南カリフォルニアのインディー最先端&最高峰は「ハイブリッド・ジャパニーズ・レスリング」
■団体:MPW (Millennium Pro Wrestling)
■日時:2001年11月3日
■会場:カリフォルニア州ウエストヒルズ バーナード・ミルケン・ジューイッシュ・コミュニティーセンター
■書き手:ひねリン(名前をクリックするとプロフィールの欄に飛びます)

--- 最初に ---
これをクリックはしたものの、あまりマイナー系に興味のない方や、長い観戦記を読むのがうざい方は、スクロールダウンして第五試合の「B-Boy vs スーパードラゴン」の部分だけ読んで下さい(これだけでも充分長いですが)。この観戦記は、ようするにその試合を報告したいがために書いているようなものです。日本の方に、こっちのインディーで最先端&最高レベルだとされているのはこういう試合なのだということを、それをさらに高めようとしている世界があるということを、ぜひ伝えたい。ま、その他の記述はおまけみたいなものです。
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昨日はUFCをテレビで観て「おー、おおー」と叫んでた俺、今日はMPW(Millennium Pro Wrestling)というインディーを観戦してきました。ていうか、これを読んでいる方でMPWと聞いて「ああ、MPWね。」なんてピンと来る人、何人いるんでしょうか??? それほどここは、インディー中のインディーです。今年の3月に旗揚げされたばかり。おそらくこの団体は、日本の雑誌等では一度も紹介されていないでしょう。

そもそも、ここを「団体」と呼んでいいのかどうかも微妙なところです。旗揚げ戦から数えてこれが4度目の興行なんですが、毎回毎回主力メンバーはこの南カリフォルニアの各インディー団体の名物選手達であって、このMPW所属の選手というのはあまり出てきません(いることはいるんだろうけど、まったくの無名なので無知な俺にはよく分からない)。つまりここは、こっちのインディーの名物選手達が集まる「場」といった感じのようです。そのぶん、UPWやレボリューションプロレスといったインディー団体のエース級選手が出ていて、さらにゲスト選手もいるので、コアなファンにはたまらない興行のようです。

今回の興行が行われたのは、ロスから北西に車で30分ほどの、West Hills という町にあるユダヤ人会館のホールでした。まあ市民会館みたいなものです。入ってみるとすごくきれいな建物で(入場料10ドル)、リングの回り四方を4、5列ほど、いいイスが設置されてました。7、8割埋って百二、三十人くらいかな。例によって一緒に観戦して教えていただいた方によると(毎回断りますが、俺が書く情報の多くは彼に教えて頂いてるものです)、客の半数以上が、こっちのインディーのどの興行にも顔を出してるようなマニア達だそうです。つまり、日本のプロレスとかにもむちゃくちゃ詳しいような連中です。でもそれだけでなく、子供連れの家族とか、おじさんおばさんとか、老若男女けっこう混じっていました。いちいち騒いで下ネタなヤジを飛ばしてないと気が済まないような連中ばかりの民度の低いXPWの客層(俺も英語がもっとできれば喜んでそこに加わるんですが)に比べれば、はるかにノーマルでほのぼのした雰囲気です。また、UPWやXPWの選手達の顔もちらほら客席に。

ま、そんなかんじで試合のレポートをしたいんですが、今回はとにかく第5試合の「B-Boy vs スーパードラゴン」を詳しく報告したい。他の試合についても書きたいことはいろいろあるけど、あんまり観戦記自体を長くするのも良くないので、思い切ってざーと流させていただきます。

最初の二試合でちょっとびっくりしたのは、レスラーのちっちゃさ。第一試合の二人は、ともに170センチ台で70キロ前後。17。8才かな。二人ともプロレスラーというより、修斗BクラスかKOTCのウエルター級の若手選手に見える。また、第二試合に出てきたマスクマンのライジングサンは、「熊本出身」と紹介されるアメリカ人。ハヤブサが朝日新聞の模様を全身にまとったみたいな風体。この人は最高に小さく細い。柔術大会に出てきたら、俺と同じペナ級(67キロ以下)か、それより一つ下ですね。試合は二試合とも、軽量級らしく良く飛ぶいい試合。

