北海道の田舎で興行の性質を思う〜北都2連戦を見て〜
■題名:北海道の田舎で興行の性質を思う〜北都2連戦を見て〜
■日時:2004年9月12日
■書き手:桜新町長五郎

昔、北海道のとある田舎町で、「夏祭りに呼ぶ歌手を誰にするか」でモメゴトが起こった。 商工会青年部らの若者は「ff(フォルティシモ)」ハウンドドッグを推し、壮年の方々は 「さざんかの宿」大川栄策を推して、どちらも引かず膠着状態となってしまった。続く論争を 見かねた老年層が一言。「面倒くせぇ。どっちも呼べや!金出しゃあ来るんだろ!」  こうして前代未聞の、夏祭りジョイントリサイタルは、その幕を開ける事となった・・・・。 言うまでもない事だが、大川栄策を見に来た人がハウンドドッグで盛り上がるわけじゃないし 逆もまた同じ。と、いう事で1+1=2の盛り上がりでしかなかった。


この話には、「興行」という魔物が持つ、一つの要素が含まれている。興行に足を運ぶ 大人には、大小、濃淡に関わらず、興行を観る事や出演者に対する思い入れを代表とする、 「心構え」が存在する。生きている上で限られている時間を割き、他にする事、出来る事を 横に置く、という手間をかけているのだから、何かしらの思いがあって当然、なのである。 大川栄策を観に来た人が、大川栄策の歌を聞いて盛り上がるのは自明の理である。が、 彼の歌ではハウンドドッグを観に来た客をその盛り上がりに巻き込むには至らなかった。 それは、「ハウンドドッグを観たい」という客の思い入れを大川栄策では突き崩せなかった 事に尽きる。(逆も同じである。)
これはある意味、致し方ない部分と言える。音楽という大きなくくりの中で、大川栄策は演歌、 ハウンドドッグはロックという分野を突き詰め、音楽の幅を狭める事によって人気を得た 人達だから。彼らの幅の中に入ってこない(これない)人の心は動かしえなかったからと いって、彼らの価値が下がるものでもない。但し、動かしえない=彼らの持つ価値の限界、 という事なのも、また事実である。


この事を踏まえた上で。
以下、北都プロレス9/1共和町大会の試合は<共>、9/2仁木町大会の試合は<仁>とする。
ちなみに、共和町と仁木町は、北海道の日本海側に位置する隣町同士である。
(参考URLhttp://www.town.niki.hokkaido.jp/asobi/kinrin/kinrin.htm
入場数もほぼ同じで、客層も子供が半分弱、年輩の方3割、残りが青年〜壮年層、札幌からの 異邦人2名(うち一人は当方)という点もほぼ同じ。主催&仕切りが町の商工会青年部である 点すら同じである。そして、客のほとんどが「プロレス」を観に来ているが、選手の事は詳しく 知らない、という点すら一致している。唯一違ったらしいのは、仁木町では試合前に慰問した 施設(幼稚園や学校、高齢者施設など)が多かった点。それに合わせたか、仁木町大会では 第0試合として、レスラーvs子供達、という試合がラインアップされていた点、である。


第一試合;○ケン・片谷(9:11バックドロップホールド)梅沢菊次郎● <共>
       ○ケン・片谷(9:36 がんじがらめ)末吉利啓●<仁>

 第一試合を片谷に任せている点は同じである。インディーの中では恵まれた体格(公称185cm102s) を持っており、ともすればインディー選手にありがちな危なっかしさを感じさせない、技の確実さと重さ がある。青年〜壮年層が心のどこかで持っている、「プロレスはSHOWである、八百長である」という 余計な知識を吹っ飛ばす迫力と、そして鳴り響くマット音が揃うので、片谷は第一試合に適任と言える。

<共>片谷に迫力で対抗出来る梅沢を持ってきて、ゴツゴツした試合を展開。
<仁>イキの良さとエルボーへのこだわりを持つ末吉を受けて立つ片谷、という試合展開 このカード編成は結果的に大正解となる。


第二試合;○ジャーディ・フランツ(16:48 1と1/4回転スプラッシュ→体固め)JJパレズ●<共>
       ○JJパレズ(11:18 サードエクリプス)ジャーディ・フランツ●<仁>

