格闘技スーパースター列伝「寝技世界一!! 菊田早苗」」完全版(下)-〔10-13回〕
■団体:格闘技スーパースター列伝
■日時:2004年5月18日
■書き手:グリフォン

「寝技世界一!! 菊田早苗」第10回
高橋−菊田戦の残酷さが予想されたゆえに、宣伝販売を自粛した武道館だったが、そ
れでも戦いの場を去る船木を送るために熱心なファンがどこからか集まった。
しかし、その観客も「特別ノールール」のこの試合が近づくにつれ、緊張感を隠せな
かった。

「お、おいこんな試合はほんとにいいのか?」ヒソヒソ
「ヘタすりゃ殺し合いだ・・・」ヒソヒソ

そして・・・柔術のギに身を包んだ菊田が、やや緊張の面持ちで花道を歩く。

「菊田あ、グラバカの強さを見せてやれ」「新しい流れを見せるのが、一番の船木へ のはなむけだあ!!」

そして高橋!!「ノールールならお前の土俵だぞう!!」「イズマイウみたいにブン 殴ってやれ!!」
さらに別のファンは叫ぶ!!
「ああっ!セコンドはケンドー・カシンに藤田だ!!さすがアマレスマフィアの親
分、しびれるう!!!」

これにはパンクラス・スタッフも驚き、尾崎に話しかける。

「社長、高橋のセコンドはそうそうたるもんですね。高橋は背後からレスリングのア
ドバイスを受けて、徹底して上から攻めるという戦略ですかね?」

しかし、尾崎の顔は険しかった!!
「ばかものっ!!彼らは私がお願いして、来てもらったのだ」
「し、失礼しましたあ?でもどうして?」
「わからぬかね。・・・高橋が暴走して、ルール内あるいはルール外の非人道的攻撃を
したときに、無理やりにでもリングに上がって止めてもらおうということよ」
「! ! !」


. ボディチェックの最中、無言でにらみあう二人。
「う・・む、何もいわずとも高橋さんのメッセージはわかるっ、『キル・ユー(お前を
 殺す)』の一言!!しかし俺はゴーイングマイウェイ、自分の技術を信じるだけの
こと!」


カーン!!

高橋はやや半身に構え、右腕をだらりと下げるデトロイト・スタイル!!打撃とレス
リングの融合が高橋の恐ろしさのゆえんだ!!これは余談だが・・・その後高橋と対
戦したオーストラリアの選手は、1分もせずにストレートを食らってリングをフラフ
ラ半周するほどの派手なKOを食らったが、彼は帰国後あるHPで

「パンクラスはアンフェアな団体だ
俺の対戦相手は元レスリング選手だと
プロフィールを送ったくせに、実際の
相手は、どう見てもボクサーだった」
と憤っていたという事実が在る。

しかし、菊田は果敢に接近、組み付いてコーナーに押し込んでいく!!
「ここからは、菊田さんの土俵だ!!」
グラバカのセコンドはヨシッ、という表情だ。そして菊田は、高橋を抱えながらコー
ナーを蹴って自ら倒れる。必殺の引き込みだ!!

しかし・・・ニヤリと笑う高橋
いとも簡単に引き込みを振りほどき立ち上がる!!
そしてチョイチョイと立ち上がるよう手招きした。
「ヘヘヘ、かわいいお姉ちゃんならともかく、男に寝るよう言われてもご遠慮します
ゼ!さあ、ぶん殴ってやるから立ち上がりな!」
「くっ、ならば!!」

菊田がタックルだ!
しかしっ!!
「グフフっ、イズマイウのタックルのほうが、よっぽどヤバかったぜ」
上から拳の雨あられ!!

「出たあっ、高橋のメガトン・パンチ!!」「タンク・アボットも認めたという重い
打撃だ!!」
武道館の観客も騒然とする。

「ぐう、このままでは・・」
菊田は足を利かせて、苦心の末にスイーブ!!・・・と思いきや!
「ほい、もう半回転だぜ!」高橋は亀の姿勢だ。本来なら菊田は、この体勢からでも
いくらでも攻め手はあるが・・・なんと高橋、ひっくり返そうとする菊田の力を利用
しながら、リングの外へにじり寄り「転落」!!

