明日に向かって走れ
■団体:パンクラス
■日時:2001年5月13日
■会場:後楽園ホール
■書き手:リー監督 (ex:リー監督の「た・い・く・つ」

 最近の興行では、後楽園が満員になっているパンクラス。96年以降はジリ貧の傾向にあり、このままいけば確実に潰れるな、とさえ思っていた。観客がパンクラスに何を見い出しているのか、よくわからないので、あまり安心できなかった。パンクラスの会場に流れる冷たい風によって、彼らが「次も来よう」と思う気持ちを萎えさせているのではないか、と。

 私はパンクラスを「プロレス」として見ている。シュートな「プロレス」団体が1つくらいあってもいいじゃないか。この見方がパンクラスを見るのに「一般的な」見方ではないのはよく分かっている。しかし、「シュートとかそういうのを含めたのがプロレス」であるし、いわゆる「格闘技」と「プロレス」の興行的な側面においては共通する要素が多い。

 船木は今日も会場にも来ていないようだ。鈴木は今のところキャッチレスリング・ルールという枠の中で闘っている。ということは、誰もが気付いているように、近藤と菊田と美濃輪が頑張って、ここまで来ているわけだ。この3人が完全に現在のパンクラスを(「結果的に」という言い方になるが)引っ張っている。

 また、パンクラス対GRABAKA、パンクラス対和術慧舟會などの対抗戦も、パンクラスを含めた諸団体の若手たちの動機付けになっていると推測される。そういう意味では、少しずつパンクラスは良くなっている。ファンだからそう信じたい。細かいところを見れば、興行的にまだまだ甘いところは一杯ある。今日にしても、試合の結果がそうなったから、という理由で会場の雰囲気がたまたま良かっただけかも知れない。だが、望みはある。明日に向かって走る道が、少しずつ見えてきた。今まで通り、若手を(急成長したのは少ないが)伸ばして、他団体の若手を積極的に参加させて、いい外国人選手を呼んできて、という地道な作業を続けていけば、なんとかなるという道が・・・。今までの船木引退後の「一寸先は闇」に比べると、格段に希望の道が見え始めている。

 しかし、本当にそれで良いのだろうか。今日の興行が良かっただけに、余計な心配をしてしまうのは大きなお世話でしかないにしても。PRIDE、新日、リングス、修斗、ノアなどを視野に入れつつ、パンクラスがどうあるべきなのかを考えてしまう。いや、プロレス団体を自称しながら既存の発想と違う何かを取り入れようという当初の意図が、どこまで継続されているのか。それを含めてパンクラスをどうしたらいいのか。私の悩みは深まるばかりだ。まるでパンオタのようだ。いや、間違いなくパンオタだな。そうだったのか。

 前段が長くなってしまった。早速、観戦記というか、感想文を少々。メモ8さんはリングス・ファンであるにもかかわらず、いつも素晴らしいパンクラス観戦記をアップしている。だからたまには私も書かなければならない。パンクラスの観戦記を私が書くことに意味があるとすれば、他人とは違う視点でどれだけ観ているか、だけだと思う。まあ、難しいことはあまり気にせず、書きたいことだけを書くことにする。

 菊田挨拶。特筆するべきことはない。「世界一」になったことを盛んにアピールしていたが、それは広報の役割。選手の挨拶は別。ダメだなあ。代わりに私が挨拶原稿を書いておこう。

「どうも、皆さんこんにちは。菊田です。ええと、知っている人もいるかもしれませんが、ぼくはアブダビ・コンバットという大会でなんとか勝ち抜くことができ、優勝しました。いやホントにあの大会は1回戦から決勝戦のような気持ちを持って闘わないと負けてしまうので、大変苦労しました。選手の実力差はほとんどなかったと実感しているので、優勝出来たのは運があったという感じです。アブダビで闘ってきて得た精神力を、これからの練習やパンクラスの試合で生かして、よりいっそう強くなりたいと思いますので、応援よろしくお願いします(ニッコリと笑って両手を四方に振る)」

 近藤挨拶。これも特に書くべきことがない。これも私が挨拶原稿を考えておくので、今後の参考にするように・・・もちろん冗談だが。嘘でも良いから、これくらいの事は言って欲しい。あと、リング上での挨拶は事前に何度も練習すること。

