「明るく、楽しく、激しいプロレス」が渋谷に蘇る 2/8 DDTclubATOM大会観戦記
■団体:DDT
■日時:2001年2月8日
■会場:渋谷clubATOM
■書き手:愚傾(名前をクリックするとプロフィールの欄に飛びます)

 昨年末のジオポリス大会が個人的にイマイチだった上に、今年に入ってからclubATOM定期興行のチケット代金まで高くなってしまい(二千五百円→三千五百円)、知人の、clubATOM興行はほぼ皆勤である常連諸氏から「ホームランが減って打率が上がったって感じ。ダイエーの秋山みたいに」という評判を聞くにつれ足が遠ざかりかけたDDTなんだけど、結論から言えば今回は非常に楽しめた。

 会場のclubATOMに着いたのはちょうど開始時刻の午後七時。三分ほどしてオープニングテーマがかかる。やっぱり興行の始まりの始まりから見れるというのはいいものだ。定時退社バンザーイ!と言いかけたが、隣で見ている知人(中学の先輩:元ヤンキー)は現在失業中なのでやめといた。まぁそれは余談。

 ではまず久しぶりのDDT観戦記というわけで、現在の流れをごく簡単に。
「己の全ての権力と財力を使ってでも高木のベルトを奪う」と公言する三四郎の天敵、三和社長。
 前回のclubATOM大会では秘密兵器、大刀光(職業:水道屋&殴られ屋)を投入。MIKAMIとタノムサク鳥羽の「Suicideboyz」も加えた3vs1のハンディキャップ戦でタイトル奪取を狙うも、敢えなく撃沈。

 試合後、三四郎は「まだるっこしい事は抜きにして、来週はMIKAMI、お前が挑戦して来い! お前にハンディをくれてやる。レフェリーは三和がやれ!」とマイク。三四郎にとっては明らかに不利な条件で防衛することにより、王者としての貫禄をさらに強大なものにしようという腹づもりだ。
(special thanks to デ〜ブ・小久保

 オープニングテーマの後、自らのテーマ曲にのって、この日のメインで三四郎とKO-D(king of DDT)無差別級選手権を争うMIKAMIと三和社長がリングイン。ちょっとしたやりとりの途中、テーマ曲「FIRE」に乗って三四郎が入場。
 三者揃ったところでこの日のメインのレフェリーを担当する三和社長は「今日は3カウントでのみ試合が決着するルールだからな! おい、聞いてんのか高木!」と早くも喧嘩腰。
 このルールは言うまでもなくMIKAMIがフォールするときには超高速カウント、三四郎がフォールするときには超低速カウントでいくぞ、という暗黙のアピールであるんだが、三四郎も自らが吐いたツバを飲み込むわけにもいかず、これを了承。両者のやりとりを黙ってみていたMIKAMIも「カウントが遅かろうが早かろうが関係ねぇよ。どっちみち勝つのは俺だからよ」と自信満々に豪語する。
 なんでもMIKAMIには「とっておきの秘策」があるらしく、マイクを握って新しい必殺技の存在を匂わせた。その名も「サンダーファイヤースク〜ルボ〜イ!」というもの。なんだかわからんがとりあえず凄そうだ。喰らった奴は間違いなく即死……しないとは思うが。


 第一試合 15分1本勝負
 ○菊澤光信(8分31秒 ラ・マヒストラル)「昭和」×

 エキサイティング吉田が「諸事情」により欠場したために急遽カード変更となった試合。

「昭和」というのはその名の通り、昭和40〜50年代あたりの新日本の選手をモチーフとした試合運びをする選手。その正体は社長レスラーの夫人が入浴してるところを覗き見したことがバレて前の団体をクビになったという派手な噂の持ち主だが、それに似合わず試合スタイルは地味なタイプ。言っちゃ悪いがルックス的にも華が無いので、こういうギミックとマスクはうってつけだと思う。

 ゴング後、耳に手をあててコールを要求する「昭和」。心の中で「そのアクションのどこが昭和だ」と突っ込みを入れる間もなくロックアップに入り、ヘッドロックからの首投げやロープにふってリープフロッグといった地味ぃな攻防から、場外に出てオールスタンディングの客の輪の中心に入ってチョップ合戦や、リングに戻ってバシーン!と凄い音のするボディスラムでメリハリをつける。
 その後、手四つからのブリッジの攻防を見せるが、このときに力負けして足の位置をそのままに後方にブリッジする、というのではなく、ブリッジする前に利き足を軸に両足を前に出し、おっかなびっくりブリッジをしていた菊澤に対し、「昭和」のそれはなんのためらいもなくスパーン!という具合で決めてみせるあたり、やりなれてるな、と思わせた。

