格闘技スーパースター列伝「寝技世界一!! 菊田早苗」」完全版(上)-〔1-5回〕
■題名:格闘技スーパースター列伝
■日時:2004年5月7日
■書き手:グリフォン

【読むに当たっての注意】
*原田久仁信の絵を脳内に思い浮かべよう。
*ホンモノの「列伝」のエピソードやせりふをご存知だとよりたのしめます。
*「これ、事実と違うだろ」というセリフは禁止です。
*ただし「事実」は禁止ですが「真相」をご存知の方の告白は歓迎(つまり話がより大きくなるのならいいんだ(笑))。
*第一シリーズ 「仮面の皇太子!! ドスカラスJr.」は
http://www18.tok2.com/home/gryphon/JAPANESE/BBS-SELECTION/okuradashi.htm


それでは
「寝技世界一!! 菊田早苗」第1回


1999年、初夏--------
パンクラスのオフィスの扉には、奇妙な張り紙が張ってあった。
「ミーティング中につき、立ち入り禁止」

記者達がいぶかしがる。
「ハテ?格闘技でミーティングとは珍しい」「野球やサッカーならあるけど・・・」
「尾崎社長は週プロ出身だから、編集会議を思い出したのかな?フフフ・・・」ある記者の冗談に、軽い笑いが漏れた。

しかし、ミーティング室の中は、意外にも緊迫感に満ちていた!

「諸君!!あくまで自分の実力だけが頼りの格闘技では、他のスポーツのようなミーティングは不要とわたしも思っていた!
しかしッ、今回だけは別だ!!!」

尾崎はいったん言葉を切り、一瞬目をつぶると声を張り上げた。

「あの、菊田早苗がパンクラスにやってくる!!」

・・・・・だが、その声への反応はやや鈍かったといえよう。

「菊田?」ひそひそ、「たしかにトーナメント・オブ・Jを連覇したのは凄いけど・・・」ヒソヒソ
「なんてったって無名だ、二流のフリーさ・・・」「わざわざミーティングを開くまでもないと思うけどな・・・」

「違うッツ!!」尾崎が叫んだ。

「わたしはこれまで数多くのレスラーや格闘家を見ていたが、菊田ほど膠着してまで勝ちを狙う男はいなかった!」

「やつに対する印象と直感をいえば・・・・やつは観客論を信じない、勝てば全てと思っている!!だからどんな退屈な膠着ファイトでも、ニタ
ニタ笑いながらやれる!!」

集まったパンクラシストは、その言葉と菊田の闘いぶりを思い出し、ようやく尾崎の言わんとすることに思いあたった。

「そ、そういえば菊田の戦いはたしかに退屈で、チリほども興行論不要という気がしたな・・・」
「草も木も生えず、やつの通った後にはファンのあくびとブーイングだけ・・・」

尾崎が続けた。
「わたしの目に狂いはなく、松井に30分、ヘンゾ・グレイシーに50分くそつまらない試合を行っていまや膠着大王!」
「そこで諸君らには…つねに退屈そうなファンにも目を配ってほしい!!」

そして!6月11日、後楽園ホール!!!

相手は強豪、 エリック・ゲデック!!

エリック「こんな無名の選手と当てるとは、オザキめ俺様をナメてやがる!ワン・ミニッツ(1分)で料理してやるぜ!!」

しかし・・・ゴングがなった瞬間、エリックはとんでもない光景を見る!!
菊田が軽やかに飛び上がったのだ!!

アナウンサー「げえっ!!菊田、ドロップキックです!!プロレス技を柔術の申し子菊田がつかったああ!!」

エリックはかろうじてこれをかわしたものの、あっさり寝技に持ち込まれチェークスリーパーを極められる。

「ホゲェ〜〜!」パンパン!!

アナウンサー「なっ、なんと1分20秒!秒殺を宣言したエリックですが、あっさり秒殺の返り討ち・・・菊田、幸先よいスタートを切りましたあ! !」

パンクラス社員
「尾崎社長、菊田選手も派手なとび蹴りを見せたり、観客を意識してくれてるじゃないですか!杞憂でしたね!」
しかし、尾崎の顔は厳しいままだった・・・

「・・・そう思うかね。あのドロップキックは・・・違う!!」
「ハテ?」
「わからぬかっ、あれはプロレスファンに面と向かってつばを吐きかけたのよ! あれの意味するものは、『あんなくだらない見せ技は俺だってできる、しかし何の意味もないんだぜ』---つまり『俺はプロレスが大嫌いだ』そう

彼は言っちょる!!」

「な、なんと!!」

・・・観客はともかく、尾崎社長も他のパンクラス選手も、菊田の宣戦布告を見抜いていた!!
これがのちに殺リク軍団・グラバカを率いて暴れまくる菊田早苗の、パンクラスでの第一歩だった!!

