プロレス暗黒史シリーズ(3)エリック一家にかけられた呪い(後編)
■投稿日時:2002年1月28日
■書き手:( ´∀`)

 どうもお待たせしました。どうも、皆さんをプロレスの闇の世界に招待する案内人( ´∀`) (モナー)です。

 さて、皆さんは呪いと言うとどんな風に考えてるだろうか?

 マタギ(猟師)の言い伝えに「子連れの熊を殺すと呪われる」と言うのがあるが、これを皆さんはどう捉えるだろうか? 大槻教授あたりに聞いてみれば「そんな非科学的な事はありません、全てはプラズマです!」 とでも言われ否定されるだろう。

 確かに熊を殺したら、熊の亡霊が枕元に立つなど、常識で考えてあり得ない。そんな事があるなら牛や豚を食べた人の枕元には毎晩、家畜の亡霊が、犬を食べた人の枕元には毎晩、ワンワンの亡霊が・・・・となってしまう。

 しかし、だからと言ってこの言い伝えは一慨に迷信と切って捨てる事は出来ないのである。

 基本的に迷信、言い伝えなどには、それぞれ隠された意味がある。この熊の呪いの例を取ってみれば、いくらマタギ(猟師)だとしても子供連れ、即ち小熊まで根こそぎ撃ち殺してしまう様な狩りを続けていればやがて山から熊は一匹もいなくなってしまう。

 すると狩りをして生計を立ててるマタギの生活も立ち行かなくなってしまう。これが熊の呪いの正体と言う訳だ。このコラムは伝説を検証するコラムでは無いので、この話はここで終わるが、非科学的な「一つ目小僧と座敷わらし by水木しげる」にも迷信では無く、その元になってる意味や事柄はある。つまり原因があり結果があるのだ。

 では、前編でエリック一家にかけられた呪いはユダヤの呪いであると言う事はどういう事か? 勿論、アウシュビッツで殺されたユダヤ人の亡霊がエリック一家の枕元に立ち、息子たちを連れていったなどと力説するつもりは無い事は言うまでもない。ではその正体とは?

 フリッツ・フォン・エリックことジャックは貧しいドイツ系ユダヤ人移民の子として、23歳でプロレスデビューしたが、その巨体と悪人面では、とうていベビーフェイスとしては無理があるのでヒールの道を選択せざる得なかった。

 当時は折しも第二次世界大戦終了直後であり、戦勝国アメリカにとってドイツと日本は憎い敵国だった。ゆえにプロレス界にもナチギミックと神風ギミックのヒールが出現するのは必然だった。特にナチスはその独特の存在からヒールとしての雰囲気は満点で日本に置いてすら、仮面ライダーやガンダムなどの漫画やアニメにおける悪の組織はほとんどがナチスがそのモデルである事からも明白だろう。

 さてそのナチギミックの元祖レスラーはクルト・フォン・ストラハイムと言われており、その後、雨後の竹の子の様に次々とナチギミックのレスラーが登場した。

 地獄の料理人と呼ばれたハンス・シュミット、初期新日でも活躍して昭和ファンにはなじみの深いクルト・フォン・ヘス、カール・フォン・シュルト、妖怪男爵バロン・フォン・ラシク、フリッツ・フォン・ゲーリングなどあげればキリがない。

 勿論、本当のナチスの戦犯がリングに上がるのは不可能であり、そのナチギミックのレスラーはよくてゲルマン系のアメリカ人やカナダ人、ラテンやスラブ系の選手も多かった。そんな中、ユダヤ人であるフリッツもワルドー・フォン・エリック(本名ビル・シェパード、勿論実際は血縁関係は無し)とナチスコンビとしてリングでナチ式敬礼をし、ナチ式の行進をして暴れ回ったのだった。

 その後、フリッツは地元テキサス州ダラスでプロモーターとして牛耳ると共にベビーに転向したが、その前後して6人の息子をもうける。長男ジャックJRの感電死はすでに前編でも書いたが問題は残った5人の息子に対するフリッツの異常な教育であろう。

