龍よ、何処まで昇るか
■団体:全日本
■日時:2000年10月28日
■会場:日本武道館
■書き手:テック

今日は実の所、会場に足を運ぶつもりは全く無かった。
土日に仕事をやるようになってからというものの、音楽やら格闘技やらのイベントは本当に選りすぐりのものを、これ!と決めて行くことしかできなくなっていた。
そんな時は仕事を早退するとか、仕事終了から行って間に合うイベントを選ぶとかいろいろ凝らす。
その中、この日は終了が遅くなりそうな仕事であるとあらかじめ分かっていた為、全日武道館は泣く泣くキャンセルになるはずだった。

だったんだけどね・・・。

朝から川田vs天龍の事が頭を離れんのだよ。初めて会場で観たプロレスは幼き自分が思いのまま叫んで応援した昭和62年の鶴龍対決。
その後もプロレス熱は持ちつづけていたが、新日と距離を置いて全日に気持ちが傾いたのが三沢率いる超世代軍の成長の過程だった。そして今日、天龍と川田が三冠を巡って戦うわけだ。思い入れがないといったら嘘も嘘だよ。

そしたら意外と仕事が早く終わった。とは言っても時計の針は既に試合開始時間を指している。今から行けば7時に武道館といった所か。決めた、行こう。決めたら早い。雨の中、電車を乗り継ぎ九段の森へ。

ここで最初の難関。当然チケットは無い、目当てはダフ屋だ。今まで無視の対象だった物騒なおっさん連中の中へ歩を進める。しかし、無視の対象だっただけに交渉術を持っていない。「割り引き割り引き」等と言っているが、いくらのチケットをいくらで売ると言うのだ。なんだか知らんがやり取り開始。

親父「いくら持ってんねん」
俺「全然無いのよ。どうにかならんか」
親父「だからいくらなんや?」
俺「ホントに無いんだ」
親父「じゃあ4000円にまけとくわ」
俺は今まで武道館のチケットは種々のイベントどれも5000円以下のものを買った事がなかった。頭では5000円のものが4000円になってると勝手に思いこんでしまったのだ。
俺「あんま安くないなあ。まあしゃあない」
言って4000円を出した。早く会場内に入りたかったのもあり、チケットの席番さえも見ないで早々と結論を出したのがまずかった。手にしたチケットをマジマジと目にしたのは、会場の明かりが自分を照らしだした頃だった。
すると、マジックで塗られた細い線の下にチケットの定価が・・・。
¥4000!くっそ!くっそ!奴らが暗がりで交渉してるのにこんな理由があろうとは。もう試合はいくつか消化している時間だ。全く持って完全にボッタクリじゃ。次があったらちゃんと自分の希望の数字を言おうと勝手に納得し、気分を害しながらも館内へ。

入って直ぐに耳にしたのが「5分経過」のアナウンス。果たしてこの試合は何試合目なんだろう。
ドアを開けた。どうやら今は3試合目らしい。会場の入りは8割・・・いや、7割かも。お世辞にも満員とは言えない。リングサイドの席にも空席があったりする。2階席に関して言えば、自分のチケットの番号を無視して数列前に座る客がいくらでもいそうな雰囲気だ。とにかく空席が多い。そして俺のチケットは、そんな空席だらけの中に座れと指図しやがる。
しょうがなく腰を下ろす、が、やっぱり武道館は見易い。気分は良くないが、別にいいかと思わせる。
視力は余り良くないけど生活に支障をきたさない程度には見えるので、普段はコンタクトを持っていない。
ここからだと目を凝らさないと選手の表情までは判別できないが、まぁしょうがないだろう。

そんな事を考えながらも試合には当然目をやっていた。
6試合しかない興行で3試合目からの観戦とはなんとも半端な話である。


越中 詩郎  マイク・バートン  
荒谷 信孝 vsジョージ・ハインズ

みんな言うけど荒谷デカイんだけどね、どうもね。試合は越中が荒谷を堅実にサポート。途中、バートンのゴールデンレフトや越中のカウンターのケツなど、見せ場を作りつつ、最後は荒谷のこの試合2発目のムーンサルとでハインズをピン。越中は巧いんだけど、どこにいてももうこのポジションなんだろうか。バートンと因縁でも作ればいいのに。


