2/24リングス両国国技館雑感〜モーレツからビューティフルへ
■団体:リングス
■日時:2000年2月24日
■会場:両国国技館
■書き手:メモ8(名前をクリックするとプロフィールの欄に飛びます)

 最近のリングスは毎回「これが最後の打ち上げ花火かもしれない」という危機感を持って見ている。KOK以降、興行自体の出来は、例外なくいつもいい。かと言って上昇気流に乗った団体が漂わす勢いみたいなモノは一切感じない。だから、最近のリングスの面白さは、滅びゆくものの美しさなのかもしれないと思ってしまうのだ。まあ理由はそれだけじゃないのだが、総合(を含めたシュート興行すべて)に感じられる暗い未来に関しては散々書いてきたし、これからも書くだろうから、ここでは割愛。

 そんな思いを抱きながら今年もリングス最大の興行が行われる定番の2月がやってきた。

 工事中の武道館替りのスモウアリーナの2階席は高低差が激しくて、ゆったり席が組んであるので、満員になっているのかが見た目では分り難い。一升当り何人入れているのか、よくわからない升席も同様。まあ最終的には8割の入りと言っていいのではないか。よく入ったと思う。

 WOWOWの開始時間が3時半からなので、当然といえば当然の25分オシだが、決して誉められたことではないよなって感じで、定番の照明ショー(ショボ過ぎ何とかしてくれ)、カードの発表、全選手入場と続く。

 レフェリーはいつもの3人、ジャッジは、西・藤原に加えて、お久のジョン・ブルーミン(赤ジャケ着用せず)。前田CEOはネクタイは着用しているものの皮パンツ。シャキっとしたスーツを着るべきだと思う(何度書いたことか)。


<トーナメント準々決勝>
○金原弘光(延長3R3分24秒KO)デイヴ・メネー×

 メネーのセコンドにミレ軍団がいない。ほとんど同タイミングで行われるUFCにホーンが出ているから、その影響か。

 立ち上がりから積極的に殴り合う両者。金原の方からグラウンドに誘うも、得意の「バックから」して戦法を、見事なコントロールで完封するメネー。ここまで、金原が回れなかったのは、遠い昔のモラエス戦以来じゃないか。メネー、ここまで固いと美しさすら感じてしまう。

 2R、ワンチャンスをモノにして上になった金原の腕狙いをシノぐメネー。3Rに入るとお互いヘロヘロになって、グラウンドに行くのも面倒という感じでベタベタに殴り合う。最後は金原の右フックで片膝ついてしまったメネーを、塩崎がストップ。ダウンじゃないという感じで抗議するも。

 強いが面白くないメネー、リングス参戦以来ベストファイト。わかって来たという感じだ。観客も湧きまくり文句なしの立ち上がり。


×ヴォルク・ハン(判定0−3)アントニオ・ロドリゴ・ノゲイラ○

 おソロのバスコダガマのウェアで登場のノゲイラのセコンド陣には、スペーヒーやリボは見えず。あれれと思ったが、別にTOPチームから抜けたとかそういうことはないようだ。一方、おなじみのテーマで入場のハンには、ロシア・グルジアオールスターセコンドの、ズーエフ、パコージン、ノダリ。

 結果から言えば、コマンドサンボがB柔術に完封されました、という感じなのだが。

 しかしだよ。もうハンはホントにリングスの神になったと言っていいのではないか。美し過ぎる。例えばノゲイラのタックルを迎え撃つコマンド低空アッパー(勝手に命名)。1発しか当らなかったけど。当然、ボジションを悪くすることを考慮して足狙いにはいかない。逆に膝十字取られそうになったけど。

 そして終了間際に見せたスタンドから組み付き際に見せた腕狙い。その美しさに涙する、おれ。

 ハン、キミはリングスの神だ。そうやって、おれ達シモジモの者を照らしてくれたキミの光を忘れることは一生ないと思う。格闘技の世界に「もし・たら・れば」は禁句だが、もし叶うなら、15年前のキミがKOKに挑戦する姿を見たかった。


×高阪剛(判定0−3)ランディー・クートゥアー○

 クートゥアーのセコンド、ヘンダーソンを先頭に親族郎党勢揃いという感じでゾロゾロ。カネ持たせるとロクなことないなという感じ。観光旅行しに来るんじゃない。まあ微笑ましいといえば微笑ましいけど。

 クートゥアーのグレコ殺法には、半身で構えて相手の股に片足を差し込んで距離を保つことで対処しようとするTK。結果としては、相当パンチをもらってしまうのだが、しかし、中距離での打ち合いではダッキングを折り込みながら互角に打ち合う。特に離れ際にこの戦法で入れた数発のパンチにTKの知性の輝きを見た。