(続く)

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「寝技世界一!! 菊田早苗」第2回

菊田の快進撃は続く!
頭突きもヒジもOKのパンクラチオン・マッチでエディ・ミリスを2分とかからず料理!

全米にその名をとどろかせ、キャリア抜群のトラビス・フルトンがビビって逃げ回り、時間切れに持ち込むのがやっと・・・山宮をKOしたユー

ジン・ジャクソンに対して、腕十字で激勝した試合は全米に放送された!

「あのジャップ(日本野郎)は何者だ?」「フー・イズ・ヒー(やつはだれだ)?」
「し、しかし寝技の腕はたしかだ!」

しかし、パンクラスの日本勢もだまってはいない!
リングで待ち構えるマッシブ・イチが不敵に笑った。

「柔術家め、パンクラスマットでそうデカイ面はさせんぞ!今夜のメニューは菊の花のおひたしよ・・・グフフッ」
しかし、菊田がごろりと転がした後は、ああ、あの実力者マッシブが何もできず、2'13" でアームバーによる敗北!

それを見ていた尾崎は、言葉をうしなった・・・
パンクラス社員「よほどショックのようですね?」
尾崎「ウ〜〜〜〜ン、マッシブというのは目立たんが、実力は筋金入りだ、だからこそ未知の日本人選手の相手がつとまる。実績だって・・・実 績は・・・ないけど・・・とにかくそのマッシブが、おびえちょる!」

この光景を見かねて立ち上がったのは、意外や意外!あの超大物だった。

尾崎「ハロー鈴木くん! それで横浜文化体育館で、菊田の相手はだれになりますか?」

鈴木「いいかね、よく聞け。残念ながら横浜道場で菊田と戦おうというやつはおらん。美濃輪はライトル、国奥はレインと対戦。渋谷は船木さん との大一番があるし、他の連中はとても菊田とつりあわん」

尾崎「ぐぬう!では、横浜大会はなりたたない・・・」

鈴木「それは違う!.........パンクラスの横浜文化体育館興業は、うんと派手にやれるっ!一人の超大物プロレスラーが、横浜で菊田と戦うから な!」

尾崎「そっ、その大物とは?」

鈴木「わたしだよ」

尾崎「・・・・」

鈴木「それとも 鈴木みのるは、超大物ではないかな?」

尾崎は涙で、言葉が出なかった・・・


「私も猪木祭りで藤田が欠場したときは、一度は自らが
レ・バンナとやる覚悟を決めた!
鈴木選手はわたしの付き人を務めたこともあり、最後は
私の元から旅立ったが、自分が一番目立つ…いや危険な
ところに赴く姿勢は、やはり猪木イズムの弟子だと私は
思う!」(アントニオ猪木・談)


そのカードを聞き、菊田はいよいよ燃えた。

「鈴木みのる・・・あのカール・ゴッチが『私の弟子でエクセレントだったのは、キドとスズキだ』と言ったとも聞く。
同時に脱臼やヘルニアで、今では新弟子以下の動きしかできないとの噂も聞くが・・・どちらにせよ、獅子として全力をつくすのみ!」

(続く)


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「寝技世界一!! 菊田早苗」第3回

「この『風』鈴木みのるが菊田に挑戦するぜ!!横浜道場の名に懸けて、菊田を踏み台にもういちどKOPに返り咲くのさ!」

鈴木が吼えた!!しかし、これまで圧倒的な菊田の強さを見た新聞記者は、全身ボロボロの鈴木が勝利を飾ることを信じるほどお人よしではなか った。質問を求めるものも少なく、静かに会見は終わった。

「ハー、全盛期なら勝負は分からんかったけど」「正直、かませ犬だねえ」「組み合わせ自体が八百長みたいなもんさ」

そして、横浜文化体育館の熱戦は続き、いよいよメイン・イベント! 「風」一字を背中にしょった鈴木が、頭にかぶったタオルの奥から、対角線の菊田を見据える。

だが、菊田は・・・


「眼光は・・・鋭いッ、俺がテレビで見たときと変わらず!しかし、体にハリがない。・・・そして何より、脱臼したという股関節を無意識にかばう 、その歩き方!!

ああ、俺は気づかねばよかったのに!!気づいた以上、格闘家としてその弱点を突くのが礼儀!!お、俺はしかし無礼者になりたいッ、今回だけ は!!」

鈴木がタックルに行く!
しかし、そのスピード、踏み込み、すべてが中途半端・・・・。

菊田「ああ、これがルッテンやシュルト、シャムロックをぶったおした鈴木みのるのタックルとは!!もう見ていられないっ、はやく終わらせる ことこそ情けか!」 鈴木をテイクダウンした菊田は、伝家の宝刀肩固め!!