この試合後、特別ゲストとして出場が予告されていたヴァンピーロ(WCWでのムタのパートナー)が呼ばれてインタビューを受ける。WCWでは怪奇派というかメタル系キャラだったけど、ここでは完全にブレット・ハート系のかっこいいおやじキャラになってる。ただずまいもしゃべりかたもほとんどヒットマン。その後、今日のヴァンピーロの相手として、元XPWのエース、メサイア(XPWの社長の奥さんと浮気して首になったらしい)が登場。マイクでがなりあって、試合はあとのお楽しみ、ということに。

第三試合は、ちょっと大きい選手のアメリカンスタイルなラフファイト。途中でボディースラム失敗。マニア達が「Textbook(教科書通りだぜ!)」と皮肉ったり「受け身の基本からやり直せ!」とヤジを飛ばしたりする。第四試合はUPWのハードコアキッド vs インディー名物男キング・ファビアーノの大型対決。WWFとのディールを持ってたハードコアより、全然重いファビーの方が断然バンプが早く豪快。観客のファビーコールに乗って、つねにスペイン語?や、「さのばびっち」と変な発音の英語で話しながら試合をして人気独占。でも試合はハードコアがロックボトムみたいので勝利。

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そして第五試合。B-BOY vs スーパー・ドラゴン。

そもそも俺がこの興行を観に行ったのは、ひとえにこの試合があったからに尽きます。この二人の一騎打ちは、こっちのインディー界の誇る最高レベルの試合として、現在進行形で進化を続ける名勝負数え唄になりはじめているカードなんです。B-BOYは過去の観戦記でも書いたとおり、試合運びが抜群にうまいUPWクルーザー級チャンピオン。対するスーパー・ドラゴンは、こっちのインディー団体レボリューションプロレス(略してレボプロ)のエース。レボプロというのは、実は俺はまだ一度も観たことないんですが、こっちの新日やルチャのマニア(おたく)が作ったジュニアヘビーに特化した団体で、とにかく海外のヴィデオを観まくっては真似て、ハイスポットを連発する試合をするそうです。そのトップがドラゴンです。風貌としては、B-BOYはフィリピン系で、がっちりした体に長くなびくモヒカンヘア。ドラゴンのほうは、なんというかハヤブサ系のマスクマンです。二人は、前回のレボプロのトーナメントの決勝戦でも当たり、某インディーマニアサイトでは、南カリフォルニアのその月の最高試合にぶっちぎりで認定されています(このときはドラゴンが勝利)。

試合は静かに始まりました。基本的なアームドラッグ→アームロック。かにばさみからのレッグロッグ。アキレス腱固め→それを返してのインディアンデスロック、首投げ→けさ固め→ヘッドジザースで切り返す→ヘッドスプリングで脱出等の攻防をじっくり。つまり、新日のジュニア等でもよくある、グラウンドでの技の切り返し合いです。つうか、もろに新日ジュニアを真似ていること、モロ分かりの攻防です。ドラゴンはライガーの吊り天井→下ろしてドラゴンスリーパーの連携も見せる。まあ真似なんですが、別にぎこちないわけではなく、けっこうサマになっています。だいたい、こういう攻防ってのはアメリカではめったに見られません(WWFではもちろん、インディーでも)。ドラゴン等レボプロの選手たちも、今までは新日ジュニアの派手な空中戦等のハイスポットばかりを真似して、こういう序盤の寝技の攻防はそれほどやらなかったそうです。それをじっくり魅せたことで、今日も新たな進化を示したことになるのでしょう。

ただ、そのうちこの攻防は単なる新日ジュニアの真似ではないことが分かりました。グラウンド両者がくるくるまわって、B-BOYがガードポジションに。そうしたら、ドラゴンがなんと桜庭流に大きく手を広げてのモンゴリアンチョップ→パンチのコンビを連発。おお、こいつらはプライドのヴィデオも観てるのか!? と思ったら今度はB-BOYがそのドラゴンの腕を取って、やはりプライドでアレクがマイク・ボーグに極めたダブルアームバーの体勢に。おおおお! 間違いないですね。彼らは日本のプロレスだけでなく、格闘技のムーブもヴィデオで研究して取り入れているんですね。