渕 正信      スタン・ハンセン  
藤原 喜明   vs スティーブ・ウイリアムス  
ジョニー・スミス   ウルフ・ホークフィールド

色を分けたタッグ同士の試合だが、なんとも焦点を定めづらい組み合わせである。
こうなったらハンセンを応援だ。本も読んだしね。組長とはどんな感じで絡むのだろう。さあ入場。いつ聞いても「サンライズ」は良い、レスラーの入場テーマとしては5本の指に入る名曲だな、偉いぞSPECTRUM!(作曲演奏)

しかし実際の試合と言えばスミスのいつもの腕殺しや組長の一本足頭突きなど、当然見られるであろう技は出たが、それ以上のものは全くなし。ウイリアムスもそろそろパッコンパンチでウケを狙うのをやめてくれないかなぁ。つーか客、そこで引くし。

ただ、試合権のない時の組長は結構面白い。
仲間が敵陣コーナーに捕まったらすかさずレフェリーに抗議に入る事数度。相手がフォールに入った瞬間、カウントワンも聞くか聞かないかでカットに入る事幾多。その動きがヤケに愉快であった。

さて、この試合の一番の見せ場といえば、渕が敵陣の場外に捕まってなにやらもつれ合ってる時に、フェンスに走ったウイリアムスがカメラマン(らしき人)と接触し、そのカメラマンが大きな弧を描き客席に吹っ飛んで行った場面。場内もこの試合の中では最も大きな声を上げた瞬間ではなかっただろうか。
別にこんなの、もう見たくはないが。

試合はスミスがウルフにリバースのDDTでピン。
・・・。なんかおかしいでしょ?・・・そう・・・ハンセン!なんだか途中出てきたんだけど(しかも組長がらみの時)スリーパーで締めた後バンバン殴ったらすぐタッチしちゃって結局それで出番は終了だよ。ぶは!やっぱ腰が悪いのかな〜。


試合を挟んで最強タッグの出場選手の紹介があった。
今年のこれは色んな意味で興味のもたれる所だったけど、会場が最も大きな反応を示したのは垣原のパートナー長井満也。
それだけだね〜、大仁田もいなければ新日からの参加もなし。
俺自身どうなるか期待していた分、実力的にも話題的にも最強タッグってタイトルが寒いな〜と思うくらい悲しい面子だった(マニアウケはしそうだが)ので、コメント却下。次行こう。ちなみに俺の思った最もバランスが良さそうなチームはケア・スミス組です。


太陽 ケア     新崎 人生
モハメド・ヨネvs 垣原 賢人

さあ、NOAH離脱後の垣原登場。どんな試合を見せるのだろうか。興味津々。彼の選択の答はなんだ!?

垣原のチームだけパートナーと別々の入場で、人生のいつもの入場シーンが終わったその後、「UWFプロレス・メインテーマ」が響くと会場はドカン!レスラーの入場テーマとしては5本の指に入る名曲だな、偉いぞ桜庭伸幸!(作曲)
垣原登場。腕には当然の様にオープンフィンガーグローブがはめてある。要注目だ。

・・・しかし、これもかなり肩透かし。
言ってしまえばこの日の垣原は、かつての全日の頃の垣原と全く同じだった。
ヨネとのキック合戦もヨネのほうが切れ味があるように見えるくらいだし、パンチも最初、ジャブをビシビシ打つも、それで試合を組み立ててるわけでもない。
しまいには「それはNOAHでやれよ!」とか「何がしたいんだよ!」などという野次が飛ぶ始末。
ケアの腰に大振りパンチをバンバン打ったり、ヨネをガートポジションに引き込んで、フロントネックロックから移行する三角締めなど、ぽいい所は見せたが、それもこれまでの垣原でできる事。
途中、グランドでの動きに困ってしょうがなくフォールに入ってしまうというお粗末なものも見せつつ、こっちにしてみれば(本人もか?)非常にストレスの残るファイトだった。

異常なほどにグランド勝負をしかけて関節にこだわるとか、NOAHの時のように、一人よがりプロレスをするとか、いろいろ選択肢はあったろうに。もったいない。

もうひとつの注目点であったケアの腰は、試合中そこを攻められて捕まる場面があるも、次のリングインの時は意に介さず動いていたので大事ではないのかも。(退場時にちょっと押さえてはいたが)

