船木ヒクソン戦思い出の観戦記
■投稿日時:2001年10月15日
■書き手:港のヨーコ

ハーイ、ヨーコです。

あたしが覚悟を決めた日について話そうともっているの。
それは船木ヒクソン戦。やっぱり20世紀の最大のイベントだったわ。
もう、一年以上の月日が経ったのねえ、早いものだわ。

しかも、みんなそんなことがあったことなんてもうすっかり忘れちゃって
忘却の彼方ね・・・でもね、あたし、今年の5月26日は船木の一回忌を執り行ったわ・・・
もちろん勝負パンツに勝負服で、船木の仏壇の前で大車輪したわよ。
それから今年のお盆には、精霊流しもしたわ。
あ〜なたの、だ〜い好きな・・・ってね。
燈篭とともに思い出の品々を多摩川に投げ捨てわ。船木フィギア、船木写真集ect・・・
船木ともそれで、あたしお別れしたわ・・・さよなら、船木!
今まで本当にありがと。大好きだったわ。
でも、あんな風にはもう誰も好きになったりしなでしょうね。



あたしは、アリーナ席の後方から小さく見えるリングをじっと見つめていたの。

あたし、どうして船木と出会ってしまったんだろう?って
何度も何度も自問自答して、結局答えは出ずに、どうして?どうして?と船木の姿を
追いかけていけば、行くほどにわからなくなって・・・数々のイベントにも追っかけていったわ。
しかも最前列でパンクラスちゃんこを食べた時もあったっけ。今考えるとかなり恥ずかしいわ。
でも、船木の最期だけはどんなことが、あってもこの目で見届けなければならないと思って、
そしてどんなことがあっても、これから起こるすべてのことに目を背けてはならないと想ったの。
だから、今日は東京ドームにやってきたの。
来るまでにも、葛藤があったわ。気持ちは矢吹ジョーvsホセ・メンドウーサを
見つめる白川葉子の気分。
「わたし、あなたのことが好きなのよ、矢吹君!」よ。


それからしばらくするとあたしの連れがそそくさと忙しそうにこっちへ
近づいてきたわ。そして、あたしの顔を見るなり
「今日は何があっても泣いちゃダメよ、泣くのはおうちに帰ってからにしてね。
どっちしててもね。面倒見るの嫌だから」とそれだけ勝手に言い放つと
「あら?金原だわ!」なんていって去っていってわ。
ほんと趣味が悪いわ。あんな猪八戒のどこがいいのかしら?
本当にせわしないったらありゃしないわ、もうぅ。人の気も知らないで。

でも、とにかく今日というこの日にあたしと船木をめぐり合わせてくれて
格闘技の神様には本当に感謝してるわ!
格闘技の神様にはあたしの生パンツをプレゼントするわ。

今までの船木との出会いから今日というこの日まで
いろいろと思い出すわ・・・
緑色のパンツにどうして日の丸が入ってるんだろうって想ったこと
初の生観戦のガイメッツアー戦で「船木ふざけんな!前へ出ろ!」とやじったら
パンクラスはじっと息を殺して観戦するのがお約束で、しかも
その野次で船木は真剣に引退をしようと思わせてしまったこと。
天上を指差して、「長谷川!俺はタップしなかったぞ」と意味不明なマイクアピールをしたこと

目の前の困難なんかなんでもないと自信たっぷりな船木、
また泣き顔やら腫れた顔なんだかわからない船木、急に思い悩んで一気に老け込んだ船木、
ファンの前ではつまんなそうな顔しない船木、意地っ張りな船木、独り善がりな船木、
心から楽しそうな顔を見たのはヒクソン戦が決まった時だっけ・・・ほんと酷い人。
でも、わかっていてもそういうふうにしか自分を表現できない船木、
ああ国奥が「先生・・・」って言って船木の胸に飛び込んで泣いたっけ・・・
そんなこともあったわよね・・・思い出は尽きないわ・・・

あっという間に試合は始まるの。

第1試合、近藤vsヒベイロ
これは船木vsヒクソンの代理戦でもあるけどあたしには、
近藤がお得意のとび膝が炸裂!いい流れだなって思って心底嬉しかったわ!
幸先がいいなって。近藤はやっぱり船木の一番弟子ねって思ったものだわ。
今までは、近藤って顔が眠たげで冴えないなあと想っていたけど
このときばかりは、嬉しくなっちゃった。

第二試合、元気vsペネイラス
やっと気持ちが楽になって、元気のパフォーマンスに素直に見てられるわ。
謎の坊主を引き連れての入場は、ビルマの竪琴かと思ったけど
船木のことでいっぱいの私の胸には響かないわねえ。
まあ、無理があったけど、相手がガチガチのブラジル人だしよくやったと思ったわ。
アレだけの大舞台だしね。
あたしもようやく冷静に試合を見れるようになってきたわ。
でも、気も漫ろ。あたしの目は何も映していないわ・・・

