04年「格闘美」ファンはライブの現場で、何が面白いのかを知っている
■投稿日時:2004年9月28日
■書き手:田中正志

JDスターの「格闘美」興行が、女子プロレスの楽しさと興奮を伝えてくれている。


可憐な少女たちが、時に激しく、そして華麗なる格闘絵巻を披露する小宇宙。ひいき の選手を応援する感情移入にこそ、5000円程の入場料を払って週末のプロレス小 屋に通う価値があるのだ。


マット界全体の凋落が指摘されて久しい。とくに女子プロレスは、アニメや漫画と並 んで言葉の障害を飛び越えて、実は世界中に隠れマニアが信じられない規模で存在す る、日本の誇る文化エンタテインメントの筆頭なのだ。ところが25歳定年制が撤廃さ れて以来、オバサン選手たちがリングを占拠したままで、予備軍アスリート少女たち にとっても、今の状況は夢も希望もなくなってしまった。


微笑と明るさがなければ、女子興行に休日の時間を潰す誘惑が半減したも同然だ。そ こに割り込んだのが、04年から名称改定し、夏以降は2週に一度の割合で開催されて いる「格闘美」だ。週刊ゴング初の裸体写真袋とじページを飾った秋山恵、岸和田の だんじり娘・ASAMI、女子プロでもっとも可愛いと評判の風香、そして女優兼業 のアストレス出身で、プロレスラーとしても磨きがかかってきた桜花由美の4少女を 軸にしている。闘龍門JAPANだって、設立当初からキャリア的には新人でしかな いCIMAやマグナム東京たちが最初から主役だったから、新しいプロレス団体は成 功した。美少女がエースで何の文句があるのだろうか? 


現在の女子団体相関図は、長与千種率いるGAEAだけが、クラッシュギャルズに熱 狂した世代が子供も連れて集う固定客に支えられているが、他はいわゆる若い男性客 をターゲットにしている。老舗の全女ですら、カードの大半を外部のフリー選手参戦 で埋めてしまうご時世だから、名称はそれぞれ違っても、各プロモーションの差がメ ンツからもなくなっている。だったら圧倒的に美形を揃えているJDが人気を集める のは自然なことではなかろうか。


9月19(日)は興行ラッシュとなり、後楽園ホールのゼロワン、横浜文化体育館の シュート・ボクシング「Sカップ」、ディファ有明の柔術大会までが関東圏で競合す るだけでなく、WOWOWではバーナード・ホプキンス対オスカー・デラ・ホーヤの ボクシング生中継もあった。格闘技記者泣かせの過密ぶりであったが、私が選んだの は新木場1st RINGでの「格闘美」だ。そしてその選択は間違っていなかった。 この日、渋谷シュウのデビュー戦現場に立ち会える喜びから、ベテラン吉田万里子が 11分41秒、エアレードクラッシュで大善戦した桜花由美を沈めるまで、華麗なる女子 プロレスの魅力を堪能させてくれている。


「アストレス部隊の舞台」という偏見は、良い意味で裏切られる仕組みだ。WWEの ニセモノ巨乳のDIVAたちが3、4分の制限時間で、最初から最後まで何度もリ ハーサルされたプロレスごっこを披露する北米のリングと違い、常設の固いマットに 身体を打ち付ける通常の激しい攻防がすべてで、「アストレスには顔面攻撃はご法 度」は、もはやマイク上のギャグになってしまった。


ただし、「格闘美」をアイドルやレースクイーン系のイベントと捉えればいいのだろ うが、「プロレスと謳っているのはいかがなものか?」との辛口批判を聞かされてい たことも記しておく。コーチにはアジアン・クーガ(河童小僧)らインディーズ選手 が練習させているそうだが、リハーサルもせずにショッパく意味の無い長い試合をさ せてもボロが出るだけ。身体能力、受身などの基本も出きてない練習生レベルを、容 姿のみでデビューさせていると陰口を叩かれていた。アイドルオタクのみを対象にし ている150人程の前での発表会イベントが、プロレスとしてまかり通っている現状 を問題視するわけだ。

