祈りとゴスペルとラップとプロレス
■団体:EWF (エンパイア・レスリング・フェデレーション)
■日時:2001年8月18日
■会場:カリフォルニア州ポモナ セットフリーアリーナ
■書き手:ひねリン(名前をクリックするとプロフィールの欄に飛びます)

最近、南カリフォルニアのインディー団体に詳しい方とメール交換をさせてもらって、彼にインディー団体の情報が分かるサイトなどを教えて頂く幸運に恵まれました。で、いろいろ見ていたら、この週末、俺の家から車で15分そこらのところで、EWF(エンパイア・レスリング・フェデレーション:帝国プロレス)なる団体が試合をやるとある。

EWFのサイトをざっとチェックしたところ、この団体は、やはりうちの近くの町サンベルナルディーノにあるプロレス学校、The school of hard knocks がやっているもの。校長は元レスラーであり、元WWFレフェリーでもあるジェシー・フェルナンデス。ジェシーの得意科目はルチャリブレで、クリス・ジェリコもメキシコ遠征前にルチャを学びにここを訪れたことがあるとのこと。毎週末に近くの町を回って興行をやってるようで、ついでに「リングのレンタル&設営も行います」なんてことも書いてある。ということはこれは、プロレス学校の学生&卒業生達の発表会みたいなもんなのか? まあとりあえず近いし、観るしかないということで、早速出かけてきました。

試合開始は土曜の三時。場所はそんなに治安が良くない町、ポモナのセットフリー(Set Free)アリーナ。へえ、アリーナってことはけっこうちゃんとした会場でやるんだろうか?駐車場もあるのかな、と思って暑い中、冷房の壊れたボロ愛車でその住所の辺りに行ってみたけれど、それらしきものはなにもありません。周りは有色人種の比率の多い、あまり高所得の人は住まないようなところです。別に昼間だし問題はないけど。とりあえず近くに路駐して、そのセットフリーアリーナまで歩いてみました。

その住所には、「アリーナ」の名からはあまり想像ができない、店じまいして以来5年ほどほっぽらかしの商店のようなガラス張りの建物がありました。そのガラスにはなんか十字架の落書きみたいな絵が書いてあって、また「It's all about Jesus(全てはジーザスのために)」の文字もある。なんだここ、教会とも思えんし、キリスト教徒の秘密基地か?と思いながらドアをくぐると、ちっちゃな机に兄ちゃんが座っていて、チケットは大人5ドルだという。さっそく払って中に入って、なんか暗くてがらんどうの事務所みたいな部屋を潜り抜けてその建物の裏庭に出ると、青空のもと壁に沿ってリングがありました。その壁には一面にグラフィティ(ヒップホップのカラフルなペイント画)が描かれていて、梯子をのぼってゆくお姉さんや、キャップを被った兄ちゃんが天使となって飛んでいる絵がある。「EWF」の文字も。ここでしょっちゅう興行をやっているってことでしょう。

ともかくそれで、観客用のイスはリングの一面に30席くらい置いてあるだけで、しかもそこには二人しか座っていません。そのかわり、地元の兄ちゃん姉ちゃんお子様おじちゃんおばちゃんが40人くらい、庭の隅にいっぱい置かれた、ゴミ捨て場から拾ってきたようなソファー群にまったりと腰掛けて試合開始を待っている。そこは日陰なんです。リング近くのイス席は陽射しがきつくて、しかもイスそのものが熱くて、とても座ってられない。しょうがないんで俺もぼろソファーに座って様子をみることにしました。

そのうち白人の肥ったじいちゃんが「俺は太陽はいやだ」とかつぶやきながら俺の近くに座りました。目が合うと、そのままなんか身の上話を始めたので、困った俺が「プロレス好きなんですか?」と聞いたら「いや違う。俺は二次大戦時ネイビーで上海と香港にいて、、、」ととんでもない話になりました。その後フィリピンにいて、上司が次の戦争は韓国だというのでいやになって帰ってきた、従姉妹はベトナムで、、、とかなんとか。
そのうち「今日の試合は金曜日に11チャンネルでやるんだぞ」とさらに意味不明のことを言い出しました。テレビカメラなんて一台もないのに。暑い日です。周りでは、おもちゃのカタナをもった子供達が斬り合いをしていました。

さらに俺のもうひとつの隣では、車イスに座った黒人のおねいさんを、3、4人の黒人のおばさんたちが囲んでなにやら話していました。そのうち車イスのおねいさんは、体をふるわせながら車イスを支えにして立ち上がって見せて「神は私を守ってくれない」とかなんとか不平をこぼし始め、周りの人達が「そんなことはないわ」と言っているようでした。

そんなかんなでプロレスがはじまりました。まあ内容は想像していたのとそんな遠くない、テレビでやってるアメプロの縮小再生産版みたいなやつです。悪玉が観客のヤジにいちいち言い返して、さらにそれを客が言い返す、みたいな小会場独得のやりとりもありました。