「観客の皆さん、お元気ですか。毎度お馴染みの近藤です(照れ笑い)。実は今度、またUFCの試合に出ることになりました。当面の目標は、ティト・オーティス選手ともう一度戦えるよう、一生懸命頑張ることです。海外で戦う時は、ファンの皆さんの声を思い出して戦うようにしています。ですから、応援してください。よろしくお願いします(四方に丁寧に礼)」

 これで後楽園に来たファンは、嘘だと分かっていても応援したくなるだろう。なにも難しいことはない。こういう些細なことが大事なのだ。

(1)伊藤崇文(パンクラス横浜) 対 佐々木恭介(U-FILE) キャッチレスリング・ルール

 伊藤はこのルールの申し子のようなものだ。早い動きでごちゃごちゃした展開を制する。彼の入場曲はテレビの某CMでも使われている、クラッシュ。うーむ懐かしい。ジョー・ストラマーが、パンクをやる前には軟弱なカントリーを演奏していた事実などは、どうでもいいことなのだ。

 佐々木は最初に田村ばりの「突然飛びつき逆十字」を狙って以降は寝たまま。伊藤はニーインザベリーからマウントを取るなど、終始コントロールしていた。3-0で伊藤の勝ち。

(2)渡辺大介(パンクラス横浜) 対 石川英司(GRABAKA) ライトヘビー級

 試合は蹴り合いから。パンチは大介が当てる。ほとんど、スタンドで石川が大介をロープに押し付ける展開。これは、打撃に自信がない選手同士が戦った時にありがち。こういう膠着における細かい技術の攻防も緊張感があっていいが、それは私のような膠着好きのマニア向け。打撃が下手ならもっと寝技の攻防があっても良いのではないか。ここで提案。テイクダウンの瞬間の「きらめき」を大切にしよう。そこにもある種の「美」があるのではないか。

 大介はスタミナ面で有利だったので、1ラウンドの股間への膝蹴りによるイエローカードがなくても大介の勝ち。判定は3-0。勝ったにもかかわらず、大介は怒りのあまり退場後の廊下で何かを蹴ったらしい。「くそ!!」という声と共に、「ガン」という音が聴こえた。うむ。その向上心があれば大丈夫。

(3)鈴木みのる(パンクラス横浜) 対 矢内純一(SAW総本部) キャッチレスリング・ルール

 5/5に行った人は鈴木が金髪だと分かっていても、一応驚いてあげるのが観客の役割。これはみんな出来ていた。観客も素晴らしい。ファンも少しずつ良くなっているのかな。しかし鈴木は不良だ。ワルぶっている姿がままだまだ似合う。一生不良でいて欲しい。

 ロープ際でテイクダウンを取る鈴木。相手の頭をリングの中央に向けてから、アキレス腱固めに移行する姿はまさにプロフェッショナル。最後は片エビ固めをミックスしたアキレス腱ホールドで鈴木の勝ち。

 鈴木のマイク「みんなが期待することはしないよ」。でも言ってしまうんだよなあ。「パンクラスをもっと広く世界で1つ、もっと広く世界で1つのリングをパンクラスのリングにしたい」とかなんとかいつもの台詞。「今日の最後は、ぼくの友だちの山田学。派手なのが好きなので、大・山田コールで応援よろしく」。OKOK。よろしくされちゃいます。

(4)渋谷修身(パンクラス横浜) 対 デニス・ケイン(カナダ/マルクス・ソアレス・ブラジリアン柔術)

 いきなりハイキックから入る渋谷。このアグレッシブさが最近の渋谷を評価する理由。鬼に金棒とはまさにこのことを言う。しかし、ケインもただ者ではない。コーナーに押し付けられた後、打撃絡みでテイクダウンを取られてしまう。だが、なぜかスタンドでのパンチの打ち合いでは渋谷が上。うーむ、なかなかやるな。以下、スタンドでの間合いを積極的に詰めていくのは渋谷。彼のデビュー以来の闘い方と声の小ささを考えると、ホントに偉いなあ。これって意識改革だよね。シュルトとのKOP戦で一皮剥けたな。3ラウンド、肩固め、マウントパンチ、チョーク狙いと色々やった後、最後はチョークスリーパー。偉い。渋谷最強。

〜休憩〜

(5)ネイサン・マーコート(アメリカ/コロラド・スターズ) 対 小島正也(和術慧舟會総本部)

