格闘技スーパースター列伝「寝技世界一!! 菊田早苗」」完全版(中)-〔6-9回〕
■団体:格闘技スーパースター列伝
■日時:2004年5月9日
■書き手:グリフォン

「寝技世界一!! 菊田早苗」第6回

2000年5月26日東京ドーム----。
パンクラスの象徴、船木誠勝、ヒクソンにチョークで破れる!!

観客「あ、あのパンクラスで無敵を誇った英雄ですら、ヒクソンにかなわないとは!!」

「やはり柔術が最強だッ!!」

「・・・・15年間、ありがとうございました!!」船木の最後のメッセージが場内に響き渡る。
観客の悲痛な叫び声が、ドームを揺らしていた。

パンクラス生え抜き組が号泣する中、菊田は腕を組み、目をつぶりながら壁にもたれていた。

「船木さんが敗れたか・・・一度はリング上で、思い切りぶつかってみたかったが・・・

しかし、これも時代が動く前兆なのかもしれん。われわれもプロ、船木さんが去っていくなら、自らがパンクラスのトップに躍りでん とする気概を持たねば!!ヒクソンの勝利は、寝技にまだまだ未知の領域があることを教えてくれた。果て無き高みを目指し、よりい っそうのグラップリング・バカにならねば!!」

と同時に、菊田の頭にひっかかって離れない、ある光景があった。
それは・・・第一試合!!!

「菊田さん、本日はお疲れ様でした」

その当事者、近藤有己が目の前に来て挨拶する。なんと菊田がのちに中東の砂漠で大激闘を繰り広げるサウロ・ヒベイロを、1分にも 満たない時間でKOしたのが、このハンサムな若武者だった!
----むろん寝技のみと、何でもありの違いはあったにせよ、いずれにせよ、菊田が近藤をやがて自分のライバルになるであろうと見た

は、このときを始まりとするという。

「近藤君、キミこそ素晴らしいファイトだったよ。あの蹴りは、狙っての?」

ハイキックをかわし、タックルに行こうとしたヒベイロの側頭部に、まともにヒザが入ったシーン・・・。
偶然と見なすことも確かにできたろうが・・・

「ハー、なんとなくといいますか、狙ってはいませんね。見て適当に放ったら、当たったというか」

近藤は気負いもハッタリもなく答える。周りのグラバカメンバーも拍子抜けしたようだ。

「そうか・・・」
「船木さんが気になりますので、これで失礼します」

「待った!もうひとつだけ。--キミは、ヒクソンをどう見た?」

「エート・・・ああいうふうになりたいですね、いずれかは・・・では」


「変わった子だね、彼も」グラバカのご意見番・林がつぶやく。

「自分の師匠の仇なのに、ああなりたい、って言うんだからよく分からないなあ」と佐々木。

「僕だったら、ボスがやられたらすっとんで行って敵討ちをしますよ!」

「バーーカ、ボスがやられたらその相手にお前が勝てるかよ!!」石川につっこんだのは郷野だ。

「・・・にしてもあの蹴り、ほんとにたまたまなんですかね?」空手のキャリアがある佐々木が、首をひねった。

「買いかぶり、かいかぶり!!あんなの偶然に決まってら!俺がいうんだから間違いない」
打撃センスでは菊田もしのぐグラバカのNO.1、郷野が断言し、みな納得せざるをえなかった。

「それにしてもあのとぼけた二枚目づら、癪にさわらあ!いつかあいつの顔をボコボコにして、女性ファンを減らしてやるゼ!!」

「がんばって下さいっ、郷野さん、全国の二枚目じゃない男の代表として!!」

「コノヤロー、殺すッ!!」石川の失言に郷野は目の色を変え、回りは爆笑した。

しかし菊田は、若き日の豪州武者修行で出合ったかの地の師匠、スタン・ザ・マンの言葉を思い出していた!!
彼こそは「キックのあるタイソン」と呼ばれ、門下生2000人を数えるキックの巨匠!

