最後が最高に喰われた
■団体:FMW
■日時:2000年12月20日
■会場:後楽園ホール
■書き手:Mr.Liar

[第6試合 有刺鉄線ストリートファイトスクランブルバンクハウス
       ダブルヘルファイナル6人タッグデスマッチ
       時間無制限1本勝負]

長すぎるインターバル。有刺鉄線の設営に慣れてないのだろう。段取りの悪さが目立つ。デスマッチが
行われるというのに戦慄を感じない。杉作の声だけがやかましい。お前はだまっちょれ。
FMWマスコットガールの第一位の女の子は大仁田の試合を見たことがあるという。過剰反応する俺。
思いの外、無反応な会場全体。

俺には解っていた。東と西のバルコニーに張られていたロープは実は有刺鉄線バットを吊すためのものだ
と。リングのセンターにはラダーがおかれた。ラダーを昇ると有刺鉄線バットを手に入れられるわけだ。
でも、こいつを最初にゲットするのはあいつら二人のうちどっちかだ。コーナーポストには机も立て掛けら
れた。おい、頼むからもっと情感を込めて準備してくれ。デスマッチにだって様式美というものはある
のさ。手際の悪さは見ている俺達の気分を萎えさせる。でも仕方ない。慣れてないんだから。

準備は整ったようだ。

雁ちゃん入場

ブレインバスターの放送席へ

大矢 島田裕二退席

ハヤブサも入場

放送席から離れたところに着席

な、な、な、なーーーーっんとあの荒井社長がリングに登場ーーー。

マイクを手にし、デスマッチのルールを発表。

これは凄い。あの勇士及び美声を再び俺は目にすることができた。荒井社長のコールが俺は一番好きだ。
今世紀でデスマッチを封印。エンターテイメント路線を突き進んでいく。

荒井さんは次々に選手をコールしていく。そのたびに俺の中でずっとなりをひそめていた闘争本能が
呼び戻されていくようであった。「10カウント後に試合を開始します」

馬鹿野郎、10カウントも待てるわけないやんけ  (ここからコテコテの関西風)
こちとら発狂寸前なんや。はよ、始めんかい、馬鹿たれ。
(カウント3ぐらいで待ちきれない田中と金村がリングに突進)
そやー、お前らがおっぱじめんことには何も始まらんで。がんがんやれや。(金村がバット奪取)
殴れ、殴れ、殴りまくれ。遠慮することないで。相手は田中や。なんぼぶったたいても平気や。
顔、頭、胸、腕、足。がんがんやりや。やっぱ最後はキンちゃんと将斗や。お前らが最後を締める
んや。田中は腹がすわっとる。あいつは有刺鉄線に頭から平気で全力疾走で突っ込む男や。キンもそ
うじゃ。

おーーい、ボス。場外の有刺鉄線ボードに落ちるときは背中から落ちなあかんで。足が先についちゃ
衝撃も弱まるし、見てるおいらたちにも衝撃が伝わらんのや。ええか、有刺鉄線は怖がったらいかん
のや。思い切って背中から突っ込んだ方が鉄線が垂直に刺さるので却って痛くないんやで。まぁ、
ええ。今度ゆっくりわいが教えたるさかい、顔だしな。

どいつもこいつももっと凶器使わんかい。今日が最後なんやで。何でも使っていいルールなんだぞ
。さすがキんちゃんや。いろいろ知っている。そうなんだよ。ラダーの足の部分に有刺鉄線ボード
を乗せて、その上目がけてDDTよ。受けたのは当然田中。

ギャングスター中山の竹刀は凶器ではないのか。あの叩き方はオールシュート。洒落になってない。

邪外。うますぎ。スーパーフライ。サイコー。

最高といえば黒田。完全にFMのエースだ。

今日のリングサイドの観客ども。ちょっと逃げるタイミングが遅すぎやしないかい。いいか、金
払っているから自由に見られる思っとったら大きな間違いやで。リングサイドに座るっちゅう
ことは試合成立に協力せないかんのや。おい、お前だ。俺の目の前に座ってた出っ歯のサラリー
マン、お前のことや。いつも席を離れるタイミングがみんなよりもワンテンポ遅いんや。それに
社会人なら試合が始まる前に携帯の電源切るのは常識やのに、なに「パワーホール」の着メロ
鳴らしてんのや。どけてくださいと言われたら素直にどけろ。何か言われるごとに楯突いたお前
、みんなから白い目で見られてたんだぞ。

試合は最高男が決めた。黒田が主役だ。リングにたくさんのファンがつめかける。キんちゃんのM
Cの後、黒田のパフォーマンスタイム。場内はそこそこ熱狂するが俺は乗れない。もちろん黒田は
最高だ。俺は黒田が好きだ。でも黒田は最後締めきれなかった。へたくそなのだ。ハヤブサ、雁ちゃ
んを挑発するも役者が違うという感じ。

わいはちゃんと見てたで。今日の本当の主人公は田中と金村。デスマッチを本当に理解していたのは
この二人だけだし、この二人に最後を看取って貰えてよかった。

ほんまあほや。このふたりはあほや。こいつらはちゃんとレスリングができるんやで。それにもっと
楽にデスマッチを乗り切る方法があるのに本気でやりやがって。冬木は場外で遊んでばかりいたのにな。

田中、かぁちゃん元気か。デスマッチばっかやってた頃はずいぶんかぁちゃんは泣いてたそうやないか。
あんま、かぁちゃんに心配かけたらあかんよ。FMも大事や、大仁田も大事や、君のそういう気持ちは
よう解っとるよ。本当に不器用な奴だ。なんでも一生懸命にやりすぎるんや。俺も年を取ったのかな。
今日の田中見取ったら、涙が出てきた。こんなに時代遅れな奴、周りには誰もおらんかったけど。
今まで、今まで、デスマッチを大切にしてくれて、一生懸命やってくれてありがとな。これでかぁ
ちゃんの心配もひとつ減るな。

キンちゃんよ。君はWINGにいた頃、口癖のように「早く強くなって茨城さんを楽にさせてあげたい」
って言ってたよな。いつまでもその気持ちを忘れずにな。どんどんエスカレートしていく一方の過酷
なデスマッチに君は逃げることなく積極果敢に挑み続けた。デスマッチの中に自分の生き様を求め
続けた君は輝いていた。

今日を持ってFMWから凶器使用を伴うデスマッチは封印された。けど俺はそれを20世紀の遺物
とすることはできない。

かつて大仁田厚は言った。ヒューマニズムを伴わないデスマッチは単なるグロだしかないと。間違い
なくFMWのデスマッチにはヒューマニズムがあった。ドラマがあった。

俺は最後を見届けた。実にあっさりしていた。ひとつの時代の終わりというにはあっけない幕切れ
であった。またひとつFMWから「大仁田厚」が消えた。

本当の主人公であったはずの田中や金村を差し置いて黒田が絶叫するたびに俺はしらけた。会場全体が
「最高」を体感する中、俺はひとり「最後」をかみしめて足早に立ち去った。




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