黒と黄色が織り成す息苦しさに酔え 10/28全日本武道館大会観戦記
■団体:全日本
■日時:2000年10月28日
■会場:日本武道館
■書き手:愚傾(名前をクリックするとプロフィールの欄に飛びます)

 いきなり個人的な話からで恐縮なんですが、実はこの武道館大会から「KANSENKI.NET発足記念 愚傾の『狂い咲き生観戦ロード』」がスタートしました。この計画は、手前こと愚傾が10/28〜11/6の十日間、全部で七つの興行を行脚し、且つ(必ずしもUPされるとは限らないけど)観戦記もちゃんと書くというものです。ハッキリ言って荒行です。

 ん? 何でそんな面倒なことすんのかって? そりゃぁアレですよ。手前は当サイトの運営者の一人ですから。そんなに人様に「観戦記くれくれ!」って言うんだったら、まず自分もそれなりの量を書いてなきゃ示しがつかないわけです。そうじゃなくても今後UP予定のものも含めれば現在のレギュラーの中では手前の上げた観戦記の数は下から数えたほうが早いんだし。

 ま、そんなわけで勝手に始めて勝手に終わる計画ですが、読者諸兄におかれましては愚傾の「覚悟」みたいなもんを感じ取って頂き、見守って貰えれば幸いに存じる次第です。

 では、そんな個人的なアレはどうでもいいから早く本文に行け!っていう方のために、観戦記本文へレッツゴウ。そういえばKANSENKI.NET用に書き下ろしするのって初めてだな。気合いれて書くぞ。

・・・

 というわけで「新生全日本」を観戦するのは今回が初めてなので、事前に「見所」をいくつか自分の中で立てておいた。その中でも手前が一番注目してたのが「客層」と「ノリ」の二点である。旧・全日本はその二つが多団体に比べて突出してた団体だと思うし、だからこそ「選手大量離脱」を経た現在ではそれがどのようになっているか、というのを確かめるというのが今回の観戦における二番目に大きな目的だった。ん? 一番目は何かって? そりゃぁ「天龍vs川田」に決まってるでしょうに。

 しかし、その「天龍vs川田」なんだけど、手前が思っていた以上にその求心力は下がっていたらしく、前売りは相当に伸び悩んだらしい。招待券(通称:元子シート)もバラまきまくってたし、会場前のダフ屋の皆さんの元気の無さなんて酷いもんだった。「無い人は割り引きでいいよー」という声が悲鳴に聞こえたのは決して気のせいではないと思う。

 まぁそれでも会場に入ってみれば、そこそこ席は埋まってた。これなら満員マークをつけてもいいでしょう。もっとも有料入場者数はそのうちの何パーセントであるかは恐ろしくて考えたくもないが。主催者発表は16,300人。まぁこのくらいの水増しは旧・全日の頃から当たり前のことなのでここでは不問。


第一試合
○ジャイアント・キマラ(9分53秒 ボディプレス)奥村茂雄×

 いつも思うんだけど、キマラの国籍ってどこなんだろう? いや、別に実際の国籍でもいいんだけど、もっと気になるのがギミックとしての国籍。あのアヴァンギャルドなテーマ曲を聞く限りたぶん南アフリカ周辺じゃないかと思うんだけど、その程度のアバウトな予測しかできない。しかし、本人に聞いたところで「うーん、どこだっけ? たぶんその辺だと思うんだけどね」といった適当な答えしか返ってこなさそうな気がする。ちなみにキマラは日本語は結構達者なほうだという噂を聞いた事が有る。いや、まぁ長いこと日本で試合やってるわけだから少しくらい日本語が喋れても何ら不思議は無いんだけど。

 ところで、キマラのタッグパートナーといえば真っ先に思い浮かぶのが泉田純(現・NOAH、元・全日道場ちゃんこ番)なわけだけど、この二人は試合前の打ち合わせをどのように行ってたんだろう? 少なくとも、どちらか一人が母国語以外の言葉を使わないとコミュニケーションが取れないわけだから、よもすれば泉田が外国語を喋っていたということだって無きにしもあらずであって、それに対してキマラはひたすら「ウナラ、ウナラ」と肯いてたりということも無いとは言いきれない。しかし、もしそれが事実であるとすれば、これは由々しき問題ではないか? どこがどう問題なのかといわれたら答えに困るが。とりあえず、読者諸兄でここらへんの事情に詳しい方がいたらこっそりと手前に教えて頂きたい。

