深夜の闘牛場で、B級で下衆な快楽に酔う
■団体:XPW Halloween in Hell 2
■日時:2001年10月13日
■会場:カリフォルニア州ピコリヴェラ ピコリヴェラ・スポーツアリーナ
■書き手:ひねリン(名前をクリックするとプロフィールの欄に飛びます)

今回は、南カリフォルニアのデスマッチ団体、XPWを初めて観戦してきました。ここ数年ほとんど日本のプロレス雑誌を読んでいない俺は全然知らないんですが、この団体って日本では、週プロが相当大きく取り上げているそうですね。しかし、この団体をいつも生でご覧になっている方(俺にUPW等の観戦の手引きもして下さっている方)によれば「ECWを超えた!」みたいな週プロ報道は虚飾が大きく、実際には単なる「まったりB級インディー」だとのこと。週プロを知らない俺にはなんとも言えませんが、まあとにかく観てみよう、ということになり、今回彼がご親切にもリングサイド一列目($35)を取ってくれての初観戦となりました(いつものように彼の御教授をうかがいまくりの観戦なので、当然以下に俺が書く情報の多くはそのおかげです。それでもなにせ俺はインディーのことまだ全然知らないし、聞き間違いとかもあるだろうから、もし間違ったことを書いていたら訂正等をいただけると嬉しいです。>読者のみなさま)。

観戦記に入る前にもう少し前置きを。生で観戦する前に、少しは予習しないと楽しめないだろうと思って、土曜の深夜にローカル局でやってるXPW中継を二度ほど観たんです。いや、なるほど画面からも強烈なB級感が伝わってきました。一時間の番組なのに、1、2試合しか試合を放映せず(1、2カ月に一回の興行でしかテレビ撮りしないから)、個性の強いコメンテーター二人によるアオりと、社長のボロオフィスを舞台に展開するチープなドラマ(ひたすら長回しでカットなし)とが延々と続くんです。コメンテーターは、いかにも白人ブルーワーカーという風貌の男と、ものすごい強いスパニッシュ訛りの英語を話すキューバ人親父のコンビ。大げさにガナる彼らからは、いかにも「下層階級」とか「労働者階級」の香りが伝わってきます。服装もなんていうか、普通に汚いし(俺、人のこと言えないけど)。さらにドラマのチープさもなんちゅうか圧巻です。社長のロブ・ブラックは本業がエロヴィデオ制作なのですが、ドラマからもいかにもそういう香りが漂ってきています。薄汚れたオフィスに居座る、不健康を絵に描いたような風貌の短気な社長が、ちょっと頭の弱い・オカマ若手レスラー、エンジェルをはべらせながらマッチメークを練ったりしてるところを、色仕掛けの美人マネ(本業は当然AV女優)や、貧乏そうなレスラーたちがさまざまな思惑で訪れる・・・みたいな設定。いつどこでセックスが始まってもおかしくないような雰囲気です。さらに肝心の試合も・・・いや、これは本編の観戦記で説明しましょう。

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今回の興行は、Pico Rivera という、いかにもスパニッシュ層居住地域という名前の土地で行われたんですが、車でいってみた感じもそうでした。夜8時開始なので、その30分くらい前に行ったのですが、会場近くの道には外灯もなんにもなく、正直プロレスでもない限り、普通夜にこんな地域に来ることはまずないです。で、例のチケットを取って下さった方と会場前で落ち会ってちょっとほっとしたんですが、夜8時開始ということだというのに、それを過ぎても会場が開きさえしない。でもそんなのはここでは日常茶飯事らしく、みんな全然気にせずに並んで待っています。結局開場されたのは8時半、試合が始まったのは9時過ぎでした。

