディへのパンチ連打で脱出を試みる。すると、流れの中で神山の両足の裏がマットから離れたとみてレフェリーが警告。ところが、神山も鶴園がチョーク時に親指を喉に食い込ませる反則をしていたと猛抗議。ビデオの中では相当悪乗りしていた彼の、試合に掛ける意気込みが見て取れる。試合は結局3Rでは決着が付かず、延長で判定で神山が初代王座に。

第7試合 メインイベント 膝立ちマッチ アンチテーゼ北島 VS 高橋省吾
スキンヘッドの風貌の筋骨隆々たる健常者レスラー北島、DL代表にして、第20回講談社ノンフィクション大賞受賞作品「無敵のハンディキャップ」の著者。最近では、「弾むリング」でリング職人の拘り等を披露してくれた、頭の先までプロレス・格闘技に浸かった男。対する高橋は、下肢障害者であるものの、障害者腕相撲、ベンチプレス等の日本チャンピオンを歴任した猛者の中の猛者。両者体重差がない為、膝立ちながら北島の打撃は完全フリー。試合は、北島が多彩なパンチキックのコンビネーションやサブミッションで攻め立てるも、捕まると高橋の問答無用のパワーと体重で締め付けられる攻防。2Rになると明らかにスタミナの切れてきた北島が押さえ付けられる展開となり、最後は高橋の肩固めにより北島失神KO。試合後、北島選手としても引退を表明。体力・気力の限界だというか、普通のプロレス団体以上に、経営者兼レスラー(兼編集者兼作家)としても重圧は大きかったのではないか。まぁ、お疲れ様でした。


感想としては、MC・進行共にメジャーに引けをとらない。下手なインディなんか足元にも及ばないと言えば言い過ぎか。しかし、一番言いたいのはDLの興行としての完成度の事ではない。「障害者もやるじゃないか」「障害者も健常者もないな」なんて感想は嘘っぱちだ。愛すべき彼らにも、華やかなリング上を降りれば、障害者や介助者としての現実が待っている。リング上の脚光が華々しければ華々しい程、現実との落差も重くのしかかる。しかし、選手の一人は、ただでさえ障害のある体で、こんな危険な思いをして何故リングに上がるか尋ねられた時、むしろDLに出会う前の自分こそが死んでいたも同然であったと、試合上の不慮の事故で命を落とす可能性は健常者以上にあるかも知れなくても、リングに上がっている限り、自分は確かに生きている実感があるのだと言ったという。彼らには、我々健常者程に約束された明日がある訳ではない。今日動いた体が明日急に動かなくなるのではないか…という不安や恐怖と戦い続けているのだ。それでも、敢えて症状を悪化させかねないリングに、自ら進んで立ち向かうのである。

しかし、これこそプロレスではないだろうか。DLは、まさにプロレス(含む格闘技)そのものだ。

何故我々は、わざわざプロレスを観に行くのだろう。イベントとしての完成度なら、コンサートや演劇に遠く及ばない。スポーツとしての華やかさでは、野球やサッカーの敵ではない。しかし、我々はプロレスの向こう側に前述のそれらでは手に入らない、生々しい人間の欲望、嫉妬、怒り、殴り合って初めて芽生える絆「劇」を見たいのではないのか。何しろプロレス界はカネに関しても約束に関しても比類なきズボラな世界と聞く。彼らは一部を除けばメジャーのトップも含めてプロレス「しか出来ない」様な連中だろう。しかし、そんな連中の「オレにはこれしかないんだ」「この世界でオレはのし上がっていくんだ」という叫びを我々は自分の人生に重ね合わせる為に、何度裏切られてもまた観にいってしまうのだろう。その意味で、DLは我々にもう一度プロレスの素晴らしさ、かけがえの無さを思い出させてくれると思う。


ちなみに、次回興行は2003年1月18日(土)18:00、場所は同じく北沢タウンホールとの事。私は早くもチケットを買ったぞ。ZERO−ONE、PRIDE、DEEPが心から好きな人なら、間違いなく楽しめると思う。但し、それらと同様、所属選手の人となりはしっかり頭に叩き込んでおいた方が、より入り込んで楽しめることは言うまでもない。




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