ダイナマイツ!感想 −プロレスラーの勝利
■団体:Dynamite!
■日時:2002年8月28日
■会場:国立競技場
■書き手:生首

レジェンドに続く、変更に次ぐ変更と動員不安で、この道を行けばどうなるものか?と暗雲立ち込めていたダイナマイツ!だが、終わってみればプロレスラーたちのがんばりによって、予想以上の面白い興行になったのではないか。
あえて誤解を招くような「プロレスラー」という言葉を使ったのはもちろんドン・フライやサップのことではない(後で彼らのことは激賞するが)。そもそもプロスポーツとは、野球、ボクシング、サッカーすべて「ショー」でなければならぬ、と信じている。「ショー」として成り立つにはそれぞれのカテゴリーで、望まれる「演出」と、良い意味で期待を裏切る主催者の「演出」がぶつかり合って、最高の「作品」となる。つまりテレビ視聴者を含む観客を「エンターテイン」できるかどうかがプロの腕前と思っている。
ボクサーがセコンド乱入でレフリーのブラインド突いて勝ったり、野球選手が相手に対して「オマエのヘナチョコボールなんて全打席ホームラン打ってやるからな」と試合中マイクアピールすることは、「演出」として成り立たない。これらは観客・ファンの期待を「悪い」意味で裏切り、客をエンターテインしていないからだ。

プロレスファンであるがゆえに私が今回ここで「プロレスラー」と呼ぶ人々は、こうした観客心理と、プロとしての自己演出を両立できる、真のプロフェッショナルのことである。プライドでマイクアピールが連発され、一方的に負けたくせにマイクアピールする者など見ていると、全くプロと呼べるものではない。
今回のダイナマイツ!で私が絶賛したい人々は、ドン・フライ、レ・バンナ、ミルコ、サップである。この人たちはフライ以外もちろん本職プロレスラーではないが、(サップはWCWサンダーに一回出ただけらしいのでレスラーとは呼ばないことにする)そのすばらしい自己演出と試合運びは正にザ・プロレスラーと尊敬をこめて呼びたい。
フライ/バンナ戦については、当日出場が決まった(私はテレビ見るまでハントだと信じていた)バンナが、最悪コンディションにもめげず、最高パターンでオーバーでき、またフライもプロレスラーの負けっぷりとはこうゆうもんだ!という意地を見せつけてくれた、最高にかっこ良い負けぶりであった。
私はK−1があまり好きではないが、バンナとクロコップはプロレスラーとして尊敬している。二人が常に狙うのは「プロ」としての戦いであり、かたやもっともK−1らしい選手、ホーストなどは「勝つこと」だけを狙う。今回のホーストもそれが顕著に出ており、シュルトに押されるホーストを見、カタルシスを感じた。
「エンターテイン」は「勝つ」ことではないのだ。それをわかっているのがこの4人なのである。特にバンナはK−1の超新星と呼ばれながら、戦績がぱっとしない。当然である。常に客のエンターテインを狙うから、KOを狙う。結果としてガードが甘くなり、逆KOのリスクが極大化する。しかしポイントばかり狙って戦績が良いホーストの試合と比べ、どちらが客を楽しませることができるか。私は私自身、そしてマス・オーディエンスへのアピールでバンナ完勝と信じている。私はプロレスラーのミスター・パーフェクト・カート・ヘニングは大好きだ。「You are imperfect! I’m Mr Perfect!」と煽る演出。しっかりとしたレスリングセンスに裏打ちされた、安心して楽しめる試合運び、ケンカとなれば「次代の大物・NCAAレスリングチャンプ」にでさえも売ってしまう気の強さ、すべて「ミスター・パーフェクト」である。K−1のMr.Perfectはこの逆だ。

K−1を代表する人物、ミスターK−1はもはやミルコと言って良いだろう。もちろんプロレスハンターの称号もゆるぎないものである。これだけの成績を出せる人物は今、少なくとも世界には存在しない。ミルコを絶賛するのはもちろん、その戦績だけではない。すべての試合が「プロレスラー」として完璧に演出され、その狙い通りに実行できた真の実力からである。
落ち目とは言え、プロレスラー最後の砦とかつて呼ばれた桜庭を完全KO、藤田、永田をはじめとするプロレス軍団をすべて撃破という実績は事実上の「世界最強」を名乗る資格として比類ない実績と呼べるだろう。
最近は試合前のふてぶてしいコメントもランス・ストームばりに板についてきた。アンチ・アメリカンズに入ってほしいと思う。(クロアチア人じゃなくてセルビア人というギミックにすれば完璧!「オレは米軍の空爆でオフクロを殺された」妄想妄想)

ボブ・サップ、客の誰もを裏切るスパートぶり、忘れません。思わず原監督になってしまいそうなほど、感激した。一般的にあまりに体が大きいとパワーが出ない例が多いように思う。2m以上の身長で「パワーファイター」と呼べる者をあまり知らない。GG、ボブチャンチン、プロレスラーならクロニックのブライアン・クラークのような人たちをパワーファイターと呼びたい。ビッグショー、アンダーテイカー、ナッシュ、シッド・ビシャス等、みな巨大さゆえにパワーファイターの命であるラッシュができない。
こうした中、サップが見せたラッシュは「凄い」の一言だった。珍しく解説陣・館長や高田と意見がドンピシャで、ここまでサップが押し、ノゲイラが苦戦すると予想した人はいないだろう。力があればノゲイラの芸術品・関節さえもはねのけられることを示しただけでもサップはえらい。最後逆十字でノゲイラ勝利も、プロレス的にはオッケー牧場だ。