その後試合はだんだん立ち技が増えてきて、ハイスポットの攻防になってゆくんですが、やはり新日等の日本のジュニアを見てればお馴染みの技が続きます。ドラゴンは大谷からインスピレーションを多く受けてる模様。大谷そのままのスワンダイブニールキックを決めたり、「ジャーマンを食らった後、すぐさま大谷流の気合いのガッツポーズで立ち上がり、なだれ込むようにダイビングラリアット」というオリジナルも決めて、場内に「スーパードラコン」コールを合唱させます。逆にB-BOYの主力武器は、ライガーをモデルにした掌打。やはりライガーそのままに走り込んで打ちもするし、飛んできた相手のボディーを掌打で迎撃というオリジナルも見せます。B-BOYが反撃するとドラゴンの宿敵ということで「ドラゴンスレイヤー」の合唱が涌き起こる。とにかくそういう日本流の大技を豪快かつスピーディーに仕掛け合い、切り返し合い、場内の熱狂に乗ってカウント2の攻防を繰り返す二人。(まあ「またジャパニーズムーブかよ!」みたいなマニアからのツッコミヤジもあったし、二人が日本流のムーブを連発することをあらかじめ分かってて「GAY Ass Jap Spots(=日本のスポットばかり使うオカマ野郎)」と書かれたプラカードを用意してたマニアもいたらしい。)

ただ、重ねて言うけど、二人は新日ジュニアだけを取り入れているのではありません。闘龍門のCIMAのアイコノクラスムをお互いに(エプロンから場外に)仕掛け合うシーンがあったり、旧全日の三沢の試合から取り入れたと思われる、エルボーと回転エルボーの打ち合いとスカシ合いがあったりもします。日本のプロレスの知識が足りない俺には見えなかったけど、他にも盗んだ技はあるでしょう。また、後半の試合の基調は、やみくもに日本スポットを繰り返すのではなく、一回一回力一杯のスポットを打って、カウント2で返しては両者倒れ、時間を取り、(ファンの声援を背に)死力を振り絞って立ち上がって次のスポットに続けるというもので、新日ジュニアよりも旧全日の三冠戦をモチーフにしてる感じでした。

つまりこの試合は、新日全日等のメジャーから、闘龍門などのインディー、はたまたプライドなどの格闘技系まで含めて、日本の各種団体の試合のヴィデオで見ては、その動きや流れを自在に盗用&アレンジし、ごたまぜにして詰め込みながら、総合としては二人のオリジナルな空間を作るという、ちょっと不思議な「ハイブリッド・ジャパニーズ・レスリング」とでも呼ぶべきものなのです。まあ技の盗用というのは世界中どこにでもあるだろうし(田中正志さんの『開戦!』でも、ECWの選手達が日本のプロレスの動きをヴィデオで常に学んでたことが書かれてますよね)、いまや新しいスポットというのは、どっかで開発されたすぐに世界に広まっちゃうものらしい。でも、ここまで盗用品がとめどもなく連らなって出てきて、そのほとんどが日本産というのは、ちょっと他には例をみないのではないでしょうか? でも俺はこういうスタイル、肯定します。若いんだし、固まるよりはどんどん実験的にいろんな動きを試して、進化していってほしい。それに二人とも技は日本から流用してるけど、それをどう使って試合を運ぶかもちゃんと考えてる。特にB-BOYは、蹴り技やバスター・系の技をメリハリをつけて使いながら、試合を作れる選手です。

試合は最後、ドラゴンのフェニックススプラッシュを避わしたB-BOYが、相手の足をちょっと変わったフックをした状態で決めるフィッシャーマンズバスター(これはオリジナルかな?)で勝利。焉[場内大歓声。20分くらいかな。俺も今日は、これ観れただけで大満足。

ただ、これを日本にそのまま持っていってウケるかといったら、ちょっと分からないですね。B-BOYの試合はライブで観ると緩急があって素晴しいんだけど、ヴィデオでみると、日本のジュニアの一流選手達と比べると、一つ一つの技の仕掛けがスムースでないというか、荒い部分があるんですよ。ドラゴンの方がそのへんスムースだし、派手に飛べるけど、なんせどの技も日本選手が元ネタだと分かっちゃいそう。こういうのは、日本スタイルがめったにみれないこの地で、ライブで観るからこそ面白いのかもしれないなあ。

