Who is real in the middle?
■団体:WBA 世界ミドル級タイトルマッチ
■日時:2001年5月12日
■会場:ニューヨーク州マディソンスクエアガーデン
■書き手:Kamikaze

 Super! Great! 凄い!凄過ぎる。強いというよりか凄い。マットに這ったジョッ
ピーが眼の焦点の合わないまま敗者の宣告を受けると、トリニダードのホームと化し
たマディソンスクエアガーデンが大歓声で揺れた。接近戦からジョッピーが左の肩を
トリニダードに預け、向き直そうとした瞬間、鞭のようなトリニダードの右フックが
ジョッピーの左の顔面に強烈にヒットし、二度目の右が軽く触れただけでジョッピー
はマットの上をドタバタし、そして倒れ込み、マットを舐めた。5ラウンド2分25
秒フェリックス・“ティト”・トリニダードの見事な鮮烈なそして完璧なTKO勝ちで
あった。

 戦前の下馬評は2対1でトリニダード有利という事ではあったが、ジョッピーがミ
ドル級のチャンピオンであったし、トリニダードがWBAとIBFのタイトルを保持し、無
敗を誇っているとはいえ、それは一つ下の階級での事であり、倒れやすいトリニダー
ドを不安視する声もあった。しかしどちらが勝つにしてもKO必至であるというのが統
一見解であった。ジョッピー自身は自らを“underdog”(負け犬)と表現し、何故か
自虐的発言をしていたが、トリニダード支持者に対するアイロニーなのか、自分自身
を敗れるべき者と位置させていた。

 会場の七割方がトリニダードファンで前座の試合の時からプエルトリコの国旗を掲
げ、TITO!TITO!TITO!と歓声を上げていた。トリニダードの出身地のプエルトリコ
はアメリカの自治領であり行政上はアメリカなので、アメリカ国内に住むプエルトリ
カンは少なくなく、プエルトリコからはるばるやって来た者を含め、MSGはプエルト
リカンで溢れ返っていた。友達のプエルトリカンJesusも両親を連れてやって来てい
た。私の席は一番後ろも一番後ろ、section428 rowG seat1。それに加えて角度も斜
めで見易いとは言えない。それでも53ドルもするのだ。リングサイドにはマイケル
・J・フォックスやデンゼル・ワシントンなどのセレブからホリフィールド、ジョン
・ルイス、ハシム・ラーマン(先日レノックス・ルイスからヘビー級の二つのタイト
ルを奪った)などそのほか現、元チャンプ10名以上のオールスターが揃った。この
ミドル級チャンピオンシップシリーズの仕掛け人ドン・キングも勿論いた。

 ビッグネーム同士、チャンピオン同士は実力の拮抗と防衛意識による慎重さによっ
て凡戦を繰り広げることがしばしばある。だから私はこの試合意外と凡戦になるので
はないかと予想していた。しかし1ラウンドから熱かった。両者身体の温まる前から
ダウンシーンが用意されていた。1ラウンドの後半、トリニダードのしなるような左
フックがジョッピーの顎を捕らえて、ジョッピーは崩れ落ちる。レフェリーがカウン
トし、グローブを拭う。完全に足にきていたが、必死になってトリニダードにしがみ
付きゴングに救われた。ジョッピーがヨレヨレだったのでゴングが鳴りレフェリーが
間に入った時TKOを宣告されたのかと私は思い、「もう終わりかよ」と呟いていた。
しかしそうではなかった。直ぐに2ラウンド開始のゴングがなる。ジョッピーは1ラ
ウンドの衝撃的ダウンから立ち直り、チャンピオンの意地を見せ2,3ラウンドはほ
ぼ互角。両者ディフェンスはヘッドスリップとダッキングが主で、グローブを使った
ディフェンスは殆ど見られない。スウェーも見せない。4ラウンド、MSG入場前に近
くのKmartで買ったオペラグラスの向こう側でジョッピーは自らの赤いコーナーポス
トに頭から突き刺さっていた。トリニダードの天性の左フック、才能の左フックがま
たしてもジョッピーの死角から右の顔面にモロにヒットした。ジョッピーは倒れまい
とするがロープにしがみつく事が出来ず、フワフワしたその足でコーナーポストに支
えを求めた結果だった。そしてこの日の最終ラウンド5ラウンドにレフェリーの手が
交差された。フィニッシュブローは右だった。しかし左が全てだった。スイングが小
さい為スピーディーであり、かつ爆発力は凄まじい。ジョッピーもあんな激しいパン
チを貰ったのは初めてだと試合後語っている。

 試合後、黒人と白人、おそらくジョッピーファンであろうアメリカ人達が会場の通
路脇で寂しそうに呆然と立ち尽くしているのが印象的であった。試合前はトリニダー
ドファンとやりあっていたのに、大将を失った兵士達の姿からそんな気力も奪い去ら
れていた。支配される側の一人の英雄が支配する側の大将をぶちのめしたのだ。しか
もそれはアメリカの一つの象徴とも言えるボクシングで・・・
 9月15日にミドル級最強を決めるこのシリーズの決勝戦、WBA,WBC,IBF統一王座
決定戦が行われるが、統一されれば15年前の“マーベラス”・マービン・ハグラー
以来の事となる。この試合は本当に楽しみだ。4月14日の試合でバーナード・ホプ
キンスは玄人好みの巧妙なボディーワークでキース・ホルムズを退けた。ジョッ
ピー、トリニダードとは全くタイプが違うので、今回とは全く違った展開が予想され
る。追うトリニダード、逃げるホプキンス。ホプキンスがどのようにトリニダードを
かわすかに注目したい。トリニダードがこれに勝てば、遂に現在パウンド・フォー・
パウンド最強ロイ・ジョーンズJrの背中がトリニダードの視界に入ってくる。しかし
L・へヴィー級を現在主戦場としクルーザー級まで視野に入れるロイ・ジョーンズJr
がいかに強いとは言ってもウェルター級上がりのボクサーに敗れ去る姿は想像し難
い。まあどちらにしても実現してもしなくても夢のマッチだ。




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