映画「BEYOND THE MAT」観戦記
■投稿日時:2000年4月11日
■書き手:ひねリン(名前をクリックするとプロフィールの欄に飛びます)

平日の昼間に突然時間ができたんで、『Beyond the mat』見てきました。お客さんは俺含めて5、6人。まあそんなもんですよ。平日の映画館なんてどこも。

まあここのよゐこの皆さんには言うまでもないことだけど、この映画は田中(正志)さんをして「シュート活字映像の最終形態」と言わしめたドキュメンタリー。テリーファンク、ミックフォーリー(昔のカクタス・ジャック、マンカインドでもある)ジェイクロバーツの三人のレスラーの仕事ぶり(とその裏)の描写を軸にしつつ、他の多くのレスラーや、関係者のプロレス人生の断片にも触れているところがファンには嬉しい。また、この映画はWWF、ECW等のメジャー団体だけでなく、メジャー進出を夢見るレスラー達の集まるインディー団体、有名レスラーを呼んで行う地方の一発興行など、いろんな種類の興行の風景を見せてくれる。

俺の一番の感想は、この映画って、プロレスのある一つの側面を強調するために作られたものじゃなくて、プロレス(とプロレスラー)のいろんな面、(美しい面と邪悪な面、暖かい面と残酷な面、筋の通った面と意味不明な面)を描いているなあってこと。

だから、この映画の「主旨」をサマライズするのは難しい。ある場面では観客は、医者に「あなたの膝はこのままだと一生痛むだろうし、やがて動かなくなるでしょう。」とかむちゃくちゃ言われつつ、それでもECWのPPVのメインを張るためフィラデルフィアまで飛んでいって、梯子からムーンサルトして頭から落っこちてそれでも勝利を奪い、観客、仲間レスラー、家族の全てから祝福されるテリーの感動的な姿を見るだろうし、またある場面では、昔WWFの巡業忙しさで長いことほったらかしていた娘に遭いに行って拒絶され、やけになってコカインをやりながら「1か月に27、8日試合して、土日には2、3試合する事もザラだった。俺は若い頃、クスリは負け犬のものだから絶対やらねえぞ、と誓ったけど、眠るためにはピルがいる。痛みをまぎらすためにはコカインがいる。この商売はトラップだ。」とへらへら語るジェイクの絶望的な姿を見ることになる(あ、ちなみにいつもの如く?、台詞等の翻訳はきわめてテキトーで正確さの保証ゼロです。俺ヒアリングだめだめですので)。まあこれ見た大抵のファンはプロレスがますます好きになるだろうけど、中には嫌いになる人がいても不思議じゃない。そんな映画です。

印象的なシーンは他にもいくらでもあって、いちいち列挙してたら切りがないので、以下、この映画の衝撃的なクライマックスである、去年(おととし?)のロイヤルランブルにおけるミック(マンカインド)vsロックにまつわるエピソードだけ紹介します。つうかこれ、一番良いシーンの思い切りのネタバレになるので、アメリカ在住でこれから見ようと思っている人、いつの日かの日本公開を楽しみにしている人などは、ここで読むのをやめたほうがいいかも。

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ミックはロイヤルランブルの開催地であるカリフォルニアのアナハイムに、自分がタイトルを失うことになっているにもかかわらず、妻と子供二人(男の子と女の子。二人とも小学低学年くらい)を連れてくる。

客入れ遥か前の会場で、ミックは、ビンスや対戦相手のロックと綿密な打ち合わせをしたり、家族をロックに引き合わせたりする。ロックはミックの子供達に「ディズニーランド行ったのかい?何に乗ったんだ?」と優しく話しかけるけど、子供達はシャイなのか答えず、代わりにミックの奥さんが「全部乗ったわ」と答えたりする。

で、いろいろあっていよいよセミファイナルの、王者マンカインドと挑戦者ロックのタイトルマッチ。奥さんと子供達はリングサイド最善列に陣取って観戦。試合が荒れてくる。ミックが打ち合わせ通り二階席からバンプすると、奥さんは「こんなの耐えられない!」と叫ぶ。試合は更に荒れ、ロックが手錠でミックを後ろ手に縛り、イスで乱れ打ち。ミック大流血。ミックの奥さんと女の子が泣き出す。

奥さんは「目を閉じなさい!」と娘の顔を体で覆い、さらに自分の姿を一瞬見失った息子の手をしっかり握って「大丈夫。私はどこもいかないから!」さらにロックはミックをイスでめった打ち。(この辺で、場内の喚声が全て消え画面は静粛に包まれる。ゆっくりと Stand by me が流れ出し、家庭での優しいミックパパの姿、そして今ロックにぶちのめされているミックの姿、それを見つめる三人の姿がゆっくりと代わるがわる映しだされる。やがてやかましい館内の音声が戻ってくる。)男の子も泣き出す。とうとう直視に耐えられなくなった奥さんは、泣いている子供達を抱いてリングサイドを去り控え室へ。控え室のモニターで三人は、勝利を奪いロープに登って恍惚の表情をしているロックの姿を呆然と見つめる。

王座を奪われた血だらけ疲労困憊のミックが、控え室に戻ってくる。子供達の姿を見つけるとすぐにミックは 「パパは大丈夫だからね。わかったかい?」と繰り返す。ミックはレスラー仲間の賞賛の拍手を背に、頭を縫ってもらいに医務室に向かう。医務室で奥さんは試合の激しさに文句を言うけど、ミックは取り合わない。泣いていた女の子はもうけろっとしていて、無邪気に「パパだいじょうぶ?」処置の終わったミックが、娘と手をつないで廊下を歩いていると、メインでストーンコールドにめったうちにされたビンスがやはり頭を縫っている。ビンスはミックに笑って「俺達はやった。これがエンターテインメントだ」(←もっといろいろ話してたけど良く分からなかった)

後日、監督はフロリダのミックの自宅に飛び、今我々が見たばかりのシーンのフィルムをミックに見せる。自分の試合をリングサイドで見て泣き叫んでいる妻と子供達の姿を目の当たりにしたミックは、「俺は悪いパパだった。 こんな姿は子供達に見せるもんじゃないね。もうしないよ。」と静かに語る・・・

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なんでおせっかいを承知で、長々とこのミックのエピソードを紹介したかっていうと、第一にこの話はとにかくインパクトが凄い(俺の文章じゃほとんど伝わらんかも知れんけど)からってことがあり、第二にプロレスの裏舞台がここではきっちり映されてて、この映画のシュート活字な部分が出てるからって理由がある。

でももう一つ。このエピソードを通して我々は、ミックがむちゃくちゃ優しい普通のパパであることがよく分かるけど、同時に一般常識で考えりゃ、自分がめった打ちにされ血の海に沈むところを子供達に間近で見せてショックを与えて、後からやっと反省するミックは、単に自己顕示欲の強いだけの論外な父親ってことにもなる。結局プロレスラーはまったく全能の英雄などではないし、全肯定に値する存在でもない。プロレス(ラー)の美しい面と醜い面の両方を描くこの映画全体の態度が、このミックの話にもよく表れているんじゃないかな、って俺は思ったのです。

そんなわけでこの映画、やっぱマニアだったら是非見ときたいものじゃないかな。ヒットマン映画より個人的にはおすすめですね。いろんな団体のいろんなレスラーの人生が見れるし。




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