 腕の取り合い〜寝技の攻防という、オーソドックスな展開ながら、技を繰り出すスピードの速さは 拍手モノであり、実力がある事を伺わせる。線の細さは否めないが、01後楽園やNOAHディファでも、 ある程度の評価を受けるだろう。プロレスを見慣れた都市部のファンなら、喜びそうだ・・・だが・・。

<共>来日初戦のせいか、客の反応まで目が届いてなかった。スピーディーな展開ながら、 5分過ぎたら客が飽きてきた。これは、緩急というか、技の構成の問題なのだが、技は多彩なのに 立体感が欠けた。この客層なら、フランケンやヘッドシザーズより、ドロップキックだよ。 <仁>昨日の試合に対する助言があったんだろう。スピーディーな攻防の合間合間に、ドロップ キック相打ちとか、コーナーポストでの攻防などの立体感が出てきていた。

この試合への評価は、お子様達の反応が如実に物語っていた。<共>では試合に飽きて、 会場を走ったり、友達とじゃれる行動が目立ったが、<仁>では試合を真剣に観て、しかも 興行終了後、親に「あの外人、なんて名前だっけ?」と聞くお子様達多数。


第三試合;○アジアン・クーガー(10:29 ジャーマン)ワールドテロレスリングlpt●<共>
     ○アジアン・クーガー(10:20 ジャーマン)ワールドテロレスリングlpt●<仁>

 結果だけを見るとほぼ同じだが、これが全く趣の違う試合だった。
<共>テロがシリアスヒールな試合展開。クーガーと見事な技の攻防を見せた。それがクーガー の場外ギロチンや、リング下に仕込んだパイプ椅子でテロを埋めての、トぺ・アトミコを見事に 引き立たせた。試合展開上、見事に緩急の取れた試合。終了後、テロにも客から惜しみない 拍手が送られる。

<仁>テロは入場段階からパイプ椅子を持って現れる。ファイトスタイルは「悪役」。
「クーガー!」ってお子様の応援が会場中に響く。おそらく、慰問先でクーガーが人気だった 事を利用したのだろう。この機転は見事。試合後、勝利を喜んだお子様達がクーガーに 群がる(笑)。こんなクーガー人気を見たのは、記憶にないな・・・。


休憩;<共>アトラクションとして、地元の郷土技能保存会による太鼓披露。
    <仁>レスラーとの写真撮影会&クジ引きによるサインプレゼント。クーガーのサインを求めて走り回るお子様達の表情が印象的。


第四試合;○超人勇者Gヴァリオン&プロトタイプヴァリオン(17:37 体固め)近藤博之&末吉利啓●<共>
     ○超人勇者Gヴァリオン&カイザーヴァリオン(15:42 腕サソリ固め)プロトタイプヴァリオン●&梅沢菊次郎<仁>

 4人中3人は一緒で組み合わせが違う(??)試合。ちなみに、通常はGヴァリオンは青マスク、 プロトタイプも青、そしてカイザーが白なのだが、ここでも見事な機転があった。

<共>Gヴァリオンが白かった(笑)ため、ヴァリオン組は色で区別出来た。さらに試合前の花束贈呈 がヴァリオン組だけ、という頓知もあり、客はヴァリオン組をベビーフェイスと認識した。
ヴァリオン組が危機に陥ると、客からの声援が飛んだ。「しーろ!しーろ!しーろ!」「あーお! あーお!あーお!」お子様達の声が会場に響き渡る。なんとも微笑ましい光景。

<仁>Gヴァリオンが青、カイザーが白(昨日観たような気が・・・)、そしてプロトタイプが青と 通常だったのだが、会場人気は菊次郎に集中した。そういや花束は両陣営に渡されてたな。 マスクマン3人に対して唯一の素顔&スキンヘッドなのに加え、名前の親しみやすさ、そして おそらくは慰問の際に何かあったのだろう。お子様達の視線は菊次郎に釘付け。
さらに、新日の中西を髣髴とさせるファイトスタイルが客の盛り上がりに拍車をかける。二人投げ のブレーンバスター、二人を吹っ飛ばすスピアー、そしてアルゼンチン・・・この、能書き不要の わかりやすさは地方巡業が主の北都では貴重である。
最後、ヴァリオンズが見事な飛び技からのダブルの腕サソリで試合を決めた時、拍手の中に 「菊次郎、負けちゃった・・・」と残念がる人達が何人もいたのが印象深かった。