この試合で最も観客にウケたのが、内股走りからそのへなへな挙動のまま繰り出される、俺が勝手に「しずかちゃんキック」と名づけたヨネの蹴り。
客が「ヨネ蹴りもう一回!」と言うとそれに応えて再びしずかちゃんキック。楽しい奴だ。ヨネが一番活き活きとしていたな。やられっぷりも見事。

あと人生は、無難にいつもの人生だったが拝み渡りも出ずに終わった。

最後はワンツー気味のパンチ、右、左のハイキックという攻撃で垣原がヨネにピン。試合後も立ち上がれないヨネのやられ方が空しくなるくらい、ハッキリしない垣原だった。

今更ではあるが、なんだか全日の未来が不安になって来た。

まあいいんだ。今日はとにかくメインが見たいという高鳴る気持ちを押さえきれずにここに来たんだ。


川田利明vs天龍源一郎

そもそも天龍は三冠乱戦期の第一幕を飾ったレスラーだ。
そんな彼がかつて掲げた天龍革命の冴えない同志であった川田が、全日四天王へ這い上がり、渕とたった二人で全日本という名前を存続させ、対新日という大きな壁を乗り越えて、とうとうプロレス界の中心に上り詰めた。

長い年月を経て、数奇な運命に揺さぶられ、再び同じ全日本のリングに立ち、三冠ベルトを賭けて合間見える両雄。重い歴史がこの二人の間にはあるんだ。

さぁ、みせてくれ、川田利明vs天龍源一郎を。

選手入場前にコミッショナーとして、本日登場した人間の中で最も背が高いであろうジーン・キニスキーがリングに上がって四方にお辞儀をしていたが、悪いけど早く下がれ、と思った。二人の入場が待ちきれないのだ。

さぁ!天龍入場!うお〜!てんりゅぅ〜!
叫んだね。声高く。感慨深いよ。天龍が再び三冠に挑むんだもん。ブロディーも鶴田も、馬場さんも、もうこの世にいないけどさ、天龍はまだいるんだよ。叫ばずにいられますかってんだ。
そして、天龍の視線の先には川田が現れるんだよ。
うお〜!か〜わだ〜!
叫んださ。節操ないけど。新日の年間最優秀成績選手(リング外含まず)の健介との戦いを乗り越えた彼だもん。ここで叫ばずにいつ叫ぶ。

相対した二人。悪いけどキニスキーのコミッショナー宣言なんてどうでもいい。両者がコールされる中、川田の時だけ黄色のテープがリングを舞う。黒と黄色の天龍カラーは、今やこのリングでは川田カラーとなっているんだ。天龍という男がこれに何を思っているかは大体予想がつく。「そんなもんふざけんなだよ」
さあゴング。

大一番の醸し出す張った空気。にらみ合い、最初のコンタクトで力比べ、そして組み合う。天龍がコーナーに押し込むも、ゆっくりと両手を挙げ、クリーンに退く。落ちつき、貫禄、独特の懐の深さを持っているんだ、天龍っていうレスラーは。

川田の片足タックルからのグランドのヘッドロックなどを交え、静かな序盤が流れて行く。
そんな静けさだからこそ、ピリピリしてるんです、とにもかくにも。

エルボーのカマし合いが始まったかと思うと逆水平も出だす。天龍の逆水平は体を全て使って生む重そうなモーションが何とも言えず素晴らしい(小橋の連続チョップは一発一発が軽そうでいかん)。そして突如の天龍のグーパンチ!川田は腰砕け膝かッくんダウンだ!川田のこれは、鶴田のプルプル痙攣の域に達してきたなあ。天龍仁王立ち。

さらに打撃戦で川田のローキック(だったか?)で今度は天龍がダウン。
そしてサッカーボールキック!一発!二発!天龍にしてみれば、「先にやられた」という感じだろう。この蹴りは元はといえば彼の専売特許なのだから。「ちっくしょう、効いてないぞ」と言わんばかりに立ち上がり、睨みを効かせる。試合のボルテージは徐々に高まって行く。