とにかくこの試合、いつも観ているマニア達のネットでの評価も、二人の試合の中でも最進化形で最高傑作というものでした。それでも「あの大技スポットの後、B-Boyがすぐに反撃したのは論理的におかしい。彼は場外に逃げるなりしてダメージをアピールすべきだった」とか「中盤でドラゴンが攻められた足のセルをやめたことで、序盤の攻防の説得力が損なわれた」など、さらに完璧な試合を求めるが故の建設的な苦言も出ている。どこまでも進化に貪欲なレスラー達と、それを支え批評する人達の世界がここにあるようです(もっとも、上記のような踏み込んだ批評を書いている人達は、単なるマニアじゃなくて、やる側か制作側の人なのかも)。

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ええと、書くほうも満足したので、以下の試合は再び流して紹介。第六試合は「リンピオ」と「ルード」に分かれてのルチャリブレマッチ。おそらくこの団体所属の、子供みたいな選手達が次々飛んでた。第七試合。本日のスペシャルゲストのヴァンピーロvsメサイア。ヴァンピーロ、ただずまいやしゃべり方だけでなく、試合スタイルまでヒットマン流だった。パンチの鋭さは特に。最後は机に喉輪落としを決めてヴァンピーロ勝利。

第八試合は軽量級のトリプルスレットマッチ。最後、雪崩式ネックブレイカーを食らったレボプロのエクスカリバー、本当に効いちゃったらしくカヴァーされて返さずに寝てるも、エクスカリバーが勝つことになってたらしくレフがカウントを2.9で止めちゃって試合続行。しかたなく続けて勝ったエクスカリバーが、控え室で苦しんでるのが見えた。

第九試合はボーナスマッチ。UPW軽量級の職人リッキー・ライラスと、同じくUPW軽量級では、日本にも行ったマイキー(ミッキー)・ヘンダーソンと並ぶ実力者のフランキー・カザリアンの試合。いつものUPWの短い試合とはちがって、じっくりハードに。最後はカザリアンが雪崩式逆DDTで勝利。マイキーに続いてUPWの軽量級を誰かゼロワンに呼ぶなら、もしかしたら、試合運びのうまいB-BOYよりカザリアンのほうが堅実なチョイスかも。派手に飛べるし、長髪でいかにもアメリカンな風貌だし、ハードなパンチの表現とかできるから。

最終試合は、ハードコアマッチのMPWタイトル戦。デブvsヤセ。もう11時回ってるので、帰りはじめる客もちらほら。俺もあまり観てなかったけど、RVDの動きを真似たヤセのテックIV(この団体の選手かな?)がファイブスターフロッグスプラッシュ(実際には三ツ星くらい)でテーブル破壊して勝利。ある客の集団が喜んで「R・V・D!!」コールをすると、別の客がそいつらをからかって(同じ調子で)「Stu・pid・mark!」コールを合わせる。からかわれた奴らも「お前だってマークだ!」と反撃。こういうことやる自体、マニア以外のなにものでのないって。

というわけで、いろいろ楽しかったけど、なによりも第5試合に大満足のMPW観戦記でした。会場もきれいだったし、マニアックなヤジも楽しめたし、試合自体もどれもクリーンで、ほとんどノーアングルで乱入も少ないものでした(お色気もゼロでしたねそういえば)。まあ、メジャーのWWFが乱入なしではどうにも話が作れないようになってしまってるので、プロレスそのものを楽しみたいマニアを喜ばすには、こういう興行がばっちりでしょう。いやしかしほんと、この南カリフォルニアにもいろんなインディーがあるもんです。WWFをまねるショーアップ&クイックマッチ路線のUPW、ゲテモノぞろいでアダルトで、まったりB級なXPW、ほとんどどさ回りみたいなEPW。そして各インディーの選手を集め、純粋にクオリティーの高い試合を見せてくれるこのMPW・・・まだまだ観てない団体はあるので、機会を見つけて観にいって、紹介していくつもりであります。




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