 さて、そんな試合とはまったく関係の無い与太話は置いといて・・・と言いたいとこなんだけど、実はこの試合、半分くらい見てないんだよね。各新聞紙上で既報の通り、第一試合開始数分後に大仁田が武道館入りしたんだけど、その時は北側客席が妙にザワついてるから、これはアツシが来たな!と思い、手前も試合をほったらかしてその方向に走っていっちゃったのね。結局、すんでのところでアツシの姿は確認できなかったけど。それでも夥しい数の報道陣とヤジ馬の大仁田コールで、つい数秒前までアツシがそこにいたということだけがわかった。

 戻ってきたら、奥村がキマラをエクスプロイダーで投げてた(しかも二回も!)。続けざまのミサイルキックでキマラを追いつめるも、前転式サンセットフリップの二連発から助走をつけてのボディープレスでキマラがピン勝ち。

 ちょっとしか見てないけど、奥村は随分貫禄がついたように思った。よくよく考えてみれば奥村って東京ドームから鶴見青果市場まで経験してるんだよな。これって物凄く貴重な存在だと言えるんじゃないかな。だって他にはポーゴと中牧くらいしか思い付かないし。手前の持論に「インディーを知らねばメジャーを語れず、メジャーを知らねばインディーを語れず」というのがあるんだけど、それを選手の側から体言してる奥村っていうのは、これから注目するべき存在だと思った。


第二試合
▽第2試合 6人タッグマッチ(30分1本勝負)
○神田裕之、望月成晃、望月享
   (14分32秒 原爆固め)
      土方 隆司、愚乱・浪花、TARU×

 最初に入場してきたのは混合チーム。テーマ曲はたぶん土方のもの(TARUのは何度も耳にしてるし、かに道楽のアレでもなかったから)。ということは全日での序列としては土方が一番上に来るんだろうか? キャリアで言えば浪花のほうがあるはずだけど。全員リングに揃った後、休憩前恒例のサインボール投げ。バット持参のTARUはその豪快なスイングでボールを飛ばす飛ばす。もし、先頃ジャイアンツを退団した武上打撃コーチがこの場にいたら「キミ、私はこういう者だが・・・」と名刺を差し出していたに違いない。もっとも、武上コーチといえば球界きっての喧嘩好きときてるからTARUのふてぶてしい表情に「ヘイ!カマン!」とファイティングポーズの一つもとっていたかもしれないが。

 対するM2Kは今日もゴキゲンにキックボードで入場。結構、というかかなりの声援が飛んでる。闘龍門の会場ではmayaさん以外からの声援は皆無といって過言ではない彼らだけど、本拠地ほど自分たちのアングルが機能してない全日本ではコンスタントな仕事ぶりが評価されて声援に繋がったということか。手前の座っていた席の五列くらい前の子供(推定年齢五歳)がM2Kを応援するのなんて闘龍門では考えられない光景だし。

 で、試合のほうはというと、光っていたと思うのは浪花。まず動きがいい。流れるように動く。浪花ってこんなに動ける選手だったっけか? と思ったくらい。特筆すべきは、コルバタで望月(享のほうね。成晃はモッチーと書くんで)をふっ飛ばし、得意のカニエルボーを落とす・・・と思いきや、望月が体を寝たまま体を反転させて逃げる。浪花、カニ歩きのまま追う。またも反転して逃げる望月。追う浪花。逃げる望月・・・といったところで、コーナーでTARUと土方に足を捕まれ、敢え無くカニエルボーの餌食に。カニは勿論、望月もナイスムーブ。

 もう一つ目立ったのは、TARUが胴衣の帯で相手(誰だっけ?)の首を締め、リングサイドにいた観客に手を引っ張らせるというやつ。TARUの良いところは、あのおっかない顔でこういう動きをさりげなくやっちゃうとこですな。

 さて、M2Kのほうはというと、今回は抑え気味だったかな?という印象。いや、出した回数こそ少ないけど連携もピシッと決め、それぞれが6人タッグにおけるカットプレーや分断作戦のやり方を心得てるので、試合そのものは面白かった。ただ、闘龍門マットで見せるふてぶてしさが今日は見られなかったということ。まぁ第二試合というポジションに沿った仕事をしたということなのかな。