さらに打撃合い。ここで天龍の(不恰好な)ドラゴンスクリュー。そこからアキレス腱固め。四の字も出た。そう言えば天龍はリック・フレアーともやってたなぁ、等という回想に浸る余裕も持たせてくれない内に天龍優位のグランドが終了し、再び打撃戦。

ここまで来れば間違いない。明かに川田・健介戦を意識した試合展開なのだ。打ち合い、打ち合い、打ち合い。川田のステップキック、天龍の逆水平、川田ローキック、そして、健介戦でヤケに鮮烈に見えた川田のスピンキック。
健介との戦いで思ったのが、四天王と当たり前にやり合っていた川田の技の数々は、実は鮮やかな色を発するものだったという事だ。いや、屋台骨としての戦いでプロレスラー独特のランクアップを果たしたのかもしれない。川田が妙に頼もしい。

再び再び打撃戦。不意を衝いて天龍式延髄斬りが飛び出す。これが出たら次はもちろんダイビング式の背面エルボー。これの重さも天龍ならでは。そしてWARスペシャル。川田、これは膝で簡単に逃れる。

そして出た!川田のバックドロップ!これも健介戦で妙に栄えた技のひとつ。しかし本日は一発では済まさない。無理やり起こしてもう一発!他団体で演じた試合を自分のリングで越えるんだという気構え。天晴。

ブレーンバスター比べ、川田の渾身のニーもあった。もう意地の張り合いかまし合い。川田の打撃にひるまずもっとやってこいよとばかりに肩をくいくい動かす天龍がかっちょええ。これが今の全日だ!

再び打ち合う二人、そして遂に宝刀が抜かれる。川田のジャンピングハイキック!そして、そして、ストレッチプラム!
川田のストレッチプラムには妙に色気がある。「あ”ぁぁーーーー!!」という雄叫びと共に(前歯の無い口を開きつつ)捻るその姿がいいんだ。「あ”ぁぁーーーー!!!」ギュギュギュギュギュ「あ”ぁぁーーーー!!!」ギュギュギュギュギュ・・・。
決まらない。川田が自ら技を解くと、次はこれしかないだろう。天龍への尊敬の塊の技だ、パワーボム。上がらない、上がらない。逆にリバースされる。

また打撃でやりあう中、パワーボムに入る天龍。上がらない。そこで再び不意を衝き、(不恰好な)浴びせ蹴り。そして出た!天龍のパワーボムっ!!覆い被さるもカウントは2!

またまた打撃でやり合い、天龍が場外に落ちる。外の様子を窺う川田、エプロンに上ってくる天龍に顔面への正面蹴り。場外へ落ちる天龍を追う川田。ほんの少しの場外戦。決着はもちろんこの上だ、と言わんばかりに川田が天龍をリングへ上げる。さあ、どうなるんだ。

蹴るよ、蹴るさ、蹴るしかないさ。川田は蹴るんだ。こうなったら蹴るだけだ。
これはもう、川田の愛だ。蹴ってしまうんだ利明!非情なまでのデインジャラス(ジャストミート福沢用語)Kが、天龍を蹴りまくる。
だが、だが、とどめを狙うかのごとく走り込んで来る川田に、天龍ラリアット!!!これが凄い決まり具合。
俺の持論。天龍は隠れたラリアットの名手。戦況が危ない時に、見事に流れを自分の方へ持ってくるここぞという時の秘密兵器。それが天龍のラリアットだ。この一発に興奮はピーク!!

川田は再び起きあがり、蹴りを入れるも再びいいタイミングの天龍のラリアット。そしてスピンキックをかわし様、再び出てきたグーパンチ。またまたガクガク川田。そして最後のとどめに持ってきたのが、ぐいっと川田を持ち上げてのノーザンライトボム!!!!!

それがあったか!すっかり忘れてたよ!そうか、そうだったのか!あんたはどこまでもミスタープロレスだ!

健介戦を乗り越えた川田に、同じく健介戦で決めて見せた天龍の大技。京平が三回、マットを叩く。

新生全日本の三冠王者に輝いたのは、天龍源一郎だった。


最後の最後でいいもん見ました。団体のこの先は不安だらけだけど、そんなもん今はどうでもいいや。この二人の勝負に水を差すほうが野暮ってもんだ。

今日は天龍だよ。何はなくとも天龍なんだ。風雲昇り龍は、まだまだ昇るつもりでいやがる。




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