 最後は逆さ押さえ込みをカウント2で跳ね返した菊澤が、スキをついたマヒストラルでピン勝ち。
 特にリズムが噛み合っていたわけでもないし、可もなく不可もなく、というところかな。

 試合後、マイクを握った菊澤は「昭和」に対し、「アンタ、年の割に動けるじゃねえか。そうやってあまり大技も使わないで試合を組み立てるってことができないと、海外では使って貰えねぇんだよな!」と自らの体験を踏まえた上で(?)賞賛。
 続けて「オレはいま、運転免許教習所に通ってるんじゃー! いいかオマエら、試験場で一発で合格したかったらな、試験場の近くにある講習屋で『裏講習』を受けろ!」というアドバイスを場内の観客に。DDTという団体はプロレスが楽しめる上に、こういう生活の知恵も授けて貰えるみたいです。そういえば手前も免許を取るときは二俣川近くの田村塾で裏講習を聞いたっけ。まぁどうでもいいことだけど。


 第二試合 30分1本勝負
 △スーパー宇宙パワー、鴨居長太郎(13分33秒 両者リングアウト)橋本友彦、タノムサク鳥羽△

 凄かった。いや、本当に凄かった。「いい試合」というのは何度かの生観戦を重ねるうちに自然に巡り会えるものだけど、「度肝を抜かれる試合」というのはこれなかなか巡り会えるものじゃぁない。
 この試合を見れただけでも観戦した甲斐があったと言える。手前がプロレスに対して持っている座標軸が狂ってしまいかねないというか、そういう試合だった。

 ファーストコンタクトはボクシングスタイルの長さんとキックスタイルの鳥羽。

 普段は満員電車で気の強い女性に痴漢に間違われ、さんざんな罵倒をされた挙げ句に往復ビンタ、さらには駅長室から警察署に連行されて会社と家族から白い目でみられるといった悲劇的な状況に、画面いっぱいの寄り目で「なんでこ〜なるの!」という台詞を吐く姿がもっとも似合いそうなトホホキャラである長さんが、今日に限ってはやけに好戦的! ボクシングの定石を無視した大振りフックをボディと顔面に打ち分け、逆にパンチを喰らってもひるまずに打ち返す! 強烈な右フックで鳥羽からダウンを奪う!! 凄えぞ長さん!!!

 その後、長さんは宇宙にタッチ。ダウンから立ち上がった鳥羽をコーナーに投げ飛ばし、控えの橋本に「おまえが来い」と挑発。橋本リングイン。この二人の絡みも刺激的で、払い腰から腕ひしぎというコンビネーションをかなりのスピードで繰り出す橋本に対し、スタンディングのフロントチョークで橋本をマジに締める宇宙。ヒートアップする客席。

 ここからが凄かった。

 普段、我々が目にしているプロレスというのは「痛そうに見える技を実際には痛くないようにかける」という技術が存在する。手前なんかはそういう技術に対して幻滅するどころか、むしろ感心してしまうのだけど、当然ながら「痛いものは痛い」という当たり前の法則もまた存在する。
 例えば小橋や天龍の逆水平チョップ、または橋本の重爆ミドルキックなんていうのは「相手に対する遠慮」や「痛そうに見せる技術」といったものが排除されているわけで、それを殊更強調したのが「痛みの伝わるプロレス」と呼ばれるものである。

 で、この試合である。

 例えば二度目の長さんと鳥羽の絡み。ノーガードで「打ってみろオラ!」と挑発する鳥羽に長さんのいい右アッパーが入る。ここで鳥羽がマジギレ。長さんの顔面に遠慮のえの字も無いパンチとキックをガンガンぶち当てる。殴る蹴るといった風情ではない。拳やスネを”ぶち当ててる”のだ。技術もへったくれもあったもんじゃない。これはまさしく「喧嘩」である。
 二人が所属する団体「二瓶組」が掲げるモットーである「喧嘩プロレス」をいきなりおっぱじめてしまったのだ。

 二人の熱に触発された宇宙と橋本も大ヒート。この後にセミとメインがあるということも忘れたかのようなド迫力のパワーボムや打撃をガンガンぶち込む。こうなるともう手が付けられない。鳥羽も長さんも相手の顔面めがけて振り上げた拳をガンガンぶち込む。もはや沸点を完全に超えている。二人の目的は、そこにいる相手の顔面を壊することのみだ。いくら蹴ってもどれだけ殴っても壊れない相手の顔面にただひたすら、狂ったようにパンチを叩き込む二人がそこにいた。