「わざとだっ、卑怯だ!!」
郷野らセコンドはいきり立ったが、高橋は平然としたもの・・・この悪賢さも、高橋
がおそれられたゆえん!
「せ、せっかく菊田さんが苦労して寝技に引き込んだのに、またリング中央のスタン
ドなんて・・・」

仁王立ちした高橋は、またもやデトロイトスタイルでニヤリ!
「さあ、ショータイムだぜ!!」
そして出たっ、右ストレートが菊田の顔面を!!そして大きく振りかぶった左!また
もや右!!

まさに鬼!
古い作家、安田拡了氏は言う。
「パンクラスを阿修羅像にたとえるなら、人生の喜びを表す笑顔が鈴木、深い哲学を
湛えた静かなる顔が船木、そして・・・怒りの顔が高橋だ!!」

菊田はまさにガケっぷちに立たされた。
あとで菊田が話したところによると・・・このときすでに意識をなくし、いわゆる
「心の旅路」を経験していたという。つまり、コレ以後の展開は菊田は本能のみで
闘ったわけだが・・・その「本能」がすごかった!

「これでフィニッシュだぜ、天国にいきな!!」
高橋が、とどめの・・・とびヒザげりだ!!
「ひいっ、菊田が死ぬう!!」観客も目を覆った。

そ の 時!
菊田は全く同じタイミングで高橋との距離を詰め、見事な胴タックルをきめ、完璧な
テイクダウンを奪った!!!
「なっ!?俺様のヒザから逃げずに、自分から詰めていくたあ!!」
そこからインサイドガード、バック、マウントと流れるように本能で動く菊田!!そ
して、肩固めが完璧に決まった!!
「ホゲ〜〜〜ッ!!」パンパン!!!

「あ、あの高橋がタップしたあ!!」
7分22秒、肩固めでの一本勝ちだった!!!

「私がスタン・ハンセンのラリアットを逆ラリアットで返した
ときもそうだが、この種の返し技は千分の一秒タイミングが
ずれてもこちらの命取りになる。
何より大事なのは、技術以上に覚悟とクソ度胸・・・。これを
極めれば、例えばカードのあてがなくても東京ドーム興行を
見切り発車できる!!」(アントニオ猪木・談)


「いやあ、負けちまったぜ、ガハハハ」
試合後の控え室での高橋は、憑き物が落ちたように明るく穏やかだったという。後に
高橋は菊田とともに練習するようになり、その技術のオリジナリティから「こりゃ柔
術じゃなくて『菊術』だ!」と舌を巻くのだが、それは別の話・・・

一方、すでにエキシビションを終え、この試合を遠くから観戦していた近藤有己はポ
ツリとつぶやいた。

「とび膝蹴りの迎撃か・・・・僕のだったら、どうでしたかね??」
(続く)



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「寝技世界一!! 菊田早苗」第11回
グラバカが、連れ立って新宿スポーツセンターへ向かっている。

「しかし、はええもんだぜ。あの高橋戦からもう何ヶ月じゃろうか」郷野がつぶや く。
「くそー、あのボケ親父とはわしがやりたかったのお。リングで会ったらボコボコに してやるのに」
佐藤光芳が、強がりをいう。

「ふふふ、あの連中は変わりませんね」佐々木が微笑むと、心身ともに充実した菊田
が微笑を返した。

そこに突然!!
目の前に巨大な、黄金のリムジンが猛スピードで接近すると、急停車して彼らの前に
立ちはだかった。

「なっ、なんじゃーーこりゃあーー」

「横浜道場か東京道場の刺客か?それとも移籍を恨んだ修斗協会の報復か!!」
「い、いや、どちらもこんなリムジンとは全く縁がないはず!!!」
「とすると・・・・」

そのとき、いきなり車のドアが開き、一人の巨大な男が出てきた。
みればアラブ風のターバンをかぶり、指にはエメラルドやサファイヤといった宝石が
きらびやかに飾られていた。