ファン「極まったあ!もう逃げられやしねえ!」
   「鈴木死ぬぞお!もうギブアップしろお!!」

菊田「す、鈴木さん、なぜギブアップしないんだ!俺に殺せというのか!」

菊田は、攻めているにもかかわらず、思わず恐怖した!!しかしその数秒後、鈴木の全身からぐにゃりと力が抜けた。横目で菊田が見たその顔が 、穏やかな笑顔にも見えたのはなぜだろうか・・・。

「私がもっとも信頼する藤波も「ネバー・ギブアップ」が信条だし、
わが最強のライバル・ウイリーやアクラム・ペールワンもがっちり
極まった私の関節技に一言も声をあげなかった!!最近の新日本には
この意地が感じられず、だからこそ私は猪木軍を率いて、新日に
カツを入れているのだ!!」(アントニオ猪木・談)


勝ち名乗りを受ける菊田を、ようやく心の旅路から帰った鈴木が祝福する。
「ナイス・ファイトでした、鈴木さん」

「お、俺は負けたのか・・・おめでとう菊田、そしてふたつ忠告したい。ひとつはこれから当分格闘技に専念すること。もうひとつは、広く世界 に強敵を求めることだ。では・・・・。」
そう言って、鈴木はリングを降りた。

菊田「ひきあげる鈴木さんの背中は、どこか寂しそうだった・・・」
セコンド「時代の流れさ」

しかし、当分は格闘技に専念しろと言われた菊田だが、その彼に、映画出演の話が舞い込んで・・・こなかった
(註・このネタ、本家「列伝」の マスカラス編参照)。

結局、菊田は忠告どおり格闘技に専念できた。そして、彼はある出来事をきっかけにある男とめぐり合い、常勝チーム「グラバカ」を結成する!

! (続く)


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「寝技世界一!! 菊田早苗」第4回

鈴木みのるに完勝し、時代が動いていることを知らしめた菊田だが、胸中を去来するものは複雑だった。

「なにか、むなしい・・・あれだけのテクニックを誇った鈴木さんでさえ、病と怪我、年齢でそれが失われていく。
それでも闘う鈴木さんの姿は感動的だったが、それはそれっ…。強さとはなんなのか?なんの価値があるのか?・・・俺も少々疲れた・・・」

そんな菊田だが、ここでやっかいな事態が起きた!
パンクラスの社員が、菊田のもとへ泡を食って飛び込んできた。

「たっ、大変です菊田さん!」
「ハテ、大変とは?」

「ね、熱狂的な横浜の鈴木ファンが刺客となり、菊田さんをリンチにかけろと探し回っていますう!!横浜のファンはその過激ぶりで恐れられて います、早く避難を!」

「・・・フフ・・・そこまで熱狂的になれるファンが、チトうらやましくもある。なんにせよ、かまいませんよ。ほっておいてもらいたい!」

「バカな!実力主義のパンクラスで、実力どおりの結果が出たからといってファンがそれを受け入れなかったとなっては、会社のメンツにかかわ ります!ここはどうあっても身を隠してもらわないと。幸い、パンクラスの支援者のひとりが郊外で古本屋をやっています。話をつけておきまし たからひとまずそこに雲隠れしてください!」


「私もロスでリトル・トーキョーと名乗って地元の英雄をのした
ときは、ホテルを群集が取り囲んだものだ。
この熱狂的なファンは、ある意味プロレス・格闘技の財産でも
あるし、またそれに狙われるのも勲章!!(アントニオ猪木・談)」


「この古本屋なら、めったに人は来ません。それに退屈しのぎには事欠かないし・・・ときどき様子を見に来ます」
パンクラスの社員は、そう言って帰っていった。

鈴木との試合で感じたむなしさが抜けず、あてもなく数日ごろごろしていた菊田だったが、そのうち退屈紛れに、ふと目に付いた本を手にとって 読み始めた。

その本----木村政彦「わが柔道」が、菊田の運命を大きく変える!!

-----「人は、恩師や親友との出会いより
一冊の本との出合いに人生を変えられる
ことがある(ゲーテ)」

ページを開いて以来、寝食を忘れて木村の自伝を読み続ける菊田だった。
そして、読み終えたとき菊田は、ほとばしるような情熱をとりもどしていた!!