 得意の投げで上になるとボディーパンチを入れて行くTK。パンチに合わせて場内からは「おいっ! おいっ!」。グラウンドでのパンチなどあまり歓迎されない現在のリングスでこの声援を起させただけで観客論的にはTKの勝利だろう。場内一体となったそのムードに、またも涙ぐむ、おれ。

 2R、眉間からダラっと流血した瞬間、心底ちきしょうという表情を見せるTK。何度かのドクターチェックが入り、さらには大量の鼻血を出してしまいパンチを受ける度に血しぶきを飛ばしながらも、下になれば芸術品としか言いようのないシザースを繰り出す。この辺になると、戦っているTKと魂がシンクロしたのだとしか言いようのない状態で、意味不明に涙を流し続ける、おれ。

 ご苦労様、TK。キミのファイトはいつでも美しい。これからも何十回でも見たい。


×山本憲尚(1R45秒腕十字)ヴァレンタイン・オーフレイム○

 ここまで絞ったヤマノリは、ええとデル・クックの興行で何とかダグラスとやった時以来か。

 しかしそれだけ絞ってキレなきゃ嘘だろというヤマノリを、遥かに凌ぐオーフレイムのキレ。開始早々から飛膝を炸裂させ、グラウンドに入ったら、あっという間に十字を極めてしまう。

 何というか元々オーフレイムって美しい黒人の代表って感じの風貌なのだが、もうこれ以上の美は格闘家には存在しないんじゃないかと言いたくなるような美しさ。


<スペシャルマッチ、1R10分2R5分>
○アリスター・オーフレイム(1R1分6秒チョーク)ウラジミール・チャントゥーリア×

 ロシア・グルジアのオールスターキャストを引き連れてきたチャントゥーリア、ぷよっと腹ボテで、これでシドニーのメダリストかと、妙にうれしくさせてくれる。一方のアリスター、素材だけなら兄さん以上というのはリングスファンなら既に誰しもが認めるところ。

 どれほどのボクシングやレスリングの実績があろうと、結局、総合を意識しない技術では総合には通じないということを、いつも思い出させてくれるこういうマッチメイク、これはこれでいいと思う。


 休憩15分。


<トーナメント準決勝>
×金原弘光(2R27秒チョーク)ノゲイラ○

 ウエストにグルグルテーピングをしてきた金原、ああう、ついに金原まで腰をやっちゃったかと思ったが、これはアバラだったようだ。

 結果から言えば、2R早々ノゲイラのチョークがあっさり極まってしまうわけだが、おれがしみじみ思ったことと言えば、やっぱり金原のグラウンドは美しいという事実。メネーのような「ひたすら押さえ込んでしまえ」タイプを相手にすると、相当苦労しちゃってキビシイみたいだが、スペーヒー戦といい今回といい、金原のグラウンドは心底素晴らしい。KOKのフォーマットでは回れなくなった田村と違って、今日も、そしてきっと明日も、金原は回り続ける(回転する方向が違うが)。


×クートゥアー(1R56秒フロントチョーク)オーフレイム○

 現役UFC王者を、プロレスあがりのリングスオランダの若造が秒殺した(と書くとかなり語弊があるが)。事実関係としては、とりあえず、こう書いておけばいいんじゃないか。それほど、プロレスあがりのリングスオランダの若造は美しかった。


 また休憩か。15分。


<スペシャルマッチ、1R10分2R5分>
×坂田亘(判定1−2)柳沢龍志○

 この一戦で坂田を責めるのは、お門違いだと思う。腰が回復していない坂田が、打撃しか出来ない柳澤とやれば、しかもお互い負けられない状態である今の情況では、こうなるしかないよなという一戦。坂田のガードは悪くなかったし、柳澤も打撃では打ち負けない自信があるせいか、珍しく自分から行っていたし、おれは充分楽しめた。

 「プライドみたいな戦いするな」という野次が飛んでいたが、放っておけば「プライドみたい」になってしまうからブレイクするんじゃないか。言わずもがなのことを言うなって。少なくともこの一戦に、ぶーぶー言うようでは、この前の修斗の勝田vsバレットや、UFCのモースミvsババルは楽しめない。まあこの2戦、おれも楽しめなかったのだが…。

 確かに、この一戦で会場のテンションがひたすら落下したことは間違いない。


×田村潔司(判定0−2)レナート・ババル○

 この一戦で田村を責めるのは、お門違いだと思う。今のババルが15キロ軽い相手に負けない戦いをしたら(最近、こういうモチベーションのあり方を責める気になれなくなった)、ましてや相手が田村のような正攻法なタイプであれば、こうなってしまうのは当然なのだ。