NYはマジソン・スクエア・ガーデンでチャンピオンの首を折り、永久追放されたことでも有名だ。

「菊田、試合にはラッキーパンチやキックが必ずある。もしそいつの真の実力を知りたいなら、直後の表情を見ろ。フロックマン(ま ぐれ勝ち男)はかならず、自分の打撃が生んだ結果にビックリしてるものさ。逆に言えば冷静に二打三打を加えようとしているやつ、 そいつはベリーストロング(すばらしく強い)だ!」


「私の経験からいうと、近藤有己君の打撃はモンスターマンの
それに引けをとらない一方、あの一見穏やかにみえる冷静さは、
ミスター・レスリング2号を思わせる。目立たぬが、彼はわが
師匠ゴッチさんにひけをとらない実力者・・・そして何より、
彼は平気で相手の目を賞金マッチではくりぬいたという!!」
(アントニオ猪木・談)


あの時、近藤は倒れたヒベイロに眉一つ動かさずにパンチを1ダースも浴びせ、TVカメラのレンズにまで血しぶきをべっとりとつけ させたではないか!!

菊田の中の野獣・・・寝技の獣が、この男との宴を、夢のまどろみに見た! しかし未来の敵に吼える前に、眼前にはさらなる恐怖が迫っていたのである!!! (続く)


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寝技世界一!! 菊田早苗第7回

ドス!ドスッ!!!
広尾にあるパンクラス道場から、すさまじくも恐ろしい音が響いてきた!!

「気に いらねえッ!!」

鬼気迫る形相でサンドバッグを叩いているのは・・・そう、鬼軍曹・高橋義生!!! 彼は何に怒っているのか?

「どいつもこいつも、柔術だルタだとオタオタしやがって!!いいかっ、ギリシャ・ローマの時代から最強だったのは何か?レスリン グと、ボクシングだっ!!

柔術の連中が、寝技が強いとかなんだいっても、倒れなきゃナンの役にもたちゃしねえ!!足にしがみついたら振りほどいて、フック を一発入れてやりゃあ、それで終わりだ!! おい、お前らは俺のUFCの試合を見たか?」

記者に高橋がスゴむ。

「アワワワッ、見てますうっ。た、たしかにホイスすらのちに絞め落とした”狂犬”イズマイウが、高橋さんの足にしがみついては、 ほどかれて、あとはパンチの雨あられをくらってフラフラ・・・・」

別の記者が、すかさず尋ねた。 「つ、つまり今パンクラスで猛威を振るっている寝技使い・・・菊田選手と戦っても、勝つ絶対の自信はあると? それは試合要求で すか?」

「さて、それはわからねえぜ・・・。しかし、尾崎ボスには、俺様の要求を伝えてはいるがな。まあ菊田の野郎が、ビビって逃げ出し たりしたらお流れかもしれねえが・・・」

「そっ、その要求とは?」


「オットト、それ以上はいえねえ!!さあ練習の邪魔だっ、帰った、帰った!!山宮、ボクシングスパーだ、あがってこおい!!ん?
どこ行った??」

山宮「くわばらくわばら、あんなに気合入れた高橋さんの相手したら、こっちが潰れちまう」

「私も、アリらとの異種格闘技戦を通じ、ボクシングやレスリング技術の
恐ろしさを痛感した!!ことにレスリングは、わがライバルのR・ボック
の欧州から、シルクロードを通じインド・パキスタンなどにいたるまで、
まさに悠久の歴史と巨大な規模を誇っている・・・これすなわち、いかに
レスリングが実戦的であるかということ!!」(アントニオ猪木・談)

尾崎社長の、質素な(笑)執務室。ノックする音の後、ドアが開く。

「お呼びでしょうか、社長?」
「オー菊田君、練習でいそがしいところ邪魔してすまない。しかし、どうしても君と相談しなければいけないことがあってね・・」

コーヒーカップ二つをはさんでソファで向かい合う二人。

「実は・・・日本武道館の船木引退興行に、君の試合を組みたいのだが」
「望むところですっ、私も尊敬する船木さんの旅立ちに花を添えたいとはかねがね思っておりました!!」

「ホー、それはたのもしい。だが・・・・・・ 実は、そこで私はウチの暴れん坊、高橋とのカードを考え、彼にまず打診した」

「ますますいい話じゃありませんかっ!あのレスリング・テクニックには僕も前から注目していた。今、パンクラスの実力ナンバーワ ンと言ってもいい!この試合ならやるほうも観客も、気合が入ります!!」

「ところがだっ!!」尾崎が、口にしていたカップを荒々しくドンッ、とおき、苦々しい表情を浮かべた!!