第三試合、魔裟斗vsメノーのイイ男対決ね!
いつもだったらもう大興奮でここでパンツは履き返るトコなんだけど、
船木のことを想うと素直にイけなくてね。
でも、イイ男が二人して打ち合うなんて、大興奮よ。
魔裟斗の得意のローが炸裂してメノーがダウンを何回もしたのよ。
ああ、どんどん気持ちが乗ってきたわ!
と、いうか、なんとなく、そう思いたいっていう気分。

第四試合、空手の鈴木vs外人さんの空手演舞
これはあたし参ったわ。だっていきなり大太鼓で始まるし、その後の試合も
お互いが打撃を受けつつもそれを耐えて、また返して・・・の繰り返し。
しかもよ!それを延長だのって5Rもやりつづけるんですもの!
せっかく気持ちがまぎれたというのに!
船木のことを思い出して、だんだん不安になってきちゃったわ・・・
もう、いてもたってもいられないわ・・・
不安で席を立つあたし、訳もなくうろうろしてしまったわ。
連れは、つまらない試合と私がうろうろするをみて何馬鹿やってんの?という視線を振りまく。

第五試合、金原vsマリオ・スペーヒー
不安でいっぱいなのに、金原???負けちゃうわよ!もう!
だんだんイライラしてきたわ・・・金原は丈夫だから殴られたって平気だけど
はじめからわかってるものは見たくないわ、しかもこんなときに・・・

第六試合、田村vsジェルミー・ホーン
赤いパンツの頑固者はレガースつけてるわ!わお!まだ忘れていないのね、
何もかもがUから始まったってことをね。そんなことはお構いなしのジェルミーは
無邪気なものね。田村のUという独りでの戦いについてジェルミーはわかんないだろうし。
とにかくテーマはよくわかるけど、それじゃ伝わらないでしょ?って言う試合だったし
いつもだったらじっくり見てるんだけど今日はもう、この後は。。。でしょう?
ますます気も漫ろよ・・・ごめんなさい、田村。でもあたしの大切な人の最期なのよ。ゆるして。
席を立ったりすわったりうろうろするあたし。連れは、何してんのよ、とさらに呆れてる。
そんなそわそわしてもどうにもならないのはわかってるんだってば!

メイン船木vsヒクソンだわ。


ついに来てしまいました。

船木が勝つためだったら、あたし、生パンツでも魂でも悪魔に売ります。
どうか、この大一番に勝たせてください。私の格闘人生に花を添えてください・・・と
深く、深くお祈りをしました。

船木の入場には、あたし愕然としたわ。着流しなの。それも脇には日本刀を差して・・・
始めは「ああ、武蔵と小次郎の武蔵なのかな?」って思ったんだけど
着流しで刀を持っている武蔵ってのはいないしね。ああ、高倉健をイメージ???
やっぱり船木のすることは最期までわからないわ・・・笑って許してやってください。

ヒクソン入場。
悔しいけど、風格がある。
あたしにもわかる。何も飾らない白いガウンが余計にヒクソンの存在感を引き立てる。


負けたと思った。胸のなかになにか得たいの知れない物体が広がった。
コレはなんだろ?不安?と考える一瞬もなく、ゴングは鳴る。

大ぶりのパンチ!恐いからってそこまで大ぶりでなくてもいいのに・・・
でも、船木もあたしも少し冷静になってきたわ。
ファーストコンタクトはそんなに間違っていないわ。

ああ、ヒクソンに押される!そうよ!そのままロープを背負って、機会を見てポディションを
入れ替えるのよ!ああ、何でそんなに高橋のほうばっかり見るの?
あたしを見てよ!じゃなくって、
セコンドの指示だけじゃなくって、もっと自分で考えて動かないと!
船木!そんなそっぽ向いてばっかりでSEXしないでしょう?してる相手をしっかり見なさいってば!
ああ!無粋だわ・・・ああ、でも、そう!船木がヒクソンの首を締めてるわ!いいわ!
そのままきゅっと締めちゃいなさい!と思ったらヒクソンから船木をグラウンドに持ち込むの。
ピンチ!グラウンドは要注意よ!ヒクソンが上かな?って思ったけどごろごろって転がって
船木が上になるわ。船木はパンチががつん、がつんと重たいのが入った!
そう、その調子よ・・・これが歴史的なヒクソンの顔にキズをつけた一発だったのね・・・
あれ?船木自分から立ち上がるの?どうして?力負けしちゃうのかしら?
猪木アリ状態で、ヒクソンを上から見下ろす船木!いいわねえ、痺れるわ、あら?
痙攣してきたわ、どうしよ?痺れてるのに、ああ、アソコに蹴りは、ダメェ〜。
でも、いいわぁ、もっと、もっと、蹴って頂戴!って思ってるのに
船木の蹴りは「ぺちょん」って弱弱しい音しかしないの。
もっと「ぴしっ」とか「ばしっ」とか足を細いムチのようにしならせて蹴らないと効かないわよ。
船木はムチは持っていないのかしら?だからわからないの?