 あ・・・土方のこと忘れてた。えっと、うーんと、あの、頑張ってください。以上。


 ここで休憩。
 アツシが登場するかと思われたが特に大きな動きは無し。


第三試合
○荒谷信孝、越中詩郎
   (12分18秒 ムーンサルトプレス)
      マイク・バートン、ジョージ・ハインズ×

 休憩明けの第三試合は、これまたテーマのハッキリしない試合。外人組の後、手前にとっては個人的に思い入れ深い維震軍時代のテーマ曲で越中組の入場。なんでもコシ(しつこいようだが天龍は越中のことをこう呼ぶ)はこのシリーズからこの曲を再び使い出したらしい。やっぱりコシのテーマ曲はコレのほうがいい。

 カードを見た瞬間から「これはコシの一人勝ちだろうな」と思ったが、案の定その通りになった。コーナーで待機中にも貧乏揺すりかと見まごうくらいチョコマカとせわしなく動いたり、リングインするときには「待ってました!」とばかりに両手でロープを引っ張って気合を入れたりと、何も尻だけじゃなくても客の目を一手に集中させる仕種は流石。当代指折りのプロレス名人だと思う・・・というか、他の三人がコシの作るテンポにまったくついていけてないだけという説もあるから話はややこしい。

 とりわけひどかったのがバートン。序列で言えばジョージよりも上にくるんだろうけど、やっぱりタッグマッチを引っ張っていくタイプではないみたい。ジョニー・エースと組んでた頃は、ジョニーが好き勝手(で、尚且つ色んな意味で予測不能)な暴れっぷりをしてたから、乱雑になりがちな試合をピシッとシメる役割を上手く演じてたように思うけど、自分が”外国人ならでは”の暴れっぷりを演じるというのはどうも苦手と見える。

 しかし、ハインズのほうは、まぁ悪くない。会場人気も高く、コンスタントにいい仕事をしてきた成果だろう。驚いたのが、先ほどM2Kに声援を送っていた子供(推定年齢五歳)が「じょーじぃ!」と熱心な声援を送っていた。この少年、ある意味将来有望だといえる。

 で、そのハインズを荒谷がムーンサルトでピン。なんか締まらない展開だったなぁ。

 試合後、コシが来シリーズから新日本への復帰を表明したらしい。そりゃそうだろうなぁ。せっかく新日本から出向してやってるのに元子さんからも天龍からも歓迎されない上に、最終戦の武道館でもこんな扱いじゃ「フザけんなですよ!」と言いたくもなるだろうに。


第四試合
○ジョニー・スミス、渕正信、藤原喜明
   (13分3秒 リバースDDT)
       スタン・ハンセン、スティーブ・ウイリアムス、ウルフ・ホークフィールド×

 全日本が現時点で用意できる最強のパワーファイター達に全日本が現時点で用意できる最高のテクニシャン達をぶつけたカード。テーマがはっきりしてていいと思った。けど、これは通例からするとセミファイナルで組まれるカードだよな。っていうかセミに持ってくるべき。そもそもハンセンとウィリアムスのコンビだぜ? このコンビにまともにぶつかってピン勝ちをスコアできるチームなんて日本にいくつあるというんだ。いや、そりゃぁNOAHを捨ててこっちに来たカッキー(この後のセミに登場)を優遇したいという元子さんの気持ちはわかるけどさぁ・・・などという疑問もカード発表の時点で持ったんだけど、それらは試合後にすべて氷解した。まぁそれについては後述するとして、まずは試合のほうを。

 名曲「サンライズ」で入場する外人組。リングインするやいなや武道館全体を包む「ウィーッ!」の大合唱。やっぱりこれがないと全日の武道館に来た気がしない。

 対するテクニシャントリオは「ワルキューレの騎行」で入場して、組長の顔を立てる。思わず傍らにボディーガードはいないかと探してしまった手前は、相当に修斗・植松にハマってきてるという証拠かもしれん。

 選手コール時、ハンセンがテンガロンハットを客席に投げいれた。こんなことは手前の知ってる限り、新日本での最後の試合(最強タッグでブロディのセコンドにつく前)以外に思い付かない。思い付かない、って偉そうに言っときながら実は本で仕入れた知識なんですが。まぁとにかく、この異例の出来事に客席もザワめく。まさか引退か・・・?