 暴風雨のような戦いは舞台を場外に移し、そのまま全選手がリングに戻ることなくレフェリーのカウントは20を数え、そしてゴングの音とともにリングアナの「両者リングアウト」の声が鳴り響いた。
 嵐が収まるやいなや、リング上の宇宙と橋本、そして場外でうずくまる長さんに一瞥もくれずに控え室に下がる鳥羽。
 マイクを握って「ミンナ、アツスギダヨ。トバクン、コレハケンカジャナインダヨ、プロレスダヨ。デモ、トテモタノシカッタ! ハシモトクン、アリガトウ」と、橋本に握手を求める宇宙。差し出された手を握り返す橋本。コーナーにもたれかかったままの長さん。
 そして、目の前で繰り広げられた狂気の沙汰に声も出ない観客。

 手前はプロレスにおいて「どういう試合だったか?」をあらわす表現というものが、この世には絶対的に不足していると思う。
 例えば鳥羽と長さんの変態じみた拳とスネのぶち当て合いは紛れもなく「本気」「真剣」という単語で表現されるものだし、かといって「シュート」「セメント」といった類のものではないと思う。「プロレス」なんだけど、「ワーク」ではない。そして、その二人に触発された宇宙と橋本の攻防も紛れもなく「プロレス」なんだけど、宇宙は「本気」で鳥羽を蹴っていたし、橋本も「真剣」に宇宙を投げていた。

 シュートでもワークでもガチでもヤオでもなく、誰もジョブもしない、そして皆が皆全員オーバーするという、奇跡的なプロレスがそこにはあった。

 そして、それはかつて天龍源一郎が提唱した「痛みの伝わるプロレス」の、最終形態と呼べるものだった。


 ここで休憩。読者諸兄もここで一息ついてください。筆者もちょっと休みますんで。

 恒例のノーブラーwith篠社長によるグッズインフォのコーナーがあったんだけど、ノーブラーの向かって左側のおねいちゃんの喋りは相変わらずヤバイ。あれがわざとではなく本当の本当だったら、かなりの確率で自律神経をやられちゃってるのだと思う。まぁかわいいから全然問題無いんだが。スカートも短いし。
 ちなみに黒地に頭上に天使の輪が乗った三四郎のファイヤーポーズをオレンジのシルエットで浮かび上がらせ、バックに「3:46」のプリントの入った新作Tシャツは2500円。安かったので買っちゃいました。


 セミファイナル 60分1本勝負
 ○ポイズン澤田JULIE、蛇影(14分27秒 ツチノコクラズム〜体固め)佐々木貴、高井憲悟×

 佐々木貴という選手は実は手前の友人の友人にあたる人で、「友達の友達は皆友達だ」というタモリ理論を駆使すれば愚傾と佐々木選手は友達であるという考え方もできるので、手前は毎回試合を観るたびに「頑張れ心の友よ!」という声援を胸の中で送っている(まぁ佐々木選手は愚傾の顔も名前も存在すらも知らないんだけど)。

 で、ポイズン率いる「蛇界転生」と佐々木率いる「生徒会」の対立のテーマは、ポイズンの「呪文」攻撃により、健全なる精神が蛇界に犯されてしまいそうになっている生徒会がなんとかしてポイズン以下蛇界転生のメンバーを更正させようというもの。そのためにはポイズンの「呪文」への対策を講じなくてはならない。

 ファーストコンタクトはポイズンと我が心の友こと佐々木。さっそくポイズンが前にかざした指を左右に振り、催眠術のような「呪文」を繰り出すが、試合前に「今日は呪文を避ける、とっておきの技を開発したんだ!」と宣言した佐々木はなんとポイズンに背中を向け、必死にコーナーにへばりつく。つまり、ポイズンの指から目をそらすのが佐々木の言う「とっておきの技」だったのだ……って、心の友よ。それは普通「技」とは言わないと思うぞ。

 さて、この試合の一番のスポットはポイズンのピンチに乱入してきたマネージャーの蛇界坊ヘビダーとヤマモ@JWP、そして蛇影を生徒会がメヒコ流のエル・ヌド(結び目固め)で三人続けて固定したところ。自らの両手を自らの両足に縛られて身動きのとれぬ三人がなんとかして結び目をほどこうと蠢くさまは、言うなれば手足をもがれたアブラハム一家のようで、それはもう物凄いものがあった。そしてそのアブラハム状態は生徒会のツープラトンブレーンバスターを繰り出したときの衝撃でようやくほどけるまで続いていた。

 最後はキャトルミューティレーション、ツチノコクラズム(CIMAのアイコノクラズムの両手クロス版=ゴリコノクラズム)とたたみかけてポイズンが高井にピン勝ち。

 試合後にマイクを掴んだ佐々木。
「今日のところは呪文にかかったことにしておいてやる!」
 次は気を付けようぜ! 心の友よ!!