「ぬうっ!!どこのどいつか知らんが、菊田さんらに挑もうとするならまず僕が相手 だ!」
石川がファイティングポーズをとったが、それには目もくれず、その男は一直線に菊 田の元へ進んでいった。

「悪武蛇美・魂罰斗(アブダビ・コンバット)の招待にまかりこした!!勇者菊田
よ、わが王子がドバイにてお待ちかねである!!」

そう叫ぶと男は、ごく上質の紙に印章がおされた紙を菊田に手渡した。

「な、なんじゃろうかこれは」
「わしは頭が混乱してきたわい」
グラバカの面々は狐につままれたような心持ちだ。

「詳細は尾崎塾長・・・じゃない社長に伝えておる!では御待ち申す!!」
そういって、男は再びリムジンに乗り込み去っていった。
「何がなんだかさっぱり・・・」石川が呆然として見送る。

「取りあえず、パンクラスの会社に行ってみねば」菊田たちは練習を中止し、そろっ てオフィスに出向いた。

「社長!!い、いまヘンなやつらがいきなり土倍(ドバイ)がどうとかこうとか!
!」と言いかけた佐藤だが、社長室の光景に目を見張った。

「な、なんじゃこりゃー!!ここにもさっきとはべつのアラブのおっさんがいる ぞーーーっ」

うろたえるグラバカ若手を、社長は一喝した。

「わしが
   パンクラス社長
       尾崎允実である!!」(くわっ)

さすが一軍の長である菊田本人は、冷静に問いただした。

「社長、この紙にある悪武蛇美・魂罰斗ですが・・・」

「それについては、僕が説明しよう」いつの間にかグラバカの背後に立ったのは船木 誠勝。

「この資料には、こうかかれている。『この大会は、そもそもイスラームの預言者ム
ハンマドの没後、アジアに勢力を伸ばしたイスラム帝国が、唐と戦争を行ったことに
始まる。タラス湖畔の戦いなどから断続的につづく戦いに終止符を打つために、双方
の代表者が組んで関節技のみで闘ったのが起源。悪党、武芸者が争うさまが蛇の絡み
つくようでもあり、またその技術が流れるように美しかったことからこの名がつい
た。なお格闘技で最強の階級を『ヘビー級』というのはこれに端を発する』」(民明
書房「ユーラシアの文化伝播」)

「うむ、それにわしは菊田、チームの一員としてお前を推薦したのよ。」

「ちょ、ちょっと待てい、菊田さんのチームといえばわしらグラバカじゃ!わしらも
出られるのか?」

「残念ながら、今回は連合新チームだ。みな、出られませい!!」

(漫画だったら見開き)
「な、なんじゃーこりゃーーーー!!!TK!田村!!植松!!矢野!!それに谷津 までーーーー!!」

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「寝技世界一!! 菊田早苗」第12回


灼熱の国、アブダビ!!
厳格なるイスラムの伝統と、無尽蔵の石油が生んだ富が生んだ独自の文化、伝統が生
きる「アラブの宝石」・・・。
その王子が、アメリカ留学中、あのアルティメット・ファイティングが始まったとこ
ろから、話は始まる。

「おおっ、この動き、この技術、この強さ!!これこそまさにアッラーが人々に与え
たもうた奇跡。十字軍の異教徒を退けた、サラディーンの伝統は、この格闘技を通じ
復活する!!」

そう感激した、タハヌーン王子が、自らのポケットマネーで開催したのが、このアブ
ダビコンバット・・・。
選手の一人として選ばれるだけで、その国を代表する実力者と認定されたも同然だっ た!!

菊田早苗と弟分・郷野聡覚!