「本来、スポーツマンシップと確立したルールにのっとり技術を競うべきわがパンクラスの理念に反し、やつめ とんでもない要求を してきおった!!」

高橋がつきつけた要求とは?  

(続く)


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「寝技世界一!! 菊田早苗」第8回

高橋がつきつけた要求とは?  

高橋「ヘイッ、ボス。俺様と菊田の野郎の試合は、完全ノールールにしてくれ!!つまり何をやらかしてもオッケーの、ホンモノのバ リー・トード(何でもあり)だ!!」

尾崎「そ、そんなバカな試合があるかっ、この尾崎、選手の安全を預かる身として断じて認めるわけにはいかーーん!!」

高橋「ホー、ダメとありゃあ仕方ねえ。ちょいとUFCからの誘いもあることだし、もう船木さんに続いて俺もオサラバとするか」

尾崎「ぐ・・・ぐぬう。で、では眼球と金的だけは禁止だ、それでよかろう」

高橋「オー、ボス!!あんたはプロモーターとしても原告としても(笑)一流だ、無敵だ!!これで菊田のやろうを全身こなごなにし て見せるぜ!!」

尾崎「げんきんなやつだ・・・」

尾崎「と、いうわけだ。つい雰囲気にのまれOKしたのだが、一体どうしたものか・・・断ってもいいんだ、いや断るべきだ菊田君!

!スポーツなんだから、高橋の横車がそもそも通じん!!」

菊田は、しばらく立ち尽くした。
「い・・・言われてみれば正直怖いが、俺の中のもう一人の俺が吼えている!!あの猛者と、そんな無法ルールでやってこそ、柔道の 鬼がたどった道に近づくと、グラウンド馬鹿の俺が言う!」

「お受けしましょう、喜んでっ!!」

「私の経験でいえば、T・J・シンが反則おかまいなしの
ケンカファイトを見せていたが、私の最も信頼するミスター
高橋の毅然とした態度で、殺し合いをお客さんに見せずに
すんだ。プロレスでさえも、、ルールにのっとっり禁止事項
が決められているのに、総合でその規制を撤廃しろという
高橋の無鉄砲ぶりは底が知れぬ!! 」(アントニオ猪木・談)

尾崎は、なんとも複雑な表情を浮かべた。
「ウ〜ム、一度預からせてくれ」
菊田が立ち去ったところで、尾崎は腕を組む。

「不思議だ・・・・高橋はいささか単純なところはあるが、ジェラシーや野心はあまり持ち合わせていない好漢。それがなぜ、菊田に 対してはあれほど敵ガイ心を燃やすのだろう?」

---そのころ・・・菊田軍団の郷野、佐々木はそれぞれに大暴れしていた!!
佐々木は、みごとな腕十字で渡辺大介から一本!!「なめられてたまるかっ!!」

郷野も膝蹴り一閃で、同じく渡辺を出血TKOに追い込んだ!!
「ガハハハハハ!!相手を血だるまにカットしてのTKOは不完全燃焼じゃねえ、俺の流儀では完全な勝利だ!!」

一方・・・高橋のサンドバッグを叩く音も、ますます鋭さと重さを増していた!!! (続く)


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「寝技世界一!! 菊田早苗」第9回

「悪いことはいわない、高橋さんとはやめときましょうよ・・・」
そういったのは、グラバカの佐藤光芳である。アマレスリング出身の彼は、高橋の伝説をあまりにも熟知していたのだ。

「心配無用・・・いや有用ではあるがこの菊田、敵が強ければ強いほど血が燃え上がり、自分から闘ってみたくなるのさ」

「その精神性の高さは、見事ですが・・・」佐藤の目はあくまで不安そうだ。


高   橋   義  生!!!


