泣き虫毛虫、読まずに捨てろ!
■投稿日時:2003年11月26日
■書き手:優しくて哀しくて

 わたしは観戦記ネット内、『オブザーバーβ』コーナーで紹介された『泣き虫』に対して、意見を掲示板に書き込ませていただいた者です。
 また、当該スレッドへの品川さんからのレスで、「この話題でコラムを書いてもいいよ。」と嬉しいお話を頂戴しましたので、(スレッドも落ちたところで、)『泣き虫』を読む前に書いたその意見に加えて、改めて本を購読したわたしの感想を、ここにまとめさせてもらいました。

 ピュアだった頃の高田がかたくなに信じていたあのアゴも、今じゃ世間から笑い物にされながら、『馬鹿になれ夢を持て』の一つ覚え。
 あれはまだまだ尻の青い幼年・少年期の頃のわたし。幾度に渡って心の汚れた周囲の大人たちが吐く、執拗な『プロレスは見世物・八百長だ』という吹聴を聞くたびに、堅〜く耳を閉じては汚い嵐が過ぎ去るのをじ〜っと耐え続け…、なんて経験を繰り返してきました。皆さんも、そんな時代があったのでは。
 ガキの時分からテレビ中継はもちろん、地元の体育館に年に一度やってきては、リングの内外で大暴れするレスラーを仲間連中と一緒に熱狂しながら見て来たわたし。そんなわたしも、残酷なまでの真実味を帯びた『プロレス演劇説』を証明する映像を眼前へ突き付けられては、「自分はあの屈強な選手たちにだまされていたのか…」という考えに改めざるを得なくなったという苦々しい記憶も、今は懐かしい思い出です。

 吹聴に屈した少年期のわたしは、裏切られたプロレス界から距離を置く生活をしばらく過ごしていたものの、果たして心の傷が癒えたのか、はたまたエンタテインメントを楽しむ心的素養の成熟のおかげだったのか、やっぱりというか、懲りずにというか、プロレスファンに復帰していたのでした。
 そして、わたしのプロレスを『観賞』する見方にも、明らかな変化を自覚するようにもなりました。
「物心付いた頃から、一ファンとしてプロレスの虜になってしまった以上、こうなったら、懲りずにだまされている自分の姿も含めて、死ぬまで『プロレス』とやらを楽しんでやろうじゃないの!」
プロレスに対する『馬鹿になれ』の精神と言えましょうか。もちろん、『プロレスファンが馬鹿である』ワケではありません!

 さて、わたしたち末端ファンレベルでさえも、『KRSだのDSEだの、はたまたケイ・ワンだのFEGだのそれでもってUFOだのDNAだのが、「どことどこが仲悪くて…」とか、そして「どこがどこの事を嫌いで、内幕暴露で潰しにかかった」とか、しまいには「どこの主催するイベントに誰が出るから、そいつの商品価値をこの試合で落としてしまえ!」』などという、『限りなく真実であろうワイドショー的スキャンダル』を、頻繁に耳にします。
 こういう業界の事情を深く『知ったつもりでいる』性質のファンであるわたしも含め、数多くのプロレス・格闘技ファンの皆さんがこの手のハナシに食い付かないはずがないことは、決して否定できないことでしょう。
 しかし、ファンがこぞって食い付くネタだからって、そういう業界スキャンダルが渦巻いた結果の生成物が今回の1冊となってしまう(なってしまった?)のであるならば、わたしたちファンにとって、このことほど悲しくて、残念な話がありましょうか。
 入場料や視聴料を払って見ているのに、お目当てのレスラーの試合がひどくつまらなかった時の悲しさをわたしは、選手に向かって汚いヤジや罵倒こそ飛ばしはしますが、一度きり見限ることはしないと決めています。「次こそは!きっといい試合見せてくれるだろう…。」と、自分を慰めていれば、いつか晴れてくれます。
 『しょっぱい!』や『塩レスラーだから、もう見てやんねぇ!』というダメレスラーやダメ団体のレッテルを貼り付けることは至極容易な決断ですが、その衝動を何とか押し殺し、幾度だまされようと、裏切られようと、一人の有料観客者としてプロレスに付き合っていくことも、(非常にM要素の強い、相当な苦行ではありますが)一つの鑑賞法であるとも考えます。

 このような気構えで『プロレス』を楽しむ一ファンであるわたしは、今回のプロレス業界に対する『だまし』・『裏切り』を、『流血の魔術 最強の演技』や『マッチメイカー』におけるそれとは明確に性質を異にするものであると考えています。
 そして、『リング外の業界人』というくくりでは、暴露本仲間のミスター高橋も高田も同類でしょうが、『今なお、現場(リング・戦い・興行)の最前線にて、大役を任されている』業界人である高田が内幕を暴露してしまったということに、特に注目しています。
 なぜなら、高田は「どうせ全て時効」と勝手に判断して、内幕の暴露に踏み切ったのでしょうが、その結果、彼は『汗まみれ・血まみれ(そして汁まみれ)になって戦ってきた、そしてこれからも戦いの世界で生きて行かんとするプロレスラーたち』のことを、一刀両断に斬り捨ててしまう暴挙を働いたと言えるからです。
 すなわち、今もなお彼らを商売道具にして飯を食わせてもらっている高田が、彼らの業界、及び彼ら自身を貶めてしまったと、言い換えることも出来ましょう。
 人の道に外れた裏切り行為と断罪できましょう。
 リアルファイト専門の格闘家が命懸けでリングに上がるのと同様に、『戦いのライブアート』を観客と共に作り上げることが仕事のプロレスラーだって、決死の覚悟で我が身を犠牲にしている以上、同等のリスペクトを受けて然るべきはずなのです。
 決して誰からもねぎらわれる事がない、地獄にも似た道場での鍛錬にて、苦痛を幾重にも肉体に刻み付け、リングに上がってもなお、負傷を覚悟で敵の技を目一杯受け続けてきた、有名無名問わず、全ての高田以外のプロレスラーに対する軽率なる冒涜が、この度の高田のあまりに寂し過ぎる愚挙なのです。