今回の興行「Halloween in Hell 2」のウリは、米国ではじめての爆破マッチということで屋外会場なのですが、入ってみたら闘牛場でした(笑)。すえた土と牛のフンの匂いが地面から漂ってきます。デスマッチなので、リングと客席の間を10メートル近く距離を取ってフェンスで区切ってあり、また学園祭のつくりものみたいな「XPW」の形の入場ゲートも設置されています。客層はやっぱ露骨にスパニッシュと白人労働者層らしき人達が多く、XPWやECWのTシャツを着てる者も多い。中学生くらいの男の子もけっこういます。広い会場に、1500人くらいはいたんじゃないかな。とにかく試合前から威勢がよく、9時近くからは「Start the show!」や「Start the fucking show!」コールを合唱し出して楽しんでいます(そもそもこの団体は、これが起こらないと試合が始まらないらしい)。なんか、早くもビールででき上がっちゃってるのもいる。

今回ははじめてのXPW観戦記ということで、興行のダンドリや雰囲気を伝えることを優先し、全部の試合の結果や内容を書くことはしませんが、全体的に試合そのもののレベルはあまり高くないというか、最先端をゆくものではありません。オーソドックスにアームドラッグの打ち合いからはじめて、グラウンドもちょっとやったあと派手な技に行くという形がけっこう多く、たいていの試合はゆっくりしたペースで行われます。大技なんかも、WWFとかで見られるのと同じような技を使うことは使うんですが、なんかふにゃふにゃしてたり、とろかったり、タイミングがずれてたりすることが多いです。その点、UPWとは対照的なスタイルです。別に観客もWWF的な切れのある早いペースの試合を望んでいるでもなく、おおらかな展開を明らかに楽しんでいます。レスラー達がタイミングを逸して技を失敗すれば、いちいち「You fucked up!(失敗しやがったぜ!)」コールを起こして楽しんでいます。

このように、観客がとにかく威勢がよく、あらゆる機会を逃さずに野次を飛ばし、いろいろなコールを合唱して楽しんでいるのがこの団体の特徴みたいです。つまり、観客のライブへの参入度がとにかく高い。女子マネ(=本業は当然社長の会社のAV女優)が出てくれば、すぐに「Show your tits(オッパイ見せろ)!!」「Show your butt(尻見せろ)!!」「Show your pussy(あえて訳しません)!!」コールの合唱が起こるし、女子マネ達もそのへんを心得ていて、試合中わざと中腰になってものを拾って、ミニスカの中のTバック尻をみせたりします。すると「One more time(もう一回)!!」コールの合唱。アホですねー。また、客が凶器のイスを大量に投げ入れ一目散に逃げ、ガードマンがそいつを捕まえようと追っかけるというガチのバウトも。

ま、上記のような感じの下衆でB級な試合スタイル&雰囲気なので、選手たちの肉体も、WWFに比べれば全然ナチュラルです。筋肉マンはいないけど、まるまる太ったタイプの選手はいっぱいいます。女子マネにもムチムチバディの姉ちゃんもいれば、場末のストリッパーのように微妙に腹のたるんだお姉さん(おばさん?)もいます。あと、とにかく派手な格好をしたのが多いです。上記のほかにも、ド派手なペイントレスラー、めちゃくちゃ太ったピエロ、意味もなく踊りまくる奴等がが入り乱れての乱戦が繰り広げられます。レフェリーは形式的にいることはいるんですが、反則はろくにカウントしないし、関係ない選手が乱入しても平然と見てるし、延々と女子マネといちゃつくしで、無責任の限り(もちろんWWFとかでもそういう傾向がありますが、一応彼らは反則チェックをする等の権力がある。ここのリングの無秩序さとは比べ物になりません)。

いまひとつの特徴を上げると、さっきもちょっと触れたけど、客層的にも選手的にも、とにかくスパニッシュ度&メキシコ度が高く、強度の人種アングルが健在なことです。特に今回はコナン、ダミアン、ハロウィーン、そしてフーヴェントゥ・ゲレーラとシコシス(英語読みのサイコシスでなく、シコシスと発音されてた)のメキシコルチャ軍団「Mexico's most wanted」が登場し、英語とスペイン語のチャンポンでいろいろアピールしてました。また、上で書いた無責任極まりないレフェリーもメキシコ系の兄ちゃんで、最初にオレンジ(=こっちの貧乏なメキシコ系が路上でよく売ってる果物)がいっぱい入った袋を持って不敵に入場し、試合の合間に、それを観客の前で挑発的にうまそうに食ったりしてました。まあ今回は会場が闘牛場だったのもあいまって、アレナ・メヒコもこれにちょっと近い雰囲気なんかなーとか想像しちゃいました。ちなみに会場のトイレのにおいも強烈でしたねー。