 メインイベント KO-D無差別級選手権 時間無制限一本勝負(カウント3のみ決着)
 ○高木三四郎(11分1秒 三四郎スタナー2000〜片エビ固め)MIKAMI×

 というわけでメイン。「FIRE」に乗って入場する三四郎のカリスマぶりは相変わらずなわけだけど、今日に限ってはいつもより若干しぼんで見えた。理由はいたって簡単。いつも三四郎を陰で支える名脇役、エキサイティング吉田の姿がそこに無いからだ。

 ゴング直後、いきなり三和社長にSCスタナーをぶっぱなす三四郎。この反則負けをいとわない暴挙に「思慮が足りなすぎるぞ! ついに発狂したか?」と三四郎の脳髄の安否を気遣ったが、なんせこの試合は「3カウントのみによる決着」しか認められていないため反則裁定というものが無い。つまりは自分に不利な裁定しかしないに決まってる三和社長に試合を裁かせないというのもルール上は認められるのだ。さすがはIQ180の三四郎。自分に不利なルールを見事に逆手に取ってみせたのだ。思慮が足りないのは手前のほうだった。

 試合はレフェリーがジェントル高久に代わってそのまま続行。三四郎の右腕攻め、MIKAMIのトペ(これが矢みたいに真っ直ぐ飛んでいいフォームなんだわ)、場外でのチョップ合戦という展開が続き、ほどなくして三和社長が復帰。
 明らかに怒気を拭くんだ表情に異常を感じたジェントル高久は控え室に戻るようアピールするが、三和社長は聞き入れずジェントルにボディスラム一閃! 試合を裁く権利を強引に奪い取った。

 その後は当然、MIKAMIがフォールに入ると超速カウント、三四郎のときには超低速、あまつさえ3つ入りそうになるとカウントを止め、フォールする三四郎に向かって両手でファッキューポーズ(withアッカンベーのベロ出し)。
 怒りの余り、三和につめよる三四郎の背後に、コーナー対角線を走ってきたMIKAMIがジャンピングエルボー! しかしそれを三四郎がすんでのところで交わしたために三和社長に誤爆! 三和社長、再度ダウン!!
 そこから三四郎ボトム、三四郎スタナー2000と畳みかけてフォールに入るが、肝心のレフェリーがいない……と思ったその時、一人のレフェリーが高速リングイン。なんとそれは三和社長の策略により「謹慎処分」を申し渡されていたジャッジ金子だった! カウントを入れる金子、1、2、3! 三四郎、三度めの防衛に成功!!

 というわけで、最後のジャッジのリングインなんてジャンボ鶴田がニック・ボックウィンクルからAWA王座を奪取したときのテリー・ファンクを彷彿とさせるほどバッチリのタイミングだったし、いいモン見せて貰った、という感じで大満足のメインだった。

 試合後にマイクを掴んだ三四郎は「諸事情により」欠場したエキサイティング吉田を呼びかけた。が、反応は無し。
 そこで続けて「いじけてるのかなんか知らねぇけど、来週は必ずここにエキサイティング吉田を連れてくるからな!」と宣言。陰から三四郎を支え続けた名脇役に、ようやくスポットが当たるか? 要注目。

 では総括。
 まぁ今回はとにかく第二試合に尽きる。タノムサクと長さん、そして宇宙と橋本は紛れもなく後世に伝えられて然るべき試合をやってしまったのである。
 しかし、その第二試合のインパクトにかき消されることなく、見事に興行をシメてみせた三四郎のカリスマぶりは流石である(勿論、それはMIKAMIの著しい成長ぶりに支えられたところも大きいのだが)。

 かつてジャイアント馬場が提唱した「明るく、楽しく、激しい」というプロレス三原則は、明るさの部分をメインとシメの三四郎集会、楽しさの部分をポイズン澤田JULIEと生徒会、そして激しさの部分を第二試合の喧嘩プロレスが受け持ったことによってこの日渋谷に蘇ったわけだけど、果たしてこのテンションは今後も持続されるのか?
 またまたDDTから目が離せなくなってきた。




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