触れ忘れたが、GGもプロレスラーとして職人の域に達してると思う。もう結果が見えてるL・V・Dをいたぶるようにパンチ浴びせるRuthless Aggression はビンス・マクマンも大絶賛されることだろう。一方シウバは無駄撃ちされた感じ。極真選手との試合で今回出る必要があったのか、バンナ緊急出場と同じくらい、ギャラの無駄遣いではないだろうか。私はバンナ出てくれてうれしかったが、最初からバンナになってたらもっと盛り上がったのに。

一方でダメ出しはやはり全然期待してなかったホースト、試合後マイクアピールでスベリまくりのグレイシー・マイアミのバレンテ氏、通訳そしてマスコミは相変わらずダメダメ。
ホースとはもう述べたので省略し、灰色判定(少なくともテレビ見てる限りはTKO早すぎ)のホイス弁護のため、試合後マイクアピールを空気読まずに延々やったバレンテ氏は、「グレイシーはヒール」という役割を理解していないのだろうか。ポール・ヘイマン並に口が立つなら負けてのマイクアピールは全然否定しない。しかしプライドの負け選手や今回のバレンテ氏はその内容が全ダメ。吉田が思いのほか良かったのは認めるが、「あれで終わり」ってのはTBS的にありなのか?格闘技の専門家はともかく、マス・オーディエンスには後味悪さだけが残り、せっかくの吉田の勝利インタビューがだいなしになってしまう。
しかもルールでTKOなしとなってるとか、断片情報だけがブンまわり、「あのまま行けば(ホイスは)落ちてた」という吉田コメントが全然スイングしない。「落ちてた」じゃなくて、「落とす」のがオマエの仕事だろ!と客、特にテレビ前の私たちは思うだろう。グレイシーの抗議はそういった意味からも「有リ」だと思うが、日本の美徳がどうこうみたいなおべんちゃらは一切不要。ただ一言、「TKOなしのルールに反している、ノーコンテストだ、館長」とだけ言って館長にまわせばよし。ヘンゾといい、グレイシー一族最大の弱点は「コミュニケーション能力」と考える。天才・ポール・ヘイマンのように客をイラつかせるアオリ、あるいはフライのように言葉少なに「しゃべらない」のどちらかに収斂させないとプロ失格だろう。
私はホイスが紳士ぶりを示さず、猛抗議でセコンド殴りまくり、次々クローズラインまたはアンクルホールドでタップさせまくり、ガードが大人数で押さえつけ、エリオが「もう止めとけ、館長、ルールに反し納得できないので抗議する」とだけ言い残しホイスとともに会場を去る、というエンディングであってほしかった。

最後にマスコミ批判を。結局目玉の一つ「ホイス・吉田戦」が非常に後味悪く終わったことは間違いないのだから、吉田勝利絶賛はしらける。確かに初戦とは思えない試合運びだったが、微妙な判定で吉田勝ったということを明確にしないと、格闘技のうさんくささだけしか伝わらないだろう。こうゆう中途半端な「公平ぶりっこ」が一番エンターテインメントの敵である。そんなことは簡単に見破られてしまうからだ。プロの目から見て、あの結果が正しいなら、そのことをもっとわかりやすく伝えるのが主催者・実況者の絶対の義務である。
またゲストのゴールドバーグにいくら払ったか知らないが、全く受けない会場にやはりアメプロはマイナーであることを実感した。主催者は通訳の人にせめて世界的な大スター・GBのことくらい説明しておいてほしい。おいおい、ごーばーがリングに登場したんだよ。2年ぶりだよ。「次は誰だ」・・シーン。こんなもったいないことして、飽食日本(意味不明)、アメリカ人に怒られるよ。でもちゃんとセリフまわし考えてきてるGB、あんたは偉い。

一方のもう一人の高額ギャラテイカー・古館の実況だが、個人的に金の無駄と思う。一時期バカの一つ覚えのように「古館節」のサルまねしかできなかったスポーツ実況を、昔の冷静であろうとすればするほどかえって盛り上がるという、プライド/K−1のフジのアナウンサー・長坂氏などのように、王道に戻した優秀な実況を据えられなかったことは実に残念だ。
もちろんマス・オーディエンスにとって、古館の存在感は極めてわかりやすい「格闘技=プロレス=実況は古館」という記号であろう。しかしこんな使い古された記号をいまだに頼らなければならないということは、古館のプロレス実況をリアルタイムで知らない、記号情報だけで理解しているマスに、今の格闘技はこうゆうもんだ!とアピールできる絶好の機会を捨てたことになる。私は駅や街頭の無駄なアナウンスが大嫌いなので、古館節と呼ばれる不要な形容詞(もうかなり飽きてきているものが多い)は実況の邪魔としか感じない。まして本家・古館をサルまねするスポーツアナには軽蔑以外何も感じない。絶叫するのが盛り上がりというカン違いをフジが脱却してくれたことは心から喜ばしい。しかし他局は今のところ全然ダメだが。

全体を通して、私が尊敬をこめて「プロレスラー」と呼びたい4人を中心に、事前のグズグズぶりからははるかに予想を上回る内容だった言えるだろう。特にバンナ・フライ戦で立った鳥肌は試合後まで引くことはなかった。

タカハシさんの言葉を借りたい。館長、あなたと同時代に生きられて本当に幸せです。




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