 5人の兄弟は本当に小さい頃からアマレス、アメフト、ボクシング、円盤投げなどのスポーツを強制させられてきたのだ。

 全ては将来プロレスラーにさせる為である。5男のマイクのインタビューによると彼は6歳の時からアマレスをやらされていたそうだ。更にフリッツは自分がダラスで活躍するリングに幼い兄弟を次々に連れてきて、将来プロレスラーになる事を宣言していたらしい。本来は気弱(故にドラッグに走った)なエリック兄弟たちに巨大でワンマンな父親に逆らうすべは無く、父親の引いたレールにのり、次々とレスラーになっていく事になる。

 何故、フリッツはここまでして息子たちをレスラーにしたかったのだろう?

 私はエリック一家の事を調べているとある事柄が脳裏に浮かんだ。それは「プロレススーパースター列伝」のファンク兄弟のエピソードである。

 ファンク兄弟と言えばおなじみのドリーとテリーの名タッグで物語は兄弟の父親ドリー・ファンク・シニアは二流の悪役、ゆえにそのコンプレックスから息子2人を一流のレスラーにすべく英才教育をし、やがて2人は世界王者になる話である。

 この中でドリー・ファンク・ジュニアのデビュー戦のエピソード、ジュニアの新人ばなれした華麗な活躍に観客が賞賛する中、

 父シニアの一言「せがれは 正当派 この声を聞きたい一心で私は生きてきた・・・」

 そうだ、フリッツの息子をレスラーへの強制の答えはずばりこれでは無いだろうか?

 人間は自己正当化をしないと生きていけない。二流で惨めな悪役だった・・・

 シニアは自分の息子を一流のレスラー、世界王者にする事によってのみ、惨めな自分を正当化する事が出来たのだ、息子をレスラーにする為に命を賭けたのだ。

 ではフリッツは?フリッツはシニアと違いヒールであっても超一流であり、世界王者にも君臨、更にその後はヘビーに転向し大名声とうなる様な大金を手に入れた。惨めな二流の悪役では無い。 はたから見ればこれ以上恵まれた男はいない。なのに彼が更に自分を正当化せざる得ないコンプレックスはなんなのか?

 それはユダヤ人でありながら、レスラーとしての出世の為に選んだナチスギミックの過去では無いだろうか?シニアは惨めな姿をリングで晒しながら、こうやって稼いで息子を一流に育てたと自負する事によって正当化した。フリッツも出世の為にナチギミックを選んで超一流になった。こうやって育てたから息子が世界王者に・・・・・。

 そうで無ければ、それ以上と言われる息子たちへのレスラーの強制の理屈が付かない。

 フリッツの鬼気迫る異常な行いの詳しくは、近い内にメモ8さんのHPにアップされるであろう田中先生の「シュート活字」原稿に詳しく書かれているので、それを参照にして欲しいが、息子たちが幼い頃からステロイドを父親自ら打ちまくる、レスラーになった後も、特に身体の弱かったマイクの病気などステロイドのせいだと言われるが、そうしてやせ細ったマイクに「試合に間に合わせろ!」と、更にステロイドを強制したなど息子に対する恐ろしい仕打ち。

 特にデビット追悼興業アングルやランス・フォン・エリック(ケビン・ウイリアム・バーン、フリッツの息子が次々に死んでいくのでワルドーの息子と言うアングルでエリック一家としてデビューさせたレスラー、当然フリッツともワルドーとも赤の他人)ギミックなど無理がある、酷いと関係者には悪魔とまで罵られながら、息子たちが死に絶えるまでエリックの暴走は止まらなかった。

 これが呪いでなくて何であろうか!