 小島、素晴らしいタックルからテイクダウン。しかし、小島の見せ場はここまで。ネイサンは長い手足で下から絡み付く。うげげげ。結局、下からのクロス・アームロックが教科書通りに極まる。ネイサン@だけど兄さん・マーコートは、キングの名にふさわしい、技術の勝利。強い。

(6)美濃輪育久(パンクラス横浜) 対 佐々木有生(GRABAKA)

 私は、結果としてヒールになっているGRABAKAを高く評価している。強いけど、パンピーには「つまらない試合」をしてしまうGRABAKA。だからこそ、今の美濃輪を筆頭とする「プロレス」型パンクラスが台頭できるのだ。「横浜道場 対 東京道場」ではうまくいかなかったこのプロレス的構造を、しっかりと根付かせてくれたのは菊田をリーダーとするGRABAKAの功績であることは忘れてはならない。そういう観点からも「魅せる」ことさえできれば、今日の美濃輪は負けてもよかった。それほど佐々木の実力は高い。

 1ラウンド。美濃輪は、インサイドガードから相手を持ち上げて、コーナーにぶつける技を魅せてくれた。ぐはははははは。これは新しい。「鐘突き」と名付けたい。2ラウンドは危ない場面もあったが、やはりインサイドガードから「持ち上げて落とす」、という変型パワーボム。ぐははははははは。決着は3ラウンド。美濃輪の低空タックルを切られ、バックを取られるが、前転して足の取り合いに。美濃輪の方が有利かな、と思っていると、リバースのアンクル・ホールドで美濃輪の勝ち。会場大爆発。美濃輪が両拳を何度も振り上げると、それに合わせて観客が「OY! OY! OY!」と応える。調子に乗って四方にやってしまう。うむ。許す。素晴らしい。これが一体感である。やってない客もいたけど、それもまた、パンクラスらしくていいかもね。「イヤならやるな」と前日の後楽園でCIMAも言っていたし。何はともあれ、横浜道場、全勝だ。

(7)山田学(パンクラス東京) 対 朝日昇(PUREBRED) 引退エクシビション(発音は正確に)

 朝日昇の入場曲は篠原涼子 with T.Komuro の「愛しさと切なさと心強さと」。噂には聴いていたけど私の琴線に触れてしまった。ついつい、懐かしさと切なさと馬鹿馬鹿しさを感じて、大爆笑。こういう曲を選ぶセンスを持つ朝日はホントに凄いヤツだ。

 身体を絞ってきた山田。ああ、これは最後のファン・サービスなんだな、と思って涙が出た。試合はゆっくりと技を確かめるような演武。何の不満もない。そこで素早く極めてしまっては、現役引退の意味がないのだから。パンクラスのエクシビションで、決着の付いた試合はあったのだろうか。よく覚えていないが、なかったような気がする。とにもかくにも、ファンに対して、しっかりとお別れのメッセージをリング上の動きで示してくれた。

 来賓としてリングに上がったのは8人。初代プロシューターの川口や、桜田、中井、マッハといった修斗の面々がずらり。4代目タイガーまで来ていた。初代タイガーは来なかったけど。そういえば、宮戸とビル・ロビンソンも観に来ていたなあ。

 功労賞はスポンサーのサミーとディープ2000の佐伯からの贈呈。その他、謎の秘密組織「チーム寄り道」からも金一封が送られたらしい。一体、どういう組織なのだろう。謎は深まるばかりだ。

 パンクラスの選手たちがリングに上がり、「もっとも花束の似合わない男」高橋義生が、最後に登場し花束を渡す。なぜ、船木がやらないのか、という疑問はとりあえず横に置いておく。

 親分のマイク。とうとう、奇病が原因による糖尿病で、小さい時から苦しんでいたことをカミングアウト。「自分は、世界一ハンディキャップがあって体が弱い選手かもしれないですが、心は誰よりも強いと自負しています」に、私が余計な原稿を考える必要はない。引退の10カウントには、シャツを脱いで、天にガッツポーズの親分。ファンはそのリング上での最後のパフォーマンスをじっと見つめる。

 パンクラス選手による胴上げで大団円。ちょっとクサくて格好わるいけど、今日だけは許す。それが親分らしさなのだから。鈴木が北岡君を呼んで肩車をさせる。北岡にやらせる、鈴木の配慮にも乾杯だ。

 今日はパンクラスの興行では久し振りにすっきりした気持ちになった。パンクラスもまだまだ、イケルと思った。




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