ピクミンの『も〜、こわい』 第4章:『謎の病気:プリオン病とはなにか? プリオンは呪い』之巻
■投稿日時:2001年10月27日
■書き手:ピクミン (ex:ピクミンドットネット

さて、前回はどうやって病気になるのか? をプリオンに的を絞ってさらっと解説した。
今回もあまりギャグなく、どうやってプリオン病になるのかを説明する。前回までのおさらいをさらっとすると、プリオン(PrP)はもともと正常蛋白として脳に存在する(PrPc)は異常プリオン(PrPsc)が入ってくると次々とPrPscに作り替えられてしまい、それが脳細胞に溜まって脳細胞が死んでしまう。

というわけで、一番有名なCJD(クロイツフェルトヤコブ病)を例にとってプリオン病というものを解説する。
CJDには遺伝性の『家族性クロイツフェルトヤコブ病(fCJD)』と非遺伝性の『散発性クロイツフェルトヤコブ病(sCJD)』と、いくつかのさらにマイナーなVariantがある。
典型的なCJDでは痴呆・痙攀・麻痺などが確実に進行し、半年ほどで死に至る。確立した治療法は今のところなく、致死率100%。 類縁の疾患としてFamilial Fatal InsomniaやGerstman-Straussler syndromeがあるが、いずれも不可逆性に病勢が進行して死にいたる。病因は異常プリオンの沈着だ。プリオンの主な沈着部位とプリオンの遺伝子異常の有無・位置が違うだけだ。

中年になるとCJDを発生する人が集積する家系がいくつかある。(こんな家族はこわいよな)常染色体優性だ。これらの家系ではPrPcのcodon129, 180, 178, 200, 210などでmutationが見つかっている。これらのmutationをもつPrPcは通常のPrPcよりも100万倍PrPscへの構造変換を起こしやすい。一度2個でもPrPscへのconformation変化を起こせば、出来たPrPscはどんどんPrPcをPrPscに作り替えるので、雪だるま式にPrPscが増えて脳細胞に沈着し、CJDが成立する。

家族性(fCJD)と違って散発性(sCJD)に関しては原因はよく分からない。が、外因(原因の特定できない感染症)の場合と内因(体内的な原因)の場合の両者があると思われる。内因としては、プリオンの遺伝子に突然変異が起きたために、家族性と同じ機序で発生することもある。しかし、そのような遺伝子に原因がある例ではなくて、たまたま何らかの偶然による構造の変化や合成ミスでPrPcがPrPscに成ってしまったという機序も想定されている。1度間違えると元の遺伝子が正常であろうがどうであろうが、どんどんPrPscが複製されていく。もうどうしようもない。ちょっとつまずいて、たった2ヶの蛋白の構造がたまたま変わってしまっただけで取り返しのつかないことになってしまう。(2個というのは、PrPscが2量体で働くからだ)
外因では外科手術、動物との接触などがリスクファクターという報告もある。その内の幾つかは医原性のCJDであろうし、今まで注目されていなかった狂牛病もどきの感染症もあるはずだ。 後者の方ははっきりとは言えないが鹿や野ウサギとの接触を感染源として想定する報告や、北アフリカのユダヤ人の特殊な食生活がCJDの原因とするものもある。スクレーピーのPrPscが集積する羊の眼球を食べるのだそうだ。医療との関係が明らかなものは医原性CJDで、今まで日本では100弱の例が報告されている。
・・・いずれにしてもこういう外因のCJDは元となるプリオン病が何らかの内因で形成された後他の個体に伝播しておこるものにすぎないので、病気のOriginではない。感染性のCJDは必ず1匹(または一人)のCJDを感染源として起因する。スクレーピーもBSEも、クールーもそうだ。BSEやスクレーピーのようなどんなに広がった病気であれ、どんなに社会的な影響のあった病気であれ、たまたま一匹(または一人)のたった一個の脳細胞の中でたった2ヶのPrPscが偶然形を変えただけのことからおこったものなのだ。

パプアニューギニアのFore族の人は太古から死者の脳を食べてきた。おそらく今世紀に入ってから一人がCJDになって、死後食べられ、病気がうつって死後食べられ、を繰り返し、CJDに類似するがやや病態が異なるクールーが成立した。
こういう偶然の連鎖は『呪い』と言う言葉がぴったりかも知れない。

外因性のプリオン病の場合、外から入ってきたPrPscがうまく自分の仲間のPrPscに作り替えやすいタイプのPrPcがある。それが病気のかかりやすさに影響する。BSEはPrPの129番目のコドンがMet/Metである個体にしか感染しない。おそらくBSEのPrPscはMet/MetのPrPcしかPrPscに変換できないのだろう。(BSEは新しい病態なので変換効率がとても弱いだけの可能性もある)。人の60%はMet/Metではないので、3/5の人は狂牛病牛を食べても大丈夫。

さて、羊スクレーピーが牛に来て、BSEになる。入ってくるPrPscは羊のPrPscだが、牛の中では牛のPrPcを原料にするから、出来るのは牛PrPcを材料としたPrPscだ。←ここのところを慎重に読むように。  普通に考えれば予想がつくと思うが、牛にとって異種の羊のPrPscよりも牛のPrPscの方がより効率的に牛PrPcを転換するだろう。だから羊のスクレーピーによって発生したと思われる牛のBSEのPrPscは牛への感染に向いている。牛に広がったBSEや羊に広がったスクレーピーは同種(牛)のPrPscを感染源としているから、経口感染が成立しやすい。人のKuruもだ。危険な牛を腐るほど喰っていたイギリス人が全滅しなかったのはこの種の壁のせいだろう種の壁の厚さは運次第だ。ともかく最初のPrPc→PrPscの変換が行われるかどうかが重要だ。最初を乗り切れば、後は同族同士でPrPc→PrPscの変換が行われるからだ。牛→人は割と壁が厚かった。だから、vCJDは今140人くらいしかいない。しかし、別の動物→人。例えば、ブタ→人の壁がどうであるかは今のところ誰も知らない。

さて、これでプリオン、プリオン病についての概略は終わり。
次回はやっと、こわい話に戻れる。次はこわいよ。 

注1:狂牛病はBovine Spongiform Encephalopathy(ウシ海綿状脳症)、略してBSEと言うこともある。人に感染して発症すると、new variant Creutzfeld-Jacob Disease (nvCJDまたはvCJD)になる。これは話の都合上絶対覚えておいてね。いちいち説明するのは面倒だし、『クロイツフェルトヤコブ』とか『変異型クロイツフェルトヤコブ病』とか『牛海綿状脳症』とか、長すぎて書きにくい。

注2:プリオン病とは、異常プリオンの沈着(本来ない場所に物質が多量に蓄積する病態)によって起こる神経細胞への障害を基本とする病気のこと。スクレーピー、BSE, vCJD, Kuru, CJD, Gerstmann-Strauss Syndrome, fatal familial insommniaなどなどがある。症状、病態に共通性が高い。







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