ということで全体の雰囲気をいろいろ説明したので、メインの三試合だけレポートしましょう。

第七試合 XPW TVタイトルマッチ
王者・ケイオス vs 挑戦者・ニュージャック

ケイオスは若くハンサムで、この団体の成長株。前回のPPVで行われた王座決定トーナメントの決勝で、コナンをクリーンに倒した後、いきなりヒール転向しました。ニュージャックは有名人ですよね。インディー系の黒人カルトヒーローです。この試合は完全なるニュージャックプロレスでした。フェンスを乗り越えて客席になだれ込み、さらにスタンド席まで昇っていってニュージャクがケイオスを攻撃。ニュージャックが場所を動くたびに、観客もみんなですごい勢いで民族大移動しながら「ニュージャック」コールを合唱します。もっとも一通り会場全体をゆっくりファンとともに動き回った後リングに戻ったら、ケイオスの取り巻きがニュージャックを不意打ち。そのままあっさりニュージャックは負けてしまいました。でもその後、ケイオスの子分のGQマネーを捕まえたニュージャックは、大見得を切りながら彼を凶器でゆっくりいたぶり、最後はまた場外に出てGQマネーをテーブルに寝かし、5メートルはある高さの矢倉からエルボーで飛び降りたので観客は大満足でした。この人、別になんか技があるわけじゃないんですけどね。脳天唐竹割りみたいなチョップを出したり、凶器で相手をブン殴ったりした後、ゆっくり血塗れの顔を上げて見栄を切る。そしてブッチャー並にゆっくりゆっくり移動しては同じことを繰り返す。基本的にやってることはただそれだけなんだけど、ファンは熱狂してニュージャックを追いかけ囲みその名を叫ぶ。顔と雰囲気と間合いで見せる達人ですね。

第八試合 XPW世界ヘビー級タイトルマッチ
王者・"ホワイト・トラッシュ"・ジョニー・ウェッブ vs 挑戦者???

ジョニー・ウエッブは、この団体の社長の悪役軍団の新メンバーで、こないだ王者にしてもらった。早口で神経質そうなスピーチでけっこうキャラが立っています。今回は社長が対戦相手を謎のままにしておいたので、いっそう神経質になっていたんですが、フタを開けてみると相手はレロリーという、前回のトーナメントでも頭数を埋めるために担ぎ出された単なるリング設営員でした(彼は Ring Crew Guy =RCGということで、RVDのムーブの超チンケな真似をします)。ウエッブがブーイングの中でRCGを簡単に倒して終わりと思いきや、そこになんと、WCWでムタと組んでたヴァンピーロが登場。社長が止めるのに、神経質なウエッブはマイクを握って観客に「お、お前ら俺がズルしたと思ってんだろう。や、やってやるよ今すぐこいつと」みたいなことを言って試合が始まりました。そうしたら、いつのまにかリングサイドに来てた女子マネのメジャー・ガンズが「もう一人いるわよ!」とマイクで叫ぶ。と同時に、どこかで聞いたことのあるメタリカの曲が・・・!こ、これは!!

そう、大歓声の中、いつの間にかスタンドの中に、あのサンドマンが竹刀を持って立ってました。リング上では一応ウエッブとヴァンピーロが試合をしているというのに、誰もそんなのは目もくれずにサンドマンを注目し、囲み、その名を叫んでいます。タバコを吹かしビールを飲むいつものアピールをしながら、サンドマンはゆっくり観客の大群とともに会場中を移動しては、同じパフォーマンスを繰り返しています。こっちの方にも来たので間近で見たけど(いっしょに移動する観客に押し潰されそうで恐かった)、なんかほんとに降臨した現人神と、それを熱狂的に追っかける民衆に巻き込まれたような気がしました。だいたいサンドマン、登場してから10分か15分間、ただファンと一緒に移動して、竹刀を降り上げビールをあおってるだけ。リングではずっとウエッブとヴァンピーロが空しく試合してるのに。一応試合しながら移動してたニュージャックよりも、さらに問答無用のカリスマぶり。