 確かに全女のアイドル・レスラーと称せられた先人たちと比べてもレベルは一目瞭 然。興行の手法はレースクイーンの手法そのままで、少ない常連客から高い金を取る ことで成立している。日銭目的とされ良識あるイベンター、プロダクションがタレン トとファンの境界線が低くなりアイドルの価値を落とすのでもっとも嫌がる撮影会、 パーティーを行っているのもビジョンが無い証拠に取られかねない。この日もチケッ トの半券があれば、大会終了後に2000円で「ファン感謝パーティー」に参加でき る二段構えの構成で運営されていた。


もっともファンは、プロレスに何を求めて電車を乗り継いで会場にやってくるのか?  JDでは今回15回目となる「格闘美」シリーズと平行して、「これぞ女子プロレス !」をテーマにした「エキスパート」という別枠興行が翌週23日から予定されてい る。本日のメインで、メキシコ流関節技ジャベの応酬など、技術的に高度なものを披 露してくれた吉田や、柔道出身で格闘技戦にも実績のある藪下めぐみらを軸とする興 行だが、そりゃプロレスの難易度は「格闘美」の主役たちよりダントツだろう。しか し下手をすれば、フリーの職人さんたちが「お仕事」をしに集められただけで、感情 移入する要因がなにもないまま置き去りにされる危険性がある。じっくり高度な女子 プロの真髄を味わいたいファンだって、応援する選手に課せられたテーマがそこにな ければ、会場に来るメリットがないからだ。


 たとえば本日の第一試合、デビュー戦の相手に向かい合ったAKINOは、ゴング が鳴る前に「ちゃんとやる気があるのか?」とでも言いたげに、相手の目の輝きを チェックしていた。そして背中や胸板に、バシバシと音を立てて非常なキックを叩き 込んでいったのだ。最後はドラゴンスリーパーに渋谷がタップ。しかし10分を超える 試合は、とてもデビュー戦とは思えない試合運びで、新人類の出現に驚いたのであ る。こういうのが観たくてマニアは主催者発表259名の新木場の小屋に通うわけ だ。


秋山恵には熱心な常連マニアが付いている。「アイドル世界一決定戦カード」でもあ る風香との6分間は、あっという間にシューティング・スラムで終了した。親衛隊は 「もっと見たかったのに」と不満顔だった。それでいいのだ。


タッグマッチはBaby-M&MICKEY☆ゆか組が、どうやら現場監督らしいド レイク森松&石川美津穂組と対戦。最強ヘビメタ軍団パンテラを入場曲に使い、キッ クで試合を組み立てる格闘技色の石川が、永遠のベビーフェイス役覆面コスチューム のMに丸め込まれるストーリーだったが、プロレスは4名とも下手で、長い試合をや るには課題が残った。


本来ならエキスパートそのものであるGAMIにせよ、必死の大熱演で小さい体を酷 使したMARUとのカードがアイドル対決の余韻を凌駕したわけではない。「風香 ちゃんと対戦するまで“格闘美”に参戦する!」との、いつものマイクで笑わせた定 番の粋のまま。これは救世忍者乱丸VS.さくらえみ戦の中だるみと一緒。15分経過の アナウンス後、レフェリーの「ラスト・スパート」の合図が客席にも聞こえていた。 Queenの「ムスターファ」で入場するさくらが、頭を何度もバコン、バコン蹴ら れる19分51秒のマッチメイクが、秋山恵のセクシー写真集にサインを入れてもらうた めにやってきた客筋に届いたかどうかは疑問になる。


桜花は立派なメインイベンターに成長していた。吉田は「こんなんでまた次やっても 勝てるわけがない」と詰ったが、ファンは勝ち負けなんかどうでもいい。ライブ空間 で確かめたかったのは、桜花と一緒に戦った折れないハートの共有である。それこそ が、なぜファンが今、JDスターの常連になろうとしているのかの答えなのであっ た。


プロレスリング・ナイトメアの本拠地バトルスフィア東京も、リング常設の小屋会場 としてインディーズ・マニアに知られているが、駅からさらにバスかタクシーを利用 せねばならず、交通の便が良くない。新木場はJR京葉線なら八丁堀から快速で一 駅。地下鉄有楽町線でも行け、新宿、渋谷からりんかい線で直通という利便性もあ り、駅前だから迷うこともない。10万円で借りられる小会場の熱気こそがプロレス感 動の原点である。対立概念としての「エキスパート」が旗揚げしたことで、「格闘 美」は逆に15回目にして一本立ちした。


次が待ちきれなくなったら、もはやプロレスのとりこである。それでいいのだ。
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