宇野薫、五味隆典、植松直哉などの修斗勢!
田村潔司、高阪剛などのリングス勢も!!
その他須藤元気、矢野卓見と錚々たるメンバーが顔を揃え、世界の強豪に挑んだ。

しかし・・・そこには、巨大なワナも潜んでいた!!
「ムムム・・・も、猛烈な暑さ!!これでは半分の力も出せん!!」
「それに、どうもジャッジがブラジルびいきだ。こ、これはなぜ?」

その光景を見ていた気鋭のジャーナリスト、高島学が喝破した。
「中東と南米・・・むむむ、そうか王子は格闘技ファンでもあるが、それ以上に一国
に影響を与える政治家・・・。
これは膨大な石油資源を持つ国ドバイと、鉱物資源を持つ国ブラジルの同盟!!
米国と、もっとも愛憎激しき国が、アメリカ牽制のために手を組もうということか・
・・」

=========ボツネタ===========


「な、なんじゃあ、ありゃあ---!!」
「ふっ、ここはこの○○に任せてもらいましょう」
「あいつに任せておけば大丈夫だ」
「ぬう、卑怯な!!」
「卑怯だと?ふふ聞こえんな」

みたいに他の選手の試合を書こうかと思ったが、とりあえずやめた

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田村はリボーリオに!
高阪はホーレス・グレイシーに!
矢野はA・ソッカに!

次々と日本人の精鋭は、ブラジル人とアラブ人の奸智にはまり、敗れ去っていった。

しかし、その中で菊田は・・・・

1回戦の相手は、エヴァン・タナー!!
「へっ、俺もパンクラスではさんざん鳴らした男。こいつの首を手土産にすりゃあ、
あの貧乏団体もビッグマネーを積んでおれに再オファーするだろうさ。必殺の肩固め
をお見舞いしてやる!!」

そして試合開始!!組み付こうとする菊田を物凄いパワーで振りほどき、片足を取っ
てアマレス流のテイクダウン!!

「あーっ、やられちまったぞ!!」叫ぶ観衆。
しかし、見ていた高阪は冷静だ。
「よく見ませい!!菊田は最初の5分はテイクダウンポイントがないことを利用し、
自分から引き込んだのよ!!」
「し、しかし、それではこの後どうすればいいんかのう」

そのとき、矢野卓見の目がきらりと光る!
「で、出るぞ、よく見ておけ!!」

くるりと、上にいたタナーが引力が逆転したかのように下になった!!
菊田「みたか、これぞ酔鋳武!!」

*酔鋳武(すいーぷ)・・・古来より中国に伝わる技のひとつで、泥酔で前後左右の
感覚が不明になるように相手をコントロールする武術のひとつ。ただし習得は困難を
極め、鉄をも鋳溶かすほどの鍛錬が必要とされるという。ちなみに「上へ下への大騒
ぎ」とはこの技に語源を持つ(民明書房刊「失われた古代武術」)。

タナー「ホゲ〜〜〜ッ!!!!」

「な、なんじゃあ!!タナーは菊田さんのハーフを振りほどいたぞ!!」
「い、いや、またハーフだ!!これでポイントが菊田にふたたび入ったああ!!」

これぞ菊田の十八番、一撃必殺の「繰り返しポイント稼ぎ」だった!!

「私が激闘の中で延髄斬り、卍固めを編み出したように、
だれもが恐れる必殺技を持っている選手はやはり強い!!
菊田のポイント稼ぎも、まさに練りに練り上げた神の領域、
相手は病院送りは免れまい!!」アントニオ猪木(談)

○菊田(ポイント6-0)タナーX

勢いに乗る菊田は、2回戦ではオリンピックで活躍したクリス・ブラウンを撃破!!

準決勝戦ではエンセンの兄、 イーゲン井上と対戦した!!

「イーゲンさんは、トーナメント・オブ・Jで対戦したことがあったっけ。
あの時は勝ちはしたが、まったく何度もひやひやしたものだった・・・今回は?」

イーゲン「ふふっ、リベンジの時はきたようだ」

試合は猛烈な差しあい!!
「ううっ、お互いに1回戦の疲れで汗が噴き出てヌルヌルしやがる・・・しかし、
ここを制してこそ、わが終生の目標とする木村政彦先生に近づける。なにくそ、負け
るか!!」

しかし、ここでイーゲンがタックルに!!切る菊田!!
その刹那!!