 呪われたギミックに使われたユダヤの呪いがフリッツに取り憑いた様な、おおよそ父親とは思えない所業の数々・・・・・・・

 でも・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ここにエリック一家と同じく不孝が続いたプロレス一家がある。カルガリー・スタンピートで日本でも有名なハート一家である。

 “ヒットマン”ブレッド・ハートはレスリング史上に残る有名なダブルクロスで心身ともに傷つき、そして末っ子の天才児オーエンは、これも有名な事故で命を失う・・・。

 実はオーエンの本当の夢は体育教師になる事だった。

 しかし父親スチュ・ハートの頼みで、夢をあきらめプロレスラーとなる。スチュもフリッツと同じく息子の中から世界王者を生み出すのを熱望していたのだ。息子たちをWWFに斡旋したのもスチュであり、ほとんどエリック一家とだぶる。しかしカナダ人のスチュは勿論、ナチギミックなど使った事は無い、二流の悪役でも無い。

 プロレスラーの末路は一部の例外を除き、悲惨である。ダイナマイト・キッドは現役時代の激しいファイトが祟り、現在車椅子で生活している。先日引退したヒットマンもやはりハードバンプの後遺症で頭痛・耳鳴りが常に続いている、ミック・フォーリーはレスリングで耳を失った。引退した全てのレスラーは身体になんらかの爆弾を抱えているし、その老後も決して裕福なものでは無いだろう。離婚、自己破産、かたわ・・・・・。

 はたから見れば、実に悲惨である、滑稽である。たかが八百長ショー(笑)で身体をぼろぼろにし、常に長期のロードで家庭に戻れない生活が続く、それでもプロレスラーと呼ばれる人種はレスリングをやめようとはしない。

 日本でもおなじみのアブドーラ・ザ・ブッチャー、タイガー・ジェット・シン、テリー・ファンクなどが有名だ。大仁田はドクター・ストップがかかっても、レスリングなど出来ない身体でもリングに上がり続ける。日本人レスラーでも未だに老体を晒しリングに上がり続ける選手はいくらでも思いつくだろう。

 アメリカにおいてもかつての名レスラー、ジェイク・ロバーツ、ジミー・スヌーカ、ニコライ・ボルコフ、かつての英雄のそのほとんどが現在メジャーにあがれずとも、ローカル団体でファイトをし続けてる。

 車椅子になったダイナマイト・キッドはこう言う

 「もし、もう一度、人生をやり直せても、レスリングをやる」

 耳の欠けた、身体がぼろぼろのミック・フォーリーはこう言う

 「私は幸せな男だ」

 コレがエンターティンメントなのである。
 コレでもまだレスラーは皆、呪われてるとでも言うのだろうか?

 物事の要因はたった一つに限定されるものでは無い、フリッツには勿論、ユダヤ人でありながらナチ・ギミックだった負い目、これは当然あるだろうし、一つの要因であるだろう。しかし、それ以上に、フリッツは四角い草も木もないジャングルに住む魔物に魅入られた、そうとしか思えないのである。否、フリッツの限らず多くのレスラーは皆、四角いジャングルの魔物に魅入られてるのであろう。

 呪われたエリック一家に関し、関係者、評論家やファンの多くはしたり顔でこんな事を言う、

 「息子の不幸までアングルとして利用するフリッツは異常だ。素直に自らの引退と同時にレスリングから身を引けばこんな不幸が起こらなかった」と・・・・

 確かに正論だ、一般論として。しかしこんな意見はプロレスファンとしては失格だろう。
 何故なら上記の通り、エリック一家に限らずぼろぼろになる、それでもレスラーを続ける多くのレスラーを見続けてきた者なら、そんな一般論などプロレス界に、プロレスラーに通用しないのは理解出来てるはずだ。マットに上がり、マットの向こう側を垣間見て来た者だけにしか分からない常識、はたから見て不孝なプロレスラーの悲惨で滑稽な必死の泣き笑いをファンはただ見守るしか無いのでは無いだろうか・・・・。

 象徴的な話がある。
 フリッツ・フォン・エリックが死ぬ間際に何をしてたか?
 フリッツは1992年9月8日、ケビンと一緒に「マンデー・ナイトロ」を見ている最中に心臓発作で亡くなっている。

息子を次々に奪われても、
最後までプロレスを愛し抜いた男、
それがフリッツ・フォン・エリック


 この男に「不幸になるから呪われるからプロレスから撤退しろ」とは誰も助言出来なかったのである。

(エリックの回終了 次回へ続く)





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