とにかく、長い長い入場を終えたサンドマンはやっと試合に参加しますが、ちょっと殴りあった後に場外に二人を置いてリング上にテーブルだの梯子だのを持ち込み出して、やっぱり試合しない。しかも、まだなにもしてないのにふらふらしてる。そのうち二人がリングに戻ってきたので凶器を使って少し絡むけど、動きはめちゃくちゃ悪い。よくみるとただのくたびれた中年親父。となりで一緒に観戦してる方が「サンドマンやせちゃったなあ・・・」とつぶやく。確かに。とにかくなんか知らないけどサンドマンは結局あっさり負けちゃって、それでも最後までリングに残って、ファンの「Welcome Back!!」大コールの中アピールしてた。

この試合後、メインの爆破マッチのセッティングまでしばらく時間がかかるので、その間サンドマンとニュージャックが客席でサイン会を行い時間を稼ぐ。サンドマンは竹刀にサインをして売ってた。こらこんな恐い群衆に凶器を売るでない。もう12時近く。

メインイベント XPW キングオブデスマッチタイトル戦 有刺鉄線&蛍光灯爆破マッチ
シュープリームvsビック・グライムス (どっちが王者か知りません)

もう書くの疲れたんで簡単にいきます。これはふたりともデブでハゲ。容貌は、シュープリームが顔のかわいいバンバンビガロで、グライムスが、マイク・ボーグがもうすこし太った人と思ってくれれば間違いないです。ふたりでゆっくり、お互い血まみれで笑いながら思う存分凶器(ハロウィーンのかぼちゃ含む)で殴り合い、有刺鉄線に叩き付け合い、爆破(というか、要するに爆竹の音と煙が出るだけですけど)し合って、最後は寝ているグライムの体に有刺鉄線をまきつけたシュープリームが、さらにその腹に10個くらいつながってる蛍光灯を置いて、ボディープレスで破壊して決着。勝ったシュープリームがまず血だらけのままファンの回りを一周して去ってゆき、さらに血だまりの中立ち上がったグライムスも、やはりファンの歓声に答えて一周して帰ってゆきました。

ということで、終わったのは深夜一時近かった、XPW初体験記でした。初めての俺には予想以上に面白かったし、常連客も満足してたような気がする。いやメインの三試合なんて、技術的には見るところなんて何もないんですよ。客席の中になだれ込んで、動きでなく雰囲気とカリスマ性だけで魅せるニュージャックとサンドマン、そしてやっぱり動き的には単なるデブレスラーなのに、ひたすらゆっくり受け合いバンプを取り合うだけで涌かせるメインの二人(まー凶器と爆音頼りだけど)。速さとハードヒットと切れのレスリングムーブで勝負するWWFやUPWとは、対極の世界がありました。しかし、こっちのほうが観客の参加度は明らかに高いです。実際に観客はレスラーと共に移動を繰り返すし、熱狂的なコールの合唱や野次の飛ぶ数も全然多い。テレビ用に特化してない、ライブならではのプロレスを体験できました。こうやってみると大仁田ってやっぱ偉大ですね。客席と一緒に移動するプロレスも狂気のデスマッチも、みんな彼の影響でこっちに伝わってきたものだろうし。

個人的にもホント、今回の体験では考えさせらえるところがいろいろありました。Drマサがコラム第三回で紹介されているように、WWFのテレビ中継を現代によみがえる(中世&ルネサンス期の)民衆カーニバルと捉える研究があるんだけど、ある意味WWFよりXPWのほうがカーニバル度が高いんですよ。容貌的にもグロテスクなのが多いし、リングの無秩序度も高いし、罵声や卑語の飛びかい方も激しい。テレビの要請によって、WWFはハードヒットとインパクトで展開の速い凝縮したカッコイイプロレススタイルを作り出したけど、それによって切り捨てられたもっとおおらかで下衆な快楽が、ここには残っている気がします。まいいや、このあたりを考えるとキリがなくなるのでこのへんで。




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