 で、それからの流れは殆ど覚えていない。というか、頭に入ってこなかったというほうが正しいかもしれない。ハンセンは殆ど試合に参加してないし、渕も組長もなんとなく試合をこなしてる感じ。ウルフに至っては組長の一本足頭突きを食らっても平然としてるといったとんでもないミスまで犯す始末。

 そして何より恐ろしいのがウィリアムスの暴れっぷり。「ブレーキの壊れたダンプカー」とはかつてのハンセンの異名だが、これは現在のウィリアムスにこそふさわしいんじゃないか? 何しろ張り切れば張り切るほど周りの選手に迷惑をかけてしまうんだからタチが悪い。間寛平演じる「足腰が弱くて杖を持っているがそれ一本では体を支えきれず、その杖で周囲の人間を叩いたりガラスや看板を割りまくる」老人にステロイドとバイアグラをバンバン打って活性化させたような・・・といえば、いかにタチが悪い暴れっぷりかわかってもらえると思う。

 圧巻なのは、場外に相手を放り出してスリーパーに捉え(そもそも場外でスリーパーという行為じたい謎)、それを振りほどかれた勢いでリングサイドのカメラマンに激突。カメラマンは鉄索越しに一回転し、カメラともども大変なダメージを受けた・・・というシーン。こういうのを見せられると、ただ「好き」なだけではプロレスマスコミなんてやってられないという理屈がよくわかったような気分になる。

 まぁそんなわけで、細かい流れはまったく覚えてないんだけど、最後はジョニーがウルフにピン勝ち。

 試合後、場内の電光掲示板に「ハンセンは怪我の治療のため、1月28日の東京ドーム大会まで欠場します」との旨が表示された。なるほど、とてもセミなんて任せられる状態じゃないのね、ハンセン。

 それにしても、ハンセンが投げ入れたテンガロンハットの意味が気になる。ひょっとして「最後の武道館」のつもりだったか? ドームでの復帰戦=引退試合? まぁ邪推だけど。しかし、そう考えても無理がないほど、今日のハンセンは元気が無かった。


 ここで、「風物詩」という呼ばれ方も今年限りではないか?と見られていた名曲「オリンビア」が流れ出した。ということは、次期シリーズである「世界最強タッグ」にエントリーされたチームが電光掲示板に発表される合図である。

 参加チームは以下の通り(順不同)です。

 ・天龍源一郎&荒谷信孝
 ・藤原喜明&ダニー・クロファット
 ・垣原賢人&長井満也
 ・マイク・バートン&ジム・スティール
 ・バリー・ウインダム&ケンドール・ウインダム
 ・スティーブ・ウイリアムス&マイク・ロトンド
 ・太陽ケア&ジョニー・スミス
 ・川田利明&渕正信

 しかし、いい顔ぶれだなぁ。バトラーツとの関係から長井はありえると思ったけど、クロファットが戻ってくるとは思わなかった。三年ぶりの参戦となるバリー・ウインダムは当時の相棒(ジャスティン・ブラッドショー)がアコライツで忙しいためか、実弟のケンドールとのエントリー。マイク・ロトンドって元nWoのマイケル・ウォールストリートのことじゃんよ。確か、ウイリアムスはロトンドのアマレス実績を買ってて、数年前のインタビューでも「ヤツは本物」と語ってたのを思い出した。あとジム・スティールというのはウルフ・ホークフィールドのこと。全日とSEGAとの契約も切れるのかしら。

 まぁなにはともあれ、いい面子を揃えたと思う。

セミファイナル
○垣原賢人、新崎人生
   (16分20秒 片エビ固め)
      太陽ケア、モハメド・ヨネ×

 手前は三沢ファンであるから、全日本とNOAHのどちらを選ぶか?といわれたらやっぱりNOAHを選ぶ。しかし、全日本は全日本で頑張って欲しいとも思うし、選手のことを悪く言うつもりも悪く言うつもりもない。まぁ元子未亡人の三沢バッシングには正直辟易するけど、三沢だって元子や川田を雑誌その他でボロクソに言ってるわけだから、まぁしょうがないわな、とも思う。どっちの言い分が正しいか、なんてのはどうでもいい。NOAHへの当てつけのようなカード編成だって、ビジネス戦略上はまったくもって正しい。NOAHファンとしてはやっぱり憤懣やるかたないけど。まぁとにかく、NOAHだろうが全日本だろうが、素晴らしいプロレスを見せて欲しい、という思いに変わりはないのだ。