第一試合後には、WWFのオープニングのような、マイクパフォーマンスの寸劇もありました。この団体のチャンピオンを、元チャンピオンが裏切ってみんなで袋叩き。第二試合は軽量級の空中戦。コンクリの場外にトペコンヒーロをやったのは偉い。会場はほのぼのしていて、ちゃんと観ている人もいれば、単に周りと話している人もいるし、相変わらずチャンバラをやっている子供や、とにかく歩き回っては親になんかねだる子供もいます。

その後、地元の女の子ダンサーズ(10ー12歳くらい?)が踊りを披露。さらに会場のスタッフらしき人物が出てきて、この興行の収益は不幸な子供や女性達のために使われる。みんなで神に祈ろうアーメン、と言っていました。いったいここ、なんの建物なんだろう?

第三試合、ルチャリブレルールのタッグマッチ。この試合の最中に、俺の横でいきなりきれいなゴスペルのコーラスがはじまりました。見てみると、さっきの車イスのおねいさんがひざまづいて一身に神へ祈りを捧げており、、黒人のおばさんたちが、彼女を祝福するようにその周りで歌っていました。また、会場の隅では、このあと出てくるらしきバンドの人みたいなのが、熱心に「チェックチェック、マイクチェック」とやってました。リング上ではルチャリブレ。青空。まだ暑いや。

さらに二試合後には、地元のラッパー(ゴスペルアーティストと紹介された)が歌を披露。「神に祈ろう。俺達は救われる。俺達は変われるんだ」みたいな教会ラップ(?)を4曲ほど。彼が歌っている間はほとんど反応してない客も、終わるとちゃんと拍手喝采。

そのあと、プロモーターみたいな人が出てきて、今後のEWFの興行予定を披露。そしたら、来週の土曜は別の町の「セットフリーアリーナ」でやると言っている。あれ?ここがセットフリーアリーナじゃねえの? それとも、セットフリーってこのクリスチャンオフィスみたいな建物の総称で、こういうのが各地にいっぱいあんのかな? と疑問が沸いてくる。

そこで次の試合やってる最中に「セットフリー」キャップを被っているスタッフの人に質問してみました。そうしたら「ああ、我々はセットフリーっていう教会で、南カリフォルニアにいっぱいあるんだ。ドラッグやアルコールや虐待などで苦しんでる人達を住まわせて社会復帰のトレーニングプログラムを提供している。EWFの人達は、いつも我々の資金集めを助けてくれているんだ。」

はー、そういうことだったのか。ここはクリスチャン系のシェルター(保護&更正施設)で、EWFはそこをよく慈善で(?)巡回している、と。しかしこんな大会が資金集めになるのか? 地元の親子連れから取る安い入場料と、飲食代なんてたかが知れてるし。レスラーのギャラはゼロかな。
しかしこの施設、プロレスやラップやグラフィティなど、およそ世間一般のクリスチャンのイメージからは遠い若者文化をぼんぼん取り込んでるんだなあ。進歩的な教会さんだ。ここのスタッフには「Jesus is tougher than hell (ジーザスはめちゃくちゃ強えぜ)」なんてシャツを着てる人もいた。ここ所属のロックバンドなんかもあるらしい。まあ文化は混ざるもんだから。
でもそうやって考えてみると、確かに現代アメプロの基本要素の多くがこのEWFに含まれているんだけど、「お色気」はないのにも気付く。スパンキングマッチはもちろん、女子マネも一人もいない。そういう点では「これはやめてくれ」という制約はあるのかも。まあこの施設は男女交際禁止みたいだし、客の半分は子供だし、入場料5ドルだし。これでTバックやおっぱいを間近で拝もうなんてちょっと贅沢すぎるか。

そんなかんなで、他にも試合とか歌とかレスラーとの記念撮影とかあって、メインはハードコアマッチ。テーブルのかわりに、子供が乗っても割れるような薄い木の板を何枚も割りました。メインの勝者のジョニー・ダイナマイトは、若くてハンサムで、ムーンソルト系の空中技もいろいろできます。WWFの二軍あたりにいてもおかしくない気がした。一番人気で、試合後子供が5人くらいまとわりついていた。試合が終わったのは6時過ぎ。涼しくなってきたけど、まだ全然明るかった。

ということで、強い陽射しの中の、俺のアメリカインディー初体験記でした。書き忘れたけど、メイン以外でも選手レベルは決して低くなかった。ルチャが得意な学校というだけあって、確かに飛べる選手が多いし(闘龍門とかと比べないように)。今後も諸団体をいろいろ観て回る予定です。




本稿の著作権はすべてKANSENKI.NET及び「書き手」に帰属します。

戻る
TOPへ