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格闘スーパースター列伝「不動の心!! 近藤有己」(2回)
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■題名:格闘技スーパースター列伝 ■日時:2004年6月9日 ■書き手:グリフォン |
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「近藤有己選手の入場です!」 リングアナが、やや気取り気味に人差し指を立てながら、このリングあがる男を紹介し、続いて入場曲が流れると・・・会場には、少しばかりの違和 感が漂った。 この会場で、近藤有己の今までの戦いを見てきたものは、決して少ないわけではないが、多数派ではやはりなかった。その多数派は、日本期待の新 人のPRIDE初見参と聞き、勇壮な曲と共に気負って花道を闊歩する若武者を期待していた、のだが・・・ 流れてきたのは、清浄な声で「癒し系」とされるエンヤの歌声だった。 ♪One day, one night, one moment My dreams could be Tomorrow. One step, one fall, one falter, East or West, Over Earth or by Ocean: One way to be my journey, This way could be my Book of Days. …….. ------------------------------------------------------------------------ 一日が、一夜が、そして一瞬が・・・、私の夢は、明日につながっていく 一足を踏み出せば、落ちていき、ふらつくこともある 東へ、西へ、大海原を、地球をまたにかける、 それら全てが、私という本の1ページになっていく・・・ ---------------------------------------------------- その音楽同様、近藤有己の顔も、また穏やかだった。 「お、おい、これから一大決戦に向かうというのに、あの若いのの落ち着きぶりはなんだ・・・」 「まるで、自分の家への帰り道のような・・・」 本人に変わって、実況席のアナウンサーがお茶の間の緊迫感をあおる。 ここで、当時の実況を再現してみよう。 「パンクラスの看板を、背負ってきます。 『なんとなく、言葉では言い表せないものがある』 近藤は、その背負ってきたものの意味を、そう表現しました。 パンクラスの栄光を、一瞬にして砂にしてしまう可能性と 背中合わせとなるPRIDEのリング。 見るものに刹那感を感じさせるところに、この男のロマンがあります。 近藤がこのリングで何をし、何を伝えてくれるのか、 はたして近藤の出てきたその答えは何なのか・・・」 (2003年12月31日、フジテレビ「男祭り」放送より) のちに、このアナウンサーはフジテレビの社内研修用資料で、こう回想している。 「もちろん資料もプロフィルも戦績表も、全てそろえていたんですけどね。 歩いている選手の表情を見たら、頭の中で『?』というマークがどんどん大きくなってしまったんですよ。 ええ、刹那感という言葉も、とっさの印象で出てきたフレーズです。 いま聞きなおすと、最後は疑問形の連発ですよね。 教科書的に言えば、0点の実況なんですが、・・・こんなことを言うと怒られますけどね。 実をいうと、あの選手のあの光景を表現するには、あれし かなかった、100点じゃないかって思っている自分も、実はいるんです。」 余談が、過ぎた。 リング上で、ついにあいまみえた、ハイブリッド・レスリングの若き雄とブラジリアン柔術の百戦錬磨の重鎮。 「少し、体格は予想より小さいかな。ウエイトトレか何かで、ビルドアップしてくると思ったが・・・」 ベテラン・マリオは、試合直前にわずかな予 想との誤差を修正し、さらに勝利への方程式を確実にせんとしていたが・・・その後の会場へのアナウンスは、さらに大きく彼の予想を超えてい た!! 「体重の軽い近藤選手が、4点ポジションによる攻撃を認めたために、この試合は通常ルールで行われます!!」 会場はどよめいたが・・・マリオは軽い失望を覚えていた! 「いかんな、日本人は・・・、過激なルールを認めればお客さんも沸くし、自分の虚栄心をも満足させるだろう。しかし、それはサムライというより カミカゼ、スイサイド・アタック(自殺攻撃)にすぎん!! わたしは会場がガッカリしようが、本人が望んでいようが、ミノタウロがボブ・サップやセーム・シュルトと闘うときは4点ポジションは絶対に認 めさせなかった!!(ミノワは残念ながら、忠告を受け入れなかったが・・・)あらゆる面で戦場の勝利をつかむために最大限の努力をする、それこ そが真のサムライのはず!! そんな日本人でないかぎり、BTTの牙城を崩すことはできぬ!!」、 実は、この見立ては半ば以上正しかった!。 近藤は、セコンド・北岡悟から4点ポジションの有無を選択することを聞いていたが・・・格闘技マニアとして会場にもよく足を運ぶ北岡が、「ここ で『有り」というと盛り上がりますが、認めない時に会場は引きましてね」とウッカリ口を滑らすと・・・ 「じゃあ、認めたほうがいいですね」 と近藤はあっさり快諾!! イヤハヤ、こんな一大事を朝食のメニューでも決めるようにあっさりと了承、周囲が再考を促すのも聞かばこそ・・・・ その会場も、盛り上がったのは事実ながら、場内のパンクラスファンからは「無謀だっ、取り消せ!!」「グラウンドではどうせマリオの土俵だ ア、わざわざ敵に塩を贈る様なマネしなさんな!!」との悲鳴が上がったのもまた真実! しかし、4本ロープの四角いジャングル、すべての選択権は対面する2人にある! 闘うも逃げるも、そして死ぬも!!(続く) |
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