 まぁそんなわけで、結果としてはNOAHを出ていったカッキーなんだけど、手前としては「いいプロレス」さえしてくれれば手前としては何の問題もない。だから、とりあえずはカッキーの再出発を見守ることにした。

 最初に例のお経のテーマが流れて人生が一人で入場。この時点で、続くカッキーも一人で入場してくるのは明白。勿論、入場テーマは”あの曲”だろうな・・・と多くの人が予想した通り、「UWFメインテーマ」でカッキーが入場。遠目で確認できなかったんだけど、着ていたTシャツはPUREBRED大宮のものじゃなかったかな。対する太陽・モハメド組が二人揃って入場したのと比べると、やっぱり相当に優遇されてるみたい。

 先発はやはりカッキーとヨネ。NOAH旗揚げ戦と同様にOFGを着用し、フェイントを織り交ぜながら上下にパンチを繰り出すカッキー。場内に緊張感が走った・・・ところまでは良かったんだけど、その後はもう酷いもんだった。中途半端なパンチ、蹴り、締め技、受け身、どれ一つ取っても光るポイントが無い。中盤以降、その眼光はもはや何をしたら良いのかまったくわかってないというような、虚ろなものにすら見えた。

 思うに、カッキーはNOAH離脱以降、「自分のあるべきスタイル」「自分は何をやりたいのか」ということを少しは考えたのだろうか? それとも、せっかく自分で考えたスタイルを全日本の鉛筆組(元子未亡人か渕か知らんが)にNOと言われたのか?

 まぁカッキーは「伝統プロレス」に慣れてないから、という言い訳に耳を貸すファンもいるかもしれないけど、手前にそんな言い訳は通用しない。田村潔司や佐々木健介といった、当時から現在までトップクラスを張ってるレスラーに土をつけた実績を持つ選手を「長い目」なんかで見れるもんか。

 基本的に手前は「どんなにダメな選手にも必ず一つはあるであろう”誉めるべきポイント”を探す」という、所謂”淀川長治”スタイルで試合を観て、それで観戦記を書くようにしてるんだけど、悪いけどこの日のカッキーに関してはその作業を途中で放棄した。そのくらい酷かった。もしこの試合がメインで行われてたとしたら「金返せ」どころか「金寄越せ」くらいは言ってたかもしれん。


メインイベント 新・3冠王者決定トーナメント決勝戦
○天龍源一郎(26分28秒 片エビ固め)川田利明×

 さて、メインイベント。ここまで凡戦続きだったこの日の武道館に「待ってました!」の期待感が高まる。しかも、古くからのレボリューションファンにしてみればこの対決の実現まで11年も待たされてるわけだから、緊張が高まらないわけがない。個人的な話になるが、手前は思うところがあって天龍を毛嫌いしてた時期があるんだけど、その間もこの二人の対決だけは見てみたいと密かに思ってた。(ちなみに今では「ミスター・プロレス」に対して最大限の敬意を持ってるつもりだし、過去にボロクソ言ってたことについても反省し、心の中で天龍に頭を下げた)

 この試合の展開を予測しろと言われたら、100人中98〜9人は「打撃の応酬によるタフガイコンテスト」と答えるはず。展開を素人に事前に読まれきった試合ほど難しいプロレスは無いと思う。予想された通りのことをやるならハードルはかなり高めに設定しなくちゃならないし、予想を裏切るにしてもよっぽど練られた展開じゃない限りファンは納得しない。その点、天龍については手前はまったく不安はなかった。むしろ心配なのは川田。川田といえば「開けてビックリ玉手箱」というか、とにかく開けてみないことにはどっちに転ぶかわからない典型的なタイプなので不安が募る。もっとも三冠戦のみに関して言えばハズレは少ないほうだし、ここぞという時にはとんでもなく凄い試合をやってのけちゃう勝負強さも持ち合わせてるので、「大丈夫だ、川田は大丈夫だ」と自分に言い聞かせるようにしてゴングを待った。