まったくの無意識だった!!大内刈りでテイクダウン!!そのまま押さえ込み!
イーゲン「オー、ミーがテイクダウンを許し、ガードから抜けられないとは」

「さ、さすが、明大柔道部の猛者だけある・・・」日本人の仲間は、驚嘆しきりだっ た。
ポイント2-0で勝利!!

試合結果を潔く受け入れることで有名な井上チームは、笑顔で握手し、今後の健闘を 祈った。

「われながら、夢か幻か・・・木村先生とならぶもう一人の目標、ヒベイロと対戦で きるとは!

それだけでも光栄!!、い、いやっ、木村先生だったらそんな思いはつゆほども持つ まい。

日本の誇りをかけ、絶対に勝つとの志を持たねば!!」

ホテルに戻った菊田は、明日の決勝にそなえ、静かに眠りについた。(続く)
しかし・・・最後の相手は、あまりにも、あまりにも強大だった!!


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「寝技世界一!! 菊田早苗」第13回(最終回)

サウロ・ヒベイロ!!

スペル・ペサード97未満、柔術世界大会金メダル4度獲得のこの柔術界のカリス マ、
その実績を何にたとうべきか?
そう、まさに彼らの師匠ホイラー・グレイシーやヒクソン・グレイシーに匹敵すると
いうべきであろう。
千変万化に変化する足技、相手を逃がさない絞め技、相手を破壊せずにはいない関節
技・・・・・それらすべてを兼ね備えた男こそ、サウロ・ヒベイロであった。

「またもやサウロは簡単に、決勝進出したなあ・・・」
「なにか相手は、無名の東洋人らしいが・・・」
「へっ、結果は見えてるさ。それより注目はほか、ほかの階級だよ・・・」
観客にも、シラケムードが漂っていた。

そして、地球の反対側でも・・・

「選手団に同行していた社員から国際電話ですう!き、菊田が・・・決勝に進出しま したあ!」
「おーー、菊田さんが!?」
「1回戦を突破したなんて、すごいなあ!!」
「まさに快挙だ!」

「決勝はヒベイロだそうです!」
「ほう、彼と闘うとなればそれだけで快挙だね」
「いい経験になるでしょうなあ」

打って変わって、温かい言葉が飛び交ったが・・・ベクトルが違うだけで、評価は同 じであった。

しかし、唯一!!

「菊田さん、サウロに勝つと思いますよ」
ごく冷静に、穏やかに驚くべき予言をした若者がいた。

近藤、有己であった。

「ふむ、なぜ、そう思うね?」尾崎社長が尋ねると・・・。

「菊田さんの寝技は、ぼくの打撃と同じぐらいの力だと思いますから」
その声は、あくまでクールだった。

そう、船木誠勝がヒクソン・グレイシーに敗れたコロシアム2000の第一試合・・・。ヒ
ベイロの顔面に膝をぶち当て、テレビカメラにまで鮮血を飛び散らせてのTKO・・・
「22秒の衝撃」をドームの観衆に与えたのが近藤であった。

「ホーーーっ、いうなあ!」

高橋義生が驚きの声を上げた。まだまだパンクラスの中では菊田は寝技で連戦連勝を
続け、一方近藤はまだ穴があるとの評価・・・。自己主張の少ない近藤が「自分の打撃
は菊田の寝技と同じ」というのは、逆に大言壮語のように聞こえてもおかしくなかっ た。

しかしその2年後・・・彼は自分の言葉を証明することになる!!