 逆に、リングスにおいては上を取ると田村のように“回る”ことが常態となりつつあったババルが、あえて回らないということは、田村のグラウンドをそれだけ警戒しているからだとも言えるし、あるいは田村が回らせなかったとも言える。さらに言えば、そうした戦いをしてしまっているという自覚をババルは持っていたからこそ、2R後半にバックドロッブもどきの投げを打って観客を湧かせてみせたわけで、ここにババルなりのシュート興行においていかに戦うべきかという、プロ意識の萌芽が確実に感じ取れ、逞しくすらあったのである。


 このスペシャルマッチ2戦において、唯一責めるべきものがあるとするならば、それはマッチメイク自体であり、前田CEOだと思う。

 訳のわからない金魚マッチを組まないことが、KOK以降のリングスの素晴らしさのひとつであることは論を待たない。しかしだ、KOKトーナメントファイナルというこの日の興行で、ババルvs田村という試合を組む意義がどこにあるのか。おれはないと思う。軽い金魚をあてて、田村が華麗に勝つところを観客に見せてメインに繋げればそれで充分ではないか。

 この翌日のディファの闘龍門では「お前らなんて所詮前座だろ」というマグナムTOKYOの煽りに対して「お前、興行ってものをわかってないな、前座の方が大切なんだぞ」とM2Kのモッチーも言っていたのである(そしてストーカー市川を見事に秒殺して見せた)。そうだそうだその通りだ。つまりこの日の田村はあくまで前座であることを、前田CEOが全然わかってないのである。


<トーナメント決勝>
○ノゲイラ(1R1分20秒肩固め)オーフレイム×

 第1回Aブロックの再戦。あの時、オーフレイムが仕掛けノゲイラがあっという間に外して見せたフロントチョークは、クートゥアーをタップさせるほどのモノであったということだし、かと言ってノゲイラを極めきれるほどのものではなかったということなのだろう。勿論、それぞれが成長した結果、それでも両者の差は同じものであったということでもある。

 2人の格闘家が1年半の時を経て対決した結果、たまたま前回と同じような秒殺という結果。しかし、味わうべきポイントを押さえて味わえば、これほどまったりコクのある結果もないのだ。満喫させてもらった。

 いやあ格闘技ってホント大河ドラマだなと思う。心底美しいと思う。


 そして、歓喜のアピールを繰り返す優勝者ノゲイラの表彰式。気持ちよく見せてもらった。


 ***


 一時期、格闘技からすっかり興味を失ってしまったことがある。原因は辰吉だった。日本タイトルを取った頃の辰吉は、「こいつは長年にわたって世界に君臨するほどのボクサーになるだろう」と予感させるに充分な魅力を放っていた。その才能と、強さの可能性に惚れ込んだ。のめり込むように辰吉を見続けた。

 しかし、世界は取ったものの、とても「君臨」といえるほどではなかったその結果を、おれは、正面から受け止めることが出来なかった。そして、格闘技に対する熱が覚めた。多分、戦績表に残る強さだけを基準にボクシングと辰吉を見ていたからだと思う。

 ところがどうだ。未だ辰吉は、無様なまでのカンバック劇を繰り返し、はいつくばるようにして現役にしがみついている。不思議なもので辰吉の無様さが増せば増すほど、その無様に引きずられるように、おれ自身の格闘技に対する熱が戻った。「記録に残るの強さ」以外のものを、おれが、辰吉に見出したからかもしれない。

 この些細な自分史でしかない、ちょっとした逸話が語る結論はたったひとつ。

 人は、自分が生きていく上で、他人に「強さ」を期待してはいけないのだ。


 ***


 送り手が投げ出した作品の中にドラマツルギーを発見するのは、受け手の勤めである。発見したドラマツルギーにどう反応するかも人それぞれ。だから今回の坂田や田村が紡ぎ出したドラマを「無様」と感じるのも、またひとつの価値観であり、それ自体をどうこう言う気はない。

 ハンがTKが金原がオーフレイムがノゲイラが紡ぎ出したドラマが極上のモノであることは、誰しもが認めるところだろう。しかし、おれにとっては、坂田や田村や、チャントゥーリアさえも、極上のエンターテイメントとして受け止めることが出来たのだ。

 つまり、おれのとっての、現在のリングスを楽しむ最大のポイントは「強さ」ではなく「美しさ」。そして「無様さ」とは「カッコ悪さ」とは、「美しさ」の一部なのだ。

 「強さ」を目指し純プロレスから出発したUWFが辿り付いた全シュート興行であるKOK。これを楽しむポイントが、180度元に戻って、純プロレスと同じ「美しさ」だったとは。

 「強さ」から「美しさへ」。

 そして、その美しさが滅びの姿でないことを祈る。




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