定番の全員&商工会青年部参加バトルロイヤル;
ケン片谷優勝<共> Gヴァリオン優勝<仁>

笑いの絶えない試合だった。実は始まるまで<仁>の方は不安だったな。何せ、<仁>の チラシ(商工会青年部作成)のカード紹介に、「一般の方、参加出来ます」って書いてあったんで、 どうなる事やら・・・と思ったんだけど。結局、商工会青年部のみの参加だったから助かったと 言うべきだろう。

サインボール投げが始まると、<共>ではボールを追って走る人達が多く、<仁>では、 リング下へボールを貰いに行く人が多かった。これは当方の勝手な印象なのだが、 <共>では客は、この興行を「面白かった」と思い、<仁>では「楽しかった」と思った事の 発露として、このような反応の差が出たのだろう、と思う。

<仁>の帰り、列車待ちが1時間以上あったため、駅近くの居酒屋「より道」に寄り道した。
そこで美味しいポーク・バーなぞを食いながら、同席した地元客の方(お子様連れ)とお話しした。
お子様達は、試合の話や菊次郎の話をしていた・・・。酔いが回りつつ、ふと、思った事がある。

「プロレスとは、なんと幅を持っている興行だろう」

その日の客の雰囲気を捉え、機転を利かせて客を盛り上げる事が出来る興行、というのは 数少ないのではないか。当方が思い浮かぶのは、お笑い系(「笑点」の地方巡業など)くらいか。
ほぼ同条件の場所で行われた2興行。共に盛り上がったのだが、これ程、流れが違うモノに なるとは想像出来なかった。それは、主催者たる商工会青年部側の準備の違いもあるだろうが、 僅かな雰囲気の違いを見事に捉えたレスラー&団体側の努力が主であろう。お子様〜 老齢の方まで、多くの人が満足して帰っていったのだから、動員が少なかろうが大成功である。
何年か経って後に、また興行があったとしたら、ほとんどの客はまた来るだろう。そして、 今回来なかった人を連れてくる客も結構いそうな雰囲気であった。

古くは二次Uや、最近では闘龍門(ドラゴン・ゲート)とか01のように、プロレスの持つ一側面 に特化する事で興行を成立させている団体がある。しかし、それは団体や選手に強い思い入れ を持つ人が集まってくる、都市部でしか成り立たない。猪木・馬場・大仁田並みの知名度を 持った選手がいない限り、地方での動員は困難だろう。

そして、都市部でしか成り立たない興行は、飽きられると終わりだ。さらに、何かに特化する 事によって目立ってくる「激しさ」(二次Uなら打撃、闘龍門なら飛び技や喋り、など)について いけるのは、ある限られた年齢層である。その層も年齢を重ねるとついていけなくなる。

また新たに、ついていける年齢層を開拓していければいいが、団体の体力が持つかどうか。
幅を狭めることは、一時的に大きなエネルギーを発散して求心力をもたらす。しかし、ほぼ イコールで、狭めることにより、可能性とか未来というモノを振り捨てる事になるようだ。

総合格闘系の隆盛に対し、プロレスの復権とか人気回復が語られる事が多い。迂遠かも しれないが、団体は選手層を厚くするだけじゃなく、それぞれの選手の特色が被らないよう 考えていくべきじゃないか。目先としては何かに特化した方がウケる=短期的には商売になる、 だろうが、続かないだろう。

今、選手の層が厚く、特色があまり被らず、幅を持っていると言える団体は、新日、DDTくらいか。
その後に続くのはNOAH、全日となるのだろう。選手層が薄い団体は、ともかく必死に考えて 幅を持たせていく必要があると思う。
所属選手が一人もいない北都に、この幅があった事への驚きと共に、プロレスが進むべき未来 の一つの道筋が見えたと思う。ただ、これが全団体に通じる「正解」と言えるかどうかは、 保証の限りではないが・・・・。




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