 ゴングが鳴り、すぐには組み合わずに睨み合うかつての師弟。間を置いて、お互いに吸い付くように始まった手四つの攻防がファーストコンタクト。天龍が川田をコーナーに押し込んでブレイク。この間の攻防が重い。とにかく重い。この間、呼吸するのを忘れたくらい。水平チョップの打ち合い。陳腐な言い方だが、これまでの”十一年間”を伝え合うかのようにチョップを打ち合う二人。合間に挟むグーパンチとローキックで「お互いの知らない部分」をも伝え合う。そしてそれらが矢継ぎ早に繰り出されるんじゃなくて”間”をとりまくるから、これがまた重い。サッカーボールキックの打ち合い。これもまた重い。カッキーはこの試合を見ればだいぶ勉強になると思うんだが。

 限界までチョップの攻防が続いた試合は、川田のミドルキックを掴んだ天龍のドラゴンスクリューから動き出す。まずは足四の字固め。IWGPタイトルを奪取した時の相手、武藤敬司の十八番である。続けて出したのがサソリ固め。言わずと知れたライバル、長州力の必殺技だ。その後、アキレス腱固めと続き、最後にはWARスペシャルまで出した。川田が全日本を守っている間、俺はこういう奴らと闘ってきたんだというメッセージに思えたのは手前だけだろうか。しかし川田も負けてはいない。三沢のアゴを砕いた後ろ回し蹴り、田上を奮起させた起き上がりこぼしチョップ、小橋を沈めたラリアット、そして健介から殊勲のスリーカウントを奪ったジャンピングハイキックで天龍を追いつめる。天龍が留守にしていた全日本を守ってきたのは俺だという、強烈すぎる意地を感じさせた。

 しかし、意地っ張り合戦こそ天龍がもっとも得意とするところ。かつての弟子にグーパンチを容赦なく浴びせつける。強烈なダメージにグラつく川田。ここで追い討ちをかけんとする天龍の顔面に、一筋の閃光が走った。川田が天龍の顔面を殴ったのだ。かつての師匠に臆する事なく、思いっきりその顔面をブン殴ったのだ。この瞬間、二人が「師弟関係」であるという事実は遥か彼方へ飛んでいった。川田が、天龍にとっての「ライバル」に、十一年かかってようやく登りつめた瞬間である。そして川田は、これまで数々のライバルを捻じり倒してきたストレッチプラムを天龍にも繰り出した。だが、天龍はギブアップしない。天龍を場外に出し、鉄柵に振る川田。ダウンする天龍に川田の容赦無い顔面蹴りが襲い掛かり、天龍は鼻血を出しながらリングへ戻る。川田は続けて蹴りを放つ。が、天龍は倒れない。「金権プロレス」と叩かれても、長州にサソリ固めを決められても、橋本にどれだけ蹴られても、「夢の架け橋」を渡らなくても、WARが倒産しても、決してギブアップしなかった男の意地は、川田の執念をもってしても崩れることはなかった。それどころか起死回生のラリアット・で川田をふっ飛ばした。そして、この時点で勝負あった。ダウンする川田を引きずりおこし、グーパンチを一発。川田の意識が朦朧としたところにトドメのノーザンライト・ボム一閃! 和田京平の手がマットを三回を叩いた瞬間、天龍の11年ぶり、二度目の三冠王座戴冠となった。

 試合を観終わった瞬間、かつてないほどに体力を消耗した自分に気がついた。「息苦しさ」を感じていたからだ。プロレスを観ている最中に呼吸をすることすら忘れてしまうということは手前の場合よくあることとまでは言わないまでも珍しいことでもない。しかし、その「息苦しさ」を、ゴツゴツした打撃の合間にみせる「間」だけで作り上げてしまう天龍と川田の力量はどう説明したものか。もっとも適切な例えは「サウナ風呂」といったところか。サウナ風呂の中は、とにかく暑苦しく、空気が重く、呼吸をすれば熱くて重い空気が肺の中に飛び込んでくる。だけど、その中から一歩外に出ると、後はこの上なく美味いビールが待っている(下戸の人はコーヒー牛乳と置き換えても可)B息苦しさが心地よい。この試合はまさしくそういう試合だった。