この血に餓えた野獣は、元はといえばアマレスのエリート!!そう、そのレスリング時代から、暴走お構いなしの突貫ファイトは恐れ られていた!!高校時代、インターハイで決勝まで進むが、のちに志を同じくする鈴木みのると激闘、惜しくも敗れたことは有名!!


その後も大学で全日本を制するなど、強豪の名をほしいままにしたが、本領はそのレスリングに加えて、総合での打撃技・・・いやケ ンカの解禁!!

イヤハヤどうもこの御仁、殴る蹴るがどうにも性に合ってる様子・・・勢いあまって自分のキックでスネを骨折するなど、その無鉄砲 さに磨きをかけた高橋、UFCの金網の中では”狂犬”イズマイウをボコボコにシバきあげ、ギャングあがりのタンク・アボットと意 気投合!!
チーム・タンクのTシャツをプレゼントされたことは有名だ。

その後も東京ドームで、前田日明と一触即発になり、山本宣久の仲介で事なきを得るるなど、ケンカの話題にはことかかかない。


「あのな、ゴチャゴチャ言うやつおるけどな、
やつはなかなか大したもんやんけ。
俺がにらんだら、大抵のやつらはビビるか訴訟
するんやけど、あいつはにらみ返してきたからね。
『そや、わかってるやないけ、お前も』ちゅう
ことや。あのな、昔ニーチェが」(以下118行略)
(前田日明・談)


あるときのパンクラスの試合など・・・
「そこだ、行けッ、高橋!!!」
「相手はイエローカードをもらっているから、このままなら判定勝ちだぞお!!」観客が叫ぶ。
その時間切れ間際・・・・高橋の顔面パンチが相手を襲う!!当時は当然反則であったわけで・・・

レフリー「何をやってる、高橋!!イエロー・カードだっ!!」

しかし高橋、少しも慌てず反省せず 「ヘヘヘッッ、ありがてえ・・・じゃあ五分五分のドローで延長戦、こいつをもうちっとぶん殴れるわけだ!!」

レフリー「なっ、何???貴様、わざとイエローを???」

これがきっかけで、パンクラスは故意の反則を永久追放も辞さずとルール改正したのだから、もはやその暴走ぶりは骨がらみ・・・

しかし、不思議なものでこの乱暴者が、船木にだけはホレ込んだ!!本能の赴くまま戦う乱暴者だからこそ、船木の克己心、ストイッ クさ、そして理論に裏付けられたテクニックにカブトを脱いだのだろうが・・・しかしそれがまさに、菊田戦への因縁だった。

そう、「5.26」である!!

「勝者、ヒクソン・グレイシー!!」
もっとも尊敬する男が目の前で、柔術家のテクニックに一敗地にまみれた!!
「ばっ、バカな・・・作戦も練習も完璧だったはず!!」

半年ものあいだ、レスリングをベースにした柔術対策を船木とともに仕上げていったのはほかならぬ高橋・・・。
この単純な純情者が、自らの責任を感じないわけがなかった!!後輩に必死で止められたものの、一時は真剣に道場やぶりまで考えた という!

彼はその怒り、船木への負い目を、柔術家菊田にぶつけようとしていたのだ!!
「うう・・・八つ当たりかもしれん、そう、俺は八つ当たりがしたい・・武道館では、こっぴどい八つ当たりを見せてやる!!」
「ズジャアー」

高橋のストレートはサンドバッグを切り裂き、床に砂がぶちまけられた。

その頃・・・・
その日の興行の主役となるはずの船木は、オフィスからこの試合を知らされ、驚愕した!!
絶対の反対を主張するも、すでに潔く社内の地位から身を引いた船木では止めようもなく・・・・しかし!!

「やむを得ん、ふたりを闘わせるが・・・万が一、あまりに凄惨な試合になったとき、多くのお客さんには見せたくない!!」

「チケットの営業は中止だ!!」

その日の武道館の幸運な客は、この話で持ちきりだった。
「たまげたなあ、船木の一声で、チケットはよほどのコネがないと買えないとは!!」
「本来なら満員まちがいなしだから、武道館は泣いてるらしいぜ」

これが------「2000年・引退武道館興行不入り事件」の真相である!!

(続く)


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