「お、俺もこの高みを目指そう!!
おこがましくも”柔道の鬼”の目指した境地に、この寝技ひとつで挑戦しよう!!」

意を決した菊田は、店主の止めるのも聞かず郊外の古本屋を出て行った。
そこに一台の、超高級車が停車した。
「ハロー菊田さん、お久しぶりです!」

「ああ、あなたは私がかつて参加したこともある、PRIDEを運営する森下さん。 ヤクザと組んで、無法な荒稼ぎをしていると聞くが、見る限りたいそう、はぶりがいいようだな」

「イヤハヤ、コリャ手厳しい!! そのお金をだいぶ掛けて、あんたを探したのにはわけがある。昔のことは水に流して、私と組まないか? 他の日本人はみんな潰れて、スターになりゃしねえ!!」

「悪いが・・・」

「い、今フジテレビと組んでウチは本格的に地上波放送しようというんだぜ?相手は金魚をあてがうし、 そうすりゃすぐに大スターだあ!!」

「ふふ、森下さんはりこうだ、成功するだろう。しかしこちらは望んでバカ・・・寝技のバカになろうとしているのだからどこまで行っても二本 のレールのようなもの、永久にまじわらんサ・・・ではいつかどこかでな」
菊田は、振り返ることもなく、呆然としている森下を残して歩き始めた。

しかし一人の男を振り切ったと思いきや、この隠れ家を探していたもう一人の男がいた!!(続く)


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「寝技世界一!! 菊田早苗」第5回

寝技の超人追及を目指し旅立たんとした菊田のまえに、ある若者が姿を現した!!

彼は、菊田の顔を見据えると、地面にひざを着いて一気にまくし立てた。

「先生っ、是非のお願いがあって参りました!」

「キミは?」

「はっ、佐々木有生と申します。最強を目指し、伝統空手の道場で研鑽しておりましたが、菊田先生の柔術を見て、まさにこれこそ僕の求めると ころと実感しました。なにとぞお弟子に!!」

「悪いが、私自身も修行中の身。君を弟子にすることはできぬ・・・」

「しかし、僕の師匠は貴方しか考えられません!!なにとぞ、なにとぞ・・・」<

「・・・しかし、私は道場も持たない流浪の身。東京道場や横浜道場にいくこともできん。400円の入場料を払って新宿スポーツセンターで練習す るしかない立場だ。・・・それでも、いいかね?」

「ぜっ、ぜひ!!」

それから数日後。

「ガチガチにガードを固めては、逆に付け込まれる!だから、そう、たあいなくスイーブされる!」
「もっと重心を低く、あいての動きを予想しながらポジショニングする!」
「十字は体勢に入られてからでは遅い!その前に反転する!」
「よかろう、初日はまあ、この程度で準備運動代わりにしておこう」

「こ、これが準備運動代わり・・・空手や修斗もひととおりやったと自惚れていましたが、まだまだと思い知らされました。
しかしそんな実力を持っていても、人気を得たり面白い試合をすることには興味がない・・・。
先生、『役者バカ』という言葉があります。貶める意味ではなく、芸ひとすじに打ち込むさまを敬意を込めていう言葉です。
菊田先生もそれ、グラップリングのバカ・・・グラバカです!!」

「グラバカ、か!なるほど・・・・」

さらに、もう一人おそろしい男が、この輪に加わる!!
とあるパンクラスの興行が終わった後の駐車場。

「ひさしぶりだな、ボス」

「き、きみは郷野!修斗のエースがなぜここに?」

「実は、俺も修斗を抜けパンクラスに加わることにしました」

「なぜ?」

「修斗では、いろんな強豪とやりあい、十分とはいえないまでも満足した。常に新しい敵を求めてさまようのは、俺たち格闘家の性分・・・それ にパンクラスへ行けば、ボスとのチームも復活できるじゃないか?」

「い・・・いわれてみれば!」

「それともうひとつ、俺はキレイゴトはいわん。・・・金(マネー)だ!エンセンがPRIDEに移ったのもプロとして当然。俺もパンクラスへ 行けば、契約金も出るし、ギャラも跳ね上がる・・・グフフッ」

「よくいった、その正直さも気に入ったぜ郷野。ウエルカム(歓迎)だ!」

「新しい血が加わることで、チームも団体も活性化
することは事実!石油や原子力といったエネルギー
源も新しい発明で進歩するわけで、だからこそ私は
画期的な(以下281行削除)永久機械の完成を目指
しているのだ!(アントニオ猪木・談)」


記者「ああ、修斗のエース郷野がなぜそこに?」

郷野「やあグッドイブニング!ひさしぶりにボスの菊田と話をしただけさ、あまり大騒ぎせんでくれ」

だが、谷川やSHOWの脳裏には、すでにピンとくるものがあったという!

郷野のこの後の凶悪ファイトについてはあとで述べるが・・・もっとも凶暴な獣が、菊田の首を狙っていた!

(続く)




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