後でわかったんだけど、このとき右足の膝の古傷が再発して抜けたんですってね・・・
格闘技の神様は非道だわ!このとき、怪我が再発しなければ・・・って思うとね、
あたし、二度と格闘技の神様は信じないわ。
格闘技の神様ではなく悪魔に生パンツ送っておけばよかったわね。

力のない蹴りだったからヒクソンにはわかっちゃったんでしょうね・・・
だってあたしにだってわかっちゃったんだもん。
ヒクソンはささっと、立ち上がったわ。船木は悟られないように再び打撃で応戦する。

で、ヒクソンったらやっぱり何気に歳は食っていないわ。
まだまだみせていない引出しがたくさんあるんでしょうね・・・
膝蹴りかな?とみせておいて船木が来たところをささっと自分は体を引いて
船木を前のめりにしてバランスを崩しグラウンドに持ち込んだわ。

再び、胸にもやもやと不安が広がる。
それも最初はただの一点の青いインクがまっさらな木綿のハンカチにじわっと染みて広がるように。
いくら高分子吸収体でも、多い日にはあふれちゃう事だってあるわ・・・

完全にヒクソンに上に乗られた船木は、じっとヒクソンを凝視するしかなったわ。
それが唯一船木にできる最期の抵抗。体は犯されても心は・・・っていう意地なのね・・・
船木の右腕が折りたたまれて、自らの首に巻きつくようになりながら、その上
顔面にパンチがとんでくるのを無防備で受けるのを見つづけるのはもう、
居た堪れないわ!ヒクソン!やめてよ!船木の左眼から鮮血が流れ落ちるわ・・・
胸にはどす黒い嘔吐物がいっぱいに広がって、目を背けたいんだけど
もう体が動かないのよ。
あたしのパンツには高分子吸収体を挟んでおいたけどもう、とっくにあふれちゃってるわ。

あと3分しのげばゴングに救われるけど、3分も持たないわ・・・
船木の右腕がいよいよたたまれて、船木の体が傾きかかるとヒクソンの腕が船木の首に
がっちりと入ったわ・・・バックから冷淡な表情でヒクソンは締めていくの・・・
あたしは、苦渋、悶絶の表情を浮かべていた船木がぱっと目を見開くと
そのまま落ちていく瞬間を見ました。

顔面蒼白なあたしを連れは指差して「やっだー、顔が真っ白よ。うはははは」って
大笑いしたわ。その笑い声さえ、遠くに聞こえてたわ・・・

あたしも目を見開いたまま、船木が召されていくのを見届けました。
あたしの目は真っ赤に充血していて、それは船木の左目の上から流した鮮血と同じ色をしていました。
涙が、じわっと浮かんできたのですが、それは流すわけには行きません。
あたしがここで泣いてしまっては、今までの船木すべてを否定することになるからです。
勝っても負けても船木は船木。時が流れて、人は変わっていきます、
頑なに変わらないことを埃に思っている人もいるでしょうが、それは違います。
日々人は時の流れとともに変わっていくのです、ただ、急激に変わると回りがついていけないだけで
誰もが少しづつ変わっていくのです。
船木は良くも悪くも、性急過ぎました。頑なでありもし過ぎました。
そこが船木でもありました。船木の変わりように、ついていけない人もいるでしょうね。
ただ、あたしはそんな風にしか自分を表現できないカタワな船木を愛していました。
かたわな船木にあたし自身を重ね合わせていました。
リングで闘っている船木はあたし自身でした、ちっぽけな自分に押し殺されないように
理想の自分を演じつづけていたあたしそのものでした。
だから、ちらっと船木を見てしまったときにわかってしまったのです。
あたしと同じ種類の人間だということに。
船木に対する気持ちは確かに愛ではありました、
だたし、それはちっぽけな自己愛でしかありませんでした。
充分、本当はわかっていました・・・ただ、解らない振りをしていただけでした。

今日、このとき、船木が召されていったのと同時に今までのあたし自身にも
さよならを言わなければなりません。


船木が落ちて、ヒクソンの勝利が告げられ、リング上にいろんな人々が駆け寄ったときには
もう席を立ち上がって会場から立ち去ろうとしていたときだったの。
背後に、遠くから何かマイクが聞こえたけど、なんのことかはうすうすわかっていたから
振り向きもせずにそのまま立ち去ったわ。
思った通り、今まで15年間ありがとうございましたって言う引退宣言だったそうね。
そういう人よね・・・あたしたちをそのまま取り残してイっちゃう酷い人・・・


会場を後にして、しばらく夜風に頭を冷やしていたわ、冷やしたって何も変わらないのは
解っていたけど、涙も何ももう体のどこからも体液は出なくなッっちゃったわ・・・

すると、連れが現れて困った顔していたけど、あたしをじっと見たわ。
あたしは連れに一言だけ「船木の新しい奥さんはさげまんだわ」って言ったの。
すると、無言でちょっと考えてから一言
「そうよ。その通りだわ。さげまんね。」って言ったわ。

さーて、そんなあたしをみて、今日は飲みあかそっていってくれたので
これから夜の街に繰り出しちゃおっと。

おしまい





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