しかし、ひとまず本題に戻ろう。

ヒベイロも、気負いも焦りもない。百戦錬磨の余裕だが、油断はしていない。
「この日本人は知っている。ヘンゾと60分に渡り激闘し、ブスタマンチともほぼ互角
に渡り合った男・・・弱いわけがなかろう。とにかく最高の技術を見せれば、結果は後
でついてくるだろう」

「相手はどうでもいい!!何にせよ、この菊田早苗、持てる力の100%、いや200%を
出し切って闘ってみせる!!」


立ちレスリングの、攻防が続く。

「意外だ・・・。パワーという点では、これまで闘ったどの選手よりない。それで世界
の頂点に立ったというだけで、ヒベイロの技術の恐ろしさが分かる」

その刹那!ヒベイロのタックルが決まる!テイクダウンから速攻で足を抜き、ハーフ ガードに!!
「あ、圧倒的!!ここを耐えねば・・・」

なんとかブレイクに持ち込んだ菊田。しかし、もはや虫の息だ・・・。
日本人チームも、ただ、祈るのみ。

そのとき、菊田の心は・・・若き青春時代に飛んでいた。

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華麗に指を滑らせ、ピアノの美しい音を奏でる少年・菊田。

「どうかな、パパ?」
「素晴らしい、トレビアンだ!!もっと聴いていたいところだが、ちと集会があって な、残念だよ」
「仕方ないよ、何しろパパは世界的な死刑反対運動の大家だもの。」
「お前も、今度は道場の練習があるのだろう?途中まで、車で送っていこうか」
知的で裕福な環境で育った少年時代・・・。その中の、あくまでひとつの趣味として
行ったのが柔道だった。
しかし、少年は、その柔道で国体優勝!才能を開花させる!!
と同時に、内なる闘争本能の、獣を呼び覚まされたのだ!!


彼は大学柔道部、そしてUインターに籍を置くが・・・・
「コラーッ、菊田、スクワット3000回、早くやらんかーーーい」
「な、なぜだ?膝を痛めるだけではないか・・・。それにまともな技術訓練もなしに、
ひたすらウェイトと基礎運動だけ・・・。スパーリングに至っては、先輩がまず上に
なって、ギブアップしてもその腕だけをほどいて、もう一度極めるだけではないか!
これでまともな技術が、身に付くわけが無い!!」

菊田は、ひとり大組織を飛び出た!
そして、己一人の裸一貫で、寝技という巨大な、無限の広さの大海に漕ぎ出していっ た!!


はっと、菊田は我に返る。
「そうだっ、ここで負けたら、今までの道のりは何だったのだ!!柔道も、プロレス
も、新宿スポーツセンターも、パンクラスも、グラバカも・・・。俺のすべての人生
を、今爆発させろ!!」

そして、電撃の投げ!!あのヒベイロが、四度の柔術世界大会金メダルに輝く男の両
足が、宙に浮いた!!!

「まっ、まさか!!」

ヒベイロ自身が、自分のその感覚を疑った!!慌ててガードを取るヒベイロだが、一
瞬遅れてハーフになる。

そして・・・「超絶究極奥義、破須牙亜怒!!」足を、抜いた!!

「破須牙亜怒(ぱすがあど)・・・古来中国に伝わる武術奥義のひとつでその威力はま
さに一撃必殺!!、とある修業道場ではこれを習得したもののみが免許皆伝を受け、
道場の外に出られたという。ちなみに現在、任侠組織などから許可を得て離脱するこ
とを『足抜き』というはこれに端を発する(民明書房刊「漢中武侠夜話」)」

「おめでとう菊田!最後の技はすごかった!!あの威力には、気絶しそうだったぜ」
ヒベイロがたたえる。

菊田の目からは、涙があふれ続けた。
「・・・なんとも、夢のようだ・・・。しかし、これはゴールではない!
美濃輪君、近藤君とのライトヘビー級王座をめぐる戦いは、これから始まる!!」


「私もパキスタンでは大変地元チャンプに苦戦したが、
イスラム国のトーナメントで、柔術王者を破り優勝した
のはとにかくすごい!!私の弟子LYOTOとも是非
闘わせたいし、永久発電の株主にも是非参加してほしい!
また、次のアブダビ・コンバットは日本開催、当然出場
するだろうが、がんばってほしい」アントニオ猪木・(談)

===寝技世界一!菊田早苗・完===




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