 多少、推敲させてもらいましたが、掲示板に書き込ませてもらった内容は以上の通りです。続きまして(温泉・冷凍庫・金粉マラソンダジャレクイズでの著名人前座講演@お笑いウルトラクイズよろしく)、品川さんのご提言で実際に『泣き虫』を購読してからの感想の方をもうしばらく。
 真っ先に紹介したいくだりは、見習い道場生の頃から『可愛がって』もらった、藤原選手や前田選手を慕う高田の思いがひしひし受け取られる序盤のエピソードでしょう。非常に気持ちよく読むことが出来ますので、この本の数少ない美談の一つと言えましょう。
 続いては、若手時代の酒場での一般人への暴力沙汰。『トンパチ』の一言で片付けられないレベルの会社・上司の社会的信頼を壊しかねない向こう見ずっぷり。紙プロのインタビューページが好みそうな、トンパチ話をまぁ、試しに読んでみてください。(と思ったら、奥付にはしっかりと山口氏の名前がクレジットされていました。)
 いっそのこと、高田のようなレスラーを輩出させない為にも、各MLBのチームがこぞって所有する『ドミニカ野球アカデミー』よろしく、プロレスラーの卵たちに、プロレスの技術だけでなく、一般教養や社会常識を学ばせるための機構を設けてみたらどうでしょうか?
 これからお伝えする事柄は本著の肝と言えるかもしれません。高田の女々しさが全ての読者を辟易とさせること請け合いなのです。

 本著での高田は、とにかく何でもかんでも他人のせいにしたがり、「もう少し話が早かったら…」という言い訳が目立ちます。非常に鬱陶しさを覚えます。例えば…、

・前田宅での、第二次UWF解散騒動では
→安生と宮戸が…、船木があんなこと言わなけりゃ…。
・トラックのCM契約と参院選出馬のダブルクロスについては、
→CMタレントの選挙出馬が公職選挙法に違反するのに、安生と鈴木健氏・そして浦田第一次UWF社長が出馬話を持ちかけてこなければ…、
・PRIDE.1で興行主に提出した白紙の委任状に端を発するタイソン戦の断念
→タイソンと戦えると思ったのに、ヒクソン戦は気持ちが切れちゃってて、もう出来ない。
・ヒクソン戦のために招聘したブラジリアン柔術のコーチへの不平不満
→「殴るな、蹴るな、グルグル回って絶対寝るな」って、今のお前じゃ絶対ヒクソンには勝てないよっていいたかったんでしょうね…。
・ヒクソン戦敗北直後のケン・シャムロック戦のオファー
→ヒクソン戦の2月後じゃ、コンディションは整えられない。
・ダイナマイト!で浮上した吉田秀彦戦
→ムカイの代理母の件でロサンゼルスに行かなきゃならないから…。
と、枚挙にいとまがありません。本当に格好悪いです。胸糞悪い。わたしにとって自伝の後半部は、エンタテインメントもヘッタクレもない代物で、読み進めることが苦痛でなりませんでした。

 最後に、プロレスラーとしてのプライドを喪失した『プロレス界の完全敗北者』が吐いた負け惜しみの要旨をお聞きいただきましょうか。
『「新日本プロレスに入団が決まったとき、ぼく、意味もなく会社のTシャツを着て歩いてたんですよ。新日本のレスラーであることに、自然なプライドをもってたわけじゃないですか。(中略)やってることは真剣なんですよ。結果は決まってても、人生賭けてるし、ハートも込めてるし、死に物狂いでやってるんです。でも、いくら真剣にやってても、いくら血だらけになってても、所詮はプロレスでしょで終わってしまう」(中略)
 作り物ではない、本物のプライド。PRIDEのリングには、それがあった。』
 …プロレスを馬鹿にするな!
 …死に物狂い、そして真剣に『プロレス演劇を熱演』するレスラーたちを応援するわたしたちファンを馬鹿にするな!!

 彼は現在もプロレス・格闘技界の中心で重要な役割を担う業界人。しかしながら、今もなお自らの発言で貶めてしまったプロレスの重要な構成要素の一つであるマイクパフォーマンスを乱発しては、憧れの師匠のなれの果てよろしく、観客置いてきぼりでお寒い『笑われ役』を堂々演じているという現実。なんとも滑稽でなりません。

 この度の自伝本は、結果的に業界に激震を及ぼす程のさしたる爆弾発言もなく、間違っても『暴露本』と断罪されるような代物ではありませんでした。
 プロレスを正しく観賞するための『シュート活字』という新手のジャーナリズム。その伝播は、『プロレスラーのプライドがフェイクでもなんでもない、れっきとしたリアルなプライドである』という事をしっかり理解しているプロレスファンの数を、着実に増やしていることと思います。
 そんな人々が元エース級のプロレスラーから、こんな身も蓋も無い告白や決め打ちを聞かされてしまったら、一体どんなに寂しい思いに暮れてしまうのかを、当事者本人は果たして、十分考慮してくれたのでしょうか。
 まぁ、これっぽっちも頭になかっただろうことは、本著を読了された人なら誰もが容易に見当が付いてしまうのですが…。




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