 ところで、縁起でもない話で恐縮だけど、天龍はもうこれでいつ引退してもいいところまで来たんじゃないか? 少なくとも、手前はそう思う。いや、天龍の試合をもっともっと観たいとは勿論思うけど、もし今「辞める!」って言い出しても「アンタにゃ遣り残したことがあるだろう」とは言えないんじゃないかな、と。だってさ、三冠巻いて、ホーガンとやって、阿修羅ともう一回組んで、長州とやって、大仁田と電流爆破やって、高田ともやって、マグナム・トーキョーとも組んで、IWGP巻いて、全日本戻って、そいでまた三冠巻いて・・・。鶴田が天に召し、前田が引退したいまとなって、天龍に一体何を望めというのか。WARを旗揚げしたときに残した「俺についてくれば後悔はさせない」という公約はもう充分に果たしたのではないか。天龍自身も、そのファンも、つくづく幸せなプロレス人生を歩んでるなと思う。うらやましいよね。ハッキリ言って。

 さて、この試合をリポートするにあたって、手前は段落を極力減らすようにした。それは、この試合を支配していたサウナ風呂のような息苦しさを、一つの段落に可能な限り詰め込むことによって読者諸兄に伝えたかったからだ。天龍は常々「ハンセンやブロディとぶつかってきた奴の強さを・・・」と口にする。つまり、天龍はそれだけ自分のプロレスに自信と誇りを持っているわけだ。また、そうじゃなければこれだけの試合なんてできやしないはず。自分に自信を持とう。「自分の筆力に自信が無ければこれだけの長文なんて書けないぜ」くらい言ってやろうじゃないの。その自信と誇りが、手前が天龍から教わったことだ。


 では総括。
 冒頭で書いた興行全体の「客層」と「ノリ」についてなんだけど、心なしか微妙に違うように感じた。

 まず「客層」なんだけど、おねいちゃん系の客が随分減った。これは深刻だ。やっぱり丸藤と小橋がいないのはそんなに大きいのか? で、その他の野郎の観客も、所謂「全日信者」っていうのはやっぱり減ってるみたい。善し悪しじゃなくて単純な比較として言いたいんだけど、いまの全日には「分裂以降」の客筋がだいぶ増えたらしく、かつての全日本にあった空気はNOAHが引き継いでるという状態のようだ(繰り返し、どっちが良いとか悪いとか言ってるわけじゃなく、単なる比較をしているに過ぎない)。

 だから、必然的に「ノリ」も違ってくるんだよね。そりゃ武道館名物「京平コール」や「重低音ストンピング」や「試合後にリングサイド集合」はあるにはあったけど、熱気が足りないんじゃないの? とは少し思ったのね。そりゃぁあれだけタダ券バラまいてりゃ自然とそうなるわなという気もするが。いみじくも誰かが言ってたけど、いまの全日本にかつての全日本を求めるのは間違いだ、と手前も思う。全日本は変わったんだよね。ただし、それを悪く言うつもりはこれっぽっちもない。願わくば、その変化した結果が良好なものになれば、と思う。面白そうなカードを組んでくれれば手前はまた興行に足を運ぶ。それだけのこと。

 でもねぇ、やっぱり今日はメインで救われたという感じが強すぎるよ。もし、元子さんが「創立三十周年」以降も興行を続けていきたいなら、もう一回よく考えるべきじゃないかな。同じく実質ワンマッチで引っ張った横浜アリーナの長州vs大仁田があれだけ盛り上がったのは、アンダーカードで各自が立場をわきまえた仕事をしてたからというのもあるはず。

 近い将来、全日本という名前の神通力が薄れる日が必ず来る。しかし、そういう時に限って全日本には「神風」が吹くんだよな。とりあえず今回は、天龍と川田が起こした、熱くて息苦しい黒と黄色の神風に乾杯。美味いビールが飲めました。サンキュ。


 追記:
 後日、この武道館大会ではおよそ8000枚もの招待券がばらまかれていたという話を聞いた。ちなみに実券はその半分の4000枚。
 う〜ん・・・すっげえ執念だなぁ、元子未亡人。
 
 というわけで、以上、NYのデ〜ブ・小久保通信員からの怪電波情報でした。




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